それはまるで悪夢のような1/3
諸事情で一つの章を不定期に分けて投稿します。よろしくお願いします
「あはははは!」「えへへへへ」
たくさんの笑い声に目が覚めた。
うつむいていた頭を上げ、見回してみる、辺り一面にはうすぼんやりと霧がかかっていた。視界が悪いが、鉄棒や雲梯、サッカーゴール、何より背後には大きい校舎が建っていることから自分が校庭にいることは容易に理解できた。その校庭では学校の生徒と思しき人間が各々遊んでいるようだ。
そしてとある違和感に気が付いた。視点が高すぎる。地面をとらえるように歩けるがどうやら浮いているらしい。夢の中でくらい歩かず空を飛びたいものだ。夢の中でも常識にとらわれる夢のない自分が嫌になる。
「夢が覚めるまで校舎にいようか…」
楽しそうに遊ぶ生徒たちを一瞥した後に、校舎の探検に行こうとする僕の視線の先には校舎の姿はなく、代わりに異様な光景が広がっていた
「おいてけぼりはいや…さびしいよ…」
そこの一角だけは学校ではなくなっていた。いつの間にか校庭で遊ぶ人たちの声が消えている。
桜の木が咲いている小さな公園のようだった。そして桜の木の下には、現実の世界で顔を洗う時によく見る顔がしくしくと泣いていた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
うずくまって泣いている僕に黒い影が近づいて手を差し伸べている。この光景をそのままとらえれば死神に連れていかれるのではないかと心配になる絵面だった。しかし、不思議と焦燥感のようなものはなく、どこか懐かしく、そして安心感のようなものをその影に抱いている自分がいる。
「あれは…実紅か??」
そう呟くと同時に視界は黒く塗りつぶされ何も見えなくなった。
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「…ぃしょ!どっこらしょ!がんばるぞい!ピピピピッピピピピッ!よっこいしょ!どっこらしょ!がんばるぞい!」
小気味良い電子音と陽気な声のおかげで気持ちよく起きることができた。子供向けのアニメのキャラクターの目覚まし時計なのにどうしてセリフがジジ臭いのか…
「なんか…夢を見てた気がする…」
寝ているときに見ていた夢、妙にリアルだったような夢だった気がするのにどうしても思い出せない。
「朝ご飯!作ってあるからね!!」
保安球が仄かに灯っている薄暗い寝室にママの声がかすかに聞こえてきた。
「朝かぁ…」
うつぶせに寝ている状態から顔だけを左に動かしてみると、そこで寝ていたはずの兄の姿はもう見えなかった。中学生の兄はいつも部活の朝練がある為、僕が起きるころには朝食を済ませて自転車に乗って学校へ向かのだ。
僕が住んでいるのは『ビューティパレス』というマンションの102号室、2LDKと割と普通の間取りをしている。らしい。ママがおばあちゃんとそういう話をしていたのを聞いたことがあっただけで正直2LDKがどういう意味か分からない。大きいド〇キーコングかな。
その中でも割と広めの畳の部屋で僕と兄は布団を並べて寝室としている。だから準備している兄にうっかり踏まれて起こされることも多々あるくらいだ。
洗面所に行き顔を洗って歯磨きを済ませてからリビングに行くとテーブルの上にはナ〇ススティックという名前の甘いクリームパンが一本置かれていた。果たしてママは『作る』という言葉の意味が分かっていらっしゃるのか心配になってくる。小学生に心配されるなママよ…
時計は7時20分を指していて、それは僕の登校班の集合時間の10分前を意味していた。
「そろそろ行かなきゃ!!!」
忘れ物がないか確認をしてランドセルを背負いパンを咥えながら無言で家を出た。
家を出た僕はマンションの駐車場を挟んで斜め間にある『アッモーレ高野』というアパートの一階の最奥の一室のインターホンを押した。僕には学校のある日の朝、必ず行う日課のようなものがある。
奥からはかわいらしい声で「はいはーい」と優しい間延びした返事がきた。そして、ドアが開くとそこには僕よりも少し背の高い眼鏡をかけた女性が現れた。
「実紅ったら寝坊助さんで今起きたところなのぉ。もう少し待っててね!」
かわいい。この人が一児の母とは思えないくらい幼く見える顔立ちをしていて優しいの権化のような女性だ。この人が自分のママだったらいいのになんて何度考えたことか。しかし、僕の目当てはこの人ではない。彼女が言っている実紅に用がある。
「もう来ると思うのだけれど…」
小さい顔に片手を当てて困り顔を浮かべる実紅母の後ろから寝ぼけ眼にパジャマ姿でランドセルを背負う残念な女の子が現れた。うん、ハ〇太郎とリ〇ンちゃんってかわいいよね。でもそのパジャマで学校に行くのはないと思う
「あらあら実紅!パジャマで学校に行くのはダメよ!」
「でも、、、ママもパジャマでナオ君とお話してるじゃん」
「そういえばだったわ!ふふふっ!」
何その会話かわいいね。とりあえず早く着替えてこないかな。
「待っててあげるから早く着替えてきてよミクちゃん。」
呆れと照れを全力で押し殺しつつ平然を装って提案する。おそらく登校班の集合時間は余裕で遅刻するだろう。班長は時間に厳しい6年生だから置いて行かれるのは決定した。
「ねぇ…ナオ君。」
「なぁにミクちゃん?」
すごい真顔。真剣な眼差しで実紅が話しかけてきた。いつの間にか実紅母はいない。気配なさすぎ。少しの間を開けて実紅はその小さな口を開いた。
「そのパン…頂戴…」
「いいから着替えてこい」
表情とは裏腹にすっとぼけた提案にさすがに呆れてドアを閉めた。
それからしばらく待つと、着替えとヘアセットを済ませた実紅が出てきた。
ぼさぼさだったセミショートの茶髪はサラサラに生まれ変わり、2つ結びにして犬の耳のようにしている。
「パンは?」
「もう食べた」
もう少しまともなら可愛げがあるのに…なんて思いつつ、朝ご飯が抜きになってしまったことを嘆いているミクちゃんの手を差し出した。
「給食分けてあげるから学校行こ」
打開策にもなっていない気休めとともに手を差し出す。
「うん」
差し出された手を当然のように取ってくれる。僕はつないだその手を離さないようにしっかりと握る。
「行ってきます」
「行ってきますママ!!」
「かわいい実紅ちゃん、ナオちゃん。行ってらっしゃい!」
幼い三つの声が住宅街に響いた。
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