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day28 黒炎属性と

「うぅん……」


広げられた本のページに書かれたたくさんの文字や記号、それから様々なシンボルと、その横に書かれている解説文を見て唸る。


「えぇと……これが、火? いや、氷かな。……よし、合ってた」


昨日はあれから、魔石に黒炎属性を封印する練習をした。

本来、練習をする必要はないそうなのだけれど、これまでに黒炎属性の魔法スキルを使ったことがないからか、それとも、黒炎属性の魔力が大きすぎるのか、その両方か。

初めて魔石に黒炎属性を封印した結果、魔石が砕け散る事態に陥り、何度も練習を繰り返す羽目になった。


なんとか成功した魔石も使用条件が高過ぎてしまい、カヴォロのコンロには使えず、そこからは使用条件に合わせて封印する魔力を調整する練習をし続けることになった。

ちなみに、封印はどの属性でも一律5のMPしか使用しないため、MPが尽きる心配もない。


「これとこれを組み合わせたら……うーん……」


お陰でエルムさんの作業場には黒炎属性が封印された魔石がごろごろと転がることになったが、エルムさんは良い魔石が手に入ったと嬉しそうにしていたので気にしないことにした。


そうして、なんとか調整することが出来るようになると、今度は狩りをしに行けと家から追い出された。

他にもギルドで依頼達成をしたり、カヴォロの元へ料理を受け取りに行ったり、夕食を取ったりはしたけれど、それ以外はずっと狩りをしていた。


そして、今日。魔法陣の勉強だ。


「どうだい? 捗っているかね?」

「覚えることが多すぎて、何から覚えたらいいのかわからないよ」

「はは、勉強とはそういうものさね。

 まずは作りたい物を決めてから、それに合った魔法陣を作れば良いのさ」

「作りたい物かぁ……」


そうは言っても、俺ができる封印は黒炎属性のみ。

2人の属性が封印できるかどうかはまだ試せていない。


「あ、炉が作りたいかな」

「ほう、炉か。炉にはコンロのような弱火中火等の調整は必要ない。

 最大火力のみだ。寧ろ、どれだけ火力を引き出せるかが重要だ」


エルムさんはそう言いながら、俺の前にある本のページをぺらぺらと捲り、お目当てのページを見つけるとそのページに描かれたルーン文字を指差す。


「これだ。松明のルーン。この文字に込められた力は様々だが……まぁ、その辺りは解説を読むと良い。

 炉に使うものだから火の力をというわけではなく、情熱や活力と言った力を込める為だ。

 それから、これ」

「太陽?」

「あぁ、そうさ。こちらも様々な力があるが……こっちはそのまま、太陽の力を込める為さ。

 さて、この2つのルーン文字と火のシンボルを組み合わせるとどういった効果があると思う?」

「うーん……太陽の力を持った情熱的な炎になる?」

「はは! 大体そういうことだな。

 まぁ、その3つだけでは完成しないが……基本的にはいかに強い炎を出すかを考えていれば問題ない」


スキルを覚えたら、そのスキルの使い方がなんとなく分かるというのがこれまでの常だったけれど、今回はさっぱりわからない。

まぁ、兄ちゃんも銃を作る基礎はなんとなくわかるけど、応用はわからないと言っていたし、応用ばかりの魔道具製造だからなのかもしれない。


だとしても、魔法陣は基礎だろうし、なんとなくでも文字や記号の意味くらい分かるようになってくれていたら、こうして本と睨めっこする必要はなかったのに。

特殊な条件で取得権が解放する上に、SPの消費も多く、勉強しなければ扱えないだなんて、なんて大変なスキルなんだろうか。


とは言え、魔法陣の勉強だなんてロマンたっぷりなこと、わくわくしないわけがない。


「ところで君、レベルは上がったかい?」

「うん、昨日上がったよ」

「早く黒炎弾が使えるようになれば良いな」

「魔力制御ってどの程度MPを抑えられるものなの?」

「スキルレベルが低いなら、1割だね。

 属性進化していない属性の魔弾の消費MPは20だから、君の黒炎弾程の恩恵は感じられないだろうが」


ステータスを開いて現在のMPを確認する。

黒炎弾の消費MPは500。そして、現在のMPは455。


「使えるようになってる!」

「なに!? 本当か!」

「うん! ぎりぎりだけど!」


これで俺も魔法を使うことができるようになった。

一回しか打てないけれど。


「よし、君、早速黒炎弾を融合してみろ!」

「なるほど」


狩りをしてこいと追い出された理由はそれかと納得する。


「ここで?」

「ふむ。暴発したら、燃え移った火は私がなんとかしてやろう。

 リビングに置いていた本は今は書斎にあるし、今なら燃えて困る物もない」

「えぇ~……まぁ、エルムさんが良いなら良いけど。

 あ、ジオンとリーノ呼んでくるね」

「リーノは私が呼んでこよう」


ジオンは書斎で本を読み、リーノは作業場でカヴォロのコンロに細工を施している。

今回も例のキャベツモチーフを彫っているらしい。

俺達が関わっていることが丸分かりである。


「ジオン! 黒炎弾使えるようになってたよ!」

「本当ですか!? おめでとうございます」

「それで、今から融合してみることになったんだけど」

「それは楽しみですね。どうなるのか私も興味があります」


書斎を出て、リビングへと向かう。

リビングにはエルムさんとリーノも揃っていた。


「えぇと……宙に浮かせるには、そこに留まらせるイメージが大事なんだっけ?」

「えぇ、そうですね。私はそうやって浮かせています」

「俺は止まれって思いながらやってるぜ」


失敗したら、暫く使うことが出来ないので慎重にしなければ。


「まぁ、昨日あれだけ魔力の調整の練習をした君なら大丈夫さ。

 昨日の練習を思い出したら良い」

「なるほど。どの鉱石に融合する?」

「鉄が良い。持っているかね?」


頷いて、アイテムボックスから鉄を取り出し、机の上に置いて熔解する。


「ほう……溶けたな」


エルムさんの前でこの一連の流れを披露するのは初めてだ。


「ほれ、《初心者用マナポーション》だ。足りるか?」

「熔解のMPは20だから足りるよ」


エルムさんからマナポーションを受け取って飲み干し、一度大きく深呼吸する。


「それじゃ、行くよ……【黒炎弾】」


ぶわりと辺りに熱風が舞い上がり、掌の上に魔力が集まるのが分かる。

その魔力は、禍々しさを感じる黒い炎となり、掌の上でぐるぐると形を成して行く。


始まりは小さな黒炎だったそれが、どんどん質量を増して……増して……。


「えっちょっと……大きくない!? こわいこわい! いつまで大きくなるのこれ!?」

「お、落ち着けライ! 知らん! 私も見るのは初めてだ!」

「ジオン~!!! リーノ~~~!!!」

「す、すみません。私にはどうしようもできません……」

「おぉおお……ちょ、こっちくんな! 当たらねぇって分かってても怖いっつーの!」


ジオンの氷晶弾は頭より少し小さいくらいの大きさで、カヴォロの火弾は拳サイズより少し大きいくらいだったから、進化属性によって大きさが変わるのだろうとは思っていたけれど。


掌の上で膨らみ続けた黒炎弾は今……バランスボール程の大きさとなって留まっている。

これはもう弾ではない。


「よし! 良いぞライ! そのまま融合してしまえ!」

「ま、待って。MPが回復してないから無理だよ」

「む……ぎりぎりの状態だと厳しいな。

 ならば《初級マナポーション》だ」


《初心者用マナポーション》のクールタイムが回復していなくても、《初級マナポーション》は飲むことができる。

品質は関係ないので、例えば☆2と☆3の《初級マナポーション》を持っていたとしても、交互に飲むことはできない。


黒炎弾を浮かせておくことに集中しながら、片手でマナポーションを受け取り、飲む。


「【魔操】! うわっ……大きくて操りにくい」


それに、随分重い。全身の力を込めてやっと、少し動かせる程度だ。

両手に力を込めて、時間を掛けて溶けた鉄に落として行く。


全てを落とし終えた時、溶けた黒炎弾は机全てを覆い隠してしまっていた。


「はぁ……【融合】」


黒炎弾が光を放ち、やがてころりと黒に薄っすらと赤みがかった鉄が転がった。

大きく息を吐いて、その場に座り込む。

このまま床に寝たいくらいに疲れているが、確認が先だ。


鑑定して表示されたウィンドウの文字に、目を見開く。


「……黒炎属性+5、だって……」


3人の息を飲む音が聞こえる。


魔弾のレベルによって数値が変わるのではないかと予想をしていたが、どうやら進化属性によっても変わるようだ。

量産は無理だけれど、少しずつ作っておけば凄い武器が作れそうだ。


「でも、これ……すっごい疲れる……!」


《黒炎鉄》を床に放り投げて、ばたりと横になる。


「おい、君。こんな貴重なものを放り投げるな。

 しかし、鉄が溶けたことが些細なことだと思える程に、驚きの連続だったな」


拾い上げた《黒炎鉄》をくるくると眺めながら、エルムさんが言葉を紡ぐ。


「品質5、か……元は2の鉄だったよな?」

「そうだね。《氷晶鉄》だと3になってたけど」

「ほう……君の友人のコンロには使えて1つだな。

 それも、繊細な調整が必要だろうが。それ以上は使用条件が上がってしまう」

「なるほど。その辺りはなんとなく、分かる気がする」


どうやら、魔道具製造を覚えたことでなんとなく分かった基礎は品質とランクについてだったようだ。

確かに、これがわかっていないとせっかく作った魔道具が使えないなんてことになるだろう。


「さて、早速加工するとするか」

「あれ? 加工できるの?」

「私は鋳造もできるからな。まぁ、その道の職人と比べれば粗末な腕ではあるがね。

 こんなもの鋳造職人に見せてみろ。面倒な事になるぞ」


そういうものかと頷いて、起き上がり、書斎へと向かうジオンを見送って、ふらふらとした足取りで作業場へと向かった。


「ふむ……」


エルムさんは少し思考を巡らせた後、魔法陣が描かれた円形の木材部分を半ば無理矢理剥ぎ取ってしまった。


「取り換えるの?」

「そういうことさ。君の持っている鉄を3つ程分けて貰っていいかね?」

「うん、構わないよ」


アイテムボックスから鉄を取り出し、エルムさんに手渡す。

エルムさんは鉄を受け取ると、溶鉱炉へと向かって行った。


溶鉱炉の中にぽいぽいと《黒炎鉄》と鉄を投げ入れて、溶鉱炉に刻まれた文字に触れると周囲が熱気に包まれる。

中の鉄が溶けるのを、炉の中を覗きながら待っているとやがて、鉄はどろりと溶け切った。

熔解で溶かした鉱石は熱くも冷たくもないけれど、これは非常に熱そうである。当然だけど。


溶けた鉄を型へと流し込む姿を見ながら、口を開く。


「早いんだね」

「街で売っている溶鉱炉ではこうはいかないがね。

 君の《黒炎魔石》を使った魔道具なら、もっと早く溶かせるようになるだろうよ」

「進化属性のほうが単純に火力が高い?」

「まぁ、そうだな。それに出来る道具の品質も上がるぞ。

 その道具を使って作った生産品もな。

 さて、後は冷えて固まるのを待つだけだ。ライ、来てみろ」


言われるがまま、エルムさんの後を追うと、今度は大きな冷蔵庫のような魔道具の前へと案内された。


「冷蔵庫? まさか、チョコレートみたいに冷蔵庫で固めるの?」

「厳密には鉱石を固めるための魔法陣を描いているから冷蔵庫とは違うがね。似たようなものさ。

 まぁ、鋳造職人共は邪道だと言っていたよ」


エルムさんは、型に入った鉄をまるでケーキを入れるように冷蔵庫の中へ入れると、扉を閉めてにんまりと笑って振り向いた。


「品質が悪くなるわけでもない。時間の短縮が出来るのだから邪道だろうと使えばいいのさ。

 まぁ昔ながらの方法だって大事だがね。それだけでは進歩しない」

「なるほどねぇ。良い物は良いと認めることも大事ってことかな」

「君の場合、なんでもかんでも良い物だと言ってそうだがな」


そんなことはないと言いたかったが、思い当たる点がある為、苦笑いで返す事しか出来ない。


「先程取り外した魔法陣で、魔石との兼ね合いを見てみるとするか」


取り外した円形の木材の横に、昨日俺が黒炎属性を封印した魔石を置き、エルムさんの指がするりと魔石を撫でた。

その指で今度は魔法陣を撫でると、魔法陣が赤く光り、瞬く間に炎が現れた。

その炎を見たエルムさんが、慌てて魔石を再度撫でると、炎が消える。


「おっと……これはいかんな。黒炎は火力が高すぎる。

 《黒炎鉄》を使った鉄板は無事だろうが、熱が凄そうだ。

 それに、土台の木も燃えてしまうだろうな」


木材に目を向ければ、真っ黒に焦げ付いていることが分かる。


「これは困ったな……全てを鉄で作るか?

 しかし、熱くて触れなくなるな……何より重い」

「魔法陣で調整できないの?」

「調整はできるさ。しかしな、魔法陣だけで調整してしまうと、その分使用条件が上がってしまうのさ」

「んー……土台に耐火効果が付いていたら良いってこと?」

「そうだが……耐火効果が10……いや7は欲しいところだな。それでもギリギリだろうがね。

 しかし、土台に耐火効果を付けるのにどれだけの付与を繰り返す必要があるかわからんぞ。

 成功したところで、数値も低い」


あの方法なら可能なのではないだろうか。でも、それに必要なのは……。

逡巡したのち、それを可能にする人物に聞いてみようと思い至る。


『TO:レン FROM:ライ

 夜ご飯の時に話したエルムさんに魔法宝石渡していい?

 カヴォロのコンロに使いたいんだけど』


『TO:ライ FROM:レン

 いいよ。今度俺にも何か作ってね』


送信して間もなく届いた返事ににんまりと笑う。


「エルムさん。これをリーノの細工に使って貰ったら解決する?」


そう言って、アイテムボックスから、耐火の付いた宝石を取り出して見せる。

受け取ってそれを鑑定したエルムさんは大きく溜息を吐いた。


「……君、ハイエルフの知り合いでもいるのかい?」

「ん? んー? ……知ってるの?」

「私はエルフだしな……と言いたいところだが、本で見たことがある。

 真偽不明の情報ばかりだがね」

「物知りだねぇ……これで解決できるかな?」

「あぁ、これ以上ない解決策さ」

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