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day48 トーラス街

海の街と聞いて、ヤシの木やコテージのある南の島のような街と、ヨーロッパにあるような海沿いに建物が建ち並ぶ街を思い浮かべたけど、トーラス街は後者のようだ。

建ち並ぶ建物はどれも、石工の村の建物よりも色が白い砂岩で作られていて、統一感がある。

高台から海を眺めてみれば、海に向かって斜めに建物が建ち並んでいて、それはもう壮観だ。


「綺麗な街だね! トーラス街の住居と交換したの正解かも!」

「えぇ、良い街ですね。夕日に染まる街並みも素敵ですが、昼間の姿も早く見たいですね」

「おー! 船があるぜ! 砂浜もあるし、泳ぐ練習できそうだな!」


このまま駆け降りて海辺まで行ってみようかなと足を踏み出すと、ぐっと両方の袖を掴まれた。

視線を向ければシアとレヴが俺の袖を握ったまま、普段からあまり表情が出るほうではないけれど、比べ物にならない程全ての表情を消し去った顔で、その吸い込まれそうな瞳を海に向けていた。


「どうしたの?」

「ライくん、おうち行こう?」

「ん? うん、そうだね。そうしよっか。

 あ、でもその前に、郵便局に行って手紙書いていい?」

「うん。お手紙ー」


海に住む妖精なのだから海は好きなのかと思っていたけど、今は新しい俺達の家が楽しみなようだ。

ギルドのお姉さんが海の近くの物件だと言っていたし、家に着いた後でも海には行けるだろう。


近くにいた人に郵便局の場所を聞いて、早速向かう。

今の時間は『CoUTime/day48/18:14』。現実世界の郵便局って何時まで開いてたっけと頭を捻らせたが、郵便局に行ったことがないことを思い出す。

朝のランニングの時に前を通ったことはあれ、入ったことはない。


郵便局の扉の前で、受付時間を確認すると、9時から20時まで受付していることが分かった。

扉を開けて、様子を伺う。プレイヤーの姿はない。

プレイヤー同士ならメッセージも送れるし、この世界の住人と余り関わらないのなら、郵便局に用はないのだろう。


数個ある受付の空いている受付へと足を進める。


「すみません。手紙を送りたいんだけど……レターセットって売ってますか?」

「ございますよ」


そう言って指し示されたのは、受付と受付の間の仕切りだ。

そこにはサンプルとして、4種類の便箋と封筒セットになったレターセットが並んでいた。


「街の商店にも色々売っておりますよ。

 いかがいたしますか?」

「えーと……それじゃあ、この、海の絵が描いてあるやつください」


シンプルな白のやつと迷ったけど、海の街から送るのだから海の絵が描いてあるやつにしよう。


「便箋は何枚必要ですか?」

「んー……うん。1枚で。封筒も」

「はい。それぞれ1枚ずつですね。100CZでございます」


表示されたウィンドウの『承諾』に触れて、レターセットを受け取る。


「あちらに、ペンがございますので、よろしければご利用くださいませ。

 他にご用件はございますか?」

「うーん。手紙の書き方……あ、IDを書く場所とか、教えて欲しいんだけど」


僕の言葉ににこりと笑って、丁寧に教えてくれる。

表面には、右上に住宅や店舗のIDを、中央に宛名を。裏面には、下部に差出人の名前とIDがあるならIDも書くようだ。

現実世界の書き方とほとんど変わらなさそうだ。住所がIDになっているからその分書く事は少ないけど。


机に向かってペンを取り、エルムさんへの手紙を書き始める。

前略とか書いたほうが良いのだろうか。作法をしらないから、普通に書いてしまおう。


「えっと……トーラス街に、着いた、よ。凄く綺麗な街……今度遊びに、きてね」


他に何を書こうかな。

転移陣ですぐに会いに行けるし、手紙に書く程の事が正直に言うとない。

今回、手紙という手段を取ったのは、エルムさんが家を空けることが多くなりそうだと言っていた事と、俺が書いてみたかったのが理由だ。


ヌシを倒した時の話と、それから……石工の村の話を書いて。

封筒に宛名とID、それから俺の名前とIDを書いたら、机の上に置いてあった糊でしっかりと封をして、完成だ。


書き終わった手紙を持って、再度受付へと向かう。さっきと同じ受付だ。


「お預かりしますね。こちら、配達料は100CZでございます」

「お願いします。これって、いつ届くの?」

「夜の回収となりますので、明日の朝の配達ですね」


詳しく聞いてみると、午前中に出した手紙は当日の夕方に、午後に出した手紙は翌日の朝に届くそうだ。

郵便局間を魔道具で郵送するそうで、遠い国だとしても配達の時間は変わらないらしい。さすが魔道具。

やっぱりこれもエルムさんが関わった魔道具なのだろうかと考えながら、配達料を支払う。


手紙だと100CZだったけど、荷物とかはやっぱり重さや大きさで値段が変わるのかな。


「それじゃあお願いします」


受付のお姉さんにお辞儀して、郵便局を出る。


さて、次は家だ。アイテムボックスから鞄を取り出して、中から交換した時に貰った封筒を取り出す。

中にある地図を見ながら、街を進んで行く。

階段を降りて、海の方へと歩けば歩く程、俺の袖を掴むシアとレヴの手の力が強くなっているのが分かる。


「どうしたの?」

「……わからない」


レヴが海をじっと見たまま、小さな声でそう言った。

何か海にいるのだろうかと、魔力感知を使って2人の視線の先を探る。


「近場には……魔物、いないみたいだね。

 あ、いや、凄く大きなもやが1つ……ある?」


深い場所にいるからか、薄っすらとしか見えないけれど、これまでに見たことのない大きさのもやが見える。

あまりの大きさに、最初、海の影かと思ったくらいだ。

2人は何がいるか見えているのだろうか。いくら海に住んでいる種族だからって、陸から海の中が見えるってことはないと思うけど。


泳げそうな場所は他になさそうだし、もしかしたら泳げなくなっているのかもしれないと小さく肩を落とす。

とにかく今は家に行こうと足を動かした。


「ここですかね?」

「地図ではここだね。写真も……うん、ここみたい」


封筒から鍵を取り出して、鍵穴に差し込んで回すと、かちゃりという音と共に、鍵が消えてしまった。

鍵は一度しか使えないと言っていたなと思い出しながら、早速扉の中へ入る。


家具のない、がらんとした部屋に、窓から夕陽が差し込んでいた。

郵送で届くという家具は、明日か明後日か……早めに届いてくれたら助かるけど、どうかな。

一番早くて明日の夕方の配達……エルムさんが明日の朝に手紙に気付いてくれたら、だけど。

俺がいない間はジオン達に受け取って貰うように頼んでおこう。


「アイテムボックスの中身置いて行くから、ジオンとリーノで移動してもらえる?」

「えぇ、お任せください」


アイテムを入れている宝箱、魔道具にしていない宝箱を取り出していく。

昨日狩りをした分の戦利品は、どれもカプリコーン街の依頼だと兄ちゃんに聞いたので、まだ売っていない。

ただ、今日の狩りの事を考えるとアイテムボックスに入りきれなくなる事が分かっていたので、お肉以外の角や牙なんかは宝箱に入れておいた。

石工の村には転移陣があることだし、一度カプリコーン街に戻っても良かったけど、狩りをしていたらログアウト時間が迫っていたし、その場しのぎとは言え対処できたので、トーラス街に着いてからで良いかと後回しにした。


宝箱を取り出した後は、前に使っていた刀やこの前作った溶鉱炉、リーノの細工道具が入った箱等、フィールドで使わないアイテムを取り出していく。

その場しのぎで宝箱に入れておいた戦利品達は、一旦アイテムボックスに戻しておいて、後でギルドで依頼を達成してしまおう。


「よし、こんなものかな」

「そういやさー、ベッドねぇけど、今日の夜どうすんだ?

 俺は床でも大丈夫だけど」

「あ……本当だね……。床は……うーん……。

 家具が届くまでは宿に泊まろうか」

「私も床で構いませんが……」

「アタシも大丈夫ー」

「ボクも」

「だめだめ。床で寝るのは疲れが取れないし、体を痛めるからね」


家があるのに宿を取るのは勿体ないという気持ちはわかるけど、それくらいの甲斐性はあるつもりだ。

というか、皆のお陰でお金には困っていない。


「今日は宿で、明日以降も家具が届くまでは宿ね。

 あ、でも、日中は誰か1人で良いから、留守番して欲しいな。

 荷物が届くかもしれないから」

「そっか、ライ明日の昼から明々後日の朝までいないんだっけ」

「アタシここにいるよー」

「ボクたち、ジオンくんとリーノくんの道具作る」

「いいね! そっか。作業場があるからみんな生産できる……あ、炉ないね。

 リーノも細工で炉使ってたよね?」

「おう。ジオンの炉と共有で良いけど」

「ううん。2つ作ろう。明日、帰るまでに用意できるかなぁ」


石工の村の窯元ですぐに手に入れば良いけど。


そう言えば、住居者の登録をする必要があるんだったかな。

魔道具があると言っていたなと玄関を眺めてみれば、扉の横の壁に魔道具を見つけることが出来た。


登録についての説明書を眺めながら、魔道具を操作していく。

登録するのは契約者しか出来ず、契約者である俺を登録する必要はないらしい。

早速、ジオンとリーノ、それからシアとレヴを登録しようと思ったが、既に登録されているようだ。

契約者である俺がテイムした仲間なのだから、それもそうかと納得して、ウィンドウを閉じた。


「ライ! 2階行ってみようぜ!」

「いいね! 行こう行こう!」


間取り図の通り、2階は2部屋で、どちらの部屋からもバルコニーへ出る事が出来る造りだった。

家具がなくがらんとしている部屋を抜けて、早速バルコニーへと出てみれば、心地よい潮風に包まれる。


「良い眺めだね~!」

「そうですね。……おや? 海辺が騒がしいですね」

「あれ? 本当だ。何かあるのかな」


海を見て、慌てた様子で話している、たくさんの人達が見える。

様子を伺うに、世間話ではなさそうだ。


「うーん……どうしたんだろう?」

「問題が発生してんならギルドに報告が行くだろうけど」

「あぁ、それじゃ、ギルド行こうか。

 戦利品でアイテムボックスが結構いっぱいだし」


家から出て、ギルドへと向かう。

ギルドへと向かう道中でも、みんな慌てた様子で海を見ていて、何かが起きているんだろうとは思うけど、俺が海を見ても何か起きているようには見えなかった。

強いていうなら、波が高いかな? 海の事はわからない。

シアとレヴならわかるだろうかと聞いてみたが、2人は首を横に振るだけだった。


辿り着いたギルドの中も慌ただしかった。ギルドの職員さんがばたばたと走り回っている。


「うぅん……話しかけられない雰囲気だよね」

「そうですね……」


どうしたものかと様子を伺っていたら、書類を読んでいた受付のお姉さんが、俺達に気付いて『どうぞ』と笑顔を向けてくれた。


「あのー……何かあったんですか?」

「海が荒れておりまして……」

「波が高いかなってことはわかったんだけど……いつもはそうでもないの?」

「そうですね。この辺りでは海が荒れることがほぼないんですよ。

 荒れる時も原因があるのですが……現在調査中ですので、お話することが出来ません」

「そっか。あ、依頼を達成したいんだけど、今、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


トーラス街で受注できる依頼の戦利品を渡し、依頼を達成して残りを売れば、25,606CZになった。

海には行けそうにないし、カプリコーン街に行って、他の戦利品の依頼も達成してしまおう。


お姉さんにお礼を告げて、転移陣の受付へ向かう。

5人分、5,000CZを支払い、転移陣でカプリコーン街へ。


エルムさんの家にも行ってみようかと思ったけど、せっかく手紙を書いたのだからやめておこう。

ギルドに向かい、依頼を達成して残りを売却すると、全部でなんと142,167CZにもなった。

アイテムボックスに余裕もできたし、満足だ。


「今日、どこの宿に泊まろうか?」

「明日の予定によりますかね」

「明日は、炉を頼みに石工の村の窯元に行こうと思ってるけど」

「でしたら、石工の村に宿泊しましょう」

「うん、そうしよう。石工の村の宿は夕食がないから、カプリコーン街で食べて行こうか。

 それか、カヴォロの露店でもいいけど、どっちにする?」

「あ! 俺の盾!」

「そうだそうだ。盾探さなきゃ」


ここ数日間で、カプリコーン街は一気にプレイヤーが増えたようだ。

辺りを見渡してみても、たくさんのプレイヤーが街にいるのが分かる。

ただ、窯についてカヴォロとやり取りした話の中で、露店広場はアリーズ街のほうが賑わっていると言っていた。

数日したら移動を始めるだろうとも言っていたけれど。


「それじゃあ、アリーズ街の露店広場に行こう!」


転移陣でひとっ飛びだ。

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