day41 新しい防具
「うぅ~ん……」
宿屋の部屋のベッドの上で、ウィンドウを眺めながら、呻き声を零す。
そんな俺の様子に、ジオンとリーノが視線を寄越したことに気付いて顔を上げる。
「防具以外、何と交換しよう……」
「あぁ……私達も一緒に見れたら良かったんですけど……」
「俺達、うぃんどう? 見れないもんなぁー!」
「ねー! ジオンのポイントだってあるのにさ~。
……あ、待って待って。カタログ化ってのがある」
賞品一覧に小さく表示されていた『カタログ化』アイコンに触れると、ポンっと冊子が現れた。
交換できるアイテムの数が数なので結構分厚いカタログだ。
パラパラと中を見てみれば、写真や説明なんかも載っていて、通販を利用する時のカタログによく似ていると感じる。
「これで3人で見れるね!」
「お~! へぇ、色々あるなぁ」
部屋に設置されている丸机にカタログを置いて、椅子に座って3人で覗き込む。
戦闘祭総合2位のポイントが4,000、そして狩猟祭優勝が5,000。合計9,000ポイントをゲットすることが出来た。
まさかこんなにポイントが貰えるとは想像もしていなかったので、使い道を全く考えていなかった。
交換期間はゲーム内で1週間なので、あまりのんびりもしていられない。
「防具はどれにするんですか?」
「いまいちよくわからなかったから……これ、『防具一式オーダーメイド』ってのはどうかなって。
他の単体の防具に比べるとポイントが高くなるみたいだけど。
あ、2人はどれが良い? カタログで見れるなら自分で選びたいよね」
「俺もよくわかんねぇからライと一緒ので!」
「私も特にこだわりがあるわけではないので、そちらでお願いします」
「うん、わかった。それじゃあ、これを3つね」
『防具一式オーダーメイド』は1人分で600ポイントだ。
他の防具……例えば一番ポイントが高そうな外套の装備でも、多くて100ポイント程で交換できるので、外套、上半身、下半身、足の一式で600ポイントは割高だ。さすがオーダーメイド。
それにしても、イベントのアイテム交換でオーダーメイドとはどういうことなのだろうか。
『防具一式オーダーメイド』を選択して、交換数に3と入力してから交換する。
その後表示されたメッセージに首を傾げる。
『案内人を招待しますか?』
案内人……防具を用意してくれる人だろうか。オーダーメイドだし、職人さんかもしれない。
宿屋の部屋なら迷惑にもならないだろうと『はい』のアイコンに触れると、ポンっという音が聞こえてきた。
「お久しぶりです! ライ様!」
「うん?」
「ここですよ~上です!」
言われるままに上を向けば、そこには人差し指サイズの小さな妖精が、ぱたぱたと揺れる透き通った羽から光る粉を振り撒きながら……あれ?
「妖精ちゃん?」
「はい! 妖精ちゃんです!
ジオン様とお話するのは初めてですね。それからリーノ様も初めまして!」
初めてこの世界に来た日、一番最初に会った妖精ちゃんと同じ姿をしている。
反応を見るに、あの日と同じ妖精ちゃんのようだ。また会えるなんて思ってもいなかった。
「この度は『防具一式オーダーメイド』のご注文をありがとうございます!
現在、お三方のステータスを確認しております。何かご要望はございますか?」
「うーん……あ、せっかくだから、着物が良いな」
「ふむふむ。着物ですね! 色等の希望はございますか?」
「いやぁ……特にはないかなぁ。お任せってできる?」
「出来ますよ~! それでは、ライ様は着物でお任せですね!
ジオン様はいかがいたしますか?」
「袴が動き易いので、袴が良いですね。他は私もお任せでお願いします」
今のジオンの装備は、白の上衣に、濃い灰色の袴というシンプルなもので、リーノも白のシャツに茶色のベスト、それから、ベージュのズボンといったシンプルな服を着ている。
ちなみに俺も含めて全員、外套は装備していない。
「んー……俺もライとジオンみてぇな服にするか?
……いやぁ、慣れてねぇと動き難そうだなぁ。防御力が高けりゃなんでもいいや」
「鎧にしますか? それとも、服にしますか?」
「鎧は……重そうだな。服でよろしく! 後は全部お任せで!」
「はい! それでは、これより防具の作成を開始します」
そう言った妖精ちゃんはにこにこと笑って、ぱちんと手を叩いた。
お任せカスタマイズの性能の良さを考えるに、防具の見た目は期待して良いだろう。
「そうそう、ライ様。狩猟祭では優勝おめでとうございます!」
「あれ? 知ってるの?」
「何を隠そう、ライ様とレン様の姿を撮影していたのはこの私、妖精ちゃんです!」
「へぇ、そうだったんだ?」
キャラクター作成時のみのNPCだと思っていたけれど、これはこの先も会う機会があるかもしれない。
とは言え、狩猟祭中に一切姿が確認できなかったこと、それから魔力感知で見えなかったことを考えるに、近くにいても気付けなさそうだけれど。
「デメリットを物ともせず戦うお二人の姿に、感動しました!
お二人とも凄くお強いのですね!」
「ありがとう。兄ちゃんはともかく、俺はあの時召喚が成功して本当に良かったよ」
「賞品の召喚石とは交換しないんですか?」
「ほぼ失敗だと思うと、なかなか手が出なくて」
「あぁ~そうですねぇ……☆4以上の人型ユニーク……☆4種族が出るよりも確率が低いですからねぇ」
「そうなの!? 俺、よく成功したね!?」
「あ! あぁああ!! 今のは、内緒です!!!!」
「うん、わかったよ」
妖精ちゃんは相変わらずのようだ。
「えー……はい! 防具が完成しました!
早速装備の変更をしますか?」
ジオンとリーノと顔を見合わせた後、妖精ちゃんに顔を向けて頷く。
俺達の反応を見た妖精ちゃんがにんまりと笑って、ぱちんと手を叩いたその瞬間、俺達の装備がエフェクトに包まれた。
「おや……私達にも適用されるんですね」
「すげぇなぁ。ライ達と同じ装備の仕方だな!」
「そっか。2人は防具の変更の時は着替えなきゃいけないんだっけ」
俺達プレイヤーも装備ウィンドウから変更するだけでなく、実際に着替えて変更することができるらしい。
これまで防具を買い替えたことがなかったので、試したことはないけれど。
狩りの予定がない日は性能関係なしに色んな服を着て過ごすのも楽しそうだ。
「変更完了です! いかがでしょうっ?」
妖精ちゃんの言葉に、体を包む防具へ視線を向ける。
これまでの着物と同様の、角と似た色合いの濃い紅色の着物だけど、裾から膝元程度まで黒のグラデーションがかかっている。帯の色は黒だ。
そして、腰程度までの長さの肩掛けの外套……これはポンチョと言うのだろうか、それともケープだろうか。
肩から裾にかけて緑味のある藍色が、濃い色から明るい色へと変化する外套には、薄っすらと市松模様の柄が入っている。
ボタン等で前を止めるわけではないようで、朱色の飾り紐が付いた紐が、脱げてしまわないように前を繋いでいる。
「わー! なんだか一気にお洒落になった気がするよ!」
「一気に豪華になったなー! 見た目で威圧できてるぜ」
「威圧というか……ある程度の派手さがないと、印象に残りにくいのかもしれませんね。
とてもお似合いですよ、ライさん」
確かに、前はシンプル過ぎて貧相だったかもしれない。
俺だけではなく、ジオンとリーノもシンプルな色合いだったし、装備が変わる前と後では、並んだ姿もがらりと印象が変わっているはずだ。
「ジオンかっこいい!
角の色も藍色だから、青系の色合いがよく似合うね」
「やっぱ色が変わると全然違うよなぁ。
上に着てるやつ、結構長いけど、邪魔にならねぇの?」
「腕の上げ下げに問題はなさそうですし、大丈夫だと思いますよ」
袴なのは変わらないけれど、上衣の中にこれまでと違い、詰襟の白のシャツを着ている。
上衣は波のような柄が入ったジオンの角の色と似た紺瑠璃色だ。
袴は黒に近い灰色で、膝下辺りから裾にかけて明るい灰色へと変化している。
淡い青色から淡い水色へ色合いが変化する外套は、俺と同じように前が開いていて、白色の飾り紐が付いた紐が左右を繋いでいるものだけど、膝辺りまでの長さの布を肩に少し掛けているだけのそれは、ケープと言うよりはマントと言ったほうが近い気がする。
「洋装のことはよくわかりませんが、似合ってますよ。
皮が多く使われているんですね」
「うん! リーノもかっこいい!
コルセットっていうんだっけ? きつくないの?」
「単なる飾りみたいだなーきつくないぜ」
白のシャツに、濃いカーキ色のベスト。腹部から腰辺りに、赤みがかった茶色の皮のコルセットが巻かれている。
その上から焦げ茶色の裾の短い皮のジャケットを羽織っていて、袖はジオンが捲ったようだ。
ふくらはぎの下までの長さのズボンは茶色のチェック柄。リーノの髪色よりも濃いオレンジ色の靴がよく似合っている。
斜めに掛かる2つのベルトに付けられた、つるはしのポーチと鞄も、コーディネイトの一部として溶け込んでいる。
「良くお似合いですよ、皆さん!
というより、皆さんずっと初期装備だったことにびっくりです」
「あはは。ジオンは滅多に攻撃を受けないし、リーノも防御力が高いからね。
後回しになっちゃってたんだよ」
「前の防具はどう致しますか? こちらで引き取ることもできますよ。
売却しても二束三文にしかなりませんので、面倒でしたら是非」
「あー……どうしようかな」
俺の着物は黒のグラデーションがないとは言え、色合いが同じなので、着替え用に持っておいても変化はない。
ジオンとリーノも特に必要ではないようだ。
「それじゃあ、引き取ってもらっていいかな?」
「はい! それでは引き取りますね~!」
「ありがとう」
「それでは名残惜しいですが、これで案内は終了です。
またお会いすることができますように!」
そう言って、ポンっという音と共に、妖精ちゃんはいなくなった。
また会える日を楽しみにしておこう。
「服が変わるとなんだかわくわくするね。後で散歩しに行こう」
「そりゃいいな! って、散歩じゃなくて狩りにしようぜ。
防御力だって変わってるからな!」
「あはは、そうだね」
装備画面を開いて防具の詳細を確認してみれば、それぞれの防具の防御力が倍以上高くなっている。
後回しにしていた事を少し反省する。
オーダーメイドの防具は全て、装備条件はLVはなくDEFとMRのみで、『祭囃子』という名前が付いている。
イベント限定の装備だからだろうか。付与効果やセット効果なんかは特にないみたいだ。
「残るポイントは……7,200ポイントだね。 他はどうしようか?」
「家はどうですか?」
「もっと大きな家が良いなって思ってるんだけど、どうしようかなぁ……」
「まぁ、ここに載ってる家は大きくはねぇなぁ」
「物件例なんだろうけどね。でも、多分このくらいの大きさなんだと思う」
「店舗は?」
「ありと言えばありだけど、どうせなら家の近くが良いかなって」
「そうですね。その方が便利だと思います」
ざっと見た感じで1ポイントの値段を予想してみるに、住宅と店舗はかなり安くで交換できるようだ。
住宅も店舗も、恐らく目玉商品……目玉賞品なのだろう。
物欲がないというわけではないけれど、希望がはっきりしているせいでなかなか決まらない。
いっそのこと召喚石に交換してみようか。でも、失敗すると一軒家が二軒交換できるポイントが一気に消え去る。
召喚石も恐らく目玉賞品の1つではあるのだろうけど。
「そう言えば、兄ちゃん達は空さんの作業場代わりに納屋を購入してるんだって。
クランハウスを決めるまでの繋ぎだって言ってたけど。俺達もそうしてみる?」
「良いですね。作業場だと利用時間に制限がありますし」
「繋ぎなー……目的の家買った後は、別荘にしようぜ!」
「あ、いいね。あちこちに家があるのも便利だよね。
それじゃあ、納屋じゃなくて一軒家にしようか」
載っている写真では小さな2階建ての一軒家だ。物件の場所によって変わるようだし、これよりも小さい可能性はある。
作業場の他に俺達3人分のベッドが入れば、宿を取る必要がなくなるので尚良いのだけれど。
「よし、交換しちゃおう!」




