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day16 待ち合わせ

「噴水広場のベンチって、噴水の近くの?」

「そうそう。そこであっちの12時に待ち合わせでどう?」

「うん。わかった。12時だね。

 2時間あれば鉱山の村からはじまりの街まで戻れると思う。お昼ご飯はどうする?」

「んーこれからログインして朝食だから少し遅めだし、道中で食べようか」

「そうだね。何か買って行こう」


兄ちゃんの言葉に頷いて、グラスから牛乳を飲み干す。

空になったグラスをシンクへ置きながら、ログインした後の予定を立てる。


「あ、ポーションも買っておかなきゃ」

「ポーションは貰ったやつがあるから大丈夫だよ。来李の分もある」

「それ俺も使っていいの?」

「ヌシに行くなら手土産に持って行けって渡されたやつだから大丈夫だよ」


2回目のヌシで全部使わなかったとは言え、残るポーションは4個だったので助かる。

今度会ったらお礼言わなきゃ。


「それじゃあ、兄ちゃん、またあとでね」

「うん、またあとで。よろしく」





「ふぅ……良かった。間に合ったね」


ゆらゆらと揺れる松明を眺めながら安堵の息を漏らす。


ログインしてからはまず、所持金が1,400CZしかないため銀行に行く必要があった。

小さな村には銀行がないこともあるとロゼさんが言っていたけれど、鉱山の村にはあったので助かった。

鉱山の村にある銀行は街にある銀行と比べて小さく、カウンターは2つだけ。

プレイヤーだけでなく住人も利用しているようなので、並んでいる可能性もあったけれど幸いすぐに対応してもらうことができた。


ヌシに倒された時のことも考えて5,000CZだけ出金し、その後は朝ご飯を食べて、アリーズ街へ。

鉱山の村からアリーズ街までは歩いて1、2時間掛かるため、走って向かった。


アリーズ街からは転移陣を利用してひとっ飛びだ。


冒険者ギルドから出て早速噴水広場へ向かうとたくさんのプレイヤーが集まっていた。

噴水広場にくるのはヴァイオレントラビットのお尻に潰されて死に戻った時以来だ。

その時はここまで人が多かった覚えはないけれど、兄ちゃんがここを指定していたくらいだから、待ち合わせ場所としてよく使われているのかもしれない。


人の隙間を縫うように進みながら噴水の近くにあるベンチへ向かう。

これだけ人がいるとベンチには座れていないかもしれないし、離れたところにいる可能性もある。

周囲の様子を伺いつつ進んで行く。


そう言えば、兄ちゃんがどんな姿か知らない。見つけられるだろうか。

でも、特に何も言ってなかったし、別人って程には変わってないだろう。


ベンチ周辺にいる人の垣根を越えベンチへと視線を向ければ、足を組んでベンチに座りウィンドウを眺めている兄ちゃんを見つけることができた。

髪の色と長さは違うけど、他は多少美化されているもののほぼいつもの兄ちゃんだ。


「兄ちゃん!」


俺の声に気付いた兄ちゃんは顔を上げ、俺を見つけると笑顔を向けて立ち上がった。

兄ちゃんだと確信していたけど、それでも人違いじゃなくてよかったと安心する。


兄ちゃんに駆け寄りながら、改めて兄ちゃんの姿を確認する。

所謂ポニーテールと呼ばれる髪型だ。

頭の後ろで結ばれたさらさらの長い髪は白に近い金色で、太陽が反射してきらきらと光っている。

プラチナブロンドって言うんだったかな。凄く似合っている。


「兄ちゃんかっこいい!」

「そう? ありがと。

 ら……そう言えば、名前何にしてるんだっけ?」

「ライだよ」

「そっか。ライも着物良く似合ってるよ」


そう言って笑う兄ちゃんの耳が尖っていることに気付く。

金色の長い髪と尖った耳と言えばエルフだろうか。


「兄ちゃん、エルフにしたの?」

「んーまぁ、そうだね。あ、君がジオン?」


兄ちゃんの視線がジオンへと向けられる。


「はい、ジオンです。ライさんのお兄さんですよね? お話は伺っております」

「俺はレン。今日はよろしくな」


2人共凄く格好良いから、話しているだけでも絵になる。


「ライ、フレンド登録しようか」

「うん? あ! あったね、そんなの」

「はは。やっぱり忘れてたな。売れたら俺に伝えといてくれって言ってたってロゼに聞いてそうじゃないかと思ってたんだよ」


ロゼさん達と兄ちゃんがフレンドだっていう認識はあったから忘れていたわけではない、と思う。

自分には関係ないとどこかで思っていたのか、それとも断られるのが怖いとどこかで思っていたのか。

フレンドになるということ自体を思考の隅に追いやっていたようだ。


「あー……ロゼさんが一瞬不思議そうな顔してた理由はこれかぁ」

「世の中にはフレンドを作りたがらない人もいるから、それだと思ったみたいだよ」

「そんなまさか」


友達が欲しいと常日頃思っているので、フレンドを作りたがらない人の気持ちはさっぱりわからない。

ゲームの中でまで人と関わりたくないとかそういうのだろうか。

何にせよ、共感はできそうにない。


「フレンド登録は目の前にいなきゃ出来ないから、今の内にしておこう」

「へぇ。そうなんだ?」


兄ちゃんがウィンドウを弄ると『レン様からフレンド申請がきています』と書かれたウィンドウが現れた。

承認してフレンドリストを確認すると『レン』と書かれた文字とそれからログイン状況が書かれた文字が並んでいる。


「俺の初めてのフレンドは兄ちゃんだね」

「それは、光栄だね」


カヴォロもフレンドになってくれるかな。

今度会ったらお願いして……いや、すぐにでもお願いしに行きたい。


「あ、ねえ兄ちゃん。お昼ご飯買うところ決まってないなら、行きたい露店があるんだけど、いい?

 フレンドになってって頼みたい人がいるんだけど……」

「いいよ。行こうか」


兄ちゃんの言葉に頷いて、噴水広場から出て露店広場へ向かう。

今日はいつもより露店広場に人がいないように見える。

いつもカヴォロが露店を開いている場所まで向かえば、カヴォロを見つけることができた。


「あの露店?」

「うん。そうだよ」

「俺もこの前あの露店でつくね買ったよ」

「そうなんだ? 俺が食べたのは串焼き」


今日はお昼ご飯を買うためにきたので列に並んで待つ。

いつもより露店広場に人がいないからか、並んでいる人もいつもより少ない。

兄ちゃんとジオンの3人で話しながら順番を待っていると、すぐに順番が回ってきた。


「……勘弁してくれ……」

「え? なに?」


俺と兄ちゃんの姿を見たカヴォロが渋い顔で何かを呟いたが聞き取ることができなかった。


「いや……知り合いか?」

「兄ちゃんだよ。これから一緒に狩りに行くんだ」

「……そうか……兄弟か……俺はカヴォロ。ライには世話になっている」

「俺はレン。よろしく」


カヴォロは兄ちゃんの言葉に頷く。


「それで、今日はどうしたんだ?」

「お昼ご飯を買いに来たんだよ」

「それなら、この前の約束のやつ持っていけ。レンの分も一緒に持って行っていい」

「でも」

「持って行け」

「はい」


ウィンドウを操作してアイテム化した紙袋を押し付けるように渡される。


「昼飯って言うより、デザートだが。まぁ、腹は満たせる」

「デザート? それは楽しみだね」

「俺まで貰っちゃっていいの?」

「いい。材料のほとんどはライが持ってきたものだからな。

 それに……まぁ、受け取ってくれ」

「それじゃ、ありがたく貰うよ。ありがと」


さて、お昼ご飯も目的の1つではあったけれど、ここからが本題だ。

どきどきと不安で鳴る心臓を堪えながら、深呼吸をして、口を開く。


「あ、あのさ、カヴォロ。お願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「あのー……フレンドになってくれない?」

「……フレンドは作りたくないのかと思っていたが」

「違うよ……ただ、ちょっと忘れていたというかなんというか……。

 あ、カヴォロはそうだったりする?」

「いや、そういうわけではない。

 まぁ……少し話しただけの相手と登録しようとは思わないが……ライなら構わない」

「本当!? 申請送る!」


頷いたカヴォロを見て、早速兄ちゃんに聞きながらカヴォロにフレンド申請を送る。

それはすぐに承認され、フレンドリストにカヴォロの名前が追加された。


「ありがとう、カヴォロ。

 あ、この後またヴァイオレントラビットのところに行くから、持ってくるね」


練習で倒した時の分もその時纏めて渡すことにしよう。


「そうか。助かる。

 俺も早く弐ノ国に行きたいんだが、なかなかレベルを上げる暇がなくてな……」

「そうなの? それじゃあこれから一緒に行く?」


ちらりと兄ちゃんとジオンに視線を向けると、2人は笑顔で頷いてくれる。


「……魅力的な提案だが」


カヴォロはそこで言葉を止めて、小さく溜息を吐いて俺達の後ろに視線を向けた。

その視線を追うように後ろを見れば、いつの間にかずらりと人が並んでいた。


「わ。ごめんね、いつまでも。

 それじゃあ、行きたくなったらメッセージ送ってよ」

「ありがとう。頼むかもしれない」


またねと挨拶をして露店から離れてフィールドに向かう。

貰った紙袋はアイテムボックスに入れておく。

ヴァイオレントラビットがいる辺りの安全地帯で食べたらいいだろう。


「そう言えば兄ちゃん、武器は? あ、魔法使い?」

「魔法使いではないね。

 座るのに邪魔だったから外してただけだよ」


兄ちゃんはそう言って、ウィンドウを弄る。

俺はわくわくしながら兄ちゃんの様子を伺う。


「俺の武器はこれ」


そう言って見せてくれたのは、海賊映画なんかに出てきそうなアンティークな見た目をした銃だった。

あまり詳しくはないけれど、古式銃ってやつ、かな?


「わー兄ちゃん格好良い!」

「ありがと」


兄ちゃんは笑って、銃をアイテムボックスに再度入れてしまう。


「あれ、装備しないの?」

「んー邪魔だからね」


装備をすると言っても謎の力が働いて腰にぴたりとくっつくというわけではない。

俺の場合はウィンドウから装備した時は帯に差さるし、手動で装備する時も帯に差すので、どちらの装備方法でも同じだ。

ちなみに、帯から抜いてどこかに置いている間は装備ウィンドウからも表示が消えるし、差し直したら装備されている。


「そう言えば俺達は帯に差してるけど、着物じゃない人とか鞘がない武器とかはどうしてるの?」

「ウィンドウから装備した時は武器に合わせてホルダーだったりベルトだったり、俺の場合はホルスターかな?

 それも一緒に装備されるよ。まぁ、アイテムボックスから出して手に持つだけでも装備したことになるから、人それぞれかな」

「そうなんだ? 一緒に装備されるなんて便利だね」

「そうだね。ただ、例えば剣なら、腰じゃなくて背中が良いとか人それぞれあるから、ある程度進んだら自分で用意する人も多いよ。

 生産スキルで作れるし、街にも売ってる」

「刀のもあるかな?」

「あるんじゃない?」


いつか買ってみてもいいかもしれない。

まぁ特に困ってはないのだけれど。


「兄ちゃんの自動で装備されるホルスターはどんなやつなの?」

「ショルダーホルスターってやつだね。肩からわき腹にかけてストラップがあるようなやつ」

「へぇ~使ってないってことは、気に入ってないの?」

「1丁だけならいいんだけど、2丁あるとさすがに邪魔でね」

「兄ちゃん2丁拳銃なの?」

「最初は違ったけど、狩りの効率上げたくて買ったんだよ」

「そっかぁ~! 早く戦ってるとこ見たいなぁ」


そうこう言っている内に、フィールドへ辿り着く。

スライムはこちらから攻撃しない限り、寄ってくることはないので、どんどん進んで行く。


「銃のスキルって銃術? とか?」

「そうだね。でも俺は[魔銃士]だからちょっと違うかな」

「魔銃士? あ、魔刀術みたいなこと?」

「まぁ、そうだね。ただ、魔銃士のスキルは2種類あるから少し違うかな。

 魔銃士には【魔封銃】と【魔力銃】があって……」


兄ちゃんに教えてもらった内容を纏めると、魔法が込められている弾を打つ【魔封銃】と弾ではなく魔法を打つ【魔力銃】があるそうだ。


【魔封銃】は弾に込められていればどの魔法属性でも撃つことができるため、敵の弱点によって使い分けることができる。

そして、MPを消費することもないそうで、弾がある限りはずっと打てる。

ただし、通常弾なら石や岩から魔封銃スキルで簡単に作れるそうだが、魔封弾を集めるのが厳しいとのこと。


【魔力銃】は弾が必要ない代わりに、打つたびにMPを消費する。ただ、クールタイムは他の戦闘スキルに比べて減少しているそうだ。

微量なMPで打つことができる『無属性』の魔力弾もあるそうで、そちらはクールタイムがないため、MPさえあれば属性の魔力弾と無属性の魔力弾を組み合わせて連発することも可能とのこと。

ただし、属性魔法スキル……俺で言うなら黒炎弾だ。そういったスキルが全て魔力銃の属性魔力銃スキルへと変化してしまうため、属性魔法スキルは使用できなくなってしまうらしい。


「まぁ、どちらにせよ人気はないかな」

「え? そうなの?」

「魔封銃は弾を集めるのが厳しいから銃術でいいって言われてるし、魔力銃も属性魔法スキルに比べて威力がだいぶ落ちるから普通に魔法使ってたほうがいいって言われてるね」

「兄ちゃんはどっちにしたの?」

「俺は……あ、そうだ。俺の種族も☆4なんだよ」

「そうなの!?」

「出てたから、ライの真似して選んじゃった。

 エルフは間違ってないけど、<ハイエルフ>だよ」


兄ちゃんの言葉に、ジオンが息を飲んだ。

俺はなんか凄いエルフってくらいの認識しかないけど、この世界の住人であるジオンは違うようだ。


「魔法攻撃力が高くなってる代わりに、属性魔法以外の攻撃スキルの取得と使用ができないんだ。

 だから、魔力銃だよ」

「ええー魔力銃って結局は銃なんじゃないの? 大丈夫なの?」

「撃って出てくるのはただの魔法だからいいんだろうね。

 通常攻撃に魔法攻撃が乗る魔封銃のほうは選べなかったからそういうことなんだと思うよ」

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