day52 生産依頼と補助依頼
「依頼ですか? 魔道具職人向けの?」
「うん。今は雑用しかないだろうって言ってたけど、エルムさんが工房で話を通してくれるって」
「ギルドを通しはするけど、直接依頼を受けるようなもんか。なるほどなー」
エルムさんはトーラス街についてから、一度俺達の家を訪れた後、すぐに工房へと出かけて行った。
トーラス街に滞在する間は俺の家に泊まったらどうかと提案してみたけれど、断られた。
考えてみれば、俺ならシアとレヴと3人で1つのベッドに眠れるとは言え、どちらの部屋で眠るとしても男性がいるのだから、軽率に提案するものではなかったなと反省する。
「でしたら、私も鍛冶場の依頼を受注したいです」
「ボク達もお手伝いしたい」
「俺も俺も! なくてもライに着いて行って雑用するぜ!」
「そう? それじゃあ後で確認しに行こうか」
俺が依頼を受けている間は家で過ごすなり、街で過ごすなりして貰おうと思っていたが、確かに俺がいない間、暇になるだろう。
鋳造と細工の依頼もあれば良いけれど。
「……それで、この、武器は……」
家に帰ってきた時からそれが作業机の上に置かれていた事には気付いていたけど、触れないようにしていたそれに話題を移す。
話しながらちらちらと視界に入る度に、その中二心をくすぐるデザインに歯噛みしていた。
「昨日仰っていたデスサイズですね」
「気合入れて作ったぜ!」
「うん、凄く格好良いね……形も凝っているし、色合いと装飾が合わさって禍々しさが際立ってるね。
デスサイズのことは分からないけど、俺は最高だと思う!」
俺のお願いを聞いてくれた2人に、俺の葛藤は関係のないものなので、素直に感想を伝える。
少しだけ、やけっぱちになったのは否めないけど、本心からの言葉であるのは確かだ。
『バースデイ・ジ・アビス☆4 攻撃力:91
装備条件
Lv45/STR36/INT9
効果付与
黒炎属性+10
混乱+3』
「はぁあ……?」
まさかのユニークだ。気合入れすぎなのではなかろうか。
2人は俺が見たいって言うから頑張ってくれたんだろうし、その気持ちは、凄く嬉しい。
だけど、なんともやるせない気持ちになってしまう。
鍛冶用の炉、細工用の炉、それからデスサイズ。
1日の中で3回もユニークのアイテムを見ることになるとは。
「ありがとう、ジオン、リーノ」
「お知り合いに渡す物なんですよね?」
「イイエ。俺が、見たかっただけです」
「まぁ……何か蟠りのある相手のようですが」
「だなぁ。ま、渡さないなら渡さないで、俺達は構わないぜ」
「ええ、珍しい武器を打てたので楽しかったです」
そう言ってくれるのは凄く有難いけど、いたたまれない。
小さく溜息を吐いて、よし、と呟く。
「神出鬼没で次いつ会うかわかんないけど、ちゃんと渡すよ」
せっかく作って貰ったんだから、有効活用できる人に渡るならそのほうが良い。
ええいままよとデスサイズをアイテムボックスに入れてしまう。
恩が売れると考えてしまったほうが気が楽だ。
この際、買取価格の10倍くらいで売ってしまおう。……さすがにそれはしないけど。
「それじゃあ……ギルドに依頼があるか、見に行こうか。
今からだと依頼を受けるのは明日になるだろうけど、先に確認しておこう」
「そうですね。必要な道具があるやもしれませんし」
「俺達の依頼もあったら良いな~」
「お手伝いする」
家から出て、ギルドへと向かう。
「化け物ねぇ。一体何がいんだ?」
「海かぁ~海の怪物って何がいるかなぁ」
クラーケン、ポセイドン、リヴァイアサン……他にもいるけど、一番有名なのはクラーケンかな。
ポセイドンは……神様だし、多分違うと思うけれど。
海中から引き摺り込むってことを考えると、クラーケンが当て嵌まっているように思う。
海上に上がらずとも大きな足で引き摺り込むことができるだろう。
ギルドの扉を開けると、相変わらず慌ただしく、現在の状況がそれだけ異常な事態なのだと改めて実感する。
受付の職員さん達も対応に追われていたので、依頼が貼りだされている掲示板の元へと向かうことにした。
「お、あったあった。鍛冶スキルを持った人募集……だって」
「ふむ。身一つで鍛冶場に行けば良いようですね」
「んあー細工スキルの依頼ねぇなぁ。んじゃ、雑用だな。
えーっと……魔道具工房の雑用は……っと、これか」
「鋳造もないよー」
「そんじゃ、2人も俺と一緒に行くとするか」
「うーん……ジオンくんと一緒に行く!」
「私ですか?」
「うん! ざつよー? する!」
「ライくんのお手伝いはリーノくんがいるから」
「アタシ達はジオンくんのお手伝いー」
二手に別れるって事かと納得する。
子供の姿の2人に雑用をさせるのは気が引けるけど、本人達がやる気なら止めるつもりはない。
でも、2人のSTRは12で、悲しいことに俺よりも上だけど高いわけではないから、雑用の内容によってはきついのではないだろうか。
「逆のほうが良いんじゃない? 鍛冶場のほうが重い物多そうだし」
「おー、それもそうだな。んじゃ、俺がジオンと鍛冶場行くわ」
「わかったー」
「ボク達はライくんのお手伝いね」
魔道具製造の依頼はまだ貼りだされていないようだ。
依頼の申し込みがあってもすぐに貼りだされるわけではないだろうし、特に今は優先順位が高いものが他にたくさんあるのだろう。
受付で聞くのが早いかなと、受付の様子を伺えば、丁度1つだけ空いていた。
「すみません。依頼の事が聞きたいんだけど」
「はい! 現在、討伐依頼と納品依頼は対応が遅れてしまう可能性がありますが……」
「ううん。鍛冶場の依頼と魔道具工房の依頼を……」
「本当ですか!? 助かります!
出来れば補助の依頼ではなく、生産依頼を受けていただきたいのですが……」
「うん。生産も補助も両方受ける予定だよ」
「なるほど……皆さんで依頼をこなされるんですね。両方となると、鍛冶場ですかね」
魔道具製造の依頼はまだ届いていないのだろうか。
話を通すと言っていたんだけど、と尋ねるのは、なんだか偉そうで、なんと聞いたものかと考える。
「魔道具製造の生産依頼はないかな?」
「補助依頼でしたら……あ、もしかして、ライ様でしょうか?」
「あ、うん。そうです」
「ライ様へ指名依頼が魔道具工房から届いております。
こちらの受注ということでよろしいでしょうか?」
「明日の朝から行きたいんだけど、今依頼を受けて大丈夫かな?」
「問題ありませんよ。明日の朝、直接工房をお訪ねください」
「あと、ジオン達……従魔が単体で依頼を受けることって出来るかな?」
「従魔の方が単体で依頼を受注する事は出来ませんが、ライ様が受注した依頼をこなす事は出来ますよ。
その場合、初めにその旨を依頼主にお話する必要があります」
討伐依頼でもジオン達が倒した敵は計算されていたし、露店のお手伝いのように、テイマーの状態に準ずるということだろう。
何にせよ、俺が受けた依頼をジオンとリーノの2人で達成できるということだ。
「説明は今から行っても大丈夫かな?」
「はい。非常事態で遅くまで作業しておりますので、大丈夫かと思われますよ」
「それじゃあ、魔道具工房の生産と補助、それから鍛冶場の生産と補助の依頼の受注をお願いします」
「ありがとうございます! 凄く助かります。
全ての依頼内容が、期間内で5時間以上のお手伝いとなっておりますが、問題ありませんでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
「了解致しました。それでは、4件の依頼の受注を確認致しました」
鍛冶場の場所と工房の場所を教えて貰ってから、お礼を告げてギルドを出る。
シアとレヴが補助依頼をこなす事は、明日一緒に行って説明をすれば良いだろうし、鍛冶場に行くことにしよう。
今から手伝った方が良さそうな雰囲気ではあるけれど、数時間もすれば俺は帰らなければいけないし、さすがに俺がいない間に、みんなに依頼の作業をさせるのは申し訳ない。
数時間だけでも手伝うべきだろうか。
教えて貰った鍛冶場は、鉱山の村、それからカプリコーン街の鍛冶場と比べて凄く大きな鍛冶場だった。
アルダガさんとよく似た人が、弐ノ国で一番大きな鍛冶場で責任者をしているとエルムさんが言っていた事を思い出し、もしかしてこの鍛冶場だろうかと考えを巡らせながら、扉を開ける。
「すみません。ギルドで依頼を受けてきたんですが、依頼主の方はいますか?」
鍛冶場内はむわりと熱気が広がっていて、トントン、カンカンと鉄を打つ音が響いている。
俺の声に気付いた鍛冶職人さんが、手を止めて額の汗を拭い、俺の姿を見た。
「異世界の旅人か。助かる。
依頼主……責任者なら奥の方にいる一番ガタイの良いおっさんだな」
「ありがとう」
くいっと親指で指し示された方へ歩いて行けば、恐らくあの人だろうと言う人を見つけることが出来た。
ここからではまだよく見えないけれど、似てると感じる。
「似てるよね」
「似てるなぁ……兄貴か?」
「どうかなぁ? そう言えば、鍛冶職人ってこと以外、なんにも聞いてないね」
「そうですね……アルダガさんとよく似ているとは仰っていましたが」
名前を聞いておけば良かったと考えて、そう言えばアルダガさんの名前も壱ノ国にいた時には知らなかった事を思い出す。
「あのー……ギルドで依頼を受けてきたんですが、今、大丈夫ですか?」
「ああ? 見ての通り、大丈夫ではねぇな。……依頼つったか?」
俺は別の依頼を受けているので来れないけれど、ジオンが生産依頼、リーノが補助依頼をこなすという事を説明する。
「そうか。従魔が手伝ってくれんだな? 俺はグラーダだ。よろしくな」
「明日の朝からでも大丈夫?」
「そっちの都合に任せるぜ」
「それじゃあ、明日の朝からお願いします。
……あと、1つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「アルダガさんって、知ってる?」
「あん? アルダガの知り合いか?」
アイテムボックスからアルダガさんから貰った紹介状を出して、手渡す。
グラーダさんはそれを受け取り、封筒の中から便箋を取り出して目を通すと俺達に視線を向けた。
「そうか……あんた達か。話は聞いてるぜ。
《ポイズンラビットの角》ありがとうな」
「あ、良かった。間違ってたらどうしようかと」
「こんだけ似てんだから間違いってこたねぇだろ。
あいつが色々世話になってるみてぇだな」
「ううん。俺がお世話になってるんだよ」
「はっはっは! そうか。まぁ、兄弟共々よろしく頼むわ」
そう言って、アルダガさんそっくりな笑顔を浮かべるグラーダさんを見て、兄弟なんだなと改めて実感する。
「こりゃなんの心配もする必要なさそうだな。
聞いたところによると、ジオンはとんでもない武器を打つんだって?」
「うん。ジオンは凄いよ。さっきも凄く格好良い武器をリーノと一緒に作ってくれたし」
「リーノは細工が得意って聞いたな。悪いな、雑用なんかさせちまって。
そっちの嬢ちゃん達の話は聞いた覚えがないが……新顔か?」
「アタシはシア」
「ボクはレヴ」
言われてみれば、2人が仲間になってからはアルダガさんに会っていない。
イベント以来会っていないし、今度遊びに行こう。
「2人はトーラス街に来る前に仲間になったんだ。
……っと、忙しい時に長話するのは申し訳ないし、俺達は帰るね。
ジオンとリーノのことよろしくお願いします」
「おう! 落ち着いたらまた来いよ!」