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day23 生産終了

「ねぇ、リーノ。それ何を彫ってるの?」


カヴォロに渡す予定の包丁に細工をしているリーノの手元を覗き込む。

峰に掘られていくそれは花のようにも波のようにも見えるけど、何をモチーフにしたのだろうか。


「これか? キャベツだぜ」

「キャベツ」

「ジオンから聞いたんだけど、カヴォロってキャベツって意味なんだろ?」

「あぁ、なるほど。名前をモチーフにしてるんだね」


自分の名前をモチーフにした彫刻のある包丁というのは自分専用って感じで良いかもしれない。

俺もと言いたいところだけれど本名の来李から取っただけの俺の名前に特に意味はない。


「おっし! キャベツ包丁完成! 次は……レン、2つ目の魔力銃できてるか?」

「うん、出来てるよ。よろしく」

「任せろ! どの宝石使う?」

「んー……こっちの銃は……」


兄ちゃんが銃に現状付いている付与をリーノに説明しているのを聞きながら、カヴォロに包丁が出来たことをメッセージで送っておく。

出来た物は後で纏めて鑑定しようということになったので、今はまだ性能はわからないけど、前回よりも確実に良くなっているだろう。


机に並べられている完成品を眺めると、わくわくと心が躍る。


「ライさん、時間は大丈夫ですか?」

「えぇと……あと40分くらいかな」

「ふむ。でしたら私はここまでにしておきましょう」


出来上がったばかりの武器を受け取り、机に置く。


「お疲れ様、ジオン」

「いえいえ、ライさんこそお疲れ様です」

「ありがとう」


俺ほとんど何もしてない気がするけれど。

リーノの使う宝石は分けておいてあるみたいだし、それ以外の鉱石や宝石は片付けてしまおう。


「装備条件が15と25のものって同じ素材や道具で作れるものなんだね」

「作り方次第ですよ。ですが、これ以上のものは素材も道具も上の品質やランクのものが必要になりますね」

「そうなんだ? カプリコーン街の鍛冶場なら作れるかな?」

「恐らく作れると思いますよ」


ここに来なくなるのは寂しいけれど……たまに遊びに来よう。

はじまりの街の店主さんにも久しぶりに会いたいな。


「違う鉱石が必要になる?」

「違う鉱石も必要ですが、同じ鉱石でも今の品質より上の物が……いえ、全てを魔法鉱石で作るなら大丈夫ですが、売却用のほうは1つ上の品質が必要になりますね」

「それって、採掘スキルレベルを上げたら出るように……いや、それならリーノが出してるか。

 先にある採掘場所で集めなきゃいけないんだろうね」


まぁ、暫くは大丈夫かな。

ジオン曰く、装備条件は5ずつ上がるけれど、大きな差があるわけではないので毎回新しくする必要はないそうだ。


初期装備のままの防具はいい加減替えた方が良いかもしれない。

でも、今のところ困ってないし……2回死んだけれども。

1度目はヌシだったし、2度目は新しい防具だったとしても死んでいただろうからノーカンだ。


兄ちゃんも初期装備のままらしいけれど、新しくしたところで一回当たったら死ぬと言っていた。

どの程度なら大丈夫なのかと、はじまりの街の周りにいるスライム相手につい先日試してみたところ、1回の攻撃で死んでしまったらしい。

ちなみに、その時の兄ちゃんのレベルは21になったばかりでHPは110だったそうだ。


種族特性で下がっていると言っていたけど、兄ちゃんの防御力はどうなってしまっているのだろうか。

誰もいないところで試して良かったよと笑っていたけれど、俺もその立場なら余りの酷さに笑っていたと思う。


「完成!」


リーノの声が今日の作業が終わったことを告げる。


「リーノ、お疲れ様」

「おう! ライもな!」

「ありがとう。それじゃあ……早速、見ていこうか」


俺達は机に並べられた武器を眺めて頷く。


「それじゃあまずは……俺の刀からね。【鑑定】」


『風華雪月☆4 攻撃力:48

 装備条件

 Lv25/STR6/INT20

 効果付与

 氷晶属性+26

 麻痺+6』


細身で軽いその刀には、3つの小さな青色の宝石を囲むように模様が刻まれている。

今装備している《雪月華》に刻まれた模様と似ているが、もしかしたらこれも何か俺に纏わるモチーフなのかもしれない。


見えているステータスを口に出すと、ジオンはほっとしたように息を吐いた。


俺のSTRが低いせいで、ジオンには苦労を掛けている。

本来はもっと攻撃力が高い刀が作れるところを、出来る限り軽くして、それでも攻撃力が減り過ぎないようにと調整に調整を重ねて作ってくれているのだ。


氷晶属性が前回より増えているけれど、使っている氷晶玉鋼の数が変わっているわけでなく、氷晶玉鋼に融合されている数値の差だ。

前回は数値が+1のものもあったが、今回は全て+2のものを使っている。

前回と比べて+1よりも+2が出来る方が圧倒的に多く、恐らく融合する魔法のスキルレベルに関係しているのではないかと兄ちゃんは言っていた。


「次、ジオンの刀ね?」


『氷壺秋月☆4 攻撃力:64

 装備条件

 Lv25/STR24/INT10

 効果付与

 氷晶属性+12

 冷気+14

 麻痺+12』


STRがあればこれだけの攻撃力の刀を装備出来るんだなと思いながら、数値を伝えていく。


「……凄いな」


兄ちゃんが呆れているような、それでいて感心しているような声で呟く。

ジオンが作る武器は凄いでしょうと得意げに笑って見せると、兄ちゃんは楽しそうに笑った。


「次は……どうする? アクセサリーから鑑定する? 包丁?」

「キャベツ包丁にしようぜ! ひょっとしたらキャベツ包丁って名前になってっかもしれねぇからな!」

「その名前は……どうなのかな……」


『雪菜包丁☆4 調理:34

 使用条件

 料理スキルLv15/DEX15

 効果付与

 冷気+10

 耐毒+4』


「雪菜じゃなくてキャベツだっつーの」

「冷気で『雪』、キャベツで『菜』の名前が付いた結果、違う野菜になったのかな」


雪菜は小松菜に似ている葉物の野菜だ。


「それにしても、耐毒?」

「耐毒は包丁の場合、錆び難くなるんですよ」

「へぇ~錆は毒なのか……うん、包丁にとっても使い手にとっても毒には違いないのかも」


ふと、小さく笑っている兄ちゃんに気付いて、口を開く。


「どうしたの? 兄ちゃん」

「ううん。こんな凄い包丁、初めて見たよ。さすがだね」

「これ、相場いくらかな?」

「んー……正直、わからないな。10万CZ以上はすると思うよ、これ」

「10万!? さすがに高過ぎじゃない!?」

「それ以上出してでも買いたいって言う料理人はたくさんいると思うよ。

 特に、今はイベント前だからね。イベントが終わった後も、この数値なら暫くの間買い替える必要もなくなるし。

 20万CZでも売れると思うよ」


張り切り過ぎたようである。

そんな値段じゃ誰も買わないのではないだろうか。売れるからこそ値段が高くなるのだとは思うけれど。


「……10万CZだってカヴォロには伝えるよ」


納得してくれなさそうだから、何か押し切る理由を考えておかなくては。


「さて、次はリーノが作ってくれた指輪だね!」


兄ちゃんの分も含めて4つの指輪を鑑定する。

俺とリーノは赤色、ジオンと兄ちゃんは青色の小さな宝石が嵌められているシンプルな指輪だ。


『魔力の指輪☆3

 魔法攻撃力:4

 防御力:1

 魔法防御力:4

 効果付与

 麻痺耐性+1

 魔力回復+2』


『耐久の指輪☆3

 防御力:5

 魔法防御力:4

 効果付与

 麻痺耐性+1

 体力回復+2』


俺とジオン、兄ちゃんは《魔力の指輪》、それからリーノが《耐久の指輪》だ。

《魔力の指輪》の性能は3つとも同じである。

ジオンの作った武器も同じ名前かつ同じ品質のものは、使った魔法鉱石によって付与効果やその数値に差はあるものの、それ以外の数値、例えば攻撃力なんかは同じだ。

兄ちゃん曰く、本来は差が出るものらしく、スキルレベルが☆であるジオンとリーノだからだと言っていた。


俺達は早速指輪を指に通して装備する。

これで俺は初期装備である《旅人の腕輪》を含めてアクセサリースロット3つが全て埋まっている状態になった。

《旅人の腕輪》の性能は良いとは言えないので、リーノがまた何かを作ってくれた時はそちらに替えてしまおう。


「じゃあ、売る用の武器はばーっと鑑定しちゃうね?」

「そうですね。時間もあまりありませんし、装備条件の確認だけして頂ければ問題ないかと」


ジオンの言葉にこくりと頷いて、机に並べられた16本の武器を鑑定していく。

今回からは装備条件が15だけでなく、25のものも数本用意している。

皆レベル上げしてるみたいだし、そのほうが良いだろうと兄ちゃんが言っていたためだ。


「うん、大丈夫。ちゃんと15と25両方あるよ」

「それは、良かったです」

「ピアスも一気に鑑定しちゃって良い?」

「おう、構わねぇぜ!」


リーノのアクセサリーも一緒に売ろうということになり、今回から一緒に渡すこととなった。

元々使う鉱石と宝石の数が少ないので両方に付与効果があっても問題はないけれど、一応、1つ分にしてある。

売れるかな? リーノが作ったアクセサリーなんだから売れるはずだ。


「うん、問題なし!兄ちゃんの銃はどんな感じ?」

「俺の銃は、まぁ、銃工のスキルレベルに見合った普通の……では、ないか。

 魔法攻撃力はスキルレベルに見合ったものだけど、融合と凝固、それから細工のお陰でそうそう手に入らない魔力銃が出来たよ」

「そっかぁ! それなら良かった。次の装備条件からここの鉱山の鉱石じゃ作れなくなるみたいだから、手に入ったら言うね。

 あ、もう、空さんが集めてるかな?」

「空は使う生産スキルを取る予定が今のところないみたいで、鉱石や宝石は集めてないんだよね。

 あ、そうだ。忘れてた」


そう言った兄ちゃんから届いた取引申請を承諾し、取引ウィンドウが表示される。

画面を眺めているとそこに《楓食器セット》が3つ置かれた。


「楓食器?」

「楓の木で作られた食器だよ。えーと、大中小の皿とスープ皿? 

 それから、箸、フォーク、スプーンと……あ、そうそう、マグカップ。

 が、セットになってるんだって。これ、空からライにあげといてって渡されたんだ」

「? なんで?」


ぱちりぱちりと目を瞬いて、兄ちゃんを見る。


「使い勝手を教えて欲しいんだってさ」

「うん? それは良いんだけど……なんで俺?」

「あー……見かけた時、大体食べ物を食べてたからって言ってたかな……」

「……俺、食いしん坊だと思われてるの……えっ、というか、空さん、俺の事見かけてたの!? どこで!?」

「んー……最初はフィールドの安全地帯で簡易食糧を凄い顔で食べてた所を見かけたって言ってたかな?

 その時は俺の弟とは知らなかったし、たまたま目に入っただけなんだろうけど」


あの味では凄い顔にもなるだろうと思いつつ、そんなところを見られていたとは恥ずかしい。

それにしても、最初って。どれだけ俺を見かけていたんだろうか。


「それから、市場で食べ物探してる時とか、レストランに入っていく時とか……まぁ、食べ物関係の時ばかり見かけてたらしいよ」

「そんなの、俺だけじゃなくて誰だってしてるじゃん!」


別に、俺は1日5食とか6食とか食べているわけではない。

普通に、ログイン時間にもよるけど、朝昼晩の3食だ。

空腹度があるのだから皆同じだろう。


「まぁ、そうだね。だから、たまたまだよ。

 たまたま空がライを見かけるのが食べ物を食べていたところばかりだったってだけで……ふっ」

「もう! 兄ちゃん、笑ってる場合じゃないよ!」


そりゃ食べるのは好きだけど、食いしん坊ではない。心外である。


むすっとしているのを隠しもしないで、アイテムボックス内から兄ちゃんが使いそうな魔法鉱石をウィンドウに並べる。

それから、売り物の武器とピアス、凝固されていない宝石も並べて……ふと兄ちゃん側にある金額欄を見て目を見開いた。


「え!? 多くない!?」

「はは、ライは毎回その反応だなぁ」

「いや、だって! あ、待って、いちじゅう……111万CZだよ!?」

「んー前に売った時と値段は変えてないよ。ただ、前回より本数があったからね」


貰う度に増えていく売却金額に驚かないわけがない。

それとも皆はこれを当然のように、クールに受け取れるのだろうか。

確かに、兄ちゃんだったら少し目を細めた後すぐに笑ってお礼の言葉を言っていそうだ。


「ぬぅ……ありがとう」

「うん、ロゼと朝陽に伝えておくよ」


『取引完了』アイコンに触れて完了させると、所持金が113万となった。

心臓に悪い金額である。後で絶対に銀行に行かなくては。


「それじゃ、そろそろ出ようか」


兄ちゃんの言葉に頷いて、俺達は鍛冶場から出る。


「この後兄ちゃんは何するの? 狩り?」

「うん、夜だからね。新しい装備も試したいし。

 でも、その前にアリーズ街に行って渡してくるよ。ライは?」

「俺は夜ごは……あ、待って」


言葉の途中でメッセージが来たのでウィンドウを開いて確認する。


『TO:ライ FROM:カヴォロ

 もう作ってくれたのか。ありがとう。

 いつ受け取りに行けばいい?』


『TO:カヴォロ FROM:ライ

 いつでも大丈夫だよ。

 カヴォロは今カプリコーン街にいるの?』


『TO:ライ FROM:カヴォロ

 アリーズ街で露店を出している。

 ライはどこにいるんだ?』


カヴォロもアリーズ街か。

夜ご飯を食べようと思っていたけれど……あ、そうだ。


『TO:カヴォロ FROM:ライ

 俺は鉱山の村だよ。今から行ってもいい?』


「兄ちゃん、俺もアリーズ街一緒に行く!」

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