day16 兄ちゃんとヌシ討伐
実際に撃ってみて欲しいと頼んでみれば兄ちゃんは頷いて2丁の魔力銃を取り出し、辺りを見渡す。
見つけたホーンラビットに銃口を向けて狙いを定めていると、魔力銃のフリントがふわりと白色に光り始めた。
引き金を引くと銃声と共に先程の光りと同じ色をした白色の弾が銃口からホーンラビットへ向かって勢いよく飛んで行く。
『弾』と言うよりは『球』だろうか。その球はホーンラビットの胴体に見事に当たり、弾けるように散った。
兄ちゃんはホーンラビットとの距離を詰めながら、更に連続して銃声を響かせていく。
「兄ちゃん、遠距離の武器なのに近付いて大丈夫なの?」
「近くのほうが威力が高いんだよ」
ホーンラビットのHPを見てみれば、兄ちゃんが言っていたように一発一発の威力は低いが、近付いて撃った時のほうが減りが大きいことがわかる。
兄ちゃんはホーンラビットの目の前まで近付き、攻撃をひらりひらりと避けながら左手に持つ魔力銃でホーンラビットに白い球を撃ち続ける。
「【水力弾】」
兄ちゃんの呟きに、ふと右手に持つ魔力銃を見ると、フリントが白色ではなく水色に光っていた。
勢いよく飛んできたホーンラビットに銃口を向け、引き金を引く。
先程の白い球の時と比べて重い銃声が辺りに響くと共に、ホーンラビットはエフェクトと共に消えていった。
「こんな感じかな」
「格好良かったよ、兄ちゃん!
ねぇ、最後のは水属性?」
「うん、水属性の弾だね。白が無属性。無属性に比べるとMPが多い分、攻撃力も高いよ」
「なるほど。属性の色に光ってたんだ。
それにしてもあれだけ避けられるの羨ましいなぁ」
「避けないと死ぬんだよね」
「HP低いの?」
「んーそれもあるね。それと、種族特性で物理と魔法の両方の防御力が減少してるんだよ。ステータスも上がりにくいみたいだし。
ちなみにDEFは5でMNDが3、それからHPは55だよ。どういう計算なのかはわからないけど、現状防御力はほぼ0だと思う。マイナスもあり得るかも」
「うわぁ……なるほど……」
兄ちゃんは☆4の種族を選んだって言ってたから、俺の鬼神と同じく大きなデメリットがある。
まぁ、兄ちゃんの場合避けられるからなんのデメリットでもなさそうだけど。
「今のところ攻撃を受けたことがないから、実際どうなるかはわからないけどね」
「1回も!? すごいね、兄ちゃん」
「ありがと。まぁ、序盤だからね」
「そう言えば兄ちゃん、レベル何になったの?」
「10だよ」
「10!? え、兄ちゃんこっちに何日いたっけ?」
「露店見て回った時を抜いたら、大体2日かな。昼も夜も、ずっと狩りしてたからね」
兄ちゃんは効率良く狩りをしてどんどんレベルが上がるんだろうなとは思っていたけれど、改めてそのスピードを聞いてさすがだなと思う。
さっきの戦闘を見ていても、2丁の魔力銃をまるで踊るように操り、一切攻撃を受けることなくモンスターを倒していた。
「それに、夜は……あ」
兄ちゃんは顎に指を当てて目を細め、視線を横へとずらした。
「あー……伝え忘れてたな……」
「ん?」
「種族特性で、夜のモンスターから貰える経験値が上昇するってのがあるんだよね。
まぁ、その代わり、夜のモンスターのステータスがかなり上昇してるんだけど」
「ステータスが? うわぁ……夜の狩り大変そうだね」
「時間はかかるけど、その分レベルは上がりやすいよ。
それはともかく……ヌシもそれなんだよね」
「うん?」
「ヌシのステータスも上昇する」
「嘘でしょう!?!? 待って待って。どれくらい上昇してるの?」
「んーどうかな。βの頃にこの辺りで出現してたモンスターと違うから、比べられないんだよね」
その返事になるほどと納得する。
兄ちゃんにとっての夜のモンスターは、最初からステータスが上昇した状態だったわけだから、俺達が知る夜のモンスターを見たことがない。だから、比べられない。
俺とジオンは、夜のモンスターの話を兄ちゃんに伝えていく。
モンスターのステータスの数値は見れないので、俺達のステータスの数値やどれだけ攻撃したら倒せるか等を伝える。
「うーん……聞いてる感じだと、倍くらいかな? もしかしたら倍以上かも。
モンスターの攻撃力はわからないけど、恐らく他と同じだけ上がってると思う」
「倍以上……ってことは、ヌシの適正レベルは30以上になってるってこと……?」
「適正レベルが倍以上になるってわけではないと思うよ。15ではないのは確かだけどね」
「んんん……俺達の知るヌシじゃないってこと、だよね」
「まぁ、そうだね。でも、ライ達の話を聞いてる限り、俺が知ってる夜のモンスターとライ達が知ってる夜のモンスターの行動パターンは変わらないみたいだし、ヌシも行動パターンは一緒だと思うよ」
「うーん、それなら大丈夫? かな?」
「今日はやめとく? 伝え忘れてたのは俺だし、また今度でも大丈夫だよ」
また今度は、楽しみにしてたから嫌だと考え込む。
単純に攻撃力とHP、それから防御力が通常と比べて凄く上昇しているということだろう。
それなら、時間はかかるだろうけどなんとかなるかもしれない。要するに、当たらなければ問題ないということだ。当たらなければ。
「ううん、やめない。一緒にヌシ倒したい」
「そっか。ありがと」
「ただ、ジオンは練習の時全部避けてたから大丈夫だろうけど、俺もHPとDEF低いから当たったら死ぬと思う。死んだらごめんね」
「はは。それじゃ俺達は避け続けなきゃな」
「攻撃して逃げるを繰り返してたら多分、大丈夫。多分」
そうは言っても前回も避けきれていなかったし、不安だ。
でも、もしも死んでしまったとしても、お金も預けてるし重要なアイテムも特にないと思うし問題はない。
兄ちゃんだって笑って許してくれるだろうし。
「うん。大丈夫大丈夫。
そろそろモンスター倒しながら進むことになりそうだから、パーティー組もうか」
「パーティー! うん! 組もう!」
俺とジオンは最初からパーティーを組んでいる状態なので、俺達のパーティーに兄ちゃんを誘う。
これまでにパーティーのウィンドウをチェックしたことがなかったから知らなかったけれど、どうやらパーティーは6人までのようだ。
兄ちゃんがパーティーに参加したことで『3/6』と人数が表示されている。
この先仲間が増えてきたら、入れ替えることができるのだろうか。それとも5人以上は仲間にできないのだろうか。
どちらにせよ遠い未来の話になりそうだから今は考えなくていいかな。
よし、と気合を入れ直してヌシへの道を進む。
ホーンラビットもポイズンラビットも小さく、3人がかりで倒すにはお互いが邪魔になるので、見つけた時に一番近くにいた人か、兄ちゃんが遠距離から攻撃した後、俺かジオンが止めを刺す。
「おーでかいな。って、ライ、あれに踏み潰されたんだっけ」
「そうだよ。二度とごめんだけど」
「はは。そりゃそうだよなぁ」
兄ちゃんは笑いながらアイテムボックスからポーションとマナポーションを取り出す。
俺達はそれを受け取りながら、お礼を言う。後からロゼさんと朝陽さん、それからこれを作ってる人にも会えたらお礼を言わないと。
「まぁ、俺とライはポーションは必要ないかもしれないけど。
それで、ジオン。どう仕掛ける?」
兄ちゃんがジオンに声を掛けると、ジオンは少しの間考えを巡らせて、口を開く。
「これまで通り、背を向けているところに奇襲ですね。
その後は攻撃を絶対に受けないように。どの程度強くなっているのかわかりませんので、私も1回の攻撃で死ぬ可能性がありますからね」
「まぁ、そうだよな。俺は確実に死ぬ」
「俺も死ぬ」
「当たらなければ時間はかかるでしょうが倒せます」
俺達はお互いの顔を見合わせて頷いて、ヌシの様子を伺う。
背中を向けたら、スタートだ。
「【連斬】!」
「【氷晶魔連斬】!」
「【雷力弾】」
斬撃音と銃声が辺りに響く。HPバーをちらりと見れば、前回の奇襲の時と比べて与えたダメージが3分の2程度減っていた。
前回とジオンの刀が変わっていることもあるし、兄ちゃんの攻撃もあるのではっきりとはわからないけど、ヌシが倍以上強くなっていることがわかる。
兄ちゃんと同じパーティーだからなのか、それともパーティーが違っても兄ちゃんがいたらそうなるのか。恐らく後者だろう。
これまでと同様に、奇襲を受けたヴァイオレントラビットは咆哮を上げて振り向き、腕を振り上げ、地面に叩きつける。
事前に兄ちゃんには行動パターンを伝えておいたので、俺達はそれを問題なく避けることが出来た。
「……これは死ぬ」
叩きつけられた地面がえぐれているのを見てぞくりと背筋が凍る。
兄ちゃんとジオンを見れば苦笑いしていた。
とは言え、ここで引くわけにはいかない。死ぬか倒すかの二択だ。
いつもならあと一振り多く斬り付けていたところを、早めに避けに専念することで、ヴァイオレントラビットの攻撃を確実に避けていく。
ヴァイオレントラビットが空中に飛んだ。あの憎き圧し潰し攻撃だ。
空中にいるヴァイオレントラビットに向かって、ジオンは氷晶属性の魔法スキルを放ち、兄ちゃんは2丁の拳銃から無属性、雷属性、水属性の魔力弾をどんどん撃ち込んでいく。
俺は何も出来ないので、着地点から離れて様子を見ているだけだけれど。
ずしんと地響きを響かせて着地するヴァイオレントラビットに走り寄り、斬り付ける。
避けて、斬って、避けて。いつも以上に慎重に攻撃していく。
そうしてまた、飛び上がる素振りを見せた時、ジオンに何かを耳打ちした兄ちゃんが走ってヴァイオレントラビットから離れた。
兄ちゃんの言葉に頷いたジオンがヴァイオレントラビットから大きく離れたのを見て、俺もそれに倣い大きく離れる。
2つの銃声が鳴り響いてすぐ、轟くような呻き声を上げたヴァイオレントラビットの体勢が崩れて落ちた。
地面に背中を叩き付け、もがくように動くヴァイオレントラビットに走り寄り、振り回される腕を避けて胴体を斬り付けていく。
「兄ちゃん、何したの!?」
「目、狙っただけだよ。暴れるかなって思ったけど、この程度なら大丈夫だね」
「目……」
ちらりとヴァイオレントラビットの顔を見てみれば、さすがに血が噴き出してるなんてことはなかったけど、両方の目に大きな傷が出来ていた。
飛んでいるヴァイオレントラビットの両方の目を的確に狙い撃てるなんて、さすが兄ちゃんだ。
「凄いですね……」
「ありがと」
感心するジオンの呟きに笑顔で応える兄ちゃん。
もちろん、話している間も俺達は攻撃の手を休めることはない。
起き上がるヴァイオレントラビットから一旦離れ、爪の攻撃を避ける。
そしてまた、斬って避けてを繰り返していく。
ヴァイオレントラビットが飛んだ時は、兄ちゃんが地面に叩きつけてくれるため、いつもより攻撃を与えることができている。
叩き落されるのだから飛ばなければいいのにと思わないこともないが、そこはまぁ、そういうものなんだろう。
これなら大丈夫だ。倒せる。だからと言って油断は禁物だ。
いつもよりも慎重に、攻撃を避ける。絶対に当たるわけにはいかない。
あと、少し。その少しが酷く長い。
それでも、最初に倒した時に比べたら各段に早い。倍以上になっているはずだけど、俺達だってレベルが上がっている。
それに、武器だって変わっているし、何より兄ちゃんがいる。
「【氷晶魔連斬】!!」
「【雷力弾】、【水力弾】……ライ」
兄ちゃんの声に頷いて、ぐっと刀を握り直す。
「【連斬】!!!」
斬撃音と共に、ヴァイオレントラビットが大きく長い、呻き声を上げた。
やがてその声は小さくなり、地面に倒れたヴァイオレントラビットはきらきらと光るエフェクトとなり、消えて行く。
俺達は大きく息を吐いて、地面に座り込む。
「兄ちゃんはやっぱりすごいね」
「俺だけじゃ無理だよ。2人のお陰」
兄ちゃんの笑顔に、俺とジオンも笑顔で応える。
「ありがとうな。ライ、ジオン」