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day138 風習の手紙

「ええと……エアさんが……と、グラキエス街……」


かりかりと羽ペンを動かし、エルムさんへの手紙を書く。


「あと分かってないことって何があるかな?」

「そうですね……順に考えてみましょう」


始まりはルクス街。ルクス街で行われていた遺物の研究中、研究者の人達が光の球と共に呪いを飛ばした。

呪いが遺物によるものなのかは分かっていない。


呪いは風に乗ってグラキエス街に向かい、グラキエス街周辺の温度を急激に下げた。

グラキエス街の人達は異常気象に対処する為、火属性の魔法を使い暖を取ろうと魔力を調整するも良くない変質をしてしまった。

そして、変質してしまった魔法をリーノが昔住んでいた洞窟に封印した……と言っても、封印できていなかったようだけれど。


「グラキエス街の風習の赤い花は魔力の調整に成功した火属性の魔法なのかな?」

「手に余って洞窟ん中に放り出したんよな?

 そんなやつらがぬくい花を咲かすなんぞできんのではないか?」

「うーん……たしかに? そもそも、魔法を調整して花を作る……種を作る? って出来るものなの?」

「火属性が得意な種族なら出来るかもしれないけど。

 そうじゃないなら温める為にわざわざ花にするなんて面倒なことしないんじゃない?」


失敗を経て赤い花を作ることができたのか、ひょんなことから出来た産物なのか。

エアさんは『その結果呪いが返せたのだから、彼等にとっては良かったのだろうね』と言っていたけど、花が咲いたことで呪いが返せたのか、良くない変質をしてしまった魔法で返せたのか、それとも封印したからなのか。

何にせよ、ルクス街からきていた呪いを偶然にも返すこととなり、ルクス街の研究者達が次々と倒れる事態になった。


「なぁ、俺思ったんだけどさー、テラ街の火事の原因って赤い宝石なんじゃねぇの?」

「火事の後にアクア街の人達が持って帰った赤い宝石?」

「昔は細工の街だったんだろ? だったら、あの洞窟で採掘してたんじゃねぇかって思うんだよなー。

 で、グラキエス街のやつらが封印した魔法を持って帰っちまったとかあるんじゃねぇかって」

「なるほど……封印した火属性の魔法が時間が経って結晶化とかしてたのかな」

「結晶化、ですか。どういった封印を施したのかは分かりませんが、あり得ない話ではないかと」


良くない変質を遂げた火属性の魔法が結晶化した宝石だ。

加工をしようとして火が噴き出てしまうなんてことがあってもおかしくはない。


「この世界の職人さん達って、俺達みたいに素材は自分で採りに行くの?」

「私は街で買っていましたね。師匠がそうしていたので、そういうものなのだと思っていました」

「俺が使うのって鉱石と宝石だからな。俺以上に採掘がうまいやつなんていねぇって思ってるし!

 まぁ……買いに行けなかったってのもあるけどなー」

「アタシたちはねー……うーん……わかんない!」

「誰かにもらってたかも!」

「ガキの頃は自分で採掘してたね。家にある素材使ったら親父に怒られるし。

 親父は石屋から買ってた。ガヴィンもそうだと思うけど」

「私はエルフの集落の皆がくれた素材を使ってたわ。

 羊や畑のお世話のお手伝いをしていたからスキルは取得できたけれど」

「わしゃ自分で採っとった。山ん中に店なんぞないでな」


環境にもよるようだけど、自分で集めないほうが多いみたいだ。

生産を生業にしているなら採掘等の採取をするよりその時間を生産に充てたいだろう。

ということは、テラ街にも採掘した鉱石や宝石を細工師の人に売って生計を立てる石屋さんがいたのではないだろうか。


石屋さんが洞窟から結晶化した赤い宝石を持ち帰り、工房に卸していたとしたら。

細工の加工中に火が噴き出すなら採掘の時も噴き出しそうだけど、偶然危険な部分を除けて採掘できたのか、それとも完璧ではないとは言え封印されていたから大丈夫だったのか。

そもそも岩に埋まっていなかった可能性もある。その辺にころころ転がっていたわけではないと思うけど。

何にせよ『街中にあるたくさんの工房のほとんどが火の元』というきゅうりのお婆さんの話も、街中の工房に卸していたのであれば辻褄が合う。


「そうだとしたら火には強いだろうし、鎮火後も残るよね」

「そうですね。ですが、その後弔いの為持ち帰った先であるアクア街で、何故幽霊騒ぎが起きるのでしょうか?」

「んん、えっと、そういう曰くがある場所の物って、持って帰ったらあんまり良くないイメージがあるんだけど……」

「そうなんですか?」

「あれ? 違う?」


心霊スポットから何かを持ち帰った後心霊現象に悩まされるようになったなんて話は割とよくある怖い話なのではないだろうか。


「幽霊の話はあまり聞いたことがないので……」

「そうなの? 夏……ああいや、場所によって季節が違うんだっけ。

 あ、フェルダは暑い場所に住んでたんだよね? 納涼に怖い話とかしてなかった?」

「納涼に……? や、したことないけど。そもそも怖い話って魔物の話だし」

「なるほど……」


この世界の人達にとっての怖い話とは魔物の話らしい。

確かに前にギルドで幽霊の話を聞いた時も、噂はあれどよく語られているという感じではなかった。

ヤカさんが言っていた『昔は解明できないことはなんでも幽霊の仕業になってた』という言葉から考えるに、俺達にとっての宇宙人のような感覚なのだろうか。


火事の原因となった赤い宝石をアクア街の人が弔いの為に持ち帰った結果、幽霊が街に出てくるようになった……火事の原因は予想の話ではあるけれど。

幽霊達の呪詛によりアクア街の人が燃えてしまうなんてことが起き、更には気温がぐんと上がってしまい、街の人達が倒れる事態になった。

テラ街の幽霊も同じ時期に出ていたのだろうか。同時期は同時期でも、きゅうりのお婆さんの話から考えるにテラ街の方が後に現れたのではないかと思う。


「テラ街では声が聞こえていただけで、呪詛にはなっていないのですよね?

 聞いている限り、アクア街とテラ街の幽霊はテラ街の住人達だとは思うのですが……」

「テラ街に出た幽霊のほうが力がない感じがするね。

 アクア街の幽霊は見えてたのかな?」

「ヤカは街に幽霊が溢れ返るようになったって言ってたけど」

「声だけだったら溢れ返ったとは言わないかな?」


アクア街の幽霊がいなくなったのは、グラキエス街で採れた冷たい石が埋め込まれた石像を置いたから……周囲の温度が冷えたことで幽霊がいなくなったのか、幽霊がいなくなったから上昇していた温度が落ち着いたのかは分からないけど。

赤い宝石はどうなったんだろう。ヤカさんの言ってたように厄除け……除霊かな。除霊した結果、割れたのだろうか。


「テラ街の幽霊はルクス街の人達が魔道具を埋めたことでいなくなった……。

 声が聞こえなくなっただけで今もいたりする……?」

「どうかしら……本当に幽霊がいたのかも……姿が見えたわけじゃないのよね?」

「そうだね。声は聞こえてたみたいだけど……例えば魔道具とかで声だけ流していたとかあるかな?」

「復興作業中にそんないたずらする人もいないと思うけど」


いなくなったってことで良さそうだけど、だとしたら成仏したのか、別の場所に移動したのか。

俺達が今分かっているのはこんなところだろうか。

予想も含めてきゅうりのお婆さんとエアさんに聞いた話を便箋に書き綴る。


「……書けた!」


便箋の最後にフェルダが作ってくれた石印でぽんっと判を押し、乾いたのを確認してから便箋を半分に折って封筒に入れる。

それから、俺がログアウトしている間にシアとレヴ、リーノで作ってくれたシーリングスタンプで封をしたら終わりだ。

ネイヤが作ってくれた蝋が溶けるのを待っている間に封筒にエルムさんの家のIDとうちのIDを書いておく。

蝋が溶けたら封をして……ぐにゃぐにゃになってしまった。今度練習しよう。


「よし……郵便局に行こう!」


ウィンドウを開いて時間を確認する。

約束の時間まではまだ余裕がありそうだ。


「そのままトーラス街の家に行くから、忘れ物がないようにしないとね」

「エルフの皆さんからいただいたジュースを持って行きましょう。トーラス街の家に置いてあるコップで足りますかね?」

「何個置いてたっけ……ま、人数分以上は作って棚に入れてたはず。足りないなら作るよ」

「ライくんこれはー?」

「ようひし!」

「あっちにもあるから大丈夫だよ」


家から出た俺達は郵便局に向かって広い道を歩き始める。

グラキエス街に行く時は馬車で行こうかな。それまでにキャビンとワゴンが完成していたら良いけれど。

俺達はそれぞれ得意な物が違うけど、空さんは作れる物が多いから時間がいくらあっても足りないだろう。

急かすのも申し訳ないし、完成していなかったらいつも通り歩いて行けば良いだけだ。


話しながら歩いて30分くらい経った頃、郵便局に辿り着いた。

早速空いている受付でエルムさんへの手紙を手渡す。


「お預かりしますね。こちら、配達料は100CZでございます」

「よろしくお願いします」


お礼を告げてカウンターから離れる。

風習について纏めた手紙は夕方にはエルムさんの家へ届くだろう。


「それじゃあ、トーラス街に行こう」


郵便局から出てギルドに向かい、転移陣でトーラス街へ。

昨日エルフの集落からトーラス街の家に行って荷物整理をした後、カヴォロのお店で夜ご飯を食べている時に今日の予定が決まった。

そのままトーラス街の家に滞在しても良かったけど、テラ街の家に荷物を運ぶ必要があったので今日のログインはテラ街だ。


ギルドから出て歩き慣れた道を進む。

プレイヤーの姿は少なくはないものの多くもない。参ノ国にいるプレイヤーが多いからだろう。


「今日は祭りに向けての勉強をするんですよね?」

「うん、その予定だよ。皆は先生だね」

「うふふ、なんでも聞いてちょうだいね」

「どんな問題が出るか分かんないからなんとも言えないけど、ま、誰か知ってるでしょ」

「知らんでも本がたくさんあるでな。本にもなけりゃ探さんといかんが」

「多分、大丈夫だと思うけど……っと、ただいまー」


本日は我が家で次回のイベントに向けての勉強会だ。

兄ちゃんとカヴォロ、ソウムは来る予定だけど、次のイベントで一緒のパーティーになる誰ともフレンド登録をしていない秋夜さんには聞けていない。

聞いたところで来ないだろうとは思う。勉強は任せたと問題集を兄ちゃんに渡して狩りに出かけて行ったらしいし。


皆が来るまでまだ時間はある。

それまでにこの家の生産道具を交換して、出品用に調整しておこう。

クラン会議の日に出品した分はまだ入札期間中だけど、追加で出品するか、そちらが終わってからにするか。

出来れば同じ日に落札結果が見れたほうが何度も銀行に行く必要がなくなるから助かるけれど。


地下に降りて道具を交換して、皆が調整の作業を始めたの横目で見つつオークションページを開く。

あと3日……day141が入札終了日だ。終了日を同じ日に設定しようかな。

3日とちょっとあれば入札は出来るはず……といっても、その内2日は現実世界では深夜だ。

オークションページを見る人が少なければそれだけ入札してくれる人も少なくなる……あ、そうだ。


「そうそう、明々後日、ちょっと用事があって来れないんだよね。

 次に戻って来れるのは……day142の夕方かな? 夜までには戻って来れると思うけど」

「そうなんですか? となると……数時間は魔領域に行くことになりそうですね」

「大丈夫だよ。一応……ええと、いつになるかな」


走りに行ったりご飯を食べたり、学校に行く準備を終わらせてログインできるのは……現実世界の朝8時くらいになるかな。

ってことは、こっちの世界の……day141の0時くらいか。


「day141になってすぐ、0時くらいに少しだけ来ようと思ってるから大丈夫だよ。

 本当に少ししかいられないだろうし、寝てて良いからね」

「ええ、分かりました。普段通りに過ごしておきますね」


0時ならもしかしたら誰か起きているかもしれないし、学校に行く前に会えるかもしれない。

会えたら嬉しいけど、言及してしまうと皆起きて待っててくれそうなので言わないでおこう。


「ライ、炉の調整終わったよ」

「ありがとう!」


オークションはday142日の朝に設定しておけば、学校が終わってログインした時に先日出品した分と一緒に落札結果を見れそうだ。

さて、魔法陣を描き替えなければ。

全ての出品が終わった頃には皆が来る時間になるだろう。

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