day19 カヴォロとヌシ討伐
カウンター付近で待ち合わせしたものの、同じ宿ということもあり食堂で朝ご飯を食べていたらカヴォロもやってきた。
同じテーブルで一緒に朝ご飯を食べながら、自分で作った料理は食べないのかと聞いてみたら、食べたり食べなかったり気分次第なのだそうだ。
ヌシについては兄ちゃんからは飛んだら目を狙えということだけ聞いているそうで、それ以外の行動パターンについて話す。
今回で4回目のヌシ討伐。今回カヴォロとヌシを倒したらもういいかな。というか、これ以上倒す必要もない。
「レンには感謝している。
戦闘には向いていないと思っていたが、やればできるものだな」
「兄ちゃん式キャンプの効果は絶大だったんだねぇ」
「ふ……まぁ、暫くレベル上げはしたくないが。
そろそろ行くか?」
「うん、そうだね。行こう」
席を立ち、宿屋を後にする。
はじまりの街の門を抜け、ヌシの元へ。ログアウトの予定時間まであまり時間がないので、走って向かう。
行く手を阻むモンスターは、スキルを使わなければMPを消費することのない俺とジオンが引き受けた。
最初の頃と比べて格段に強くなっているので、楽に倒してどんどん先に進むことが出来る。
「……レンも凄まじかったが、ライも凄いな」
「あはは。兄ちゃんは別格だよ。
ありがとう。ヌシを倒すために頑張ったからね」
ジオンに任せきりだった頃とは違う。
今でもジオンにはたくさん助けられているけれど。
「ライは最前線プレイヤーってやつだろう?」
「え? 違う違う。兄ちゃん達のパーティーみたいな人達のことでしょう?
あ、でも今はまだ弐ノ国に行ってる人って少ないんだっけ?」
「ライがヌシを倒したって言ってた時と比べたら増えてるみたいだが、多いわけではなさそうだ」
「じゃあ、今は最前線プレイヤーかな? やったね、有名人だ」
トッププレイヤーや有名プレイヤーというものに憧れはあるので、今だけとは言えそこに辿り着いていることが嬉しい。
今だけでも有名人気分に浸っておこう。
「有名になりたいと思うのか?」
「んーなれるなら? あーでも、悪名はやだなぁ」
単純に強いとかで有名になりたい。凄く強いとか凄い生産者とか、そういうやつ。
凄く男らしいでもいい。凄い筋肉でも。寧ろそれがいい。
「あ、でもカヴォロは有名人だよね。露店、いつも人がいっぱいだし」
「いや……それは……まぁ、ある意味そうなのかもしれないが」
「ある意味……?」
カヴォロも有名人だし兄ちゃん達もだし、俺の周りは有名人ばかりだ。
ふと、有名人達の傍をうろちょろしている嫌なヤツとか思われているのではないだろうかと、不安になる。
妬まれたり、してるだろうか。いや、ない。ないってことにしておこう。
仮にあったとしても、俺はカヴォロと話したいし、兄ちゃんは兄ちゃんだ。身内と一緒にいて何が悪い。
それに、俺が有名になればいいだけの話だ。なろうと思ってなれるものではないとはわかっているけれど、頑張ろう。
「……おい、大丈夫か?」
「へ?」
「何か考え込んでいるみたいだが」
「あ、ううん! 大丈夫だよ」
「問題がないなら、良い」
実際がどうなのかもわかっていないのに、勝手に不安になっていただけだ。
不安が顔に出ていたわけではないと思うけど、心配をかけたようで申し訳ない。
「カヴォロは何の属性を取ってるの?」
「火と水だな。SPは料理に使えそうなものを取ってるから戦闘スキルに割くポイントがなくてな。
火と水も料理で使えるんじゃないかと思って取ったが、今のところ使えない」
「あー確かに使えそうだよね。いつか使えるようになったらいいねぇ」
「そうだと良いが……」
俺はスキルをほとんど取らないから、45のSPが残っている。
後日釣りは取るつもりだ。釣りがしたいから。
種族特性のスキルが出たら取ってしまおうと思っているけれど、今のところ出ていない。
魔力感知・百鬼夜行は最初からあったわけではない。見逃していなかったら、だけれど。
どこかのタイミングで取得できるようになったスキルだ。
種族特性のスキルはSPが多いし、採掘のように必要に駆られるスキルが出てくることもあるだろうから、今はSPは残しておいて良いだろう。
雑談を挟みつつ、行く手を阻むモンスターを倒しながら、1時間ちょっと走り続けているとようやくヴァイオレントラビットの姿が見えてきた。
倒すのは4回目だけど、姿を見るのは5回目。あのでっぷりとしたお尻ももう見慣れたものだ。
「私とライさんはある程度避けることができますので、リーノはカヴォロさんの護衛を」
「りょーかい。任せとけ」
「防御力が高いわけじゃないし、避ける自信もあまりないから、助かる」
「それと、飛んだ時ですが、私とリーノで目を狙いましょう」
「俺はクールタイムが回復し次第、ヌシに魔法を打ち続けていいんだな」
「はい。お願いします。
お兄さんのように必ず命中させられるかはわかりませんが、片方だけでも命中すれば落ちてきてくれるのではないかと」
「んじゃ、クールタイム? が、回復してないなんてことにならねぇように途中からは防御に徹するわ」
ジオンとリーノ、それからカヴォロが話すのを眺めながら、パーティーで狩りをしてるんだなと口角が上がる。
聞いていないわけではない。ちゃんと聞いているし、皆の話に頷いている。
まぁ、俺のやることは斬って避ける。それだけだ。
「さて、ライさん。それでは行きましょうか。」
「うん。先陣は俺達だね」
刀を鞘から抜き、構える。
いつもの様に、ヴァイオレントラビットが後ろを向いたら、戦闘開始だ。
「【刃斬】!」
「【氷晶魔刃斬】!」
兄ちゃんと一緒の時は兄ちゃんの種族特性でヌシが強くなっていたが、今回のヌシは通常のヌシだ。
初めて倒した時とは比べ物にならないダメージを与えることができた。
ヌシを倒してアリーズ街に行くまでは夜更かしになってしまうとしてもログアウトするつもりはなかったが、これなら本来のログアウト予定時間までに倒せそうだ。
防御力も上がっているし、前回と違って地面がめり込むような攻撃をしてくるわけではないので、当たっても平気だろう。
とは言え、油断するつもりもない。今回も全部避けきってやるぞと気合を入れる。
「あー! 待って待って、そっち行っちゃだめ!」
壁役とは言え、リーノは盾等を持っているわけではないので、生身で攻撃を受けることになる。
大したダメージじゃないとしても、見てて嫌なので、ターゲットがカヴォロやリーノに移った時はジオンと俺で全力でヌシの気を引く。
リーノは何もすることがないと不満そうな顔をしているが、今回は我慢していただきたい。
盾を買ったらいくらでも攻撃を受けて良いから。
少し離れた場所にいるリーノとカヴォロ、それから近くにいる俺達とで、ターゲットがうろちょろしているお陰で隙が出来ている。
これまで以上に攻撃を与えることが出来ていることと攻撃力が上がっていることもあり、あっという間にヴァイオレントラビットのHPは4分の1になった。
「リーノ、狙えますか?」
「おー、いけるぜ」
飛び上がったヴァイオレントラビットの目を狙い、ジオンとリーノが魔法を打つ。
少しずれてしまっているが、兄ちゃんの魔力銃の弾と比べて大きいので、両方の目に衝撃を与えることには成功した。
体勢を崩しもがくヴァイオレントラビットに容赦なく攻撃を仕掛けていく。
気持ち良いくらいHPが減っていく。この調子ならもう飛ぶことはないだろう。
「【連斬】! 止めはカヴォロね!」
俺の言葉にジオンも攻撃の手を止めた。
最後の力を振り絞り腕を振り回すヴァイオレントラビットから離れる。
「【火弾】」
カヴォロから放たれた魔法が命中すると同時に、ヴァイオレントラビットは大きな咆哮を上げ倒れていく。
エフェクトと共に消えて行くヴァイオレントラビットを眺めながら、強くなったと改めて実感する。
最速記録を更新だ。これ以上その記録を塗り替えるつもりはないけれど。
「みんなお疲れ様」
「俺なんもしてねぇんだけど!」
リーノがぷりぷりとしながら、カヴォロと共に俺の元へ歩いてくる。
「ヌシ落としてたじゃん」
「それだけだろ!?」
「いやぁ、ごめんね。まぁ、盾買うまでは我慢ってことで」
「んん……絶対だからな? すぐだぞ?」
「うん。すぐだね。わかった」
街で売っているやつより、露店広場で売っているものを探したほうがいいだろうか。
ポーションなんかは街で売っているものより、露店広場のもののほうが性能は上だったし、武器や防具もそうなのかもしれない。
アリーズ街にも露店広場はあるが、現状はまだはじまりの街のほうが露店が多い。
でも、アリーズ街で露店を開いているということは、弐ノ国の素材を使ったもの作れるということだし……悩むところだ。
「俺も何もしていない気がする」
「カヴォロの魔法のお陰でヌシがうろちょろしてくれて隙ができたから、早く倒せたんだよ」
「……なら、良いが……まぁ、助かった。ありがとう、ライ」
「ううん! 楽しかったよ。また一緒に狩りしようね」
小さく笑って頷いてくれるカヴォロに、笑顔で返す。
「それじゃあ、アリーズ街に行こう」
関所で兵士さんに挨拶をして少しだけ話をしてから、アリーズ街へ向かう。
「あの蜂が蜂蜜を落とすのか?」
「うん。そうだよ。時間はまだあるし、倒しながら行く?」
「そうしたい。頼めるか?」
「もちろん」
花畑を避けて進めば倒す必要はないのだけれど、カヴォロの頼みを断るわけがない。
少しだけ遠回りをしながら、キラービーを倒しつつアリーズ街への道を進んで行く。
とは言え、関所からアリーズ街は近いので、回り道をしたとは言えすぐにアリーズ街へと辿り着いた。
「ここが、アリーズ街か。なんというか……重厚なところだな」
「ね。はじまりの街の温かい感じも好きだけど、アリーズ街のこの雰囲気も好きなんだよね。
ちょっと緊張するけど。あ、カヴォロ、お肉と蜂蜜、渡しておくね」
取引ウィンドウに《ヴァイオレントラビットの肉》と《蜂蜜》、《ローヤルゼリー》を並べる。
「お肉のお金だけでいいよ」
「……わかった。ありがとう」
取引金額は9,600CZだ。
後でリーノにもお金を渡しておかないと。
「牧場はいつ行く?」
「そうだな……ライ、次はいつこっちにくる?」
「んー……day21の10時かな」
ウィンドウで時計を見ながら計算して答える。
「なら、その日の午後はどうだ?」
「うん。大丈夫だよ」
「わかった。また、連絡する」
「了解。それじゃあ、またね」
俺の言葉に頷いて、ふらりと市場のある方へと消えて行くカヴォロの背中を見送る。
市場がどこにあるかなんてわからないはずだけれど、さすがだ。
「さて、俺達は宿屋に行こうか」
ログアウト予定時間まであと少しだ。
時間があったら露店広場で盾を探しても良かったけれど、それはまた次だ。
4人部屋夕食付で1,200CZ。ベッドは1つ余るけれど、シングルとツインを取るよりも安い。
それに、1人だけ別の部屋なんて嫌だし、リーノが増えてからは4人部屋を取っている。
「はい、これリーノの分。この前は渡せてなかったから」
「お? 俺にもくれんの?」
「うん。俺がいない間、2人が別々に行動することもあるかもしれないしね」
「そっか。ありがたく受け取っとくぜ」
リーノは受け取ったお金をつるはしの入ったポーチの中にあるポケットへと入れて、にかりと笑った。
「あ、そうだ。鉱石と宝石残ってるけど、どうする?
玉鋼と宝石以外はほとんど残ってないけど」
玉鋼と氷晶玉鋼は刀を作る時用に使っていないので、結構な量がアイテムボックスに入っている。
他は氷晶鉄と氷晶銅、それから兄ちゃんが凝固してくれた赤と青の宝石だ。
「そんじゃあ、宝石くれ。 それと、ライの刀、預けてくれるか?」
「いいけど、何に使うの?」
帯に差した刀を抜き取り、リーノに手渡す。
「装飾しとく。彫ってもいいか?」
「耐久に問題がないのであれば良いですよ」
「へへ、任せとけって。ジオンの刀も一緒に装飾しようぜ」
「えぇ、そうですね。お願いします」
武器に装飾を施すと性能が上がるらしい。
それに、付与された宝石を使うわけだし、これは次にログインする時が楽しみだ。
アイテムボックスから《雷青の宝石》と《雷赤の宝石》、《聖青の宝石》、《聖赤の宝石》、それからジオンの本を取り出して2人に渡しておく。
「おっと……手で持って歩くのは無理だな。
本は宿に置いておくとしても……ジオン、鞄とか持ってねぇの?」
「持ってませんね。刀を振るのに邪魔になりますし」
「なるほどなぁ。ライ、鞄買ってもいいか?
俺は戦闘中そんな動き回るわけでもねぇし」
「渡したお金は遠慮せずに好きに使っていいよ。足りる?」
「足りるやつ買うから大丈夫!」
一緒に財布も買ってくれていいのだけれど。特にジオン。
いつ懐から硬貨が飛び出てくるのか気が気ではないので、是非ともお財布は購入していただきたい。
でも、そうなるとお金が足りないかもしれない。2人の持っているお金は合計しても20,000CZくらいだろう。
俺の現在の所持金は3,184CZ。明日の宿代を抜いた分を渡したところで雀の涙程の足しにしかならない。
まぁ、財布は今度でいいか。
今度盾を探すついでに一緒に探すことにしよう。
「それじゃあ、またね。次にくるのは明後日の朝だと思う」
「おう! また明後日な!」
「お帰りをお待ちしておりますね」
ごろりとベッドに寝転がり、ログアウト。
次にログインした時は露店広場に行って、盾と財布を探して、それから、牧場に行って……楽しみだ。




