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day24.5 余談

「さって、この後どうする?」

「昼食を取りに行きましょうか」

「そうすっかー。あ! 前パスタ食べたレストラン行こうぜ!」


つい先程まで確かにそこに存在した主の姿は、『またね』と言葉を残して消えた。

まるで陽炎のようだと思う。


レストランへ向かう道中、ライさんと共に行動している時と比べると少ないとは言え、ちらりちらりと視線を向けられているのを感じる。

ライさんと契約した当初は、動向を探られているようで落ち着かなかったが、その視線のほとんどがライさんへの好感や羨望等の好意的なものだったこともあり、少々煩わしいとは思うものの気に留めることはなくなった。

中には嫌悪や嫉妬の滲む視線もあるが、些細なものなので捨て置いている。


隣を歩くリーノに視線をやれば、彼はそんな視線に気付いているのか気付いていないのか。

何れにせよ気にも留めていない様子で鼻歌を歌っている。


ライさんの兄であるレンさんは、その不躾とも言える視線達に気付いた上で意に介していないようだが、ライさんは一切気付いていない。

しかしそれは、彼が鈍感故ではなく、周囲からの視線や思惑を遮断しているように見えた。


「一番はカヴォロの飯なんだけどなー。

 けど、露店広場は異世界の旅人ばっかで俺達だけじゃ行き難いんだよなぁ」

「そもそも買い物できるんですかね?

 昨日カヴォロさんが仰っていた、金額を入力するウィンドウ? は、私達には見えないですし」

「さぁ~……ライが紙幣やら硬貨やら使って金払ってるとこ見たことねぇしなぁ。

 カヴォロも手渡しでお金渡された時の話はしてなかったし」


ライさんは『クレジットカード……いや、デビッドカードで支払っているようなものなのかなぁ』と言っていたが、私にもリーノにもそれを理解することはできなかった。

恐らく異世界の支払い手段の話でしょうが。


「ただまぁ、同じレストラン行っても、俺達は紙幣やら貨幣で金払ってっけど、ライは違うだろ?

 俺達はライ達の支払い方法ができねぇってだけで、どっちも使えんじゃねぇの」

「街の商店はそうでしょうけど、露店広場はどうなんでしょう。

 あそこは異世界の旅人の店ですし、そちらの方法のみの可能性はあるかと」

「確かになー……よし、行ってみっか」

「おや。行き難いのでは?」

「何事も挑戦ってな!」


レストランへと進めていた足を露店広場へと向ける。


「カヴォロさんいらっしゃいますかね?」

「……それは考えてなかったな。帰ってるかもしんねぇよなぁ」


肩を落としたリーノは、しかし、露店広場への歩みを止めることはなかった。

辿り着いた露店広場は、昨晩訪れた時よりは人が減っているように見えるが、それでも初めてここに来た時と比べると賑やかだ。


「お! いたいた!」

「今日も大繁盛のようですね」

「つーか、昨日と同じ場所だけど……昨日からずっと開きっぱなしとかじゃねぇよな……」


短くはない列に並び、順番を待つ。

ほどなくして順番が回ってきた私達の姿を捉えたカヴォロさんが目を瞬いた。


「2人だけか?」

「おう、ライは帰っちまったからな!」

「俺もそろそろ……帰るか。昨日からずっとこの調子でいい加減疲れた」


その言葉に私達の後ろに並ぶ人々から落胆の声が上がる。


「昨日からずっといたのか?」

「あぁ……見える場所でライに食事を出したのは失敗だったな。

 それで? どうしたんだ?」

「昼食を買いに来たんですよ」

「これで買えるのかってな」


リーノが腰に提げた鞄から貨幣を取り出し、カヴォロさんへ見せる。


「……貨幣か。使ったことはないが……ちょっと待ってくれ」


そう言って、胸元辺りでするりするりと指を動かす姿に、同様の動きをしているライさんの姿が頭に浮かぶ。

恐らく例のウィンドウとやらがそこにあるのだろう。


「……大丈夫だ。何にする?」

「んー……あ、そういや、ライとジオンが言ってた串焼き食べたことねぇんだよな」

「串焼きか……あの時より値上がりしてるぞ」

「おや、そうなんですか?」

「嫌になるくらい作らされるから値上げしたんだ。結果は変わらなかったが」


あちこちから視線を感じる中、それに気付くことなくライさんが串焼きを食べていたあの時を境に、串焼きが飛ぶように売れたそうだ。

例えばそれが武器であれば分からないこともないが、憧れの相手と同じものを食べたいという感覚は私には理解できそうにない。


「俺にもわからん。

 500CZだが、串焼きにするか?」


あの時は200CZだったので2倍以上の値上りだ。

それでも変わらず売れているというのだから恐れ入る。

きっかけは確かにライさんだったのでしょうが、その後も売れ続けているのは偏にカヴォロさんの力だ。


「俺は串焼きにするぜ。ジオンはどうすんだ?」

「では私も串焼きをお願いします。久しぶりに食べたいので」

「2つで1000CZだ」


私達は互いに500CZを出し合い、それをカヴォロさんに手渡す。

カヴォロさんはそれを受け取ると、露店の机に置いてある瓶の中へと落とした。

底で跳ねた硬貨がきらりと光りを放ち、消える。


「……ん。毎度あり」


串焼きを受け取り、先程の瓶に視線をやれば、私の視線に気づいたカヴォロさんが瓶に視線を向けて口を開いた。


「釣りがある時はここに現れるらしい。

 じゃあ、俺もそろそろ帰る。昨日は助かった。またな」

「えぇ、また」


昨日カヴォロさんに頂いた料理を食べた時と同じ椅子に座り、串焼きを食べる。


「うまいな。人気になるのもわかるわ」

「あの時も美味しかったですが、今はより美味しいですね。

 作り方を変えたのでしょうか?」

「スキルレベルが上がったんじゃねぇか?」

「あぁ、なるほど」


1本の串に刺さった4つの肉は瞬く間になくなり、手から串が消えていく。


「この後どうすんの?」

「私は図書館に行こうかと」

「おー……んじゃ、俺は露店見て回るわ。

 行き難いって思ってたけど、別になんてことなかったしな!」

「面白いものがあったら教えてくださいね」





【店番】雑談スレpart36【買い物】


98 名無しの旅人

スライムがお金を口に咥えてぴょんぴょん飛んで買い物に行くとこ想像してみろ

可愛い 俺テイム覚える


99 名無しの旅人

スライムの口ってどこだよ


100 名無しの旅人

俺もテイム覚えようかなー

そんで店番してもらう


101 名無しの旅人

買い物はスライムでもなんとか出来ないことはないかもしらんが

店番は人型じゃないとさすがに無理だし覚える必要ない


102 名無しの旅人

人型のモンスターどこにいんだよ

目撃情報1つも出てないぞ


103 名無しの旅人

いるのは確かなんだけどなぁ


104 名無しの旅人

ライさん掲示板見てないのかね

情報ほしい


105 名無しの旅人

見てないんじゃね?

見てたとしてもしょっちゅう名前上がってるとこ見たら書き込みなんてできないだろ


106 名無しの旅人

俺ならドヤ顔で書き込むが


107 名無しの旅人

本人に聞くのが一番手っ取り早い

あ、無理。あの人に話しかけんの無理だわ


108 名無しの旅人

>>107

ようコミュ障


109 名無しの旅人

>>108

ちげーよ!普通!


110 名無しの旅人

なんか話しかけ難いんだよな


111 名無しの旅人

イケメン2人に囲まれた美形とか話しかけられないっす


112 名無しの旅人

見渡す限り美形ばっかだけど


113 名無しの旅人

なんつーか、オーラ?イケメンオーラ?そういうやつがな……


114 名無しの旅人

魔王感ある


115 名無しの旅人

魔王感wwww

冷血系の魔王なwwwwwわかるwwww


116 名無しの旅人

俺あの兄弟両方話しかけられる気しないんだけど

聞きたいことはたくさんあるのに


117 名無しの旅人

レンさんの場合、ロゼさん朝陽さんの好感度を上げることで会話イベントが発生する

ちなみに空さんとの会話イベントは起きない模様


118 名無しの旅人

これだからゲーム脳は


119 名無しの旅人

ロゼさん朝陽さんも有名人だから話しかけるの緊張する 無理


120 名無しの旅人

つまりカヴォロさんの好感度を上げればライさんと話す機会が?


121 名無しの旅人

値段と食材取引のこと以外話すのあの人


122 名無しの旅人

話すんだろうな、多分

ライさんと話し込んでたし


123 名無しの旅人

そもそもあの露店で話しかけるの無理じゃん

あんだけ並んでるとこで話し続ける神経持ってないわ


124 名無しの旅人

仲の良い相手だとどれだけ並んでいようが有無を言わさず休憩中札を置く

現状確認している相手はレンライ兄弟だけな


125 名無しの旅人

つまりレンさんライさんの好感度を上げればカヴォロさんとの会話イベントが起きる


126 名無しの旅人

その兄弟に話しかけられないって話だろうが!!!


127 名無しの旅人

オーラとか魔王とか攻略対象とかはさておき

ずっとソロで楽しんでるプレイヤーはそもそも話しかけ難い


128 名無しの旅人

ゲーム内で約1ヶ月だもんね

ソロで好きにやりたい人なんだろうなぁって思う


129 名無しの旅人

それこそ友達の友達とかイベントとかきっかけがないと話す機会ないよなぁ


130 名無しの旅人

はじめの頃なら一狩りいこうぜ!でいいのに


131 名無しの旅人

なんのきっかけもなく話しかけるって何話せばいいんだ?

はじめまして!趣味はなんですか!?とかでいい?


132 名無しの旅人

いいわけねぇだろwwww怖いわwwww


133 名無しの旅人

意外といけんじゃね?

相手が呆気に取られたら勝ち


134 名無しの旅人

確かに呆気に取られて答えちゃうだろうけどもwww


135 名無しの旅人

勢い大事 何事も勢いでなんとかなる







ウィンドウを閉じて溜息を吐く。


情報収集のために掲示板を見てみたが、相も変わらずあの兄弟のことばかりである。

その流れ弾を見事に喰らった俺ももれなく常連となってしまっているが。


間違っても俺の好感度を上げようとしてくるやつらがこないことを願うばかりだ。

頼むから勇気を出して直接ライもしくはレンの元へと行って頂きたい。


あの兄弟、それはもう仲が良い。言っちゃ悪いが両方ブラコンだ。


ライは兄が凄いのは当然だと思っているし、何をやっても格好良いと思っている。

ひょっとすると世界で一番格好良いと思っているのではないだろか。

レンは普段飄々としているがライに対しては過保護なところがある。

とは言え、周囲にそれを強要することはないし、俺に対して釘を刺してくるような真似はしない。

あくまで自分が叶えられる範囲だけだ。割となんでも叶えられそうだというのはこの際置いておく。


とにかく、あのブラコン兄弟は、片方の好感度を上げるだけで両方くっついてくる。セット売りだ。


確かに、ライは話しかけ難い印象はあるかもしれない。いや、実際に俺もそう思っていた。

初めて露店に訪れた時の、人形のような作り物めいた笑顔は、まるでこちらに興味がないような印象を受けた。

女性プレイヤーはあの笑顔を高貴だとか神々しいだとか言っているが、先程見かけた冷血系魔王のほうがしっくりくる。


「……まぁ、作り物なのは間違いはないが」


キャラクター作成で作られた顔なのだから、全員作り物だ。

ただ、プレイヤーはもちろんNPCだって、作り物という印象はその時以外受けたことがない。


こんなやつも串焼きを食べるんだな、とか、バグでプレイヤーアイコンになってるNPCなんじゃないか、とか。

混乱した頭で何かを話した覚えはあるが、内容はさっぱり覚えていない。


串焼きを食べた時、人形のような笑顔が崩れて出てきた顔を見て、ようやく人間なのかと納得した。

今になってみればあの笑顔は緊張だとか人見知りだとか、そういう類のものだったのだろうとわかるが。


まだまだ分からないことだらけだが、面白いやつ、だと思う。


何をしでかすかわからないし、ポジティブなんだろうがどうにも斜め上のような気がする。おまけに頑固。

あと、息をするように人を褒める。NPCだろうがプレイヤーだろうが男性だろうが女性だろうが関係ない。

それはレンも同じだが。そういう血なのだろうか。


何にせよ話しやすい相手なのは確かだし、これからも仲良く出来たら良いと思っている。


「……趣味、か」


初対面で突然趣味を聞くのはどうかと思うが、ライは戸惑いながらも普通に答えそうだ。


『TO:ライ FROM:カヴォロ

 趣味はなんだ』


ふと思い立って、メッセージを送る。

ログインはしているようだし、その内返事がくるだろう。


さて、今日は何をしようか。

カプリコーン街に手伝いの依頼を受けに行ってもいいが……。

まぁ、露店だな。新しい道具も欲しいし稼げる間に稼いでおかなければ。


強化効果のある料理についても、手伝いに行ったレストランの料理人のお陰で予想はできた。


最近、鍛冶職人の集まるスレで数十本の失敗を経て付与効果2種類の武器が出来たと盛り上がっていたが、その方法は公表されていなかった。

モンスターの素材で付与する際に成功率を上げる方法がありそうだとかなんとか。

俺も含め、生産職のほとんどが生産過程を公表しないから、それについて思うところはない。

ただ、NPCに聞いたらわかるんじゃないかと思う。もしくはライ……いや、ジオンは知っているだろう。

もっとも、あの武器も、それから俺の包丁も、その方法で作っているわけではないようだが。


「ライのお陰だな」


ライに言われなければ、NPCと仲良くなるなんて選択はしていなかっただろう。したとしても、序盤ではしない。

今になって考えてみれば、この世界の住人なんだから俺達よりもこの世界について知っていて当たり前ではあるのだが。


『TO:カヴォロ FROM:ライ

 突然どうしたの!?

 趣味は筋トレだよ。カヴォロは?』


「……筋トレ……」


やはり、まだまだ分からないことだらけだな。

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