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day58 銀を喰らう者①

「結構ぎりぎりにきたな」

「夜ご飯食べてたらぎりぎりになっちゃった」


現実世界で夜ご飯を食べて、お風呂に入り、他にもログアウトした後は寝るだけで済むように用意をしてログインをしたら、『銀を喰らう者』の開始時間の十数分前だった。

銀行に行く時間はなく、慌ててギルドに向かい、ギルド内に新たに作られていた、前回のイベントの時のような門から亜空間へと移動してきた。


亜空間の中に入ってすぐ、広い空間には様々な露店と簡易的な作業場が並んでおり、見渡す限りプレイヤーがいて凄く賑わっていた。

朝ご飯を食べようと美味しい匂いがする方向へ進むも、クラーケン戦前に強化料理を求めるプレイヤー達でごった返しており、後方のほうでうろうろしていると、遠くからその様子に気付いたのか、カヴォロがやってきて中心まで連れてきてくれた。


「まぁ、大丈夫だろう。準備や作戦会議も含め、戦闘は1時間後に開始という話になってるらしい」

「そうなんだ? それならゆっくり食べられるね。

 マナポーションも買わなきゃ」


これだけの人数がいる中から空さんを探してマナポーションを購入するのは難しそうだ。

見つけた露店で購入しよう。


「強化料理の効果は1時間。中でも食べられるように多く持って行け」

「うん。分かった。いくら?」

「……1つ3,500CZだ。ライ達の場合5人分だから出費が嵩みそうだな」

「俺今お金持ちだから大丈夫!」


俺と話しながら、料理を続けているカヴォロの姿を眺める。

今みんなで食べている朝食の分も今回は払わせてくれた。全て露店に並べているからだろう。


「ピザで良いか? 他にもシチューなんかもあるが」

「食べやすいのはピザだね。でも、シチューも食べたいなぁ」

「それは今度作ってやるから、ピザにしとけ」

「うん! それじゃあ……50? 10時間も戦うかな?」

「さぁ……だが、デスペナルティはないとは言え、死んだら強化料理の効果は解除だろう」

「んん……そう言われると、50じゃ足りない気がするね。200くらいいるかな?」

「何回死ぬ気なんだ……」


とは言え、常にずっと一緒に戦うことは出来ないかもしれないし、ジオン達にはアイテムボックスがあるわけじゃない。ピザを持って戦うわけにはいかないので、効果が切れたら食べるということが出来ない時もあるだろう。

出来ればそんなことにはなって欲しくないけど、俺ではなくジオンやリーノ、シアとレヴがそれぞれ死んでしまった場合もだ。

俺が死んだら全員で消えて、同じ時間に復活できるので一緒に食べることが出来るけれど。

ジオンとリーノはお金を持っているからここで買って食べて戻ってくるという方法は取れるかな。


「シア、レヴ、お小遣いあげるね」

「いらないよー?」

「ううん。意図せず離れ離れになる事もあるかもしれないからね。

 必要な時はここでご飯食べてね」

「うーん? わかったー」


いまいち分かってなさそうだけど、まぁ良いかとそれぞれ10,000CZずつを現金化して渡しておく。

2人はベストのポケットにそれを大事そうに詰めた。


「それじゃあ50個!」

「あぁ…175,000CZだ」


ウィンドウが開く。個人間の取引ウィンドウではなく、露店使用時の取引ウィンドウで、値段が設定されて表示されているものだ。

取引ボタンを押して取引を完了する。


「あーどきどきしてきた。カヴォロは戦わないの?」

「俺は料理だ」

「勿体ないね。カヴォロ強いのに」

「防衛に参加していたからと期待されても困る。高レベルのやつらに囲まれるのはこりごりだ」

「俺とほとんど変わらないのに。でも確かに、俺もあの人達よりレベル低いからなぁ」


防衛戦に参加していた人達は前線だと兄ちゃんが言っていたし、足手纏いにならないようにしないと。

前線と言っても、詳しいことは知らないから、何もクラーケンの真ん前で戦うってわけじゃないかもしれないけど。


「てめぇ、こんなとこで何してやがる!!!」


怒鳴り声が聞こえてびくりと体が揺れる。喧嘩だろうかと視線を向けると、露店の先にいるプレイヤー達も同じくそちらへ視線を向けていた。

視線の中心には、どこかで見た覚えのあるプレイヤーが立っているのが見える。


「おい! さっさと来い!!!」


どかどかとプレイヤー達が避けた道を真っ直ぐ俺に向かって進んでくる人物の顔を見て、思い出す。

この人達は何か食べていたり、飲んでいたりする時に現れるな。


「……え? 俺?」

「他に誰がいるって言うんだよ! 何をこんなとこでちんたらしてやがる!!」

「えぇ……何? 俺何かした?」

「あぁ!? さっさと来い!!!」


先日カフェに秋夜さんといた時に探しに来てたラセットブラウンのクラメンの1人だ。

何をこんなにぷりぷりしているのだろうかと考えて、寝ている秋夜さんを連れて帰ったからだろうかと考える。

でも、秋夜さんが俺の家にいたなんてわざわざ言うかな。


「……どこに?」

「はぁ!? 作戦本部に決まってんだろ!!」

「え? 俺そんなこと知らないんだけど?」

「知るか! さっさと来い!!」

「えぇ……」


理不尽である。なんなんだ本当。

ちらりと皆に視線を向けると、手元に食事が残っている。当然俺もなのだけれど。

手元のお皿に残るハンバーグを見て、ラセットブラウンのクラメンの顔を見て、もう一度ハンバーグに視線を戻す。

残り3口分くらいのハンバーグにフォークを突き刺し、ぱくりと口に入れる。


「てんめぇ……! おちょくってんのか!!」


もぐもぐと口を動かす。

おちょくっているつもりはない。

ごくりと飲み込んで口を開く。


「皆はゆっくり食べてて良いよ。ちょっと行ってくるね」

「良いのですか? 私達も一緒に……」

「大丈夫大丈夫。カヴォロ、騒がしくしてごめんね」

「あぁ……構わない」


お皿をカヴォロに返却して、立ち上がる。

何が何やらわからないけれど、着いて行かなきゃずっと怒っていそうだ。


後ろに着いて、作戦本部とやらに向かう。

そんなものがあるのかと考えながら着いて行けば、露店が並ぶ場所を抜けた先に高く聳える石壁が見えた。

その壁にいくつか、ギルドから亜空間に移動した時とは違う、門のようなゲートのようなものが並んでいる。

あの先にクラーケンがいるのだろう。


その手前に、多くのプレイヤーが集まっているのが見えた。

作戦本部と言うからテントのようなものがあるのだろうかと予想していたけれど、さすがに急ごしらえで用意できるものではないかと納得する。


ずかずかとプレイヤーが集まる中心まで進む彼の背中を追えば、そこには見知った顔を見つけることが出来た。

兄ちゃん、ロゼさん、朝陽さん、空さん。それから秋夜さんだ。


「秋夜さん! 連れてきましたよ!!」

「は? なにが?」

「暢気に飯食ってたんで連れてきました!」

「……あぁ……いないと思ったらライ君探してたんだ……。

 まー丁度良いや。ライ君も話しなよ」

「うん……」


話、できるかなぁ……。そう思いつつ、そそくさと兄ちゃんの元へ向かい、若干兄ちゃんの陰に隠れるような場所に立つ。


「ライ、おはよ」

「おはよう兄ちゃん。えぇと……急に連れてこられたんだけど」


他のプレイヤー達の作戦会議の邪魔にならないように、こそこそと兄ちゃんに話しかける。


「はは、そんな感じだったね。

 今は弱点の話をしているところだよ。先に秋夜君と……ラセットブラウンの人達で中に入って確認してきてくれたみたいだよ」


なるほど。秋夜さんのスキルは俺達の鑑定よりも詳しく弱点が分かるようだったから、重要な情報だろう。

秋夜さんへと視線を向けて大人しく話を聞く。


「状態異常は麻痺と毒。防衛の時と変わらないみたいだねぇ」

「えー? 状態異常を引き起こすスキルなんてあったっけ?

 麻痺が付与された剣なら持ってるけど、+4じゃ極まれにしか入ったことないよ?」

「属性魔法のスキルレベルが高くなれば使えるんじゃなかったか?」

「あぁ、βの頃はあったね。麻痺は雷属性の4つ目の魔法だっけ?

 毒は……なんだろう? 覚えてる人いる?」

「……いないようだな。ここにいないプレイヤー達にも聞いてもらうか」


どんどん進む話に感動を覚える。


「まー、大丈夫でしょ。ライ君の双子が毒使ってたの見たし。ねぇ?」


秋夜さんの言葉に、全員の視線が向けられて、どきりと心臓が飛び跳ねる。

顔に笑顔を貼り付けたまま、頷いた。


「ん。じゃ、他にも使えるプレイヤーいたら使ってもらって。

 重ね付けできるのか知らないけどねぇ」


心臓に悪いから急に振らないで欲しい。

こっそりと息を吐く。


防衛戦ではレベルは上がらなかったけれど、スキルレベルは上がっている。

シアとレヴの呪毒のレベルが6……いや、5になった時に覚えていたのだろう。新たに【呪痺】というスキルが増えていた。恐らく麻痺だと思うけど。

伝えなければと口を開く。が、声を出すことは叶わなかった。

こんなにたくさんの人がいる中で意見をすることが出来ず、兄ちゃんの服の裾を少しだけ引いて、小さく声を出す。


「兄ちゃん、麻痺も多分できると思う」

「ん、わかった。

 ……麻痺も使えるみたいだよ」

「へぇ! あの双子ちゃん達、麻痺も使えるんだ? すっごいね~!」

「ふむ。麻痺効果はどの程度続くんだ?」

「ほとんど続かないと見てよさそうだな。

 大規模レイドのボスが長く麻痺になるとは思えん」

「そうだねー。ま、結局やることはかわんないかぁ」


皆が話す姿をぼんやりと眺める。

作戦会議というより、情報共有の場という感じだなと思いながら、それもそうかと思う。

まだ何も始まっていないのだから、作戦も何もないだろう。


「沸いてたモンスターの強さはどうだった?」

「まー、弐ノ国の……石工の村辺りの強さじゃないの。

 戦ってないからわかんないけど。ただ、量が多いんだよねぇ」

「うーん……ってことは適正レベル30ってとこですか。

 防衛戦に参加してた皆さんは大丈夫でしょうが……」

「私達がそっちを相手する?」

「全員を割くのは得策じゃないな。他の皆にも手伝ってもらおう。

 それから魔法職を守る必要があるな。渦中では動きにくいだろう」


そう言えばとちらりと空さんへ視線を向ければ、居心地悪そうに下を向いていた。

こそこそと空さんの近くに寄って、小さな声で話しかける。


「空さん、おはよう」

「……弟君。おはよう」

「マナポーション余裕ある? 売って欲しいんだけど」

「大丈夫」


初級と中級のマナポーションを50個ずつ、それから初級のハイマナポーションを40個売ってもらう。

残っていた分と合わせてそれぞれ60個ずつくらいはあるけれど、足りるだろうか。まぁ、大丈夫かな?


「それから……ダガー用のベルト? ホルダーとか、ないかな?」

「ダガー? 今はない、けど。それくらいなら今からすぐに作る」

「今から? でも、今作戦会議……」

「いい。私がいても話せないし」


それは俺もそうなのだけれど、無理矢理とは言え連れてこられた会議を抜け出して良いのだろうかと悩む。

けど、ダガー用のホルダーは欲しい。シアとレヴの為に。


「行こう、弟君」


そう言って、皆の輪の中から抜けて行く空さんの後を追えば、露店のある場所まで戻ってくることとなった。

きょろきょろと辺りを見渡した空さんは、カヴォロの露店の中へ入って行った。


「ライさん、おかえりなさい。

 大丈夫でしたか?」

「うん。大丈夫……途中で抜けてきちゃったけど」

「場所借りる」

「あぁ。好きに使って良い」


カヴォロの言葉に頷いた空さんは、アイテムボックスからいくつかの道具と皮を取り出して早速作業を始めた。


「生産道具、持ち歩いてるんだね」

「いつもは納屋に置いてる。今日は何があるかわからないから。

 みんなにも持ってもらってる」


俺も持ってきたほうが良かっただろうかと考えて、1人のアイテムボックスじゃ無理だなと考えを巡らせる。


「何作ってるのー?」

「シアとレヴのホルダーだよ」

「あぁ、昨日のか! 良かったな!」


昨日ログアウトする前に、シアとレヴに渡そうと残った鉱石でダガーを作った。

ダガーに使う鉱石は5個と少ないが、その全てを雷属性+2の《雷鉄》で作り、雷属性+10のダガーが出来た。

更に、リーノに雷属性の鉱石と宝石を使って細工して貰い、最終的に雷属性+16のダガーが完成した。

そして、刺したらびりびりと雷が広がるような、出来れば麻痺なんかになってくれないかなと、そういう魔法陣を描いて魔道具にした。

簡単に言えば、スタンガンのようなものだ。ただ、1回使えば壊れてしまうけれど。

ただの尖った《雷鉄》に効果を下げた魔法陣を書いて使ってみたところ、びりびりと周りに雷が走った後、壊れてしまった。


2人は短剣術を持っているわけではないけど、何かがあった時、いざという時にこれを使って回避できたらと思っている。

防御力が高く、盾を装備しているリーノなら、ある程度の攻撃は対処できるだろうけれど、シアとレヴは防御力も低く、まだあまり戦闘に慣れていない。

2人の為にと全員で性能を盛りに盛った、1度きりの武器だ。

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