表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/249

day58 終幕

キラキラとエフェクトが舞っている。

あぁ、倒せたんだなと、討伐の終わりを喜ぶ。


……いや、どうしよう。全然動けない。


視線だけを動かして辺りを見れば、俺と同様に地面に伏すプレイヤー達の姿が見えた。


『緊急依頼【大規模戦闘:銀を喰らう者】が達成されました。

 亜空間はこれより1時間後に停止致します』


アナウンスが辺りに響くと同時に、少しだけ体に力が戻った。

体は重いし、酷く怠いけれど、なんとか体を動かすことが出来る。


「あぁ~……疲れた」


上半身を起こし、座る。地面に落ちていた刀を手に取り、鞘に納めた。


「シア、レヴ」


俺の声に振り返ったシアとレヴの頬は涙で濡れていた。

見え隠れしていたあの気配は、綺麗さっぱりなくなっている。もう、大丈夫だ。


ぼろぼろと涙を零す2人の頭を撫でる。

深い海の色をした瞳が溶けてしまっているのではないかと思うほどに、次から次へと溢れている。


「ライくん、涙が止まらないよ」

「どうして?」

「……大丈夫だよ」


2人は忘れたままのようだ。

俺には、2人がその記憶を思い出したほうが良いのか、思い出さないほうが良いのか、わからない。

家族や友達、全てを失った記憶を、受け止められる人はどれ程いるのだろう。


「ライくん、約束守ったよ」

「うん、頑張ったね」

「倒せたよ」

「でも」

「すごく寂しい」

「俺達がいるよ」


2人の手を握ると、2人は頷いて、花が咲くように笑った。

この先、2人に寂しい思いをさせないように、楽しい思い出をたくさん増やしていきたい。


「ライさん、お疲れ様です」

「ジオン、リーノ。お疲れ様」

「お疲れさん!

 ……シア、レヴ。頑張ったな。恰好良かったぜ」


ぐりぐりと乱暴にシアとレヴの頭をリーノの手が撫ぜた。

リーノを見上げて笑うシアとレヴを見て、立ち上がる。

立ち上がった俺の代わりにリーノが2人の前に座り、にかりと笑って、袖で優しく涙を拭った。


「リーノ、2人のお兄ちゃんみたい」

「細工と鋳造は協力して生産することで、より質の良い生産品ができるので、一緒に生産している時間が多いですからね。

 それに、3人は同じ部屋ですし、いつの間にやらああいう感じになってました」

「なんか寂しい」

「ふふ。私もです」


涙はもう流れていない。笑っている2人の顔を見て、俺の頬も緩む。

教会で出会った頃とは比べ物にならない程、2人の表情は豊かになった。

きっと、海に棲んでいた頃の2人なのだろう。

シアと比べるとレヴの表情は小さな変化しかないけれど、元々あまり表情に出ないタイプのようだ。


「秋夜さん! 大丈夫ですか!?」

「終わりましたよ! 秋夜さん!!」


後ろから聞こえてきた大きな声に体が跳ねる。のんびりしていたから余計に驚いた。

ラセットブラウンのクラメンの人達の声だ。秋夜さんが眠っているのだろう。


「秋夜さん!!」

「あーー……うるさい……」

「あれ!? 寝てないの!?」


聞こえてきた声に思わず振り向いて口を開く。


「寝たよ。けど、アナウンスが聞こえたと思ったら起きた」

「防衛戦の時は起きなかったのに?」

「さぁねぇ。亜空間仕様なんじゃないの」


とは言え、気だるげに体を起こした秋夜さんの動きは、他の誰よりも重そうに見える。


「おい、なに気安く話しかけてきてんだよ」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ?」


ジオン、リーノ、それからシアとレヴの空気が冷えたものに変わる。

そう言えば、いつも遭遇するのは皆がいない時だったな。

あ、いや、カヴォロの露店でご飯を食べてる時も来てたか。その時の皆の様子はどうだったかな。


「うるさいうるさい。元気だねぇ君達。あっち行ってなよ」

「でも……! ……秋夜さんが一番凄いのに!」

「そうですよ! 秋夜さんが一番強くて格好良いんです!

 こいつらなんかよりずっと!!」


クラメンの人達の言葉にぱちりと目を瞬く。

ジオン達からも冷えた空気が消えていっているのがわかる。


「あーはいはい。そりゃどうも」

「お前! わかってんだろうな!? 秋夜さんが一番なんだよ!」

「てめぇがどんだけ強かろうが、強い魔法使えようが、強いテイムモンスターがいようが……秋夜さんが一番だってこと忘れんじゃねぇぞ!」

「あ、うん……」

「君達がそうやってきゃんきゃん威嚇する度、評判落ちてんのわかんないかねぇ」


秋夜さんの言葉に、クラメンの人達はむすっと不満そうに口を閉じる。

その様子を見た秋夜さんは大きな溜息を吐いた。


気に入らない相手が何言われていても止める気はない、なんて秋夜さんは前に言っていたけど、それだけではなさそうだ。

これだけ慕ってくれているクラメン達が、自分の為に発している言葉を止めるのは憚られたのかもしれない。

やり方はちょっと……あれだけど……。うん……バカだバカだと言っていた秋夜さんの言葉が今になって分かった気がする。


「そーいえば、ライ君。クランの話考えてくれた?」

「秋夜さん!? まさかこいつ誘ったんじゃないでしょうね!?」

「やめてくださいよ!! こいつと仲間なんて絶対に嫌ですから!」

「いや、入らないけど」

「あぁ!? 何断ってんだてめぇ!!!」

「えぇ……」


なにこの人達。なんかもう面白くなってきた。


「まー、いいや。気が向いたら教えてよ」

「向いたらね」


秋夜さんはウィンドウを開いて掌サイズの何かを取り出すと、緩慢な動作で立ち上がった。


「出たからあげる。じゃあねぇ」


手に握ったそれをぽいっとこちらに投げると、くるりと踵を返しクラメンの人達とゲートに向かって歩き出した。

受け取ったそれを見て、目を見開く。


「待って! 秋夜さん!」


慌てて顔を上げて声を掛けるも、聞く耳を持たないといった様子でなんの反応もすることなく、歩いて行ってしまった。


「はぁ~……」


『召喚石』と表示されるウィンドウを眺めて、息を吐く。

最後にこんなものを寄越して行くなんて。なんか、むかつく。負けた。


「それは?」

「召喚石、だって」

「え!? 初めて見た!」


イベントの時のポイントを考えると、これ1つで一軒家が2つ分だ。

目玉賞品のようだったし、実際にはもっと価値がある可能性は高い。

滅多に見れないとアルダガさんも言っていたし。


「……成功しますかね?」

「どうかなぁ……無理だと思う……」


☆4種族が出るより確率が低いと妖精ちゃんが言っていたことを思い出す。

もう一度溜息を吐いて、アイテムボックスに入れる。どうするかは後で考えよう。


「俺達もそろそろ帰ろうか」

「はーい!」

「眠い……」

「おう。さすがに疲れたなぁ」

「疲れたね。……ん? あ、ちょっと待って。

 ……天使のお姉さん、大丈夫?」


未だ地面で動けずにいる天使のお姉さんの姿を見つけて声を掛ける。


「大丈夫です……堕落しているだけなので……」

「それ大丈夫なの……?」

「怠くて動きたくないだけなので大丈夫です。

 布団があれば最高だと思います」

「……そっか」


手を貸そうか迷っていると、見覚えのあるプレイヤーが近付いてきた。


「ライさん。そいつ知り合いなんで、引き取りますよ」

「あ、そうなんだ? 良かった」


頭にスライムを乗せた男性は、天使のお姉さんを見て、呆れたような顔をした。


「……珍しくやる気出したと思ったら、結局こうなんのか……」

「布団が欲しい。ここで眠りたい」

「はいはい。肩貸すから起きろって」

「だるいよぉ~こんな種族選ばなきゃよかったよぉ~」

「わかったわかった」


2人のやり取りから仲の良さが伺える。


「俺ら離れたとこにいたんで、秋夜さんのスキルには巻き込まれなかったんすけど、こいつ飛んで行っちゃったんすよ」

「そうなの? あんな状態の場所に飛んでくるなんて凄いね。俺だったら行けないかも」

「ふはは、ライさんなら大丈夫でしょ!

 多分いけるとかなんとか言ってたんすけど」

「立ってる人達、☆4種族っぽかったからいけるかなーって。

 でも、あれはやばい。イベントパワーがあったから気合で動けたけど、無理」


確かに、普通にレベル上げしている時にあんな状態になったら、早々に狩りをやめて帰って寝ると思う。

あんな状態で戦うのはイベントの時だけにして欲しい。出来ればイベントでも遠慮したい。


「☆4種族かどうかわかるの?」

「ぴかぴかしてるんですよ!」

「……なるほど」

「種族特性だと思うんすけどね。本人もいまいちよくわかってないみたいで」

「あー……説明わかりにくいよね」


色んな種族がいるんだなと改めて思う。

他にどんな種族の人がいるのだろう。


「今日は……いや、ライさんは防衛も参加してたんすよね? お疲れ様です」

「うん、無事に終わって良かった。お疲れ様です」

「今度またスライムの話しましょう!」


俺から話せるスライムの情報はないけれど。


「うん、是非。えぇと……」

「あ、えーと……俺、よしぷよって言います」

「ぶふっ……うはは。名前笑う」

「うっせ。毎回笑いやがって。お前も適当に付けたくせに」

「おもちです! よろしくお願いします!」

「よしぷよさんとおもちさんだね。よろしくお願いします」


俺の言葉に笑顔で頷いた2人は、少し離れた場所にいるプレイヤー達の元へと歩いて行った。

彼等も知り合いなのだろう。


辺りにはたくさんのプレイヤーがいて、楽しそうに話している人、ぼんやり座っている人、ウィンドウを確認している人等様々だ。


「あ、カヴォロ!」

「ライ。お疲れ」

「お疲れ様。楽しかったね」

「俺は塩撒いてただけなんだが」

「凄い量だったよね。ばっさーって。なんか気が抜けたよ」

「ああ、俺も何やってんだろうと思った」

「うん。でも、カヴォロと一緒に参加できて嬉しかったよ。

 防衛の時もカヴォロの操縦する船に乗って……どんどん避けて、最後は飛んで」

「ふ……あんな経験早々できないな。良い経験だ」


カヴォロと話しながらゲートへ歩く。


「あの種族スキルは凄いな。全然動けなかった。

 あの中で立ってるやつもいたが……少ないよな」

「凄く出難いみたいだもんね。出ても選ばない人もいるんだっけ。

 あ、カヴォロって種族なに? 人間に見えるけど……」

「あぁ……ホムンクルス」

「ホムンクルス!? わー全然わかんなかったよ!」

「背中に魔法陣みたいなものが描いてあるが、それ以外は人間と変わらないんじゃないか?」

「魔法陣……!」

「ホムンクルス作りたいのか……?

 ライの魔道具の魔法陣とは違うと思う。防衛の時の術式? あれに似てたな」


古の技術だ。ホムンクルスは遥か昔、今はもう失われてしまった技術で生み出されていたということなのだろうか。

そんな技術で生み出されたホムンクルス……強そう。格好良い。ロマンがある。


「あ……でも、動けなかったってことは、☆4じゃないんだよね?」

「☆3種族だな」

「そっかぁ。じゃあデメリットあるんだ?」

「大したことはない。防御力が若干下がっているらしい」

「スライムで死ぬ?」

「死なない。キラービーの時、何度も攻撃を受けていただろう。

 ☆3はメリットもデメリットも微々たるものらしい。

 メリットは……スキルレベルが上がりやすくなっているようだが……聞いた感じほとんど変わらないな」


強力なメリットがある分、散々なデメリットがある☆4種族とどちらが良いのだろう。

テイムできる魔物に制限があったり、覚えられるスキルに制限があったり、スライムで死んだり、動けなくなったり、武器が制限されたり……まぁ、面倒ではある。


使用すると動けなくなるなんてスキルがない分、俺はましな方だったのではなかろうか。

なんだかんだ強力な仲間も増えて、楽しくのんびり冒険できている。

分かっていないだけで、実は他にもデメリットがあったりするのかもしれないが。


「大量に用意できるのがピザだったとは言え、戦闘中にピザを食べるのは厳しいな」

「あー……でも、普段の狩りなら大丈夫だよ」

「楽に食べられそうな物で強化料理が出来ないか考えてみるか」

「楽しみにしてるよ。レストランのオープンも!」

「そうだな。これからトーラス街が一気に賑わうだろうからな。

 今すぐヌシを倒しに行くぞと張り切っているようだ。

 あのフォレストスラグに比べたら楽なもんだと」

「あー……強化されたヌシ5体と比べたらね……」

「ああ。それに今回の討伐でレベルも上がっているしな。

 ヌシの試練が行列待ちになりそうだ」

「確かに。みんなで倒せたら良いのにね」


ゲートを抜け、広場に辿り着く。のどかな雰囲気にほっと息を吐いた。

生産職の人達が生産道具を片付けている姿が見える。

露店はまだ開いているようで、プレイヤー達で賑わっている。


「それじゃあ、俺も片付けがあるから。またな」

「うん! またね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 鬼神というより「百鬼夜行」の特性が利点なさすぎるだよなぁ。 これだけデメリットと釣り合いとれてない感じがすごい
[良い点] イベ乙でした!終わってからまとめて読もう!とハラハラしながら読み走りました。 ジオン鬼ぃ様が大好きなので、沢山喋っててくれて、顔のニマニマが止まりませんでした(〃∀〃)キャ♡ 相変わらず…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ