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day43 教会について

「ふぅむ……効果があるのはぎりぎりワイバーンまでだね」


今日は魔除けの短剣について尋ねるために、一昨日は留守だったエルムさん宅に再度訪れた。

変わった装備の話や、イベントの賞品について等の話をした後、魔除けの短剣について話す。

ちなみに、ジオンは装備の話をした後に書斎へと向かって行った。


「岩でも簡単に刺さったんだけど、どのシンボルの効果かな?」

「あぁ……柵を参考にしたと言っていたな。刺すことを前提にした魔法陣だから……この辺りだな」


本のページに描かれたシンボルと説明を見ながら、エルムさんの言葉を聞く。

この先、刺す事を前提にするような魔法陣を描くことがあるのかはわからないけれど、何事も覚えておいて損はないはずだ。


「それにしても……鉱石を取るなら岩山脈でなくとも良いだろうに」

「他にあるの?」

「一番近いのは岩山脈だがね。トーラス街へ続くもう1つの道中でも採れる場所がある」

「え!? あー……言われてみれば、ギルドのお姉さんも一番近いのはって言ってたかも」

「何事もなく帰ってこれて良かったな。

 まぁ、岩山脈のトーラス街側では、更に上の品質の鉱石が採れるから、鉱石を求めていればどの道行くことになるがね」

「そうなんだ? あそこでレベル上げ出来たら良いんだけど、今は無理だなぁ」


ワイバーンからは魔石が出るし、是非ともたくさん狩りたいところだ。


「目当ての鉱石は採れたのかね?」

「うん! リーノがいるからね!」

「あぁ……リーノはノッカーだったな。確か種族特性で鉱石が見える者がいるらしいな」

「そうだぜ! 見えるっつーか、わかるっつーか……まぁ、どっちでも似たようなものか?」

「羨ましい限りだよ。エルフの種族特性は、ほとんどが魔力に関するものばかりだからね」

「種族かぁ……そう言えば、種族スキルってどういうものなの?

 強い種族だとその分強い種族特性と種族スキルがあるとは聞いたんだけど」

「その種族が得意とするスキル、それから、その種族だけが使えるスキルと言われているな。

 君の熔解と融合は、恐らく鬼神にしか使うことが出来ないスキルだろうね」


種族スキルは種族特性と同じく、同じ種族でも一定ではないと言っていたし、そもそも鬼神がほとんどいないらしいから、情報が少な過ぎてエルムさんも断定できないようだ。

魔操は兄ちゃんも使えるし、鬼神だけのスキルではないということだろう。


「俺の種族スキルはレベルがないけど、ジオンとリーノにはレベルがあるのはどういう違い?」

「全てがそうというわけではないが、レベルのあるスキルは他の種族でも取得することが出来るスキルが多いな」

「なるほど。リーノの種族スキルの採掘は誰でも取得はできるしね。

 レベルは違うけど……あ、☆ってなに?」

「星? なんだいそれは」

「あー……なんだろう?」


エルムさんの返事に、言葉が違うのかと思考を巡らせる。

SPが宝珠と言われていたり、テイムモンスターが従魔と呼ばれていたりと、言葉の差があることは知っていたけれど、☆に代わる言葉とは一体なんだろうか。単なる記号だ。

カンストだと予想していたけれど、そもそもカンストという言葉も通じるのかわからない。


「あ、もしかして俺のスキルレベルのことか? 俺の採掘は『尤』だぜ」

「尤? なるほどね」

「尤のことか。まぁ……スキルの極致と似たようなものさ」


極致……つまり、カンストってことだろう。

似たようなものと言うことは、カンストとは違うのだろうか。


「極致と尤は違うの?」

「ほぼ同じだがね。扱える素材や道具のランク、品質なんかは同じさ。

 ただ、尤は……種族スキルで尤を持つ者は、生まれながらに尤だ。

 あくまで、種族スキルに限ってだが」

「ノッカーで種族スキルが採掘なら、全員が尤?」

「全員が尤を持っているわけではないな。寧ろほとんどいないと言っていいだろう。

 その者の素質が必要……従魔のランクと似たようなものさ」


テイムモンスターのランクは同じ種族でも違うと妖精ちゃんが言っていたのを思い出す。

種族自体の強さや希少さ等の差もあるけど、基本的には単純に強さで違うとも言っていた。

強さと聞いてステータスの数値のことだと思っていたけど、スキルだって強さの1つなのは確かだ。


「そっかぁ。リーノって凄いんだね」

「おう! まぁ、他のノッカーの事、ほとんど知らないからわかんねぇけどな!」

「そうなんだ? ノッカーの集落とかってないの?」

「弐ノ国にはねぇけど、あるぜ。俺もそこ出身だし。

 でも俺、友達いないからなー」

「あー……」


俺もいないから大丈夫だと言おうとして、口を閉じる。

何も大丈夫ではないし、何の慰めにもならない。

話を変えてしまおうと思考を巡らす。


「種族スキルじゃない、普通のスキルの尤は生まれながらではないの?」

「……そうだな。まぁ……簡潔に説明をするなら、尤を持つ者を師匠に持った者だけが引き継げる可能性がある」

「可能性? 素質が必要?」

「素質もあるが……」


どんなことでも答えてくれるエルムさんが、言いにくそうに口籠る姿に、これ以上は聞かないほうが良いだろうかと考える。

ジオンとリーノに聞いたら答えてくれるだろうか。でも、2人も話したくないかもしれない。

気になるところではあるけれど、尤……LV☆がカンストと同等だとわかっただけで充分だ。


「ところでエルムさん。岩山脈のヌシって……ヌシの助数詞? って何?」

「ヌシは柱だな。1柱、2柱」

「なるほど。岩山脈のヌシって3柱いるの?」

「なに? 3柱? そんなわけないだろう」

「そうなの? 採掘してる時に凄く強そうなもやが3つあったから、ヌシだと思ったんだけど」


大きな禍々しいもやは、よくよく見ると2つのもやが重なっているようだった。

それとは別に、その2つのもやより半分以下ではあるが、それでもワイバーンと比べると倍以上大きなもやがもう1つ、違う場所に見えたことを話す。


「もや……あぁ、君の魔力感知か。大きさで大体の強さが分かるんだったか。

 岩山脈にはワイバーンとヌシが1柱しかいないはずだが……いや、しかし……」


眉間に皺を寄せ、考えを巡らせるエルムさんが、次の言葉を紡ぐのを大人しく待つ。


「……教会の話は知っているか?」

「訪れたら帰らぬ人になるってやつ?」

「そう、それだ。何か関係があるのかもしれない」

「関係……エルムさんは教会に行ったことある?」

「訪れたことがあるなら、私は今ここにいない……と、言いたいところだが、実はある」

「あるの?」

「その話が出る前だがね。その頃も寂れてしまっていたから、訪れる人はほとんどいなかったが」

「何かあった?」

「特に何もないな。単なる寂れた教会だった。

 しかし、今でこそ単なる噂だと信じている者は少ないがね……あれは実際に起きた事だ」

「教会に行った人が帰ってこなくなったの?」

「あぁ、そうだ。私が訪れた時から十数年は経っていたと思うがね。

 教会に行くと言って出かけた者が帰ってこなくなり、それを探しに出かけた者たちも全員、帰ってこなくなってしまった」


エルムさんの言葉にごくりと唾を飲みこむ。

得体の知れない恐怖を感じながら、エルムさんは一体いくつなんだろうかという考えが頭を過ったが、女性の年齢を気にするのは失礼ではないかとすぐに掻き消した。


「君が見たという2つのもやが教会にあるのかはわからないがね。見えた方角はわかるか?」

「んー……麓から少し登った、ワイバーンが出てくる場所から見て、どっちだったかってだけならわかるけど」

「それで良い。ワイバーンが出てくる場所までは一本道だからな」

「右側に見えたよ。ちなみに、1つのもやは左側。

 だから、岩山脈には更に道があって、それぞれの道にヌシがいるのかなって思ったんだけど」

「右側……こちら側から登った時は……ふむ。教会の方角ではあるな。

 教会に関係があるのかはわからないが、何かがいるのは確かだろう。

 心当たりはないのかい? これまでに似たもやを見たことは?」

「んー……心当たりかぁ……魔力感知をまともに使いだしたのは狩猟祭からだからなぁ」


とは言え、集中し続けるのは疲れるので、岩山脈でも常に見続けていたわけではない。

狩猟祭で似たもやを見た覚えはない。そもそも、これまでに見たもやにあそこまでの禍々しさは……。


「あ。心当たり、あるかも。

 あの時は、魔力感知の方法がよくわかってなかったから、薄っすらとしか見えなかったけど……鉱山で見たもやに似てる気がする」

「鉱山? アリーズ街の近くのかい?」


頷いて、リーノにちらりと視線を向ければ、きょとんとした顔をした後、得心がいったような顔をして口を開いた。


「あ、俺か」

「リーノ? どういうことかね?」

「俺、ライの従魔になる前は堕ちてたんだよ」


知られたくないことかと思っていたけれど、何も気にしていない様子でそれを紡いだリーノに少し驚く。

とは言え、信頼している相手ならともかく、この先も俺から誰かに言うつもりはない。


「何!? てっきり召喚石かと思っていたが……いや、そもそも堕ちた魔物ってテイムできるのか!?」

「堕ちた魔物というか元亜人……そう言えば、妖精って亜人なの?」

「人間以外の人型の種族を大まかに亜人と呼ぶんだ。まぁ、基本的には種族で呼ぶがね。

 堕ちてしまった亜人は、種族を判別することは不可能だからね」


そもそも、鑑定できていなかったら元亜人だということも分からない姿だったけれど。


「そんなことより! 堕ちた元亜人のもやと似ていると?

 つまり、教会……または、その周辺に堕ちた魔物がいるということかね?」

「多分……わからないけど。これまでに見たもやの中では似てるかな? 禍々しい感じが」

「ふぅむ……神隠しだなんて話もあったが、堕ちた魔物が原因だというほうが余程現実的だ。

 堕ちた魔物だなんて、余程の猛者でも敵う相手ではないからな。会った瞬間、即死さ」

「あー……俺も意識が薄っすらとでも戻ってなけりゃ、同じ事になってたかもしれねぇな」


そうなってたとしたら……弐ノ国には神隠しが起きる場所が2つあるなんてことになってたのだろうか。弐ノ国怖い。

そもそも、リーノはどうして弐ノ国の鉱山にいたのだろう。


「んー……堕ちた元亜人がいるかもしれないとなると、行きたいな」

「話を聞いていたかね? 死ぬぞ。いや、君達は瀕死になると街に戻されるんだったか。

 しかし、色々と罰則があると聞いたが?」

「所持金が半分になるのと、アイテムがいくつかなくなっちゃうね。

 お金は銀行に預けてたら大丈夫だし、アイテムもどこかに置いておいたら大丈夫みたい。

 あと、ステータスも2時間半分になるよ」

「死なない代償と思えば安いものだがね……だからと言って、死地に赴く必要はないだろう」


ちなみに兄ちゃんから聞いた話によると、収納アイテムに入れているアイテムがなくなることはないそうだ。まぁ、収納アイテムごと全てなくなることは極稀にあるらしいけれど。

それから、装備している武器や防具もなくならないらしい。

テイムモンスターが持っているアイテムやお金……例えばリーノのつるはしなんかは、正式オープン後の情報はないけどβの頃は大丈夫だったとのことだ。実際、前に死に戻った時にジオンのお金は減っていなかったし、恐らく大丈夫だろう。


「俺、今のところ堕ちた元亜人しかテイムできないんだよね。

 他に人型の……魔物がいるなら出来るんだろうけど」

「……君、百鬼夜行持ちか。聞いたことはあったが、本当にいるんだな」


先日の打ち上げでみんなに鬼神であることは話したけれど、STRが低いことと、種族特性で黒炎弾を最初から使えるようになっていることを話しただけで、他は話していない。

詳しく話すとなると、付与武器の作り方を話すことと同じなので黙っていた。

あそこにいたみんなに知られたからと言って困ることは1つもないと思うけれど。


「人型しか従魔にできないということかね?」

「うん。それから、ランクが4以上でユニーク……突然変異種? じゃなきゃテイムできないよ」

「それは……よく2人も従魔に出来たものだな……」

「運が良かったよね」

「そうなんだろうが……良すぎではないかね……」


エルムさんはそう言って、小さく溜息を吐いた。


「それで、堕ちた元亜人だったとして、どうするつもりなんだい?

 ランク4以上で突然変異種でなければテイムできないのだろう?」

「条件を満たしていなければテイムが使えないから、すぐに帰ってくるよ」

「満たしていたとして……そう簡単にテイムできる相手ではないだろう?」

「相手が従魔になることを了承している場合はすぐにテイムできるよ」

「意思の疎通ができるのかね?」

「んー……リーノには出来たけど……まぁ、出来なくても成功するまでテイムし続けたら良いだけだよ」 

「つまり、君は何度も瀕死で街に戻されながらテイムし続けると?」

「うん。成功するまでテイムし続ければ、いつか成功するよね」


俺の言葉に、エルムさんは全身の空気が全てなくなるのではないかと思う程の大きな溜息を吐いた。


「君は頑固だから、何を言っても無駄だろうな。

 はぁ……荷物はうちに置いていくと良い」

「それは助かるけど……でも、宿を取って置いておけば大丈夫だよ」

「いや、君に渡したい物があるんだ。それをここ以外で使ってもらうわけにはいかなくてね」

「うん? うん、わかった。それじゃあ、置かせてもらうね」

「あぁ、その辺に適当に置いてくれて良い。その間に取ってくるから待っていてくれ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去の話を読みながら楽しみにのんびり待っています。 感想への返信ありがとうございます。 不謹慎ですが、今の状況…作品が出るだけでほっとします。 体調等気をつけて下さい
[一言] 仲間が増えそうだけど、一筋縄ではいかなさそうですね。 何が来るか楽しみです。
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