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day21 大量発生

「カヴォロ!!」

「っ……大丈夫だ、回復した。【水弾】」


倒れたカヴォロから放たれた水弾によって、キラービーはエフェクトと共に消えていく。

一息つきたいところではあるが、俺達の周りには十数匹のキラービーがこちらに敵意を持って飛び回っており、とてもじゃないが休んでいる暇はない。


迫りくるキラービーの針を避け、叩き付けるように上から斬り付ける。

ちなみに、刺されると麻痺状態になる。実際に後ろからぶすっと背中を刺されたので間違いない。


頭程の大きさのキラービーのお尻の針は、現実世界にいる蜂と比べて当然大きく、それでいて、先端はとても鋭い。

まさかゲームの中で初めて蜂に刺されるとは思いもしなかった。

ゲームの中なので痛みはほとんどなく、爪楊枝でつんっと刺された程度のものではあったけれど、普通に怖い。

1、2匹相手であれば避けきることができるけれど、さすがに数十匹もいると無理だ。

最初に比べると十数匹まで減ったとは言え、倒しきるまでにあと何度刺されることになるやらと溜息を吐く。


盾を買った後、カヴォロからメッセージが届き、『CoUTime/day21/12:30』に露店広場で待ち合わせをすることになった。

待ち合わせまでの時間はお昼ご飯を食べたり、ウィンドウショッピングをして楽しんだ。

カヴォロと落ち合った後は、ローヤルゼリーと蜂蜜を集めるためにキラービーを倒しながら順調に牧場へと向かっていた。


大きな蜂の巣を見つけるまでは。


蜂に追い掛け回されるのは目に見えていたので、蜂の巣にちょっかいを出すつもりなんて当然なかった。

大木、いや、巨木と言ったほうが良いだろう。巨木に作られたこれまた大きな蜂の巣を遠くから凄いね、大きいねと眺めていただけだ。

だと言うのに、何故だか、本当に何故だかさっぱりわからないのだけれど、ぼとりと蜂の巣が地面に落ちた。


かくして、俺、ジオン、リーノ、カヴォロ対キラービー数十匹のデスゲームが開始したのである。


「リーノ!」

「おう! 【雷弾】!!」


魔法を放つリーノをちらりと見て、改めて安堵する。

今日一番大変な目に合っているのは間違いなくリーノだろう。


盾が装備できていたのなら盾でガードしていたら大丈夫だったであろうが、装備できていないので刺されたら当然麻痺になる。

ピアスに麻痺耐性が3付与されているものの、3ではほとんど効果はない。

そもそも、麻痺耐性というのが麻痺になりにくくなるのか、それとも、麻痺時間が短くなるのかはわかっていないのだけれど。


ぼとりと落ちてきた後、俺達は急いで走って逃げようとしたのだけれど、すぐに囲まれてしまった。

カヴォロを庇って腕を刺され、地面に倒れたリーノをキラービー達は一斉に追い打ちをかけるようぶすぶすと針を刺し続けた。

それはつまり、回復する間もなく麻痺を上書きで重ね続けられているということで。

俺達は地面に倒れ伏して動くことができないリーノをポーションと【従魔回復】で回復しつつ、リーノを狙うキラービー達を相手に大暴れすることとなった。

防御力が高いリーノだったからなんとか生き残れたけれど、俺だったら間違いなく死んでいただろう。


「あと6匹です! ライさん大丈夫ですか!?」

「大丈夫! 動けないけど!」


麻痺で倒れた人を全力で守りながら倒し続けること約2時間。ようやく終わりが見えてきたようだ。

何度麻痺で倒れたかわからない。死ぬかと思った。

次に露店広場に行った時は麻痺を治すポーションを是非とも買おう。絶対に。


「……回復した!」


上半身を起こしながら、向かってくるキラービーを刀で薙ぎ払う。


「【氷晶弾】!」

「ありがとう、ジオン!」


俺の攻撃で勢いを殺されたキラービーにジオンが止めを刺したのを見ながら、急いで立ち上がって刀を構える。


「【火弾】! ライ、後は任せる!」

「うん! 任せて!」


カヴォロの火弾が命中したキラービーを刀で薙ぎ払えば、僅かに残ったHPが0になり、消えて行く。

あと、4匹だ。


「【刃斬】!!」


俺を目掛けて飛んでくるキラービーにスキルを発動する。

当然ながら満タンのHPをスキル一発で削りきることは出来ないので、休むことなく攻撃を仕掛けていく。


「【氷晶魔刃斬】!」


視界の端でキラービーが倒されたエフェクトが舞うのが見える。

さすがジオンだ。早い。


「あと、2匹!!」


HPが0になったのを確認してすぐに次のキラービーへと駆け寄る。


「カヴォロ!」

「あぁ! 【水弾】!」

「【連斬】!!」


どうやらキラービー相手には水弾より、火弾のほうがダメージを与えられるようだ。

2つのスキルレベルの差はないと言っていたし、弱点なのだとわかる。

とは言え、そこまで大きなダメージ差ではないので、どの弱点にも対応できるようにと色んな属性を覚える必要はないだろう。

まぁ、俺は覚えられないけれど。


「ライさん、こちらは終わりました!」

「俺も、もう終わるよ!」


針を避け、斬る。残るHPはあと僅かだ。


「これで、終わり!!!」


気合を入れて振るった刀の刃先がキラービーの体を切り裂き、エフェクトと共に最後のキラービーが消えて行く。


「はぁ~……終わった……」

「あぁ……終わったな……」


カヴォロと共に大きく溜息を吐く。


「リーノ、俺の代わりに何度も攻撃を受けてくれて助かった」

「いいってことよ! 戦闘じゃ出来ること少ねぇしなぁ、俺。

 はぁ~……装備できる盾買っときゃよかったなぁ~……」


カヴォロの言葉ににかりと笑ったリーノだったが、言葉を紡ぐ内に口を尖らせてがくりと肩を落とした。


「キラービー殲滅でレベル8になってるし、あと少しだよ」

「おう! そうだな!」


ウィンドウを閉じて、辺りを見渡す。


「あ、蜂の巣」

「ん……あぁ、蜂蜜が取れるだろうか」


あれだけ大量にキラービーを倒したのだから、たくさんの蜂蜜がドロップしていると思うけれど、更に蜂蜜を求めるカヴォロに小さく笑う。


完全に危険がないとは言えないので恐る恐る蜂の巣に近付くが、手を伸ばせば簡単に触れられる距離まで来ても何も起こらないので、恐らく大丈夫なのだろう。

嫌って程聞いたぶんぶんという羽音も聞こえてこないし。


大体直径は2メートル程だろうか。横幅は縦と比べて少しだけ細く、歪な楕円形の巣だ。

これにあれだけのキラービーが全部入っていたとは思えないけれど、そこはまぁ、ゲームだからということだろう。


「ところでカヴォロ、蜂の巣から蜂蜜ってどうやって取るの?」

「……わからない」

「だよねぇ。 割ってみる?」

「いや、待て。最終的に割るとしても初手で割るのはやめろ」


割るのは最終手段か。確かに、昔見た絵本のように中にたっぷり蜂蜜が入っているのだとしたら、割った瞬間地面に零れてしまう。

実際はあの絵本のように蜂の巣の中いっぱいにとろりとした蜂蜜が入ってるってわけじゃないだろうけれど、玉鋼がつるはしで取れる世界だ。

大いにあり得るのではないかと蜂の巣を眺める。穴を開けて中を覗いてみたいが、どうだろうか。


とは言え、どうやって穴を開けたものかと手を伸ばして蜂の巣の表面に触れてみると、ピコンと音を立ててウィンドウが現れた。

そこには『取得権があります。取得しますか?』と表示されている……が。


「あれ……?」

「どうした?」

「いや……触ったらウィンドウが出て、取得権があるから取得するかって表示されたんだけど、選択肢がないんだよね」


俺の言葉に首を傾けたカヴォロが、蜂の巣へと手を伸ばす。


「……ライは採取は取ってるか?」

「ううん。取ってないよ」

「なるほど、採取スキルが必要らしい。俺のウィンドウでは選択肢が出ている」

「そういうこともあるんだ。なるほどねぇ」

「とりあえず、俺が取得していいか?」

「うん、もちろんだよ」


カヴォロがウィンドウに触れると、目の前にあった大きな蜂の巣は瞬く間に消えてしまった。

取得できたということで問題ないだろうか。


「……アイテムボックスに入ったぞ。

 《キラービーの上級蜂蜜》と《キラービーの上級ローヤルゼリー》が大量だ」

「上級? なるほどねぇ。取得権ってのはやっぱり、さっき大群を倒したからだよね?」

「恐らくそうだろうな」

「苦労した分、質の良いものが取れるってことだね」

「あぁ、そうだな。

 ……さて、少し休憩したいところだが、ここではまた蜂に出くわしそうだな」

「んー近くに安全地帯はー……」


巨木の後ろに広がる森を眺める。地図によれば、牧場はこの森を抜けた場所だ。

まぁ、地図には木が数本描かれていただけだったので森があるとは思っていなかったけれど。


「森の入口の傍にありそうだよ」

「助かったな。行こう」


森の中は先程までの草原や花畑の広がる地帯とは違い、木々が生い茂り少しだけ暗い。

俺達は森に入ってすぐにあった安全地帯の湖の傍に腰を下ろす。

木々の間から差し込む光が湖にきらきらと反射していて、凄く綺麗だ。


「ワイルドウルフ……では、ないね。色も白いし」

「……『ホワイトウルフ』か。見た目通りの名前のようだな」


安全地帯から見える白の狼、もとい、ホワイトウルフの姿を眺める。

現在は俺達に興味はなさそうだけれど、安全地帯から出たらすぐに襲い掛かってくるだろう。

初めてのモンスターなのでどんな攻撃をしてくるかはわからないけれど、倒さなければ牧場へ辿り着けそうにない。


アイテムボックスからマップを取り出し、現在地を確認する。

アリーズ街から鉱山の村への距離と時間を考えると、アリーズ街から牧場までは順調に進めば3時間くらいだろう。

残念ながら、順調ではなかったので2時間程で来ることができたであろうこの場所に辿り着くのに4時間近く掛かっているが。


「うーん……違う道に来てるなんてことはない、かな?」

「多分、大丈夫だと思うが……わかりにくいな」


MMORPGやオープンワールドのRPG等にある現在地やマーカーなんかができるマップ機能は『Chronicle of Universe』にはないようだ。


「あ、スキルで何かないかな」

「なるほど」


俺とカヴォロはスキル一覧を開いて、マップに関するスキルを探す。

もし、マップ機能が追加されるスキルがあるのなら、地図を買った意味がなくなるけれど。


「……どんなスキルかはわからないが……【地図】というのがあるぞ」

「ん……あ、あったあった」


必要SPは5。【地図】という名前だけではどんなスキルなのかさっぱりわからない。

覚えてからでないとスキルの詳細を見ることができないので、名前で予想するか誰かに聞くしかない。

ジオンに視線を向けてみるが、頭を傾けているところを見るとどんなスキルか知らないのだろう。


「うーん……ま、いっか。覚えてみる」

「いいのか?」

「うん。SPは結構あるし、大丈夫だよ」


SP5を使用して【地図】を取得する。


「あっ。あれ!?」


取得したと同時に、手に持っていた地図がエフェクトと共に消えてしまい、慌ててウィンドウを確認する。

マップ機能が追加されている様子はなく、スキル詳細には『地図が少し便利になる』としか書かれていない。

これまでのスキルも詳細を見たらなんでもわかるというわけではなかったが、それにしたって雑ではないだろうか。


試しに【地図】と念じてみるが、マップのウィンドウが開くということもなく、首を傾ける。


「どうだ?」

「うーん……地図が消えただけ……あ、アイテムボックスにあった。

 けど……ただの《地図》になってる」


先程まで《地図・壱ノ国》と《地図・弐ノ国》がアイテムボックスに確かにあったのに、今は《地図》が1つだけだ。

アイテムボックスから取り出して広げてみると先程まで持っていた《地図・弐ノ国》と比べて大きくなっており、壱ノ国と弐ノ国両方の地図が描かれていた。


「見て、カヴォロ! 合体した!」

「なるほど……これはいいな」


店主さんに貰った《地図・壱ノ国》とアリーズ街で買った《地図・弐ノ国》はそれぞれで1つずつアイテムスロットを埋めていた。

この先、国を移動する度に地図を買っていたらアイテムボックスが地図まみれになるなと懸念していたけど、これで解決だ。


「あ、あと、現在地がわかるみたい。見える?」


木が数本描かれた辺りに表示されている小さな足跡のマークを指差して尋ねると、カヴォロは首を横に振った。

合体した地図は地図スキルを持っていなくても見れるけど、現在地は地図スキルを持っていないと見えないということだろう。


「まぁ、指差していたところが現在地ってことは、方向は合っていたようだな。

 そろそろ行くか?」

「うん、そうだね。暗くなる前に辿り着きたいし」


さて、まずは安全地帯の外でうろうろしているホワイトウルフとの戦闘だ。

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