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day29 サプライズプレゼント

「いいか? さりげなく呼び出すんだぞ?」

「もちろんだよ」


少しだけ考えて、メッセージを作る。


『TO:カヴォロ FROM:ライ

 今すぐカプリコーン街にきて!!!』


「後は返事を待つだけだよ」

「一応聞くが、なんて送ったんだい?」

「今すぐカプリコーン街にきてって送った」

「それのどこがさりげないんだい!?」


そう言われても、さりげなく誘い出す言葉なんて、さっぱりわからなかったのだから仕方ない。

多分、大丈夫だと思う。来てくれるはずだ。


「……祭りに間に合わせてくれてありがとう」


レストランのオーナーが眉間に皺を寄せてそう呟いた。


「相変わらず愛想のない男だね。

 しかし、良かったのかい? 店を貸し切りになんてしてしまって。

 彼が手伝いに来てから千客万来、商売繁盛だったんだろう?」

「あぁ……いいんだ。彼のお陰で潰れかけてたこの店を立て直すことができたからな。

 それに、婆さんの助言のお陰でもある」


男性の言葉にエルムさんが鼻を鳴らす。


どうやらカヴォロは、手伝いの依頼で訪れたこの店を立て直すために画策し、見事立て直しに成功したそうだ。

そしてそれは、エルムさんの『その少ない懐から金を捻りだして依頼でも出しておけ。良い料理人が来たら万々歳だろう』という助言が発端だったとか。


それを聞いて、やはり世間は広いようで狭いなと感慨深く思ったものだ。


「しかも、こんな魔道具……払った金に見合わないだろう」

「はん。そもそも、あんなはした金で注文を受けたのは初めてさ。

 それに、普段作る魔道具と比べりゃランクも低いときた。

 それはもう仕事じゃない。趣味さ。趣味なんだから好きに作る」

「はは。あんたは相変わらずだな」

「なんだい? 素直じゃないとでも言いたいのかい?」


その通りだと思いながら、小さく笑う。

オーナーとの仲の良さが伺える。


「しかし……婆さんが弟子を取るとはな。さぞかし将来有望な若者なんだろう」

「当たり前だ。私の一番弟子だぞ。……分かっていると思うが……」

「分かっている。このコンロの事を含めて、黙っておくよ。

 はした金でとんでもないコンロを作らせただなんて、婆さんに断られた連中が黙ってはいないだろうからな」

「そうしてくれ。面倒事は嫌いなんだ。

 まぁ、ライが名を売りたいと言うなら公表しても構わないがね」

「んーそれも悪くないけど、遠慮しておこうかな」

「あぁ、そうしたほうが良い。君は人が好過ぎるからな。すぐに騙されそうだ」


そんなに、騙されやすそうな性格をしているだろうか。

確かに、人を疑うことは得意ではないけれど……なるほど騙されやすいのかもしれない。


『TO:ライ FROM:カヴォロ

 来たが……どこにいるんだ?』


『TO:カヴォロ FROM:ライ

 カヴォロが依頼で行ったお店だよ』


お手伝い依頼を受けたのは1件だけだと言っていたし、これでわかるだろう。


「もうすぐ、くると思う」

「ほう? あんな便りで訪れるとは、仲が良いんだな。

 宝石の相手と言い、君には良い友人が多そうだ」

「いや、そんなことは……ん?」


常に誰かと関わりを持っていたから独りだと感じることがなくて忘れていたけど、俺、友達出来てない。

宝石の相手は兄ちゃんだし、友達はカヴォロだけだ。

この世界の人達とは仲良くやっていけている……いけているけども。


筋肉はちっともつかないし、性格は男らしくなれていない、と思う。

怖がっていないで何か、話しかけてみるべきだろうか。

でも、何を話しかければいいんだろう。趣味とか?


ぐるぐると考え込んでいると、扉が開く音が聞こえてきた。

顔を上げると、扉から中の様子を伺うように見ているカヴォロと目が合う。


「あ、カヴォロ! きてくれてありがとう!」

「……何かあったのか?」

「んんー……あるような、ないような……まぁ、座って座って」

「? あぁ……」


カヴォロは困惑した表情で、俺に促されるがまま椅子に座った。


「……それで、俺は何故呼ばれたんだ?」

「えっと……突然呼んでごめんね」

「構わないが……」


ちらりとオーナーに視線を向けると、先程よりも深く眉間に皺を寄せて、カヴォロを見ている。


「おい、そこの木偶。なにをぼさっとしているんだ。

 その図体で照れたって気持ち悪いだけだぞ」


エルムさんの叱責を受けたオーナーが更に皺を深くさせてカヴォロへと近寄った。

照れているとエルムさんは言っていたが、普通に怖い。


「……1週間ぶりだな。元気にしてたか?」

「元気だが……」

「……そうか」

「馬鹿か君は。終わってどうする。

 君、カヴォロ。こいつが渡したい物があるらしい。ほれ、さっさと出せ」


カヴォロは怪訝そうな顔を隠しもせず、オーナーとエルムさんに視線を向けている。

ちなみに、リーノは俺の後ろで笑い転げている。

ジオンは……顔を背けていることと肩が揺れていること以外はいつも通りだ。


「これを……貰ってくれるか」


おずおずと差し出された紙袋を受け取ったカヴォロが首を傾げる。


「なんだ?」

「……卓上のコンロだ。この店を立て直してくれた君に、何かお礼がしたくてな」

「礼なんて、別に……俺も、色々教えて貰った」

「……ここは、俺にとって大事な店でな。大好きだった爺ちゃんが立てた店だ。

 この感謝は伝えても伝えきれない」


カヴォロは躊躇うように視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。


「……見てもいいか?」


オーナーが頷いたのを確認して、紙袋からコンロを取り出す。

そうして、コンロを辿った視線がある箇所を捉えた時、じろりと俺に視線を寄せた。


「待て。おい、ライ。あんたが関わっているとなると話は別だ」

「いや、偶然なんだって。偶然。

 お片付けの依頼を受けたら、偶然、依頼主がカヴォロのコンロを作っている魔道具職人で」

「ライは嘘は言ってないぞ。

 やぁ、カヴォロ。君の料理、食べさせてもらったよ。最高の腕前だ」

「あぁ……あんたが、片付け依頼の……と言うことは、このコンロも?」

「そういう事さ。いやなに、こちらも驚いたものさ。君達が友人だなんてな。

 そして、君達が友人だったお陰で、私とライの関係が築けた。

 私からの礼でもあるんだ。受け取ってやってくれないか」


確かに、カヴォロと友達でなければ、鍋ごとシチューを用意することなんて出来なかっただろうし、その後の職人の話、それから、魔道具職人の話も出なかっただろう。

偶然に偶然が重なった奇跡のような縁だ。


「……そうは言うがな……あんた、鑑定できるか?」

「出来るが?」


返事を聞いたカヴォロは、するするとウィンドウを弄った後、現れた包丁をエルムさんに見せた。

あのキャベツモチーフは《雪菜包丁》だ。


「これを見てみろ」

「うん? ……んん、そうか……こんな事になるのか……」

「あいつはこれを、いくらで俺に売ったと思う?」

「さて……しかしまぁ、20か30か……いや、それ以上か?」

「10万だ」

「おっと……これはライの分が悪いな」


呆れたように溜息を吐いたエルムさんから視線を逸らす。

正直、ごり押した自覚があるので何も言えない。


「少しでも借りを返そうと鍋ごと料理を渡してみれば、今度は魔道具……」

「でも、俺が魔道具を作ったわけではないよ。

 リーノが細工したのは、そうだけど。あと、ちょっと俺も手伝ったけど。

 エルムさんは一流の魔道具職人だからね」


実際に俺がしたことと言えば、黒炎属性を封印したことと、あと、黒炎弾の融合だけだ。

後は兄ちゃんの宝石と普通の《鉄》をいくつか渡しただけである。

俺のスキルレベルでは《黒炎魔石》を扱う魔法陣を描くことが出来なかった為、魔道具製造スキルを使ったのは封印だけだ。


「それは、まぁ……魔道具のスキルなんて、聞いたことないが……」

「あ、それは取得できたんだけど」

「……なに?」

「君は素直過ぎるな。黙っていたら良いものを」

「あ……でも、本当にちょっとだけだよ。スキルレベルが足りなくて、ほとんど何もしてない。本当だよ」

「……ライが嘘を吐かないことは知っている。素直過ぎることも。

 ただ、あんたのちょっとだけは信用できないな……」


カヴォロが大きく溜息を吐く。


「……まぁ、なんだ。感謝の気持ちに借りを感じる必要はないんじゃないか?

 このコンロはそこでおろおろしている店主と私、それから、ライからの感謝の気持ちだ。

 それは君がしたことに対する感謝の気持ちなのだから、君は全て受け止めてしまえばいいのさ」

「……それは……」

「それに、ほとんど何もしていないと本人は言っているがね。

 私の一番弟子の初めての作品でな。記念に貰ってやってくれ」


カヴォロの視線がちらりとオーナーへと向けられる。

オーナーはその視線に小さく頷いて、少しだけ眉間の皺を薄くした。


「……有難く使わせて貰う。ちょうど、新しいコンロが欲しかったんだ。

 こんなコンロ、探しても見つからない。ありがとう」


困ったように笑ってそう言ったカヴォロに、少しだけ照れ臭くなって口元がもにょもにょと歪む。


「よしよし、丸く収まったな。

 さて、次は私だな。君達に報酬を支払わなければならない。

 まずは、ライ」

「俺?」

「あぁ。本当は毎日指導したいところだがね。

 異世界の旅人である君達はそういう訳にはいかないだろう?

 だから、本を渡そうと思ってな。それから、魔道具製造用道具と魔石だ」


渡された紙袋の中を覗いてみれば、そこには魔法陣の本、それから魔道具製造で使える本が数冊。

それから、いくつかの属性が封印された魔石と普通の魔石が数個ずつと、魔道具製造で使う道具が入っていた。


「わぁ~ありがとう! 大切に使うね」

「言っておくが、師弟関係を解消するわけではない。

 時間がある時は指導を受けに来るように」

「うん。これからもよろしくお願いします」


俺の返事に満足そうに笑ったエルムさんは次に、ジオンへと視線を向ける。


「さて、次は君だ」

「私は本を読んでいただけですが……」

「まぁ、それはそうなんだがな……なに、気にするな。

 こちらにも色々あるんだ」

「? ……でしたら、有難く……」


渡された紙袋の中身を確認したジオンが、がばりと勢いよく顔を上げた。


「こんな貴重な本、頂くわけには……」

「君が興味のありそうなものを選んでみたが間違っていたかね?」

「いえ……どれも興味深い本ばかりですが……」

「君の為に用意した本だ。君が受け取ってくれないと、既に持っている本なんて邪魔になるだけさ。

 それに、先程も言ったが、こちらにも色々あるんだ」


そう言ってエルムさんはジオンから視線を外してリーノへとちらりと視線を向ける。

ジオンはその視線を追った後、納得したような顔で頷き、お礼を告げた。


「最後に君だな。君が一番困ったぞ。

 弟子であるライはともかく、君には報酬が必要だ。

 ジオンのように本に興味を示してくれていたら楽だったんだがね」

「読まねぇわけじゃねぇけど……まぁ、興味はねぇな……」

「かと言って細工の魔道具はライが作って贈りたいだろうしな。

 悪いが、君への報酬のほとんどがジオンへと渡った」

「それは構わねぇけど」

「現金も考えたが、君だけそれじゃ味気ないし、君も望んでいないだろう?

 と、言う訳で、だ。君には細工の道具を用意した。鋳造で作ったものだ」


そう言って手渡されたのは木箱で、リーノはぱちぱちと瞬きをした後、それを開いた。

ちらりと木箱の中身を眺めてみると、鍛冶場の作業場でリーノが使っている道具と似た道具が並んでいる。


「……良いのか?」

「もちろん。まぁ、私は鋳造職人ではないからな。質は期待するな。

 この街の鍛冶場にある道具よりはランクは高いが……まぁ、大した物ではない。

 繋ぎとして使ってくれたらそれで良い」

「おう! 大切にする!」


にかりと満面の笑顔を零すリーノに、思わず俺も笑顔になる。


「よし、これで報酬の受け渡しは終了だ。

 慣れないことをするのは疲れるな」

「ふ……婆さんが贈り物をするだなんて、明日の天気が心配だ」

「君のそういう所、本当に君の爺さんとそっくりだよ」


エルムさんはオーナーのお爺さんとも知り合いなのか。

オーナーのことも孫のように思っていたりするのかもしれない。


「祭りの時は応援に行かせて貰うよ。君達の活躍を楽しみにしている」

「応援に来てくれるの? それじゃあ頑張らなきゃね」


参加はテイムモンスターは例外として、異世界の旅人のみのようだけれど、この世界の人達もイベントを見に来ることはできるようだ。

そうなると、是非来て欲しい人がたくさんいるなと思いを馳せる。


この後ログアウトして、眠って起きたらアップデートだ。

そして、イベントはその次の日。


「そう言えば、ライはレンと狩猟祭に参加するんだよな?」

「うん、そうだよ。カヴォロも一緒に参加する?」

「いや、俺は露店の申請をしてるから良い。

 そうじゃなくて、参加の申し込みはしてるのか?」

「……忘れてたね」

「参加の申し込みは今日までだ。さっさと行ってこい。

 狩猟祭は参加する相手と一緒に申し込む必要があるから、レンに連絡したほうがいい」


参加するにはギルドで申し込む必要があるということをすっかり忘れていた。


「俺、ギルドで申し込みしてくるね!

 エルムさん、またね! ありがとう!」

「はいはい。頑張りたまえよ」


呆れ顔のエルムさんに手を振って、ばたばたと慌ただしくレストランを後にする。


「すみません。私も忘れてました」

「俺も、すっかり忘れてたわ」

「あ、リーノは参加する? 品評会」

「それ考えるのも忘れてたな……まぁ、今回はいいかなぁ」


走りながら、兄ちゃんにメッセージを送っておく。

間もなく届いた返事で、兄ちゃんも忘れていたことが分かり、やるせない気持ちになった。

忘れっぽいのは血だろうか。そうだとしたら、なかなか治りそうにない。

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