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day38 狩猟祭⑤

ステージへと続く廊下を、イベントをお手伝いしているギルド職員だという女性に案内して貰いながら歩く。

他のパーティーの人達を見かけないところを見ると、順に案内されているのだろう。


順位についてはもちろんだけど、大勢の観客が見ているステージに上がることへの緊張で、どきどきと心臓が鳴っている。


「ジオン達見えるかな?」

「んー……それはさすがに難しいんじゃないかな」

「そうだよねぇ」


ジオン達の顔が見えたら緊張が解れそうだと思ったけど、やっぱり無理かと肩を落とす。


「この先がフィールドです。

 フィールドの中心にあるステージまでは柵がしてありますので、その道を進めば問題なく辿り着けますよ。

 何かご質問はありますか?」

「ううん、大丈夫。案内してくれてありがとう」


お辞儀をして、来た道を戻っていく女性の背中を見送り、前を向く。


「あー緊張する」

「はは、笑顔笑顔」

「ん、笑顔だね」


深呼吸をして口角を上げる。緊張でちょっと固いかもしれないけど、精一杯だ。


兄ちゃんと顔を見合わせて、フィールドへ足を踏み入れると、大きな歓声に迎えられた。

フィールドを照らすライトの眩しさに瞬きをしながら、ステージへの道を歩く。


歓声の中から、俺と兄ちゃんの名前を呼ぶ声がたくさん聞こえてくる。

兄ちゃんを見てみれば、その声に手を振って応えていて、さすがだなと感心する。

俺も兄ちゃんに倣ってみようかと思ったけれど、手を振って応える余裕と度胸は俺にはないので、顔を向ける程度しか出来なかった。


ステージの上には、たくさんのプレイヤーが並んでおり、その中にロゼさんと朝陽さん、空さんを見つけることができた。

知っている顔が見れたことで、少しだけ緊張が和らぐ。


「兄ちゃん、凄い歓声だね。まるで有名プレイヤーになったみたいだよ」

「んー……まぁ、上位に入ったってことは、有名プレイヤーになったってことなんじゃない?」

「なるほど……そういうことになるのか」


兄ちゃんの言葉にますます緊張しそうになるけど、これ以上緊張したら倒れそうだと、深呼吸してなんとか堪えた。

ステージに上がり、他のパーティーの人達の横に詰めて並ぶ。

並び具合から見て、どうやら俺達は最後のほうだったみたいだと分かる。


次に登場するパーティーへぼんやりと視線を向けていると、小さな声で後ろから声を掛けられた。


「ねぇ、弟君。見られて困ることでもあるの?」


振り返ると、そこにいたのは朝陽さんが戦闘祭で負けた相手、そして、刀を見せてと言っていたプレイヤーがいた。

こぞって嫌味を言ってくるから全員一纏めにしていたけど、この人は俺の刀が付与武器なのかどうか、製作者を知っているか、そして、刀を見せてと言っていただけだったような気がする。

まぁ、だからと言って、嫌な気持ちはちっとも晴れないけれど。


「……ないよ。何がそんなに気になるの?」

「考えてることがあるんだよねぇ。

 該当する人……まー、弟君以外有り得ないかなぁって」

「何の話?」

「弟君さぁ、僕のクラン入らない?」

「へ? クラン?」


突然の提案に面食らう。

つかみどころがない人だ。何を考えているのかさっぱりわからない。


「僕、ラセットブラウンのクランマスターなんだよねぇ」

「……小豆が好きなの?」

「クラン名つけたの僕じゃないよ。嫌いじゃないけどさぁ。

 それで、どう? 嫌?」

「嫌だけど……」

「だろうねぇ。まー大体あいつらのせいだよねぇ。止めなかった僕も僕だけど。

 でも、気に入らない相手が何か言われてんのを止める程、お人好しでもないんだよねぇ」

「よくわからないんだけど、気に入らない相手をクランに誘うの?」

「そうだねぇ。でも、あいつらみたいになんでもかんでも妬んでるわけじゃないよ?」


そう言われても、それなら良かった、とは当然ならない。

どう反応するのが正解なのだろう。


「まーいいや。考えてみてよ。じゃあねぇ」


何とも言えない顔で視線を返す俺に、ラセットブラウンのクランマスターはそう言って離れて行った。

なんだったのだろうか。狐につままれたような気分だ。


「気付かれた、かな」

「何が?」

「探してたらしいよ」


そう言って兄ちゃんが向けた視線の先を追って、なるほどと納得する。

俺の刀……つまり、付与武器の製作者、そして、出品者に気付かれたということだろう。


周りに聞かせないような小さな声と、そうだと直接言わなかったところを見るに、吹聴するつもりはなさそうだとは思う。

それを材料に取引を持ち出してくるようでもなかった。


気付かれたところで、困ることはない。

兄ちゃんに言われたからというのもあるけれど、どんな目を向けられるのかが分からなくて、妬みだったりの感情から嫌悪を向けられるのが嫌で、俺も内緒にしていようと思ったのだ。

それを我慢することが出来るなら、困ることはない、と思う。多分。


『これより、狩猟祭の結果発表を行います』


アナウンスの声に考えるのを止めて、前を向く。

今は、考えても仕方がない。入るつもりもないし。また関わることがあれば考えよう。


『第10位、356,800ポイント獲得……』


30位までのパーティーがステージ上にいるものの、発表は受賞ポイントが貰える10位からのようだ。

最後に見た時の俺達のポイントは、356,800ポイントよりも高かったから、10位以上は確定だと胸を撫で下ろす。

隣のパーティーが落胆の声を漏らしているのも、最後に見たポイントから順位を予想してのことだろう。


列の前に出て歓声に応えているパーティーに拍手を送る。

狩猟祭の受賞ポイントは、10位が500ポイントで5位までは100ポイントずつ増える。つまり、5位は1,000ポイントになる。

そして、4位が1,500ポイント、3位が2,000ポイント、2位が3,000ポイント、1位が5,000ポイント。

ちなみに、パーティーメンバーの人数で山分けではなく、個人で貰えるポイントだ。


第5位のパーティーが呼ばれる中、兄ちゃんに視線を向ければ、はらはらしている俺と違い涼しい顔をしている。


『第4位、413,850ポイント獲得……』


俺達の名前は呼ばれない。それは、つまり。


「3位以上に入れたみたいだね」

「うん! やったね、兄ちゃん」


残る受賞パーティーは、俺達と朝陽さん達、そして小豆の人達だろう。

第一関門は朝陽さん達だ。多分、朝陽さん達には勝っている……と、思うんだけど……どうかな。


『第3位、434,500ポイント獲得。朝陽様、空様、ロゼ様パーティー!』


思わず、よし、と小さく声が漏れる。

兄ちゃんも凄く嬉しそうな顔……と言うより、得意気な顔をしている。

テイマーが弱いと朝陽さんに言われたことが、そんなに気に入らなかったのだろうか。


前へ出て手を振る朝陽さん達に拍手を送りながら、どきどきと高鳴る心臓を落ち着かせようと深呼吸をする。

ちらりと小豆の人達に視線を向ければ、先程のクランマスターと目が合った。


俺達かあの人達か。どちらかが優勝だ。あの人達には負けたくない。

一度も追い抜くどころか追いつくこともできなかったけど。でも、追い抜きたくて頑張ったつもりだ。


『第1位と第2位に関しましては、狩猟ポイントから先に発表させて頂きます。

 まずは、第2位。502,050ポイント獲得』


3位のポイントから一気に7万ポイントもの差がついている。

☆10モンスターのポイントの差、だろうか。それとも、☆10だけでなく、ほとんど発生しなかった☆8以上のモンスターの差なのか。


『第1位、502,900ポイント獲得。 第1位と第2位の差は850ポイントとなります』


発表されたポイントに、会場内が騒めく。


その差は僅か850ポイントだ。

どう……だろうか。恐らく彼等は☆10モンスター2体は倒していないと思う。

1位でも2位でも、2体倒してようやく彼等のポイントに追いつけているという事実に愕然とする。


『それでは、第2位の発表です』


負けたくない。あの人達には絶対に負けたくない。

ぎゅっと手を強く握って、結果を待つ。


『第2位……ラセットブラウン様!』


ぱちりぱちりと何度も瞬きを繰り返し、呼吸を忘れていたことに気付いて、息を吐いた。


「……兄ちゃん……勝った……勝てた?」

「うん。あと10分時間が長ければ負けてただろうけどね」


『第1位、ライ様、レン様パーティー!』


空気をびりびりと震わすような大歓声が巻き起こる。


『優勝おめでとうございます! お二人は、ステージの中央までお願いします』


大歓声に包まれながら、ステージの中央へ足を進める。

歩いている途中、小豆の人達が恨みがましい視線を向けているのが視界に入った。

クランマスターだけは笑っていたけれど、その目には気に入らないとはっきりと浮かんでいるのが分かる。


中央に辿り着くと、更に大きな歓声が俺達へ届けられた。


緊張はもちろんしている。でも、それ以上に嬉しさが勝っていて、最初にここに来た時とは違い、会場内を見渡す余裕ができている。

嬉し過ぎて何も考えられないと言ったほうが正しい気もするけれど。


「ライ、来賓席はあっちのほうだよ」


そう言って兄ちゃんが指した方向を見てみるが、やっぱりジオン達の姿は見えない。

でも、きっと喜んでくれているはずだと、その方向へ手を振った。


ジオン、リーノ。俺、勝ったよ。







「ライ達の優勝と朝陽達の3位を祝して……乾杯!!」


自分で言うのは恥ずかしいからとリーノに代わって貰った乾杯の合図と共に、グラスがぶつかる音が鳴る。

今日も、オーナーさんのレストランで打ち上げだ。

最終日には会場の転移陣から各々の街や村に帰ると言っていたみんなだったけれど、優勝となると打ち上げをしないわけにはいかないと、集まってくれた。


この世界の人達は、ギルドの転移陣からどこの街のギルドにも移動することができるそうだ。

ただ、俺達の使用料よりも値段が高く、遠い場所であればある程値段は上がる。俺達の世界の飛行機のようなものみたいだ。

鉱山の村の鍛冶場のおじさん……アイゼンさんと、牧場の村のクリントさん家族は、街から村までは馬車で移動するとのことだ。

お金や時間が掛かることが申し訳なくて、打ち上げは大丈夫だと言ったのだけど、みんなに押し切られる形で好意に甘えることとなった。


「優勝おめでとう、ライ」

「いやー驚く程強かったなぁ」

「ありがとう、アルダガさん、アイゼンさん」

「刀が強いのは知ってたが、あそこまで強いとはなぁ」

「へぇ。お前は見たことあるんだな。ちなみに、何レベルの刀使ってんだ?」

「25だよ。アイゼンさんの鍛冶場の作業場で作った刀」

「そんじゃ、この先はうちの鍛冶場じゃ無理だなぁ。

 ま、いつでも遊びにこいよ。転移陣がないから、ちと面倒だろうが」

「うん! 遊びに行くよ!」


とは言え、行くのにアリーズ街から歩かなければいけないことが難点なのは確かだ。

アイゼンさんのように馬車で移動しても良いかもしれない。時間は掛かるけど、旅行気分が味わえるし。


「応援してた皆がこぞって入賞するなんてすごいよなぁ。

 おめでとう、ライ」

「クリントさん、ありがとう」

「誘ってくれてありがとうな。一緒に見れて楽しかったぜ」

「こちらこそ、凄く楽しかったよ。ありがとう」

「また遊びに来いよ! カヴォロも一緒にな!」

「カヴォロ君の事ばかりなんだから。いくらカヴォロ君の料理が美味しいからって、失礼しちゃうわ。

 ライ君、いつでも遊びに来て良いからね」

「うん、また動物達に触らせてね」


辺りを見渡せば、目が合ったエルムさんに手招きをされる。

クリントさん家族に再度お礼を告げて、エルムさんとオーナーさんの元へと向かう。


「お疲れ様。優勝おめでとう。弟子の活躍が見れて嬉しいよ」

「へへ、良い所を見せられて良かったよ」

「おめでとう。驚かせてもらった」

「オーナーさん、ありがとう。それから、3日続けて打ち上げで貸し切っちゃってごめんね」

「気にしなくて良い。カヴォロと料理出来て有難いくらいだ」

「そっか。それなら良かった」


オーナーさんの言葉に兄ちゃんと話しているカヴォロへ視線を向けると、俺の視線に気付いたカヴォロが兄ちゃんと共にこちらへと歩いてくる。

そんな2人を見たエルムさんとオーナーさんは気を使わせてしまったのか、離れたカウンターへと移動して2人で何かを話し始めた。


「おめでとう。……途中、何か言われていたようだが、大丈夫だったか?」

「あー……うん、大丈夫。あ、でも、俺達が付与装備作ってるのがばれちゃったみたい。

 クランマスターの人にだけみたいだったけど」

「それは……大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。クランに入らないかって言われたけど……それ以外は特に何もなかったよ」

「なら良いが。何かあったら通報しろよ」

「えぇ……通報する程の出来事って早々ないと思うけどなぁ」

「はは、彼は通報されるようなことは言わないと思うよ。他のクラメンはわからないけ、ど……おっと」


言葉の途中で、兄ちゃんの後ろから朝陽さんが体当たりをするように飛びついた。


「おめでとさん! やりやがったな!」

「急に飛びついてくるなって。STR低いから、結構きついんだよ」

「あはは、朝陽さんもおめでとう」


俺の言葉ににかりと笑った朝陽さんの手が、俺の頭をくしゃりと撫ぜる。


「ありがとよ! それにしても、レンも意地が悪いよなぁ。

 ライが強いだなんて1つも言ってくれねぇんだもん」

「はは、弱いとも言ってないけどね」

「へいへい。お前はそんな奴だよ」

「ライ君、凄かったらしいじゃない?

 動画残らないらしいし、参加者は見れなくて凄く残念」

「俺も、ロゼさんと空さんが戦う姿見たかったな」

「凄い魔法を使ってたって聞いた」

「あぁ……黒炎属性の魔法なんだけど」

「黒炎属性? 初めて聞いたわねぇ」

「魔力制御なしだとMP500も使うんだよ。最近使えるようになったんだ」


イベント前にレベル上げをしておいて良かったなとしみじみ思う。

黒炎弾を使えていなかったら、優勝は出来ていなかった。


「500……? 弟君、MPどれだけあるの?」

「今、470だよ。その代わり、HPは170で低いんだけどね」

「そっかぁ。魔法職向けのステータスなんだねぇ。

 空に聞いたんだけど、STRも低いんだよね?」

「う、うん……6だね……ちなみにレベルは29なんだけど……」

「6!? 嘘だろ!? レベル29で!?

 テイマーが低いつったっていくらなんでも低すぎだろ!」

「テイマーも関係してるかもだけど、種族で低くなってるみたい……多分」


キャラ作成時に筋肉のバーが動かせなかった事を考えると、恐らく鬼神のSTRは極めて低いのではないかと予想できる。

鬼人はむきむきにできるって噂だったのに。鬼人だったらSTRが上がりやすかったのかな。


「種族って……鬼人よね?」

「そうだよ。鬼神」

「ライ、すれ違ってると思うよ」

「へ? あ、そっか。読み方同じだったね。

 鬼の神で鬼神だよ。☆4種族なんだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優勝おめでとう!! [一言] せっかくのお祭りムードを台無しにしてくれる小豆 気に入らないけど自分らのメリットを考えてクランに誘って来るとか。そんな事堂々と言われてクランに入る人居るわけな…
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