day139 今後の予定
「どれくらいレベルを上げてからグラキエス街に行こうか?
グラキエス街周辺の適正レベルは85以上じゃないかって兄ちゃんは言ってたけど……」
「ふむ……ちなみにレンさんは何レベルくらいまでこの辺りで狩りをしていたんですか?」
「エルフの集落周辺で狩りをしてたのは……80ちょっとくらい?
昼はそれよりも前から先の所で狩りをしてたみたいだよ」
最近はグラキエス街周辺で狩りをしているらしい。
夜の狩りは種族特性があるので、グラキエス街から見て2つ前、テラ街から見たら1つ先の村周辺で狩りをしているそうだ。
他の最前線プレイヤーの人達も大体グラキエス街周辺で狩りをしているのだとか。
さすがは最前線プレイヤー。相変わらずいつの間にか次の街にいる。
「でも、寒過ぎて狩りをするのに支障をきたしてるって話だよ。
グラキエス街に売ってる防寒着を着て狩りをしているらしいけど……それでも寒いし、もこもこで動きにくいみたい」
「そうよね、暖かい服となるとどうしても嵩張るわよね。
寒さにもよるけれど……基本的にはもこもこの外套の方が暖かいもの」
テラ街からグラキエス街に行く道中には2つの村があり、グラキエス街に近付くにつれて寒くなっていくらしい。
1つ目の村でも肌寒いらしく、グラキエス街に至っては寝たらそのまま永眠してしまいそうな寒さなのだとか。
テラ街の中でも南西と北では育つ植物の品質に差が出るくらい気候が違うみたいだし、ノッカーの集落があるあの岩山を境に気候が変わっているのだろう。
ギルドから北側には行ったことがないからどれだけ気温が変わっているのか正確には分かっていないけれど。
異常気象が原因とは言え、そんなに遠くない場所でこうも気候に差がでるのかと不思議だ。
「毛糸を使ったセーターや帽子ならそんなに嵩張らないとは思うわ。
でも、動きに支障をきたす程の寒さなのでしょう?」
「そんなに寒いのならセーターだけでは心許ないよね」
「動きやすさを考えるなら中に着込むより外套が良いと思うわ。
嵩張らなくて暖かい生地もあるにはあるのだけれど……作るのに手間がかかるからあまり作られていないのでしょうね」
「それって、どれくらいの手間なの? 結構大変かな?」
「そうね……慣れていないと難しいと思うわ。
技術も必要だけれど、素材や材料も普段の裁縫より多く使わなければいけないの」
「イリシアはできる?」
「うふふ、もちろんよ。任せて……と言いたいところだけれど……困ったわ。
生地になる素材は基本的に寒い場所にいる魔物から手に入るのよ」
「なるほど……」
寒い場所に行く為の服を作る為に寒い場所に行く必要があるらしい。
移動だけならもこもこで向かっても大丈夫……でもないか。魔物と戦う場面はどうしたって出てくる。
ログイン中に次の街や村に移動する為には、狩りに時間を取られるわけにはいかない。
ジオン達を深夜の寒空の中で過ごさせてしまうような事態になってしまう。
「耐寒の効果付与がある防具なら違う?」
「そうね……そう、なのだけれど……効果付与のある防具って珍しいじゃない?
だから、私も知識だけしかないのよね。数値によって嵩張らない生地と同等か、より暖かくなるとは思うのだけれど」
秋夜さんのアクセサリーと服には装飾品で使った鉱石の分……確か、アクセサリーだけで30くらいは耐寒が付いていたと思う。
残念ながら俺達の装備には耐寒の効果付与は付いていない。
主に使われているのは防御力上昇と魔法防御力上昇が融合された鉱石と兄ちゃんから貰った魔力回復、体力回復が凝固された宝石だ。
秋夜さんの服にはそれらは1、2個くらいしか使ってない。耐寒が融合された鉱石がたくさんあったので。
特に何も言ってこないってことはあの装備でグラキエス街で過ごせているのだろうか。
街で売っているというもこもこの上着を買ったという可能性もあるけれど。
「一番暖かいのは、暖かくて嵩張らない生地に耐寒の効果付与を付けることかな?」
「そうなるわね。けれど、どちらかで大丈夫だと思うわ。
グラキエス街が極寒ならその方が良いでしょうけれど……話を聞いている限り、極寒というわけでもないみたいだから」
「極寒ってどれくらい?」
「大体マイナス60度くらいですかね。マイナス80度なんて場所もどこかにあるのだとか」
さすがにそこまでではないと思う。
だったら俺達は耐寒の付与にしようかな。それでも寒かったら素材を手に入れたら良いだけだ。
兄ちゃんに頼んでも良いけど、朝陽さん達にも内緒にしているらしい凝固された宝石ならともかく、他の素材については空さんを優先してほしい。
「それじゃあ、耐寒の効果付与のある外套をイリシア、お願いできる?」
「ええ、任せて。もちろんよ。ただ、今生地がほとんどないから、生地を作るのに少し時間が掛かると思うわ。
ライ君、次に戻ってくるまで時間が掛かるのよね? けれど、その間にもできないと思うの」
「大丈夫だよ。作って貰えるってだけで凄くありがたいからね」
イリシアが作るのだからきっと素敵な外套になるだろう。
どんな外套になるかな。完成が楽しみだ。
「外套が完成するまではレベル上げする?」
「次の村に進んでみますか? 次の村は寒いと言っても動きに支障が出る程の寒さではないのでしょう?」
「うん、兄ちゃんはそう言ってたよ」
兄ちゃんの感覚では次の村周辺の寒さは秋の終わり、冬の始まりくらいの寒さなのだそうだ。
コートを着るには少し早い、でもアウターは必要。そんな感じらしい。
俺達全員寒そうな服装と言う訳でもないし……ああでも、シアとレヴの外套は半袖だ。
兄ちゃん曰く、例えば腕が出ているような状態でも、もこもこの毛皮のベストを着ていれば、腕だけ凍えそうなんてことにはならないらしい。
着ている服の素材によって体感温度が変わるということだろうか。
シアとレヴの着ている服の生地はしっかりしているし、ある程度は大丈夫そうだけど……。
「私達の今の服でも肌寒いくらいなら恐らく大丈夫だと思うわ」
「そっか。でも、寒かったら引き返そうね」
次の村に行くまで用の外套を新たに作って貰うというのも出来ないわけではないけど、イリシアには生地に集中してもらいたい。
厳しそうならこれまで通りエルフの集落周辺で狩りをして完成を待てば良いだけだ。
「テラ街から次の村までは、レベル75くらいあれば大丈夫って言ってたよ」
「少し足りねぇけど、これまでもそうだったし行ける行ける!
俺らはレベルだけ見たら全然足りてねぇけど、ステータスで考えたら……ジオンでちょっと足りねぇくらいか?」
「そうだね、ジオンが多分……異世界の旅人のレベルだと72とかかな?
そう考えると、俺いつの間にかジオンに追い付いてたんだね」
今の俺のレベルは70だ。レベル上げ週間を始めた約10日前が58だったことを考えると、なかなかの成果なのではないだろうか。
フェルダのことがあって数日間狩りをお休みしていたけど、昨日の夜……勉強会後からレベル上げ週間を再開した。
俺とジオンのステータスの差は2レベル……どう考えてもジオンの方が強い。
戦闘はステータスだけじゃないなと痛感する。精進せねば。
プレイヤー換算でない皆のレベルは、ジオンが57、リーノが48、シアとレヴが46、フェルダが40、イリシアが27、ネイヤが26だ。
とは言え、レベル1時点のステータスの合計値が皆それぞれ違うので、レベルが高い人のほうがステータスも上だとは限らない。
例えばイリシアとネイヤであれば、元々のステータスの合計値が多かったネイヤのほうがレベルが上がるまでに時間が掛かるようで、イリシアと同じタイミングで狩りをしていたのに1レベルの差がでている。
プレイヤー換算で言うなら多分……ジオンが72、リーノが65、シアとレヴが60、フェルダが64、イリシアが51、ネイヤが52くらいだろう。
昼と夜でパーティーの編成を変えて狩りをするようになってから、皆のステータスの差が縮まってきたと思う。
「次の村には転移陣はあるのですか?」
「あるみたいだよ。参ノ国は大体どこの村にも転移陣があるみたい」
基本的に、次の街へ進む道中にある村については転移陣があるようだ。
弐ノ国のヌシがいる森からトーラス街に行く途中にある癒しの村にはなかったけど……トーラス街がすぐ近くなので困らない。
参ノ国は街や村までの距離が弐ノ国と比べて随分大きいので転移陣があるのだろう。
なくても暫く滞在して進めば良いだけだけど、俺達のようにあちこちの街や村に用がある人は転移陣があった方が助かる。
転移陣がない場所と言えば……弐ノ国の鉱山の村や牧場の村、それから種族の集落だろうか。
ノッカーの集落にも転移陣はないようだし、精霊の集落にも多分ないと思う。
ネーレーイスの集落にはあったけど……さすがに海の中の集落だと海に棲む種族以外の行き来が難しいからだろうか。
エルフの集落は例外として、先に進むだけなら行かなくても良い場所には基本的に転移陣がないようだ。
「それじゃあ、次に俺が戻ってきた時は、次の村に行ってみよう。
その後は暫くその村の周辺で狩りをする?」
「良いんじゃない? この辺より少し強いだけっぽいし」
「そうだね。うん、それじゃあそうしよう!」
話が纏まったところで家から出る。
俺がいない間、特に今回はいつもよりいない時間が長いので、皆生産をするだろう。
エルフの集落でログアウトしても良いけど、ログアウト後にテラ街に移動することになるなら俺も一緒に移動したい。
次にログインする時に俺か皆が移動する手間も省けるし。
迷宮の欠片を鳴らして、現れたウィンドウに並ぶ文字からテラ街の文字に触れ、テラ街にひとっ飛び。
ギルドから出てのどかな道を進む。
北側に視線を向けてみるが、ここから見える範囲のテラ街の空は分厚い雲があるというわけでもなく、晴れ渡っている。
本当に南西側と北側で気温に変化があるのだろうか。
この時間に道ですれ違うのはプレイヤーだけだ。
テラ街に住む人達はこの時間は基本的に農作業をしているみたいなので、道ですれ違うことはあまりない。
農作業中の人を見かけたら挨拶をして、皆と話しながら歩いていたらすぐに家に辿り着いた。
「エルフの集落でお裾分けしてもらった料理と飲み物は冷蔵庫に入れて……魔道具作ろうかな……」
「今からですか? 異世界に帰られるまであと数時間なのでは……?」
「本に載ってた魔道具を作るだけだから、多分大丈夫だよ」
本に載っていたのは火魔石を使う魔道具だったから、黒炎魔石用に魔法陣を描き変えなければいけないけど多分大丈夫だろう。
作業場に置いている魔道具の本を手に取り、ぱらぱらとページを捲る。
「あったあった。これ作ろうよ。
せっかくの料理なのに、冷たいままだともったいないよね」
「なるほど、《魔動天火箱》ですか。確かにこれがあれば暖かい料理が食べられますね」
石窯やコンロのように火属性の魔石を使ってはいるものの、炎が出てくるわけではない。
箱の中を温める為に火属性の魔石が使われた魔道具……つまりは電子レンジだ。
「石工と鋳造、どっちで作る?」
「んー……石工メインでお願い。全部金属だと調整難しいと思う。
ああでも、こことここ……あと、ここは鋳造でお願いできる?」
「ん、分かった」
皆は俺がいない間は基本的に外で食べているようだけど、家で食べることもあるだろう。
買ってきてすぐに家で食べるならともかく、すぐに食べられない時は温めて食べられたほうが良い。
俺がいない間も皆が快適に過ごせるようにもっと早く気付いて作れば良かったな。
あ、そうだ。快適と言えば……。
「ね、お風呂って……この世界の人達どうしてるの?」
「入らなくても問題がないので、娯楽の一種ですね。魔道具は高いですし……それと、場所にもよります。
肆ノ国は源泉が多いので、風呂のある家が多いです。私の住んでいた家にもありましたね」
この世界は怪我をしてもポーションで綺麗さっぱりなくなってしまうし、海に潜ってもどこからか吹いてきた風で乾いてしまうような世界だ。
汚れに関して今まであまり気にしていなかったけど、例えば狩りをしていて汚れてしまった後でも暫くしたら綺麗になっていたように思う。
「……割合で言うと……どれくらいの人、家庭がお風呂を持っているの?」
「どうでしょう……4割か5割か……種族の集落については分かりませんが……」
「なるほど。今まで後回しにしちゃってごめんね。作ろう」
前にエルムさんがお風呂に入ってくると言っていた覚えがあるし、クリントさんの家にお泊りした時もクリントさん家族はお風呂に入っていた。
何にせよ、いくら綺麗になるとは言え汗をかいたり汚れたり、海に入った後にお風呂に入りたい気持ちは分かるのですぐに作ろう。