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day51 フォレストスラグ

「塩なら持ってるが」

「あ、じゃあ少しだけ、撒いてもらって良い?」

「構わない」

「ありがとう。試せるなら試しておこうって思ってたんだ」


兄ちゃんに伝える前に試せそうで良かった。

俺がログアウトした時、兄ちゃんはまだログインしていたし、朝伝えればいいやと思っていたけど、俺がログインする時間になっても兄ちゃんは寝ていたので、塩の話はまだ伝えられていない。

今は……ログインしているみたいだ。狩りをしているなら近くにいるとは思うんだけど、見かけなかったな。


盾の露店のお姉さんの知り合いは試してみた後だろうか。

よく今日まで持ったなと思うけれど、狩猟祭直前に空さんから買ったポーションがそろそろなくなってきているから、後日露店広場に行って追加する時にでも結果を話しに行こうかな。

うーん……お客さんいっぱいいたし、それだけの為に行くのは邪魔になるかな。


「それにしてもでかいな……一応本体にも撒いてみるか?」

「多分効かないと思うけど、うん。物は試しだよね」

「俺じゃ近付くのは難しそうだが……」

「アタシ達に任せてー」

「ボク達なら大丈夫」

「それじゃあ、任せた」


カヴォロはそう言って、シアとレヴに小さな袋に入った塩を2つ手渡した。


「今回の作戦は……まぁ、作戦って程でもないんだけど。

 まず俺が黒炎弾を打ちます。それから、シアとレヴに呪毒……あと粘液を処理してもらって、後は殴るだけ」

「ああ……俺は魔法を打っていれば良いんだな」

「うん。リーノと一緒に魔法を打ってくれたら大丈夫だよ。

 あ、リーノは盾、預かっておこうか?」

「おーそうだな。咄嗟に盾でガードしてしまいそうだし、預かってくれ」

「うん。もしかしたら服もボロボロになるかもだし、なるべく避けてね」


デスペナルティで装備条件を満たしていない時に脱げなかった事を考えると、服がボロボロになって肌が見えるなんてことはなさそうだけど。

防具の場合は耐久度が0になったら、デスペナルティ時のようにグレーアウトして、防具として機能しなくなるのではないかと予想している。


「それじゃあ、作戦開始! 【黒炎弾】」


俺の手から放たれた黒炎がフォレストスラグの体を蝕む。

燃え上がる黒炎が静まると共に、暴れ始めたフォレストスラグから大量の粘液が辺りへ飛び散り始めた。


「「【呪毒】」」

「それじゃ、シア、レヴ、よろしくね」

「任せて」

「お塩!」


ぴょんっと飛び跳ねる様に走り出した2人が、別々の方向へと向かって粘液を処理していく。


「アタシ、下のにお塩するー」

「じゃあボクおっきいのにする」


2人が走った道を進みながら、俺とジオンはフォレストスラグに近付いて行く。

俺達の進む道がある程度出来た頃、シアとレヴはカヴォロから貰った小さな袋から塩を掌に取り出して、それぞれ地面に残る粘液とフォレストスラグに目掛けて撒いた。


「ライくん、お塩で元気なくなったよー」

「おっきいのはどう?」


レヴの言葉に、フォレストスラグの状態を確認する。

見た目での変化は特になし。HPも減っている様子はないし、何か状態異常になっている様子もない。

予想通り、フォレストスラグ自体には効き目はないようだ。


「ありがとう、シア、レヴ。粘液に効くのが分かってよかったよ」


俺の言葉に嬉しそうに笑った2人は、走る速度を上げて、粘液から粘液へと走り回る。

さて、ここからは斬り続けるのみだ。


「前回一緒にヌシを倒した時にも思ったが……あと、イベントの時も。

 とんでもないよな。ライのパーティーは」

「へへ! 俺褒められてる?

 ま、今回も俺は全然活躍できてねぇけどな」

「俺が一番何も出来てない。

 第一、飛んでくる粘液を全て俺から遠ざけておいて、何もしてないわけがない」

「ライとジオンが強いからなぁ。どうしても何もしてねぇって思っちまうんだよなぁ」

「リーノには細工があるだろう」

「おう! そうだな! へへ!」


聞こえてくる会話に、リーノのコミュ力凄いと感心する。

エルムさんとも、作業場で一緒に作業をしている時間が長いこともあり、いつの間にやら凄く仲良くなっていたし、イベントの打ち上げの時なんかも色んな人と話している姿を見かけた。

気さくで元気が良くて、いつも太陽のようにカラリと笑うリーノに嫌悪感を抱く人はそういないだろう。

もちろんジオンも色んな人と話していたけど、ジオンは俺の近くにいることも多く、自ら進んで話しかける場面は打ち上げの時以外でもあまり見かけないように思う。


「っと……集中集中」


飛んできた粘液を避けて、刀を振るう。

2度目だし、対処方法も分かっているので、どたばたしていた前回と比べて、今回はすんなりと討伐が出来ている。


「そうだ! 頭の上に乗れるかやってみたいんだけど」

「はい? 頭の上ですか?」

「うん。シアとレヴのお陰でなんとかなってるけど、この先もなかなか近づけないって敵出てくるかもしれないでしょう?

 だから、頭の上とか体の上とかに乗れたら、解決することもあるんじゃないかなって」

「ふむ……何もヌシで試さなくても……」

「こんな大きな敵、ヌシ以外にいないでしょう?

 んー……まずは駆け登れるか、かな」

「あ、ちょっと、ライさん」


一度フォレストスラグから距離を取り、助走を付けてフォレストスラグの体に足を掛ける。


「うわ!? ぎゃ! 痛ぁあ!」

「ライさん!?」


残念ながら、フォレストスラグの体が覆う粘液でずるりと足が滑って、頭から転んでしまう。

頭を地面に打ち付けたことで少しHPが減ってしまった。悲しい。


「うん、体のぬるぬるのこと忘れてたよね。

 ちなみに、もしぬるぬるしてなかったら、ジオンは登れた?」

「どうでしょう。試したことがないのでわかりませんね」

「なるほど」


それじゃあ、次はホップ、ステップ、ジャンプで届くかどうか、試してみよう。

もう一度、フォレストスラグから距離を取って、走り始める。


「ホップ……ステップ……ジャンプ! 届かないぃいい!!!」


飛距離が足りなかった体は、フォレストスラグのぬるぬるとした体にべちょりと張り付いた後、跳ね返されるように地面へと落ちた。

予想の範囲内の結果だったので、体をくるりと回して着地する。


「ライさん……」

「……何事も挑戦だと思って」

「それは、そうですが……でしたら、先程の……ホップ、ステップ、ジャンプのジャンプのところで私の刀を踏み台にしてみてはどうでしょう?」

「刀……俺、それ、真っ二つになるんじゃ……」

「刃先を上にはしないので安心してください」


なるほど、アニメや漫画で見るやつだ。


「わかった! やってみる!」


再度距離を取り、今度はジオンを目掛けて走り出す。

最悪ジオンを蹴とばしてしまう事態にもなり兼ねないので、慎重に距離感を図りながら、助走の勢いを付けたままぐっと右足に重心を掛けて、飛ぶ。


「ジオン!」

「はい!」


3歩目のジャンプで、刃先を横に構えた刀に飛び乗り、そのままの勢いで飛び上がる。


「の、乗れ……あぁ~~すべる~~~~!!!」


フォレストスラグの頭に乗ることには成功したが、まるでウォータースライダーのように頭から上半身、そして下半身であろう部分まで滑り落ち、態勢を崩してしまった俺はそのままぼとりと地面へと落ちてしまった。


「ライくん。大丈夫?」

「大丈夫だよ」


落ちた先にいたレヴに心配そうな目を向けられながら、起き上がる。


「ライは何やってんだ?」

「遊んでるんじゃないか」

「否定はできねぇな……けど、今のやつ格好良かったなー!

 今度俺も、盾で試させてもらおっと」

「俺は今、ヌシと戦ってるんだよな……?」


遊んでいるわけではないのだけれど、結果、滑り台で遊んでいたようなものだし、ぐうの音も出ない。


結論。フォレストスラグはぬるぬるしてるから上に乗ることは無理。

飛び乗った瞬間に、蛇の時のように刀を突き刺して体を支えられたら、もしかしたら可能かもしれないけど、足場がぬるぬるしているから体勢を保つことは難しそうだ。


一度深呼吸して、気合を入れ直す。


「よし! さくっと倒してしまおう!」





カヴォロと共に無事トーラス街に辿り着いた後、俺達はカヴォロのお店で夜ご飯をご馳走になった。

お客さんとしてきたんだからお金を払うと言えば、まだ店は開けていないと返された。

ならば開店はいつなのだと聞いたら、まだ決まっていないが、開店初日は招待客のみにする予定だから是非来て欲しいと言われた。


その後、俺達の家にカヴォロを招待しようか迷ったものの、店の事を考えたいからと急いでトーラス街にきたのだから、やる事がたくさんあるだろうと思ってやめておいた。

後日、遊びに来てもらえたら良いな。


「はぁ~……」


思っていた以上に大きな溜息が出た。

大きな作業机の傍に置いてある椅子に座って、目の前に並ぶ鉱石をころりころりと指で突く。


「ライくんどうしたの?」

「んー……どうしようかなって思って」

「融合しないの?」

「うん……そうなんだけど」

「なんだ? どした?」

「あーーー……」


何故急に、あの日の出来事が思い浮かんだのか。

いや、まぁ、さっき2階のバルコニーから海を眺めていた時に、浜辺にいるのをたまたま見かけたからだろうけど。


「ねぇ、ジオン。大鎌って何から作るの?」


不思議そうな顔で首を傾げて俺の顔を見るジオンに、問いかける。


「大鎌、ですか? 農業をするんですか?」

「ううん……デスサイズってやつ」

「なるほどデスサイズですか。

 そうですね……刃金を玉鋼、それ以外は鉄ですかね」


玉鋼も使うのか。でも、《黒炎玉鋼》は俺とジオンの分で取っておきたい。

これまでちまちま、MPに余裕がある時かつ宿屋の部屋やエルムさん宅にいる時に、作っておいた《黒炎玉鋼》の数は、黒炎属性の付与がされているものだけを選ぶと、俺とジオン、どちらか一振り分の数しか出来ていない。1、2個なら、まぁ、使う余裕はあるだろうけど……。

《黒炎鉄》は3個。俺達の炉とカヴォロの石窯用の分しかない。


ぐぬぬと唸り声を上げながら、鉄を手に取る。


「【融解】……【黒炎弾】」


手に取った鉄を融解して、黒炎の大きな魔弾が広がりきるのを待つ。

これまでに何度かの融合を経て、最初から溶けた鉄の真上で黒炎弾を展開しておけば、魔操で操る距離が減るので楽に融合できることに気付いた。


「鉄に融合するんですか?」

「うん……鉄で良い……いや、良くないけど。

 でも、気になっちゃったから……【魔操】」


まぁ、黒炎属性が付かなかったら、やめよう。

違うやつが付いたなら仕方ない。きっと、違うやつが付くと思う。


「【融合】……【鑑定】。

 ……はぁあああ~~~~……」

「お、おい、ライ。大丈夫か?」

「大丈夫じゃない……自分が恨めしい」


『黒炎属性+5』と表示されたウィンドウを恨みがましく睨み付ける。

ジオンが作ってリーノが細工をしたデスサイズだなんて、それはもう格好良いものができそうだと考えてしまった自分が恨めしい。


最後の悪あがきだと、オークションページを開いて、デスサイズを検索すると、多くはないけど数本出品されていて、入札もされていた。

あの人みたいに死神なのかは……☆4種族だし違うだろうけど、デスサイズで戦うプレイヤーはいるようだ。


「別に、あの人に渡すわけじゃないし……」


ぶつぶつと呟きながら、オークションページを閉じる。

デスサイズで戦うプレイヤーに売ったらいいだけの話だと自分に言い聞かせて、溜息を吐く。


なんならオークションに出品してしまえば……だめか。

これまで黒炎属性が付与された装備を1つも出品していないし、狩猟祭で見られていた今、黒炎属性と俺を結びつける人は少なからずいるだろう。

結びつけられたからって、作り方を内緒にしておけば良いだけだけど……そう言えば、作った人も内緒にしておけばって、言ってたな。


「……ジオン、リーノ。本当に暇な時、もー暇で暇で仕方ないって時に、デスサイズ作ってくれない?」

「? それは構いませんが……」

「黒炎属性が付いた《黒炎鉄》1個と《黒炎玉鋼》1個で。

 あと、リーノの細工は『混乱』が付いてる《風赤の宝石》……確か2個しかなかったよね? 

 他に使う時もないだろうから2個使って。それで、装備条件は……Lv45でお願い」

「? 頼まれたものですか?」

「……イイエ。格好良いデスサイズが見たいだけです」

「おお……それは、良いけど……」


もう一度大きな溜息を吐いて、作業机の上にべしゃりと崩れる。


困惑した視線が向けられているのをひしひしと感じる。

今の自分は、男らしさからかけ離れているなと思うけど、少しだけ見逃して欲しい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで自分を嫌ってる敵になるような人間に態々リスク負ってまで造るの? 他人に話しかけられただけで内心パニックになるような主人公なのに不自然すぎない? 設定ぐちゃぐちゃ作者の操り人形…
[一言] 本当に優しいねぇ...
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