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day21 ショッピング

「へぇ~ベルトポーチって言うんだ?」

「おう。つるはし入れてるやつもそうだぜ」


右腰のベルトに提げられているつるはしの入ったポーチとは逆の左腰に、新たなポーチを提げているリーノを眺めながら、色々あるんだなと感心する。

どちらも皮で作られており、つるはしの入ったポーチのほうが使い込まれているからか色合いが多少変化しているが、どちらも濃い茶色のポーチだ。

文庫本より少し大きいくらいのサイズなのでジオンの料理本はぎりぎり入らないだろうけれど、奥行きがあるので鉱石や宝石は入れられるだろう。


「いくらだったの?」

「7,200CZだったぜ」


皮製品だというのに思っていたよりも高くないようだ。

これまで倒してきたモンスターのほとんどが皮を落としていたので、革製品は広く流通しているのだろう。


「それじゃあ、あとでまたお金渡すね」


俺も今はあまり持っていないので、銀行に行ってからお金を降ろさないと。


「それから……これがライの刀。装飾してみたんだけど、どうだ?」


差し出された刀を鞘から抜いて眺めてみれば、刀身に小さな赤色の宝石を囲むように花のような模様の彫刻が刻まれていた。

鑑定してみると、元の数値と比べて攻撃力が5上がっていて、それから麻痺の付与が+3ではあるが付いている。


「わーすごいね、リーノ!」

「お、おう! それで、えっと……数値は? 減ったりしてないか?」

「減ってないよ。攻撃力は5上がってるし、麻痺も付与されてる」

「そうか! それと、こっちはジオンの刀なんだけど」


おずおずと差し出されたジオンの刀を受け取って鑑定する。


「うん。ジオンの刀もばっちりだよ!」


攻撃力と麻痺の数値をリーノに伝えると安心したように笑った。

その笑顔の意味を考えてなるほどと納得する。


2人は鑑定を持っていないから、装飾を施した後の刀の数値がどうなっているのかはわからない。

もし数値が下がってしまっていたら、失敗していたらと不安だったのだろう。

リーノの細工スキルはLv☆だから失敗することはないと思うけれど。


そもそも、仮に失敗だろうと数値が上がっていなかろうと、ジオンが打ってリーノが装飾してくれた刀が気に入らないわけがない。


「ありがとう、ジオン、リーノ」


この先、ずっとこの刀を持ち続けるわけではない。

レベルが上がれば新しい装備に替えていくことになる。

でも、新しくジオンが打ってリーノが装飾してくれた刀ができるまでは大事に使おう。


「今日は牧場に行くんでしたよね?」

「うん。午後って言ってたから、それまで露店広場に行きたいな」


俺の言葉に頷いた2人と共に部屋から出る。まずは銀行だ。


「そういえば、ライさん。何か催し……祭りですかね? が、あるとか」

「ん? あれ? 知ってるの?」

「おや。ライさんもご存じでしたか。

 はい、街で祭りの知らせが貼りだされておりまして、リーノと共に見たんですよ」


『Chronicle of Universe』の公式ホームページ以外でもイベントについて知ることができるようになっているようだ。

恐らく、ホームページに書かれた内容とは違い、この世界に合った書き方がされているとは思うけれど。


銀行に向かう道中も住民達が楽しそうに祭りのことを話している声が聞こえてくる。


「あ、そうだ。戦闘祭出る? 俺は対人は得意じゃないから出ないつもりなんだけど」

「俺はパス。戦闘手段が雷弾しかねぇしなぁ」

「あーそっかぁ。ジオンは? どうする?」

「そうですね……私は出てみたいです」


俺が出ないなら出ないと言いそうだと思っていたけれど、どうやら違ったらしい。

仲間であるジオンとリーノに遠慮されるのは嫌だと常々思っているので、嬉しい発見だ。


「うん! それじゃ、戦闘祭はジオンの応援だね!」

「頑張れよ、ジオン」

「はい。最善を尽くしたいと思います」


参加するのに登録とかは必要なのだろうか。

トーナメント分けもあるし当日に行って参加できるとは思えないけど。

近くに貼りだされているチラシを見て確認してみれば、戦闘祭だけでなく、狩猟祭や品評会への参加もギルドで申し込みができるそうだ。


「ライは狩猟祭どうすんだ? ったく、なんで俺達参加できねぇんだろうなぁ」

「2人が参加できたら良かったんだけど……でも、兄ちゃんと一緒に参加できることになったよ」

「ふむ。ロゼさん達とですか?」

「ううん。2人だけ」

「へぇー。それは楽しみだな」


どうして2人だけなのかといった疑問は持っていないようだ。

聞かれたら答えるつもりではあるけど、人と関わるのが苦手だなんてことわざわざ言いたいものではない。

2人がそれを馬鹿にしたりなんてことは絶対にありえないけど、心配をかけそうだし、それに、理由が例えば喧嘩に明け暮れていたせいで誰も近付いてこないとか、そういうやつならともかく……いや、それはそれで嫌だけれど。

とにかく、頼りないとか女みたいだとかそういう理由で友達がいないなんて出来ることなら知られたくはない。


「よし、このくらい降ろしておけば大丈夫かな」


50,000CZを銀行から降ろして、10,000CZをリーノに渡しておく。

ジオンもアリーズ街の鍛冶場で作業場を借りた時にお金を使ったと聞いたので、それならばと渡そうとしたけれど断られた。

作業場以外では食事くらいにしか使わないから大丈夫なのだそうだ。


露店広場へ足を進めながら、2人とイベントのことについて話す。


「品評会はどうする? 何か出す?」

「ふぅむ……」


顎に指を当てて考え込むジオンの返事を待っていると、メッセージが届いた。

兄ちゃんからだ。そう言えば後でメッセージを送ると言っていたなと思い出しながらウィンドウを開く。


『TO:ライ FROM:レン

 イベントに向けて強い武器が欲しいって人が多くて、ライの武器、全部売れたよ。

 追加して欲しいって要望がいっぱいきてるみたいだけど、どう?』


表示されたメッセージにぱちりと瞬きをする。

もう売れてしまったのか。全部で13本もあったのに。


「渡しておいた武器、全部売れちゃったみたい」

「あーなるほどなぁ。戦闘祭や狩猟祭では強い武器も必要ってな」


強い装備を作るには生産スキルのレベルも必要だけど、何より素材が必要だ。

壱ノ国で集めることができる素材では作れる物に限度がある。事実、刀の材料である玉鋼は壱ノ国では集めることができなかった。

はじまりの街にある洞窟でどんな鉱石が取れるかはわからないけど、多分質が違う。

鉱山で取れた鉱石は鉄と銅が☆2、玉鋼が☆1だったことから、恐らくはじまりの街で採れる鉱石は☆1なのではないだろうかと予想できる。


「これからみんな一気に弐ノ国にきそうだねぇ。

 あ、それと、武器追加できないかって」

「ふむ……追加するとして、それはライさんが露店を開いて売るのですか?」

「ん? どうだろう」


聞いてみようと兄ちゃんにメッセージを送ると、ロゼさん達が売ってくれるとすぐに返事がきた。

そのことをジオンに伝えるとジオンは一瞬思考を巡らせた後、頷いた。


「でしたら、品評会はやめておきましょう」

「へ? 品評会?」


2人が作った武器は、恐らく現状一番強い武器だ。兄ちゃんも言っていたし。

それは、魔法鉱石を数個しか使っていなくても同じだ。

全てを氷晶玉鋼で打った俺とジオンの刀は間違いなく一番だろう。


そんな2人が作った武器なら品評会で当たり前のように優勝できる。

他のプレイヤーに申し訳ないっていうのはもちろんある。でも、それよりも、俺は妬まれたくないのだ。


2人が品評会に参加したいと言うのなら反対しないけど、やめておくと言うのであれば止める理由はない。


「品評会に参加するとめんど……いえ、次回以降参加しましょう。

 私も、戦闘祭に向けて色々と、こう、ありますし」

「うん? うん。わかった」


なんとも煮え切らない返答ではあったけど、まぁ良いかと頷いた。


「リーノは? 戦闘祭参加しないんだよね? アクセサリー部門もあるよ」

「んぇ? あー……どうすっかな。考えとくわ」

「そう? わかった。

 それで、ジオン。武器の追加はどうする?」

「そうでしたね。追加するとなると鉱山に行かなければいけませんが、どうしますか?」

「あ、そっか。もう鉱石ほとんどないもんね」


玉鋼はあるけど、鉄や銅は数個しか残っていない。

今日は牧場に行くし、鍛冶をするとしても鉱山に行くのは明日以降だ。

鉱山に行って、鍛冶をしてとなると、追加は早くても2日後か3日後になる。


「んーでも、お金を稼ぐチャンスだしなぁ」


家を買うためにお金を貯めたいのでこのチャンスは逃したくはない。

2、3日後になっても問題ないのであれば追加したいけれど。


『TO:レン FROM:ライ

 早くても2日後か3日後にしか追加できないけど、良い?』


『TO:ライ FROM:レン

 うん。問題ないよ』


「大丈夫みたい。よし、出来る限りいっぱい作ってお金を貯めよう!」

「おう! 家買うためだもんな! 俺も張り切って鉱石採るぜ!」


なるほど、忙しくなるとはこのことだったのかと、ログイン前に兄ちゃんの言っていたことを思い至る。

イベント開催は3日間。初日の品評会まではゲーム内時間で11日後。

さすがに11日間ずっと武器を作り続けることにはならないだろうし、狩猟祭とジオンの戦闘祭に向けてレベル上げもしておきたい。


売れた分のお金は追加の武器を渡すときにとメッセージを送ったところで、露店広場へと辿り着いた。

はじまりの街の露店広場と比べると閑散としていて、ほとんど露店は出ていない。

これからきっと増えて行くだろう。


「ところで、ライさん。何を買うんですか?」

「リーノの盾を買おうと思ってね。売ってるといいんだけど」

「やった! 良いのか!?」

「もちろん。約束したでしょう? どんな盾がいいの?」

「んー……小せぇのがいいなぁ。腕に付けるようなやつ」

「うん。探してみよう」


露店の数が少ないのでここで見つからないなら、はじまりの街の露店広場で探そう。

その場合は、武器の追加の時になりそうだけれど。


露店広場で露店を出しているほとんどのプレイヤーが露店の向こうでごそごそと生産しているようだ。

そう言えばカヴォロも串焼きやつくねを作りながら出来た物をどんどん売り捌いていた。

カヴォロの場合、すぐに売り切れてしまうからっていうのが一番の理由だろうけれど。

これまではカヴォロ以外に生産をしながら露店を開いているプレイヤーはそう多くは見かけなかったようなと思考を巡らせて、品評会に向けてスキルレベルを上げているのかと思い至る。


「ライ! あっち、盾売ってるぜ!」

「ん? あ、ほんとだ。行ってみよう」


リーノが指差した露店へ近付き、売っているものを眺める。

並んでいる品は盾のみだ。運が良い。

露店を開いている女性プレイヤーは背中を向けていて、夢中で生産しているのか俺達に気付いていないようだ。


彼女は今、恐らく盾を作っているのだろう。

俺達プレイヤーは仮に炉が必要だとしても、地面や壁にくっ付いてしまっているようなものでなければ、アイテムボックスに入れて持ち運ぶことができるし、必ずしも作業場に行く必要はない。


「リーノ、どれにする?」

「んー……これか、これかなぁ。どう?」


並んでいる5つの中から腕に付けることができる盾を2つ選んで問いかけられた言葉に、そう言えば売り物は鑑定が出来ると武器屋の店主さんが言っていたなと思い出す。


『ブロンズバックラー☆2 防御力:15

 装備条件

 Lv5/STR5/DEF5

 効果付与

 耐暑+1』


『アイアンバックラー☆2 防御力:28

 装備条件

 Lv10/STR10/DEF10

 効果付与

 毒耐性+1』


どうやら【付与】を取得しているプレイヤーのようだ。

お金大丈夫かな……まぁ、足りなければ銀行に走れば良いだけだ。


「リーノが今のレベルで装備できるのは《ブロンズバックラー》だね」


鑑定で見た情報を伝えると、リーノは腕を組んで小さく唸る。

今のリーノのレベルは6。鉱山でジオンが狩ってくれた吸血蝙蝠とヌシのお陰でいつの間にやら上がっていた。


「んんんん~……俺、《アイアンバックラー》にする!」

「うん。わかった」


テイムモンスターのレベルは上がりにくいとは言え、弐ノ国のモンスターを相手にしていたら10まではそう時間は掛からないだろう。


「すみません。盾を買いたいんですけど……あの~、お姉さん?」


声を掛けても夢中で作業をしている女性に小さく苦笑しつつ、どうしたものかと考える。

これまでの会話も別に小声だったわけではないけれど、その間一度も反応を示すことはなかった。


小さく息を吐いて、恐る恐る肩を叩く。


「うへぇ!?」


びくりと体を大きく跳ねながら上げられた悲鳴に、俺の体も小さく跳ねる。

どきどきと鳴る心臓を落ち着かせながら、再度声を掛ける。


「あの、盾を買いたいんですが……大丈夫です?」


その言葉に、ようやくこちらに気付いた女性がぺこぺこと頭を下げながら振り向いた。


「す、すみません! 夢中になってたら周りの音が全然聞こえなくなっちゃうんです、すみません!」

「いや……驚かせてごめんね」


正直、俺も物凄く驚いたけれど。


「盾、ですね! どれに……あれ? ん??」


言葉を繋ぎながら顔を上げた女性が俺を見て大きく瞬きをする。

その反応に頭を傾けて、どこかで会ったことがあっただろうかと考える。


「……千載一遇のチャンス……!」

「ん?」

「いいえ? なんでもありませんよ。盾ですね? どれにしますか?」


早口で紡がれた言葉を聞き返せば、にっこりとした笑顔が返ってきた。

思い過ごしであれば良いのだけど、なんというか、圧が凄い。怖い。


「あ、うん……この《アイアンバックラー》が欲しいんだけど……」

「アイアンバックラーですね? えーと……35,000CZです」


盾の相場はさっぱりわからないので、素直に言われた分をウィンドウに入力する。

所持金で足りて良かった。


「お買い上げありがとうございました!」

「付与の付いた盾だなんて、凄いね。買えて良かったよ」

「い、いえいえ! こちらこそ買って頂いてありがとうございます!

 盾が必要な時は、是非、ご贔屓に」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良くある、主人公にグイグイ被せ気味で無理無茶押し付ける人、がまだ居ないことに安堵しつつ(「やってくれるわよね!?」「あ、はい…」的な女子とのやり取りが多すぎて辛いので) まったりと楽しませ…
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