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day21 牧場

「カヴォロ、村が見えるよ」

「あぁ。もうすぐだな」


森を抜けると広い野原が広がっており、その先に村を確認することができた。

辺りを見渡せば森の中にいたホワイトウルフは一切おらず、狼のような、それでいて狐のようにも見えるモンスターがうろついている。


ホワイトウルフは初めての遠距離から魔法攻撃をしてくるモンスターだった。


魔法スキルを使ったことがないから知らなかったけど、魔法攻撃はノーコンだとしても細かい調整はできないがある程度は敵対相手に追尾するそうだ。

大きなモンスターならともかく、小さなモンスターだと当てるのが厳しいからだろう。動き回っているなら猶更だ。


とは言え、完全に追尾するわけではないので避けることはできる。まぁ、俺は数発当たってしまったのだけれど。

ただ、俺はDEFは16と低いがMNDは36と高いので、ホワイトウルフと比べて恐らく適正レベルが低いはずのキラービーに針で刺される方がよっぽどダメージが大きい。


「カヴォロ、どうする? えーと……『グラトランス』、倒しながら行く?」


その問いにカヴォロは、俺と同じくグラトランスへと視線を向けた。


「恐らく肉を落とすんだろうが……正直、ずっと戦い続けだったからうんざりはしている」

「あはは、俺もだよ。走る?」

「あぁ、そうしよう」


ジオンとリーノが頷いたのを確認して、走り始める。

こちらに牙を剥いて飛び掛かってくるグラトランスを避けて、避けて、避け続けて走り抜ける。

ホワイトウルフのように遠距離の魔法攻撃だったら走り抜けるのは困難だっただろうけれど、どうやら噛みつく攻撃がメインのようなので助かった。


そうは言っても、相手は動物……恐らく動物なのでそもそもの機動力が違う。

どれだけ必死に走ろうと追いつかれてしまうだろう。

ただ、モンスターは最初にいた場所から一定距離以上離れると追いかけてこなくなるので、それまでに追いつかれなければ逃げ切ることができる。

村までの距離が短いから出来る方法ではあるけれど。

ちなみに一度離れると、モンスターのHPは削れていたとしても全快するようだ。


辺りはすっかり夕日に染まっている。

キラービーの大量発生がなければ2時間程早く到着できていただろうけど、過ぎてしまえば面白い経験ができたから良いかと思う。


グラトランスから逃げ続けて走ること約10分。無事牧場の村の入口に辿り着いた。

息は乱れていないけれど、一度大きく深呼吸をして辺りを見渡す。

どの民家にも大きな畑があり、様々な植物が育てられている。


現在の時刻は『CoUTime/day21/17:32』だ。


「この時間じゃ牧場には行けそうにないね。宿を探そうか」

「そうだな。牧場は明日行こう」


周囲の風景を楽しみながら、宿を探して村を歩く。

建物の数は鉱山の村より少ないようだが、畑があることもあって建物と建物の距離は離れている。

恐らく、畑がない建物が商店や宿なのではないだろうか。


「おやおや、異世界の旅人さんだね?」


畑で作業をしていたお婆さんが俺達に気付いて笑顔で声を掛けてくれる。


「こんばんは。宿を探しているのだけれど、どこにありますか?」

「宿はねぇ、あの建物だよ」

「レンガの屋根の建物だね。ありがとう、お婆さん」

「お兄さんたちは観光かい?」

「牧場にきたんだ。前にアリーズ街で行商の人に教えてもらったんだけど」

「おや。ちょっとここで待っててくれるかい?」

「? うん。わかった」


お婆さんは傍に置いていた野菜の入った籠を抱えると、家の中へと入って行く。

言われた通り暫く待っていると、お婆さんと一緒にアリーズ街にいた行商人のお兄さんが出てきた。

俺に気付いたお兄さんは笑顔で俺達の元へと寄ってきてくれる。


「婆さんに知り合いがきてるって聞いて誰のことかと思ったが、アリーズ街で牛乳買って行った兄ちゃん……そういや、名前聞いてなかったな。俺はクリントだ。兄ちゃんは?」

「こんばんは、クリントさん。俺はライだよ」

「ライか。改めてよろしくな! 本当にきてくれたんだな。牛乳飲んだか?」

「それが……グラスを持ってなくて飲めなかったんだ。

 あ、でも、カヴォロ……あ、彼がカヴォロなんだけど」


カヴォロがぺこりと頭を下げる。


「カヴォロがバナナジュースとプリンを作ってくれたよ。それがもう凄く美味しくてね」

「へぇ! カヴォロは料理人か?」

「……あぁ、そうだ。プリンは1つ残ってるから、是非食べてくれ。

 あんたの所の牛乳を使ったやつだ」


そう言ってカヴォロはアイテムボックスからプリンを1つ取り出し、お兄さんへと手渡した。


「いいのか? ありがとう。早速食べていいか?」


お兄さんの言葉にカヴォロが頷く。

時間的に夕食前だと思うのだけれど、今食べてしまうのかとお兄さんがプリンを小さなスプーンで掬うのを眺める。


ちなみに小さなスプーンはコンビニでプリンを買った時なんかに貰えるプラスチックのスプーンによく似たものだ。

カヴォロ曰くプリンが出来た時に容器と共に一緒に出てきたと言っていた。

食べ終わると容器もスプーンも消える。便利なものである。

ただ、持ち歩きに向かない、例えば野菜炒めとかステーキだとかは容器や箸等は一緒に出てくるわけではないらしく、【木工】なんかのスキルで作られたものを用意しなければいけないとのことだ。

木工品の露店は見たことがなかったのだけど、もしかしたらグラス……コップは売っていたのかもしれない。


「これは、うまいな!」

「美味しいよね。カヴォロは凄い料理人なんだよ」

「いや……別に、そんなわけでは……」

「……あ、そうだ! ライとカヴォロ、それから従魔の兄ちゃん達もうちに泊まっていかないか?」

「いいの?」


俺の答えにカヴォロがこちらに視線を向けたのがわかる。何か変なことを言ってしまっただろうか。


「おう。頼みたいことがあるんだよ」

「頼みたいこと?」

「それがなぁ……母ちゃんが腰をやっちまっててなぁ……父ちゃんの料理は焼くだけだし、その上焼き過ぎるもんだがら苦くてしょうがねぇ。

 まぁ、俺も似たようなもんで碌に作れやしないんだよ」

「なるほど? カヴォロに夜ご飯を作って欲しいってこと?」

「そういうこった。図々しいとは分かってるが……どうだ? 材料は俺ん家にあるやつ使っていいからよ」


カヴォロは少しの間逡巡した後、頷く。


「わかった。俺達もちょうど宿を探していたところだったから、助かる」

「決まりだな! 助かるよ」

「おやおや。それじゃあうちの野菜を持って行きなさいな」

「おう、ありがとな婆さん」


再度家に戻って野菜を持ってきてくれたお婆さんからそれを受け取り、お礼を言ってクリントさんに案内してもらいながら牧場へと向かう。

俺達が入ってきた村の入口以外にこの村には入口はないらしく、牧場は村の一番奥に位置している。

クリントさんがお婆さんの家にいたのは卵を届けに来たそうで、お婆さんが畑で夜ご飯用の野菜を収穫している間は光球とやらを替えてあげていたとのことだ。多分電球のようなものだと思う。


「あれが、俺の家だ……あ? なんだ?」


怪訝そうに眉を寄せるクリントさんの視線を辿ると、家から慌てた様子の男性がこちらに向かい走ってくるのが見えた。


「―――い! おーい! クリント! 大変だ!」

「父ちゃん、どうした?」


どうやらクリントさんのお父さんだったようだ。

お父さんは動転した様子でクリントさんの肩を掴み大きな声を上げる。


「グラトランスが柵を壊して入ってきやがった! 動物達は畜舎にいるから今のところ被害はないが、畜舎の扉なんぞすぐぶち破られるぞ!」

「なに!? くそ……なんだって村に兵がいない時に限って……とにかく、なんでもいいから畜舎の扉を補強するぞ!」

「だが、グラトランスはどうする!? 俺達では倒せないぞ!?」

「なんとか、追い出すしかない! 追い出して、柵も直さねぇと!」

「追い出すなんて無理だ!」

「無理でも、しなきゃなんねぇだろ!!!」

「……俺が倒すよ!」


ヒートアップする親子の会話に口を挟むのは憚られたが、一刻を争う事態のようだと会話から伺える。

ここで争っている場合ではないはずだ。


「……あんたは……?」

「俺は、いや、話は後にしましょう。今は案内してください」

「……行くぞ、ライ! 父ちゃんはカヴォロを台所へ案内してくれ!」


俺の言葉に大きく頷いて走り出したクリントさんの後を俺とジオン、リーノの3人で追う。


「お、おい!? クリント!!!」

「……詳しい話は、俺からする」


背後からお父さんとカヴォロの声が聞こえた。

カヴォロに感謝しつつ、クリントさんの後を追う。


「あそこか……!」


放牧地を囲む柵の一部が壊されているのが見えた。

そこから中へ入ってきたのであろうグラトランスが畜舎の前をうろついている。


「俺は柵を直すのを手伝うぜ。手先は器用なほうだし手伝えるはずだ。

 柵に使ってる木は魔物避けのものだよな? 材料と道具はあるか?」

「納屋にある。リーノ、運ぶのを手伝ってくれるか?」

「当然。んじゃ、ライ、ジオン。グラトランスは任せたぜ!」

「うん。柵は任せたよ」


納屋へと走るリーノとクリントさんを見送りつつ、腰から刀を抜き構える。


「柵の修理が始まったら、そっちはジオンに任せて良い?」

「はい。お任せください」


柵の中にいるグラトランスより、外にいるグラトランスのほうが数が多いので、俺一人では厳しそうだ。

さっきは走って逃げただけなので、戦ったことのない相手ではあるけれど、まぁ、多分大丈夫だろう。


「それじゃあ、行こうか。ジオン」





「いやぁー助かった! ありがとう!! お陰で路頭に迷わなくて済んだ!

 っかー! それにしても、うめぇなぁ! おい、カヴォロ! うめぇぞ! 食ってみろ!」

「いや……あ、あぁ。食べる! 食べるから! 押し付けるんじゃない!」


ビールを飲んで上機嫌なクリントさんのお父さんは大きく笑って本日6度目となる感謝の言葉を並べた。

喜んでくれたようで何よりだ。


「ったく、父ちゃん、何回言うんだよ……。

 まぁ、本当に助かった。料理だけじゃなく、討伐までしてもらって、悪かったな」

「ううん。被害がなくて良かったよ」


グラトランスは数は多いものの、ワイルドウルフとよく似たパターンだったため時間は掛かったが倒すことはそう困難ではなかった。

レベルも上がったし、一宿一飯の恩も返せて一石二鳥である。


ちなみに、柵を直していたリーノのレベルも上がって、念願のレベル10となり盾を装備することができるようになった。

けれど、パーティを組んだままになっているカヴォロは上がっていないそうで、アイテムも入っていなかったようだ。

従魔だからだろうかとも思ったが、恐らく距離の問題だろう。


「ライ達は牛乳を買いにきたんだよな?」

「うん。あと、カヴォロが卵かな?」

「そんじゃ、明日の朝、新鮮なやつを用意するよ。

 その後はどうするんだ?」

「んー……カヴォロはわからないけど、俺達は鉱山に行く予定だよ」


ちらりとカヴォロへと視線を向ければ、上機嫌に話すクリントさんのお父さんに困惑の表情を浮かべている。


「鉱山か……どこの鉱山に行くんだ?」

「アリーズ街の近くの鉱山の村だよ。その前に街に行かなきゃいけないけど」


牧場の村には転移陣がないので、一度街へ行かなければならない。

地図を見る限り、ここからならアリーズ街へ戻るよりも、次の街へ行くほうが遥かに近いので、明日は新しい街に行くことになりそうだ。


「カプリコーン街に行くのか?」

「うん? あ、うん、そうだね」


そういえば、次の街はカプリコーン街と地図に書いてあったなと思い出す。

アリーズ街、カプリコーン街、トーラス街……なるほど、星座か。


「そいつは丁度いい。明日はカプリコーン街へ行商に行く予定だったから、一緒に行かないか?

 出発は早いが、魔物避けの幌馬車で行くから安全だぞ。まぁ、あんだけ強けりゃ問題なく行けるだろうけど」

「俺達も乗って行っていいの?」

「もちろん。乗り心地はあんま良くねぇけどな」


馬車の旅だなんて凄く楽しそうだ。

ジオンとリーノも楽しそうだと笑って頷いている。


「ありがとう、クリントさん。是非お願いします。

 カヴォロはどうする? クリントさんがカプリコーン街まで幌馬車で送ってくれるって」

「いいのか? 助かる」

「決まりだな! 7時に出発だが、大丈夫か?」


ウィンドウで時間を確認して計算する。

この後、お昼ご飯のために一度ログアウトして、明日の7時ということは、現実時間で……うん。大丈夫だ。


「大丈夫だよ」

「俺も、大丈夫だ。朝食はいつも何時に取っている?」

「朝食も作ってくれんのか? ありがたいが、5時とかなり早い時間だから無理しなくていいぞ?」

「……わかった。5時だな」


牧場の一日は早朝から始まるとは聞いたことがあるが、本当に早いんだなと驚く。

ご飯を食べた後に先に寝室で休んでいるクリントさんのお母さんは腰を痛めてあまり動けないようだし、動物のお世話の手伝いができたらいいんだけれど。


「うっし! それじゃ、明日も早いし、そろそろ寝るか。

 おい、父ちゃん。いつまでもカヴォロに絡むんじゃない。寝るぞ」


クリントさんのお父さんは少し不満そうな顔をするが、クリントさんの言葉に頷いて立ち上がり、最後にまた感謝の言葉を残してリビングから出て行った。


「さて、部屋に案内するからついてきてくれ」

「洗い物はいいのか?」

「いいっていいって。さすがにそれは俺にさせてくれ」


席を立つクリントさんの後を追い、部屋へと案内してもらう。

4人も泊まる場所があるのかと疑問だったが、忙しい時には住み込みで人を雇うそうで、今は部屋が空いているそうだ。


クリントさんとカヴォロ、それからジオンとリーノにおやすみの挨拶をして、案内された部屋の中へと入り、ベッドの上にごろりと横になる。


今日は色々あったけど、楽しかったな。

明日は幌馬車でカプリコーン街だ。

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