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day48 露店広場にて

「こんばんは、カヴォロ。今日も大盛況だね」

「夕食か?」

「うん、そうだよ。

 あ、タコスありがとう。凄く美味しかったよ」

「そうか。それなら良かった」


カヴォロは料理していた手を止めて、列を眺めた。


「10組だな」

「うん? それ以上いるみたいだけど」

「あと10組で今日は閉める」


カヴォロの言葉に、並んでいた人達が自分の順番を確認して一喜一憂している。

10組から外れてしまった人達が残念そうに離れて行くのを見て、申し訳なさを感じていると、いつもの事だからと言われた。

統率が取れていると言うのだろうか。文句を言う人がいない事に、ただただ感心する。


近くのテーブルの椅子に座って待っていれば、露店を閉じたカヴォロが俺の横に座った。


「お疲れ様、カヴォロ」

「あぁ……何が食べたいんだ?」

「和食!」

「ない。串焼きなら出来るが」

「串焼きは……和食なのかな? あ、でも、焼き鳥は和食?」

「さぁ……まぁ、俺が作る串焼きは和食とは言えないかもな。

 あぁそうだ。チーズケーキがある」

「ケーキ? 食べたい!」


夜ご飯にケーキは、現実なら栄養面とか色々と気になるけど、この世界では関係ない。

空腹度が減少すれば良いだけだ。とは言え、せっかくなら美味しい物で満たしたい。


机に置かれたホールのチーズケーキを見て、アイテムボックスから『楓食器セット』を取り出して、お皿とフォークを取り出していく。


「あ、フォークとお皿、シアとレヴの分ないや。

 お皿はまぁ、なんとかなるけど」


ケーキならスプーンでも食べられるかなと考えていると、カヴォロがシアとレヴの分のフォークを用意してくれた。

空さんから貰った食器類は木製だが、カヴォロが取り出したフォークは金属で出来ている。


「銀食器?」

「あぁ、街で売ってもらった」

「へぇ~売ってるんだね」

「恐らく、普通には買えない。

 クエスト扱いなのか、単純に仲良くなったからなのかは分からないが」

「普通には買えない?」


カヴォロはチーズケーキを切り分けながら、頷く。


「前に、売りに出されている物には制限がありそうだって話、しただろ。

 それと同じだ。木製の食器類はこれまでも売っていたが、銀食器は売ってなかった」

「へぇ~食器屋さんの店主さんと仲良くなったの?」

「まぁ、おっさん……カプリコーン街のレストランのオーナーに紹介されて少しずつ。

 ……そら、切り分けたぞ」

「ありがとう! いくら?」

「いい。その代わりに、頼みがある」

「頼み? うん! なんでも言ってよ!」


今か今かと視線を向けてくるシアとレヴに笑顔で返して、いただきますの合図と共に食べ始める。


「トーラス街に行ってるんだよな?」

「うん、今日着いたよ」

「もう着いたのか。早いな……。

 今度連れて行ってくれないか? 早めに店の事、考えたい。

 まぁ、暫くはカプリコーン街で露店を開くことになるだろうが」

「うん! もちろん! 今から行く?

 あ、今からは無理か……明日帰らなきゃだし。次に来た時はどう?」

「助かる……が、急ぎじゃないから、いつでも良い。

 トーラス街に着いたばかりでやる事も多いだろ?」

「それが、トーラス街でやりたい事が、色々出来なくなっちゃったんだよね」


アルダガさんのお兄さんに会いに行く予定はあるけど、釣りも泳ぎも今は厳しそうだ。


「そうか……それなら、頼んだ。

 レベル上げがほとんど出来てないから足手纏いになるだろうが」

「大丈夫だよ、任せて!」

「ライは今レベルどれくらいなんだ?」

「俺32だよ」

「そうなのか? レンと同じくらいなのかと思っていたが」

「俺達、そんなに狩りしてないからね。

 採掘の時とか、次の街に行く途中でとかばっかだよ。カヴォロは?」

「俺は今25だな。ライと7しか変わらないのか……」

「仲間がいるからね。俺一人だったら、トーラス街に行けてないよ」


チーズケーキを食べながら、これまでの事を話す。

石工の村の話、ヌシの話、それからトーラス街での出来事。


「海が少し荒れているだけでそんな騒ぎに?

 津波が起きているとか、赤潮とかではないんだろ?」

「うん。よくわからないんだけど、波が高いかなってくらいだったよ」

「釣りしようと思ってたんだが、出来そうにないのか」

「どうだろう。でも、海の中に物凄い強さの敵がいそうだったから、普段から出来ないのかも」

「それはないんじゃないか? この辺りの海の幸はトーラス街産らしいからな」


漁は行われているということだろう。

とは言え、今日のあの様子を見るに、今は難しいのではないだろうかと思う。


「荒れる時は原因があるって言ってたから、その内落ち着くんじゃないかな」

「なら良いが。放っておけば落ち着くような原因なのか?」

「さぁ~どうなんだろうねぇ。

 これまでもそうだったんならそうなんじゃない?」

「それもそうか」

「あ、今からトーラス街は無理でも、石工の村には行けるね」

「石工の村か……陶器や石窯があったって言ってたな」

「うん。俺達、この後石工の村に行く予定だったから、どう?」

「夜の敵に対応できるかはわからないが……」

「大丈夫大丈夫。なんとかなるよ」

「それなら、よろしく」


前回、ヌシを一緒に倒した時は、レベルを上げるのを待って欲しいと言っていたけど、今回はやっぱり早く自分の店に辿り着きたいんだろう。

とは言え、俺とカヴォロのレベル差は7程度だし、そこまで大きな差はないんじゃないかと思う。

トーラス街に行くまでに差も縮まるだろうし。


そもそも、魔法職はソロで狩りをするのはきつそうだ。

刀術のように通常攻撃が出来れば良いけど、魔法スキルに通常攻撃はない。

兄ちゃんの魔力銃は別だ。まぁ、魔力銃は人気がないらしいけど。


「先にリーノの盾を買わなきゃ」

「盾……あっちに人気の露店があるはずだ」

「今も開いてるかな?」

「恐らく」


ケーキを食べ終えた俺達は、カヴォロの案内で露店広場を歩き、盾が売られている露店へと向かう。


辿り着いた露店では、数人のプレイヤーが露店に並ぶ商品を眺めていた。

料理と違って防具等の装備品はしょっちゅう買い替えるものでもないし、並ぶことはないのだろう。

露店を開くプレイヤーを見て、前回リーノの盾を買った時と同じプレイヤーだと分かる。


露店を眺めているプレイヤーの間に入って行くのは気が引けるし、どうしたものかと眺めていれば、1人のプレイヤーが振り向いた。


「あ……み、見ます?」


声を掛けられたことに、どくりと大きく心臓が鳴った。

緊張で固まる表情をなんとか動かし、口角を上げる。


見たいけれど、割り込みたいわけではないし、どう答えたものかと相手の様子を伺う。

困惑しているというか、焦っているというか、漫画だったら小さな汗が噴き出しているような状態だ。

緊張で顔が強張ってるから怒っているように見えてしまっているのかもしれない。


「あの! 俺、見てるだけなんで!

 今度こんな盾欲しいなぁって、見てただけなんで! 大丈夫ですよ!」

「えっと……それじゃあ、お言葉に甘えて……」


俺の言葉に頷いた彼は、露店を見ているプレイヤーの輪から離れて、場所を譲ってくれた。

お礼をして、空いた場所に足を進めようとして、右もプレイヤー、左もプレイヤーだと気付き、どきどきと心臓が高鳴る。


「ライー、俺、同じやつがいいなぁ」

「あ……うん。同じやつ?」

「アイアンバックラーのレベルが上のやつとかねぇか?」

「あぁ……えっと……」


リーノに押し込まれるように輪の中に入って、並んでいる盾や鎧を眺める。

ちらりと露店を開くプレイヤーへ視線を向けると、前回同様、夢中で生産をしているようだ。


リーノが使っていた盾を思い出しつつ、並んでいる盾から似ている形の盾を見つけて鑑定する。


『アイアンバックラー☆3

 防御力:19 魔法防御力:17

 装備条件

 Lv15/STR15/DEF10/MND8

 効果付与

 麻痺耐性+2』


『アイアンバックラー☆3

 防御力:35

 装備条件

 Lv15/STR15/DEF20

 効果付与

 不眠+2』


前回買ったのは、装備条件のレベルが10で、防御力のみだった。

置いてある盾の数値をリーノに伝えると、リーノは迷うことなく口を開く。


「防御と魔法防御、両方あるやつ!」

「うん、わかった」


後から入って来た俺がすぐに買ってしまって良いものかと、他の人達の様子を伺ってみると、見られていたことに気付いた。

俺と目が合うと逸らされる視線に不安を覚えるが、大丈夫だと自分に言い聞かせて、前を見る。


「お姉さん……あのー……お姉さん?」


夢中になると周りの音が聞こえなくなると言っていたけど、大丈夫なのだろうかと心配になる。

盗んだりは出来ないとは言え、声を掛けても気付かれないんじゃ取引に支障がでるのではなかろうか。


この後の反応を思い出しながら、肩を叩く。


「うへえ!?」


前回同様の反応に、覚悟していたのに釣られて驚いてしまった。


「すみません! 夢中になってると……あ! ライさん!

 盾ですか? 鎧ですか?」

「えっと……この盾が欲しいんだけど」

「ありがとうございます!

 あ……前回より、相場上がってますけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。足りなかったら、銀行に行かなきゃいけないけど」

「あ、前回の盾って残ってます? 買取しますよ!」

「前回の盾、壊れちゃったんだよね……」

「壊れたんですか!? あー……強い場所だと壊れちゃうんですねぇ。

 耐久度が数値で見れるなら分かりやすいんですけど……」

「どうかな。一気に壊れちゃったから……溶けたのかな」

「溶けた……? 盾って溶けるんですか?」


それは、俺が聞きたいのだけれど。

耐久度の数値が分からないからなんとも言えないけど、粘液でボロボロになっていった盾の姿と比べて、ヌシに対面する前の盾はそんなに耐久度は減っていなかったように思う。


「弐ノ国のヌシの粘液と盾の相性が悪いみたい。

 どんどんボロボロになって、壊れちゃったんだ」

「粘液……毒ですか? 毒なら防げるはずですけど……」

「毒ではなかったよ」


粘液について思い出せる範囲で説明する。

近くにあった草木が溶けていたこと、防具や体なんかは溶けずにダメージだけ入ったことを伝える。


考えてみると、盾だけボロボロになるのは妙だし、防具も耐久度が減ってしまっているのかもしれない。

今のところ、目に見えてボロボロにはなっていないけれど。


「……なるほど。そういう攻撃もあるんですね。

 何か対処できたら良いんですが……」

「うーん……塩で対処できるかもしれないけど……。

 試したわけじゃないから、違ったらごめんね」

「塩ですか?」

「うん。ヌシ自体には効果なさそうだったけど」

「塩……塩を塗る……? あ! すみません!

 アイアンバックラーですよね! 85,000CZです!」


俺の現在の所持金は185,102CZ。

盾を買うならと、戦利品で増えたお金を銀行に預けずに、そのまま露店広場に来たけど、足りて良かった。


取引を完了して、リーノに新しい盾を手渡す。


「へへ。ありがとな!」

「ううん。すぐに買えて良かったね」

「お買い上げありがとうございます!

 あのぅ……ライさん。その、ヌシの話とか塩の話、人に話しても良いですか?」

「うん? うーん……試したわけじゃないし、あてにならないと思うけど」

「あ、ちゃんと、もしかしたら対処できるかもって話すので!」

「それなら、良いよ。駄目だったらごめんって伝えといてね」


試してみるまでは誰かに言わないほうが良かったかな。

真偽不明な情報を伝えて良かったのだろうか。

まぁ、多分だけど、お姉さんの知り合いが試してくれるんだろうし、気にしないことにしよう。


「それじゃあ、お姉さん、ありがとう」

「いいえ! 盾が必要な時は、是非、ご贔屓に!」


お姉さんの言葉に頷いて、輪から少しだけ離れた場所にいるカヴォロ達の元へと歩く。


「あ、あの! ライさん!」


呼び止められて、視線を向けると、先程場所を譲ってくれたプレイヤーが俺を見ていた。


「しゅ……趣味はなんですか!?」


突然の質問に驚きつつ、頭を傾ける。

趣味……前にカヴォロにも突然聞かれたことがあったな。


「えっと……筋トレかな」

「き……筋トレ……?」


俺の答えになんとも言えない表情をして固まったプレイヤーに、どうしたものかと考える。

暫く無言で見つめ合っていると、俺の隣にきたカヴォロに肩をぽんっと叩かれた。


「……ライ、そろそろ行こう」

「あぁ、うん。それじゃあ……」


おろおろしている様子のプレイヤーを放っておいて良いのかと悩んだが、頭を下げると相手もぺこりと頭を下げてくれたので、大丈夫なのだろうとその場から離れて、ギルドへ向かう。


「うーん……盾のお姉さんも、さっきの人も、なんで俺の名前知ってたんだろう。

 兄ちゃんの知り合いかな?」

「……狩猟祭で見てたんじゃないか」

「あ~なるほど。そっかぁ……なんだか恥ずかしいな」

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[一言] 趣味はなんですか。 「筋トレ」
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