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day58 銀を喰らう者③

次々と湧いてくる敵を倒しながら、飛んでくる触腕にも攻撃を仕掛けていく。

俺の攻撃力はほぼ刀の攻撃力のみなので、クラーケンを狙うより、他の攻撃力の高いプレイヤーがクラーケンを狙いやすいように動く。

クラーケンから一定の距離、黒炎弾のクールタイムが回復した時にすぐに目が狙える場所にいれば大丈夫だ。


刀術のスキル、刃斬や連斬は最低限に、通常攻撃で倒すことを心掛ける。

攻撃力が高くはないので手数で勝負するしかない。斬って斬って斬って、とにかく斬る。


「【強化】」


強化も刀術のスキルで、スキル説明には自身が強化されるとしか書かれていないが、消費MPも少ないし積極的に使っている。

どれくらい強化されるのかはわからないけど、しないよりしたほうが良い。塵も積もれば山となる、だ。


視界の先で花びらが舞った。

亜空間の中では30分で戻ってこれるとは言え、やはり気分が良いものではないなと思う。


クラーケン周辺は敵も多く、触腕の攻撃も激しい為、何度もその光景を目にした。

直撃は防げているが、少しずつ減ったHPをポーションで回復する。

ポーションも買っておいたほうが良かったな。


ジオンとリーノに渡した分はまだ残っているだろうか。

リーノは鞄を持っているので多めに渡している。HPが減る場面も多いし。

シアとレヴはリーノの傍にいるので、大丈夫だろう。


「ライ、やるなぁ」

「ありがとう、朝陽さん。俺、攻撃力ないから頑張らないと」

「あーSTRなー……☆4種族のデメリットは面倒だなぁ」

「STRがデメリットって考えてなかったな。なるほど……確かに」


種族特性に書かれていることだけがメリットとデメリットだと思っていたけど。

確かに秋夜さんも他の人より説明が詳しくわかる事が、種族特性なのかもしれないと気付いたのは防衛の時だったようだし、書かれていること以外にも種族特性によって変わることがありそうだ。

説明が不親切だってのは常々思っていたけれど、メリットはともかくデメリットについて説明されていないとは思っていなかった。


STRが低いことと関係しそうなのは種族特性の『地獄の業火』だろうか。

黒炎属性を最初から覚えていて、黒炎属性の攻撃力増加。その代わりに他の属性の魔法スキルを覚えられないというものだ。

黒炎属性以外の攻撃は基本的に出来ない……いや、向いていないということなのかもしれない。


「兄ちゃんみたいに魔法以外使えないってわけではないからまだ良いよね」

「あいつは自分で自分の首絞めてるだろ……わざわざ魔力銃選んで。

 βと同じじゃつまらないってのはわかるけどなぁ……大人しく魔法職選んどきゃ楽だったろうに」

「でも兄ちゃんが大変そうなのってヌシくらいじゃない?」

「確かに……なんでも良いんだなあいつは」


ぴろんとレベルが上がった事を知らせる音が鳴った。

34レベルになったようだ。あと1つ上がれば35。新しい刀を作ってもらっておけばよかったな。

次からは黒炎属性の鉱石を使って作ってもらう予定だ。

黒炎属性等の魔法属性が付与されていることで、攻撃力がどれだけ変わるのかはわからないけど、今よりも強くなれるだろう。


そういえばジオンは黒炎属性ではなく氷晶属性のほうが『氷晶魔刀術』との相性が良いと言っていた。

現状、付与の数値が黒炎属性のほうが2倍以上高くなるので、次の刀は黒炎属性で作ると言っていたけれど、同じだけ氷晶属性が付与されるのなら氷晶属性が付与された刀のほうが良いそうだ。

俺も黒炎属性のほうが相性が良かったりするのだろうか。

まぁ、俺は魔刀術じゃない普通の刀術だから関係なさそうだけれど。


「ライ、後ろからきてるぞー」

「わ、ありがと!」


振り返りながら避けるも、ちくりとした痛みが腕を掠めていった。

現実世界で同じ攻撃を受けたらどれ程の痛みなのだろうかと考えながら、刀を振り下ろす。


湧き出る魔物は1種類だけではない。大きなヒルのような魔物、2つ頭の狼のような魔物、ゴブリン、スケルトン、サハギン等の様々な敵がリポップしている。

二足歩行をする魔物は初めて見た。ゴブリンやスケルトン、それからサハギンは亜人に……含まれないのだろう。亜人の魔物はいないと言っていたし。

厄介なのが武器を持っていることだ。斧やこん棒、剣や槍など様々な武器を持っている。


クイックスロットのポーションを取り出して、飲む。

HPと防御力が低いのでこまめに回復していないと、直撃してしまった時が怖い。


飛んでくる触腕の表面を削るように受け流す。

一度刀を離し、下から掬うように斬り上げ、叩きつけるように振ってくる触腕を避けて、更に斬りつける。

ちょきんと真っ二つに切り離す事が出来たら、相手の攻撃力を下げることが出来るのに。

糸のような切り傷が出来ていることを確認して、何度も同じ箇所を斬りつけていればできるだろうかと考える。

とは言え、動き回る触腕の同じ個所だけを狙い続けるのは難しい。


湧き出る魔物と触腕に何度も刀を振るっていると、パキリと小さな音が聞こえた。

何の音だろうかと刀へ目を向ければ、刃先の一部が小さく欠けていることが分かった。


「……耐久度……!」


これまで盾以外で目に見えて耐久度が減っていることを確認したことはない。

このまま攻撃を続けていたら……壊れてしまう?


「っ!? おい、ライ!!」


朝陽さんの焦った声に刀から顔を上げると、目の前に骨……スケルトンが立っていた。

手に持つカトラスが真っ直ぐと俺へ振り下ろされている。


慌てて刀を横にして、カトラスを受ける。

刃先の峰を左手で支え、押し返そうと力を籠めるが、ぴくりとも動かない。

それどころか、徐々に押されている。


「頭下げろ!」


朝陽さんの声に、頭を下げる。

同時に、ブオンと風を切る音が聞こえて、がしゃりとスケルトンが崩れた。


「ごめん、朝陽さん! ありがとう!」

「いーってことよ! なんかあったか?」

「ううん! 大丈夫!」


結構長い間使っていたし、少しずつ耐久度が減っていたのだろう。

あと、クラーケンが見た目や手応え以上に硬いのかもしれない。


ジオンが作ってくれた刀が欠けてしまったことに、動揺してしまった。

折れてさえしまわなければ修理……基、手入れが出来るとジオンが言っていたから、クラーケン戦で折れないことを願おう。

それに、折れてしまったら攻撃手段が黒炎弾だけになってしまうし。


「はぁー、一旦休憩」


そんな言葉と共に、クラーケンの頭上を縦横無尽に動き回っていた秋夜さんが軽やかに飛んできた。


「ライ君、僕の事守って」

「クラメンの人に頼みなよ……」


一旦ゲートまで向かって、露店と生産場のある広場に戻り、休憩が終わってからまたこの中心まで戻ってくるというのは得策ではないのはわかるけれど、何故俺が守るのか。


俺の後ろに座り込んだ秋夜さんを見る。働け……と、言いたいところだけど、充分働いた後だ。

生命力が減って体が重くなっているのだろうし、ゆっくり休憩して全快の状態でまた働いてもらわなければ。


辺りを見渡す。皆戦闘で忙しそうだ。

アイテムボックスから《魔除けの短剣》を取り出して、秋夜さんの足元に刺す。

沸いている敵はワイバーンよりは弱いはずだし、大丈夫だろう。


「へぇ、いいねぇこれ」

「あれ? いつもより魔除けの範囲が狭いな……」


前は俺達5人が中でご飯を食べられる程度の範囲に光の壁が広がっていたのに、今は秋夜さん一人分の範囲にしか広がっていない。

この部屋だからなのか、短剣自体の魔除け効果が下がっているのか。


「イベントで楽させないようにじゃないの」

「身も蓋もない……そうかもしれないけど、何かしらの理由付けはあると思うよ。

 中から攻撃したら解除されちゃうから気を付けてね」

「ふぅん」


とにかく、これで触腕の攻撃から守れば良いだけだ。秋夜さんにはゆっくり休んでもらおう。


「なんかもう、毎日少しずつ削っていつか倒すとかじゃ駄目なのこれ」

「亜空間が壊れるほうが先だと思う」

「壊れるの?」

「ギルドで聞かなかった?」

「さぁ。僕聞きに行ってないから知らないんだよねぇ」


俺も魔道具工房のお手伝いをした時に聞いただけだから、この亜空間がどれくらい持つのかはしらないけれど。


「強大な力を持つ魔物をずっと閉じ込めておくことは出来ない……って、言ってたよ。

 内側から壊されちゃうんだって」

「へぇ。じゃ、ちんたらできないってことだねぇ……ってことは、あれ、壊れてるのか」

「え?」


秋夜さんの視線を辿れば、クラーケンの頭上、遥か上の方から光が差しているのが見えた。


「最初はなかったんだよねぇ。天井のほう、よく見えないけど、亀裂とか入ってんじゃない?」

「なるほど……壁もここからじゃ見えないしなぁ」


この部屋が崩れたら、露店と生産場のある広場はどうなるのだろうか。

そっちにクラーケンが現れることになるのかな。何にせよ部屋が壊れる前に倒してしまわないと。


「おいおい……壊れる? ギルドではそんなこと……いや、維持がどうこう言ってた覚えあるな。

 てっきり維持の術式が展開されたら関係ねぇ話かと思ってたが……」


近くで俺達の話を聞いていた朝陽さんがぎょっとした顔をしてそう言った。


「うーん……俺も詳しくはわからないんだけど……」


秋夜さんに倣って身も蓋もない言い方をするなら、イベント期間を伸ばさないようになんだろうけど。

いつまでもこの亜空間とクラーケンが存在し続けていたら、先程秋夜さんが言っていたように、毎日少しずつ攻撃しにきてたらその内倒せる。


「亜空間維持の術式があるお陰で時間が伸びてるとかかなぁ」

「まー、理由はなんでもいいや。

 時間制限があるってことがわかっただけで充分」

「どの道やる事は変わんねぇか。おーい! レン!」


朝陽さんが辺りの敵を蹴散らしながら兄ちゃんの元へと向かう。

重量感のあるあの大剣は、昨日ジオンが作ったレベル45の大剣のようだ。


「それで、秋夜さんはどれくらい休憩が必要なの?」

「戦っただけ……って言いたいところだけど、のんびりしてられないみたいだねぇ」

「不便だね」

「本当にねぇ」


飛び掛かってくる魔物の攻撃を避け、触腕を刀で弾き返す。もう何度弾き返したかわからない。


「まーその分、攻撃力が上がってるんだけどねぇ」

「そうなんだ? どれくらい?」

「さぁ。まーでも、結構上がってるかなぁ。長期戦がとことん向いてないってだけで、その辺の雑魚なら一撃だよ」


そう言って、短剣を床から抜きながら立ち上がった秋夜さんは、近くにいた魔物の胴体を目掛けて横にデスサイズを振るった。

きらきらと光るエフェクトを見ながら目を見開く。


「凄いね秋夜さん」

「僕が凄いわけじゃないけどねぇ。

 これ、ありがと」

「あぁ……持ってていいよ。休みたい時、それ使って」

「へぇ。それじゃ、借りるよ」


そう言って、手に持った短剣をアイテムボックスに入れた秋夜さんは、襲い来る触腕の上へと飛び乗った。

そのまま、別の触腕へと飛び移り、頭上を目指す秋夜さんの後姿を眺めながら、改めて凄いなと思う。


敵もわんさか沸いてくるし、クラーケンの攻撃は激しいし、時間制限もある。

それでも、防衛の時と違って余裕があるのは、やっぱりたくさんのプレイヤーが参加しているからだろう。

大変な事に変わりはないけど、焦りや失敗の文字が頭に浮かぶことはない。


皆のポーションが足りているか確認しに行こうかな。それに、そろそろ強化料理の効果も切れるし。

辺りを見渡せば、ジオンの姿を見つけることが出来た。

距離もそこまで離れていないし、先にジオンの元へ行こう。


通り道の敵を倒しながら、ジオンの元へと急ぐ。


「ジオン! ポーション残ってる?」

「はい。ポーションは残ってます。マナポーションはなくなりました」

「それじゃあ、マナポーション、渡しておくね」


アイテムボックスから《中級マナポーション》2本と《初級ハイマナポーション》を1本取り出して、手渡す。

ジオンはそれらを受け取ると、かちゃりと小さな音を立てながら袖の袂へと入れた。

もっと渡したいけど、これ以上だと邪魔になるそうだ。


「それと、ピザ! 食べよう!」

「あぁ……もう3時間も経ったんですね。

 ライさん、先にどうぞ。敵は私にお任せください」

「ありがとう」


もぐもぐとピザを食べる。シチューよりは食べやすいとは言え、チーズが伸びたり、具が落ちそうになったりと、ピザも戦場で気軽に食べられるものではない。

本当はゆっくり食べたいけれど、さすがにそんな場合ではないので、急いで食べる。

最後の一口を飲み込む。


「ジオン、はい!」

「では、よろしくお願いします」


周りを見れば、少し離れた場所まで行ってご飯を食べているプレイヤーが見えた。

湧き出る敵の数もだけど、触腕がいつ飛んでくるかもわからないこの場所じゃ危険がいっぱいだ。


刀を構えて、周囲へ注意を配る。


「そうだ、ジオン。刀が欠けちゃった」

「おや。すぐに手入れしたいところですが……厳しいですね」


そう言って、クラーケンを見上げたジオンに倣い、俺も見上げる。

HPバーは全体の3分の1程削れている。単純に計算するなら、あと6時間戦い続ければ倒せる。


「恐らく持つとは思いますが……何事もなければ」

「そっか~それなら良かったよ」


ほっと息を吐いたのが先か、それとも後か。

朝陽さんの声が辺りに響いた。


「全員一旦下がれ!! ヌシが出てきやがった!

 しかも、5体!! フォレストスラグだ!!!」


ジオンと顔を見合わせる。


「刀持つかな……」

「さて……」

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