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day27 魔道具製造

頷いてエルムさんから魔石を受け取ったリーノは、すぐに『あ』と小さく声を上げて困った顔をした。


「俺、道具なんもないや」

「私が作った研磨機がある。その他細々した道具も資料用に揃えてあるはずだ。

 あぁ、あったあった。その辺りにあるのがカットに使う道具だと思うが、足りるかね?」


研磨機……は、魔道具なのか。

彫刻刀なんかでちまちま削っていくのかと思っていたけれど、どうやら違ったようだ。


「おー足りる……うお、これすげーな!?

 へぇ、なるほど……ここで調整できんのか……んで、こっちは……」

「はは、使い方の説明は必要なさそうだな。

 お気に召して頂けたようで何よりだよ。扱えるかい?」

「当然! これなら最高のものが出来るぜ!」


生産に使う道具はさっぱりわからないが、リーノの様子から察するに、恐らくかなり上質な道具なのだろう。

楽しそうに早速研磨機で宝石のカットを始めたリーノの姿を眺める。


「へぇ……扱えるのか。いや、扱えるだろうと踏んではいたがね」

「扱えないことがあるの?」

「あるさ。その刀だって装備条件があるだろう?」

「なるほどね。魔道具にも使用条件があるんだね」

「そういうことさ。あれはまぁ、一級品でね」


一級品……つまり、エルムさんは一流の魔道具職人ということだ。

進めば進む程モンスターや売っている装備が強くなっていくように、生産職の人達も進めば進む程腕が良くなるのだと思っていたのだけれど。

家を購入した時は、ジオンとリーノが使う魔道具をエルムさんにお願いできないだろうか。


「多分、どんな道具も扱えるんだと思う」

「……そうかい。私と同じでなければ良いが」


そう言ったエルムさんの顔には哀愁が滲んでいるように見えて、それ以上それについて聞くことが出来なかった。

言葉を飲み込んで閉じた口を再度開いて、話題を変える。


「コンロに描いてあった魔法陣はどういうものなの?」

「魔法陣は単なる引き金さ。魔石に封印した炎を操作する為のね」

「封印……あ、さっき言ってた、付与と似たことができるって言ってたやつ?」

「そうさ。魔道具職人は魔石に魔法属性を封印できるんだ」

「へぇ! 火弾を魔石の中に封じ込める感じ?」

「属性だけだな。属性さえ持っていれば、例え魔法スキルがなくても封印出来る。

 まぁ、属性を持ってりゃ火弾やら水弾は使えるがね」


どういう感じなのかはわからないけど、融合とは違うようだ。


「それじゃあ、エルムさんはいろんな属性を持っているんだね」

「ある程度はな。魔道具職人は属性があればあるほど良いがね。

 なくても他の魔道具職人に頼めば良いだけだ。

 ……そういえば、君、付与スキルを持っているかい?」

「ううん。持ってないよ」

「へぇ……ないねぇ。……待て。……君、まさか、鬼神か?」

「そうだよ……あ」


エルムさん相手に何も考えずに答えちゃだめだったような気がする。


「鬼神……」


俺を見て大きな目を更に大きく見開いて絶句したエルムさんは、すぐにはっとした顔をしてどたばたと作業場から出て行ってしまった。


「ジオン、鬼神の種族スキルって皆一緒?」

「いえ……種族特性と同じで一定ではないと思いますよ。

 鬼神に進化する鬼人はごく僅か……数百年に1度いるかいないかだと聞いてます。

 種族特性や種族スキルを始めとして、進化についても真偽不明な情報ばかりなんですよ」

「そうなんだ? うーん……俺もなんにもわかんないしなぁ」


ヘルプにも種族説明のようなページはなかったし、ステータスからも詳細が見れるということもなかった。

妖精ちゃんが『鬼を統べる者とも呼ばれている』と言っていたけれど、ジオンの話を聞いている限り、鬼人の街で鬼人たちを従えているとかそういうわけでもないようだ。


「それはともかく、エルムさんは知っているということになるのかな」

「恐らく、そうでしょうね。

 そういうスキルを持っていることがあるという情報をどこかで……まぁ、あの様子を見るに」


ジオンの言葉は上階から聞こえてきた大きな音で途切れることとなった。


「……本が倒れた音かな」

「恐らく」


片付けはやり直しだろうかと考えていれば、間もなくどたばたとした足音と共にエルムさんが作業場へ戻ってきた。


「君! この本に書いてあるスキルを持っているのかね!?」


書斎から戻ってきたのであろうエルムさんは、興奮した様子で開いたページを俺の顔の前に掲げてきた。

ぐいぐいと顔に押し付けられているページには細かい文字でびっしりと何かが書かれている。


「えーと……近過ぎて読めないよ」

「……すまない。年甲斐もなく興奮して、つい、な」


恥ずかしそうに後ろに下がったエルムさんの手から本をそっと抜き取り、目を通す。

この文字数だと斜め読みでも大変だ。


「恥ずかしい姿を見せてしまったな……迷惑をかけた」

「ううん。可愛かったよ、エルムさん」

「き、みなぁ~! こんな年寄り捕まえて何を言ってるんだ!」


年寄りには見えないけれど、エルフは長生きだというのがファンタジーの定番だし、驚く程年上だったりするのだろう。

どたばたしていたエルムさんが、今度はじたばたしている姿を視界の隅に捉えながら、本を読み進める。


「んー……所々違う気がするけど……」

「鬼神については真偽不明の情報ばかりですからね」

「そうなのかい? この本、結構な額だったんだが、偽情報を掴まされたか」

「些細な差だから偽情報ってわけではないと思うよ。

 魔操が魔弾操作になっていたり……こっちが正式名称なのかな?」


パーソナルコンピューターがPCと略されているようなものだろうか。


「つまり、君は持っているということだな?」

「……そうだね。うん、持ってるよ」


ここまでばれてしまっていては隠す必要もないだろう。元々隠し事は得意ではない。


「一応、秘密にしてるから、誰にも言わないでくれると有難いんだけど」

「もちろんさ。こちらも不躾に聞いてしまって申し訳ないね。

 それで、君……炎属性、いや、この際、火属性でも構わない。

 属性が付与された鉱石を持っていないかい?」

「ごめんね。氷晶属性と雷属性ならあるんだけど」

「何? 氷晶属性? ちょっと、それ……いや、凄く気になるが。今はコンロだからな」


リーノやカヴォロも細工や料理の話をしている時に似た感じになっているけれど、生産好きの血が騒いでいるのだろうか。


「異世界の旅人は属性を取得するのも簡単だと聞くが……あぁ、取得して欲しいと言っているわけではないぞ。

 ただ、異世界の旅人の多くが火属性を取得すると聞いていたものでな」

「あぁ、確かに多そうだよね」


カヴォロも覚えていたし、兄ちゃんも覚えたと言っていた。

魔法の定番だろうし、何より火の魔法は格好良い。


「俺も持っていないわけじゃないんだけどね。ただ、MPが足りなくて……」

「MPが足りない? 属性を聞いても?」

「構わないよ。俺が持っている属性は黒炎属性。

 他は種族特性で覚えられないんだけどね」


俺の答えにエルムさんが目を見開いた。

ついさっき見た顔と同じだなと小さく笑う。


「君……君、とんでもないな!? おまけに従魔が腕利きの職人だと?

 どれだけ徳を積めばそんなことになるんだい!?」

「まぁ……運が良かったとしか……」


実際、本当に運が良かっただけなのだ。

その分STRは低いし、魔法属性が覚えられないけれど。


「……君、魔道具製造を覚えてみる気はないか?」

「うん? でも、スキル一覧……えーと、今俺が覚えられるスキルが分かるんだけど、ないんだよね」

「魔道具製造は誰でも取得できるわけではないからな。

 しかし、君が取得したいと言うのなら手はある」


魔道具製造か。

つい先程までは家を購入した際はエルムさんに魔道具を頼もうかと考えていたけれど、俺が作った魔道具をいつもお世話になっているジオンとリーノにプレゼント出来るのであればそのほうが良い。

例えそれがエルムさんが作った魔道具よりも劣るとしても、それに、その魔道具を作るのにジオンとリーノの手を借りていたとしても、だ。


属性が他に覚えられないのがネックだ。

他の魔道具職人に頼めば良いと言っていたけれど……。


「ジオンとリーノの属性も封印できたりする?」

「ふぅむ……そういう話は聞いたことがないな。しかし、可能性は0ではないだろう。

 例えば君の、魔操だったか? それを組み合わせてみる、とか」

「操るのは氷晶弾だったりの魔弾? だから、属性とはまた違うと思うけれど」

「さて……結局のところ、魔弾も属性であることには変わりがないからな。

 君が魔道具製造を覚えたなら、色々試してみる価値はあるんじゃないかね」


色々なスキルを組み合わることによって自分なりの生産が楽しめると、妖精ちゃんも言っていたなと思い出す。

魔道具製造はその最たる例なのではないだろうか。


「魔石のカット終わったぜ~」

「仕事が早いな。見せてくれるかい?」


受け取った魔石をまじまじと見つめた後、エルムさんは満足そうに大きく頷いた。


「はは、最高だ。使用条件については伝えていなかったというのに、完璧じゃないか」

「ま、聞いたときよか今は上がってるんだろうけどな」

「そうか。友人なのだから、聞いていてもおかしくないな。

 さて、ライ。よく見ていろ」


頷いて、魔石を持つ2本の指を見る。

ぐっと指に力が入ったかと思うと、魔石の周りにふわりと赤色の煙のような靄が絡みついた。

やがてその靄が魔石の中へと吸い込まれて、魔石の色が濃い紫色から赤色へと変わった。


「これが封印さ。これは《炎の魔石》だ」

「なるほど、さっきの赤い煙は炎属性なんだね」


あの煙のような靄は見たことがある気がする。

なんだったかな。うーん……まぁ、良いか。


「それで、ライ。どうするんだい?」

「うん。俺、覚えてみたい」


ジオンやリーノが生産をしている姿を見て、俺も何か生産が出来たら良いなと考えていた。

覚えようと思えばすぐにでも覚えられたけど、何がしたいかわからなかったから、今まで叶わなかったけれど。

魔道具製造なら、ジオンやリーノと一緒に何かを作ることが出来る。


「良いだろう。それでは、今日から君は、私の弟子だ」

「弟子……よろしくお願いします、エルムさん」


俺が言葉を紡いだ瞬間、目の前にウィンドウが現れた。


『【魔道具製造】スキルの取得条件を満たしました』


初めての経験に目を瞬く。

これまで、いつの間にか増えていることはあっても、こうしてお知らせが起きたことはない。

隠しクエストだったりするのだろうか。


何にせよ、クエスト発生のお知らせが表示されるわけではないようなので、判断のしようがない。

思うがままに楽しんでいれば、またそういう機会がくるかもしれないくらいに考えておこう。


早速覚えてしまおうと、スキル一覧を開く。

消費SPは20……多い。料理や鍛冶、細工等の他の生産スキルは10だというのに。


「覚えることができたよ」

「はは、弟子になっただけで覚えられるものではないというのに。

 さすがは異世界の旅人だ。さて、何か作ってみるかい?」

「んー……片付けが先かなぁ」

「あぁ……そう言えば君達、片付け依頼できてたんだったな。

 とは言え、本懐は遂げているんだが」

「本懐?」

「君達、あの部屋で何か興味を引くものはあったかい?」


何かあっただろうか。

表紙だけしか見ていなかったし、何も考えずにひたすら片付けていただけだ。


「特には……あ、でもジオンは興味あったんじゃないかな」

「えぇ、そうですね。読みたい本がたくさんありました」

「いつでも読みにくると良いさ。可愛い弟子の従魔だからな。

 片付けにきた誰かが本に興味を持てば、そこから未来の職人が生まれるかもしれないだろう?」

「つまり、技術目当てってこと?」

「はは! 直球だな君は! まぁ、つまりはそういうことだな。

 しかし、片付けが苦手なのも事実だ。

 部屋も片付いて、未来の職人との繋がりを持てる可能性がある。一石二鳥さ」


実際に現れたのは、未来の職人ではなく、現在の職人であるジオンとリーノだったわけだけれど。


「それに、君のような優秀な弟子を持てたしな。

 異世界の旅人は優秀な者が多いと聞いている。大歓迎さ」

「ライバルが増えるんじゃないの?」

「あのな、魔道具職人は数が少ないこともあって、馬鹿みたいに依頼がくるんだ。

 異世界の旅人だって魔道具を使うだろう? つまり、これからはもっと依頼が増えるわけだ。

 そんなもの全部受けていたら、過労死するぞ」


エルムさんの作業中の姿を思い浮かべて、神妙に頷く。


「さて、どうするかね?

 私としては初めての弟子と一緒に何か……まぁ、コンロか。

 コンロを作りたいところだが……」

「あれ? 初めての弟子なの?」

「まぁな。それより君、依頼を取り消すつもりは?」

「ないよ。途中で放り出すのは嫌だからね」

「君ならそう言うだろうと思っていたよ。

 だが、私が手伝うのは構わないよな?」

「うん? 良い、のかな? 依頼主が手伝うのってありなのかな?」

「手伝ってはいけないという決まりはないさ。

 さぁ、さっさと片付けを終わらせてしまおうか」


にんまりと笑うエルムさんを少しだけ不審に思うが、頷いて書斎へ向かう。

やはりさっきの大きな音は本の山が倒れた音だったようで、昼ご飯前よりも散らかっていた。


「おや? 種類毎に分けて入れてくれていたのかい?

 はは、私の好みとジオンの好みは同じようだね。

 さて、どんどん片付けてしまおうか」


そう言って、エルムさんが片手を上げたかと思えば、辺りの本が吸い込まれるように本棚へと収納されていく。


「これは……生活魔法、ですか? 使える方がいらっしゃるとは……」

「はは、長く生きていると出来ることも増えるのさ。

 今では失われた魔法だなんて言われているがね」

「……片付け出来るんじゃん!」

「なに、これは調整が難しくてなぁ……まぁ、MPの消費も多いし、面倒なんだ。

 出来る出来ないで言えば出来るがね。したくないのさ」


とんでもない人を師匠にしてしまったのかもしれない。

……というか、これ、依頼達成したことになるのかな?

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