day126 出発
「ライさんこんにちは! お邪魔します!」
「わーイリシアさんだぁ。久しぶり~」
「ライちゃん! 今日はよろしくね!」
「あ、あの、ごめんなさい……」
待ち合わせ場所にはカヴォロだけでなく、サクノさんとぐんぐんさん、みきさん、菖蒲さんがいた。
みきさんと菖蒲さんにはイベント後にも会ったけど、サクノさんとぐんぐんさんはイベントぶりだ。
「悪い。俺がライと行くと聞いて勝手に付いて来た。
邪魔なら置いて行ってくれて構わない」
「ううん、大丈夫だよ。皆も一緒にテラ街に行くってことで良いのかな?」
「そうらしい。断ったんだが聞かなくてな」
「あはは、よろしくね。他の人達はもうテラ街に行ってるの?」
「シルトとベルデといわいはジャスパー達に連れて行ってもらうと言っていた」
生産職の人達がターゲットにしているのは一番多いレベル帯……大体50から65くらいのレベルの人達なのだそうだ。
転移陣で戻って来られるとは言え、彼等と一緒に動いて露店を開いたほうが売上げが上がるらしい。
しかし生産職の人達は生産の時間を優先しているのでレベルが高くない。
なので、彼等と同じ時期に次の街に移動する為に、戦闘職の人達に連れて行ってもらうことが多いのだとか。
それに、強い生産品を作るには先の素材が必要になる。
オークションで売りに出されていることもあるそうだけど、彼等が活動する街で露店を開いていたらそちらで取引してくれることが多くなるのだとか。
納品依頼よりプレイヤーと取引したほうが高いし、出品しても売れるか分からない。
近くで取引出来るならそっちでするって人が多いのだろう。
「中にはアイテムを融通しているから優先して渡せと言ってくるやつもいるが……」
「あるある。じゃあいらないって言ったことあるもん俺。
そんなこと言ってたら儲けられないんだろうけどさぁー!
心情的にはそう言ってきた人には売りたくない!」
「僕が取引するのはほとんど生産プレイヤーだからね~。
僕はないけど、いわいさんはそれで喧嘩になったって言ってたよぉ」
「わ、私も言われたことない、けど……みきちゃんは言われたことあるんだよね?」
「ある! 今はぐんちゃんが育てた植物を買ってるから言われなくなったよ。
でも、纏め買いするから安くしろとは言われるかなぁ……元々安いのにさー!」
俺は露店を開いたことがないし、直接取引をする相手も限られているので、対面でのトラブルは起きたことがない。
いつかは店舗をと思っていたけど、こういう話を聞いていると怖くなってくる。
トラブルに対処できる自信がない。
「それじゃあ、行こうか。パーティーはどうする?」
サクノさん、ぐんぐんさん、みきさん、菖蒲さんは4人でパーティーを組んでいるようだ。
カヴォロをパーティーに誘って移動を始める。楽しい移動になりそうだ。
「ねね、ライちゃん。オークションに出品してた艶麗染剤って錬金術? 調薬でも作れるかなぁ?」
「ネイヤが錬金術で作ったよ。調薬は……どうなの?」
「さて。そもそも調薬と錬金術では作れるもんが違う。
同じもんも作れるが、それは錬金術だけのようだからな。
調薬で試すより錬金術を取得したほうが早かろうて」
「錬金術ってどうやったら取得できるの……!?」
「それは知らん。わしは生まれた時から取得しとった」
調薬のスキルレベルを上げたら開放されそうだとも思うけど、スキルレベルが高いであろうみきさんのスキル一覧には出ていないみたいだ。
他に必要なスキルがあるのか、それとも魔道具製造スキルのように錬金術師の師匠をもつ必要があるのか。
ネイヤが師匠になればどうだろうかと思わないでもないけど、多分それは無理なのだろうと思う。
本人にやる気がないという理由ではなく……まぁ、進んで師匠になりたいと思うようなタイプではなさそうだけれど。
俺の仲間……従魔であるからという理由だ。
エルムさんがリーノへ依頼をした時に『個人への依頼となると君の許しが必要だ』と言っていた。
テイマーの不利益になる可能性があることはテイマーの許可がなければしないのがこの世界の理なのだろう。
俺が良いと言えば師匠になれるのかもしれないけど、俺がそれをネイヤに進言するのは違うと思う。
ネイヤが望んでいるならともかく、俺から進言してしまえば断れないだろう。
まぁ、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ、俺の仲間なのにって気持ちもある。
誰かの師匠になるのは嫌だなって思う。例えその誰かが俺のよく知る相手だとしても。
独占欲なのだろう。子供みたいで恥ずかしいので口にも態度にも出さないけれど。
「そういえばカヴォちゃん。前に生産依頼を受けてたらスキルが増えたって言ってたよね?」
「まぁ、そうだな。依頼でスキルレベルが上がったからという可能性はあるが」
「私も色々受けてみようかなぁ……」
「いいなー。僕も受けてみたいんだけど、農業の依頼ってないんだよね~」
「テラ街にたくさんあったよ。
あ、テラ街に園芸屋さんがあるんだけど、品評会の農業部門で審査員をしていたみたいで、ぐんぐんさんのこと覚えてたよ」
「審査員さん? どの人かなぁ。そのお店、僕も行けるかなぁ?」
「店主のリュヴェさんは大歓迎って言ってたよ」
お店に行けないことがあるのだろうかと不思議に思ったけど、カヴォロ曰くプレイヤーが入れないお店というのは実際にあるのだそうだ。
紹介してもらったり依頼を挟まなければ入れないお店があるらしい。
プレイヤーが購入できるアイテムが制限されているからだろう。
「俺はライに紹介されたから入れたが、恐らくヤカの店もそうだと思うぞ。
まぁ、今は生産頑張る隊のやつらも入れるだろうが」
「そっかぁ。俺もエルムさんに紹介して貰ったからね」
紹介と言っても、一方的な紹介だったようだけれど。
ヤカさんには俺達が行くという話は特に伝わっていなかったように思う。
物凄く警戒された覚えがある。
「あ、みきさん、止めお願い出来る?」
「出来るよ! ありがとー!」
みきさん達はパーティーが違うので俺達が止めを刺したら経験値が入らない。
全員に経験値が入るように可能な限り交互に止めを刺しながらテラ街への道を進む。
今日中にアクア街からテラ街に行くとは言え、まずは薬師の村だ。
一度立ち寄って薬師の村の転移陣に移動できるようにしたほうが今後楽になるだろう。
薬師の村というだけあって、薬師の村の依頼は調薬関係が多いそうで、みきさんも依頼に興味があるみたいだ。
アクア街から薬師の村までは……確か、順調に進んで4時間くらいだったはずだ。
俺が薬師の村に行った時はエルフの集落から行ったので実際はどうなのか分からない。
エルフの村の集落からだと3時間半くらいだった覚えがある。
俺の場合、ジオン達と行動しているのでログインしている間に次の街や村に移動しなければいけないけど、従魔のいない人は途中のセーフティゾーンでログアウトしても問題はない。
俺達がレベルに見合わない街にいるのは、ログイン時間中に次の街に移動する為に狩りはそこそこで急ぎ足で移動しているのも原因の一つだろう。
「そういえば、リーノが菖蒲さんにまたトンボ玉頼めないかなって言ってたよ」
「本当? いつでも作る……作らせて欲しい」
「菖蒲ちゃん良かったねー! ガラス細工が売れないってしょんぼりしてたもんね!」
「そ、そうだけど……でも、最近は、リーノさんのトンボ玉を使ったアクセサリーを見た人達から頼まれるようになって……。
細工出来る人にだけど……サクノ君も買ってくれるから、前よりは売れるようになったんだよ」
「トンボ玉使ったアクセサリーだと宝石を使うより性能高くなるんだよねー。
あ、でも、リーノさんが作ると宝石とトンボ玉にそんなに差はなかったなぁ……なんでだろ?」
「当然だろう。あんたとリーノじゃ腕が違う。
サクノは別のスキルと組み合わせて性能を補い……まぁ、それでもリーノの作るものには届いていないだろうが。
リーノは宝石の性能を最大限引き出せるだけだ」
「うっ……刺さった……」
手厳しい……聞いてた俺にも刺さった。
確かに俺も、エルムさんと同じ品質と性能の道具と材料を使い、同じ魔法陣を描いて魔道具を作っても、エルムさんの足元にも及ばない性能の魔道具になるだろう。
魔法鉱石や魔法宝石を使って補っているけど、それでもエルムさんの作る魔道具のほうが性能が上だ。
「い、良いもん! リーノさんと一緒に作業したことで、前より強いアクセサリー作れるようになったもん!」
「そうか。良かったな」
「これ、俺煽られてる?」
「良かったなとしか思っていない」
和気藹々と話をしながら薬師の村への道をどんどん進んで行く。
今日中にテラ街まで行きたいので、今日も少しだけ急ぎ足だ。
俺は情報を聞く相手が少ないし、掲示板を見ていないので他の人達より情報を知らないと思う。
俺しか知らない情報もあるかもしれないけど……何が知られているのか分からないので比べようがない。
こうして生産頑張る隊の人達と話していると知らない情報を知ることができるのでありがたい。
例えば最近の生産関連のスレッドでは魔力の話題がずっと上がっているらしい。
サポート枠の人を通じて知られるようになったそうだけど、生産をしている時に魔力が見える人と見えない人、魔力の赤い点の数が変わる人と変わらない人、魔力の大きさが変わる人と変わらない人等様々な人がいるのだそうだ。
「シルトちゃんは見えないって言ってたよ。
でも、シルトちゃんが付与スキルの成功率が上がったのは魔力を調整してたからかもって」
「えっと……ライさんに付与スキルの話をした時に、『魔力を調整する感じ?』って聞かれたからそうなのかもって……シルトちゃん言ってたよ」
「俺? んー……盾を買った時に、そんな話したかも」
その時のシルトさんの返答は『魔法弾ならそうなんですかね?』だった覚えがある。
生産で魔力が調整できるなんて知らなかったからこその返事だったのだろう。
「ライちゃんは魔道具作る時に魔力の調整してるの?」
「しようとはしてるよ」
「見える? 増える? 大きくなる?」
「あはは。見えるけど、増えたり大きくなったりって感じじゃないかな。
俺の魔力感知だと赤い点は見えないんだよね。
あ、そうだ。魔力が見えるようになる魔道具を作ったんだけど、それを使ったら赤い点以外が見えるようになると思うよ」
「そんなものを作ったのか」
「兄ちゃんの魔力感知が……制限出来ないかなって。
魔力が見れる魔道具が作れるなら、逆も出来るんじゃないかなって挑戦してみたんだ」
兄ちゃんの魔力感知は現状隙を作ってしまうスキルになっている。
それを知られてしまうと今後のイベント等でそこを突かれてしまうかもしれないので詳しくは話さないほうが良いだろう。
「う、売らないの!?」
「うーん……俺は使わないし、必要な人がいるなら?」
「俺欲しい! お願いします! 売ってください!」
「良いよ」
「良いの!? 本当に!? それ売って大丈夫なやつ!?」
「大丈夫だと思う……それに、見れるのも自分から放出された魔力だけだから、他の人とか魔物の魔力とかは見えないんだよね」
「生産する時は自分の魔力が見えてたら良いんだよね? あれ? 違う?」
「どうかなぁ。素材自体の魔力とかも見えたほうが良いのかもしれないけど……ジオン、どう?」
「そうですね……私も魔力は見えていないので、確かなことは言えませんが……素材自体の魔力に自身の魔力を混ぜ合わせる感覚はありますね。
ですが、自身の魔力の動きが分かれば、素材自体の魔力の動きも予想できるようになるのではないでしょうか」
「なるほど。見えないのと見えるのじゃ違うよね。
今持ってるけど、どうする?」
先日ソウムとテイムをしに行った時に持ってきてたら良かったと反省したので、今日は持ってきている。
移動するだけなので使わないかなとは思ったけど、何があるか分からない。
「あー!!! お金持ってきてない! 誰か貸して!!」
「え、やだ。私も欲しいもん。私が買う!」
「俺が一番最初に言ったから俺が先!」
「私も欲しい……サクノ君、お金がないなら諦めて」
「サクノさんの負けだねぇー」
「いやぁあああ!!!」
テラ街に着いたら作ったほうが良さそうだ。
魔法陣はメモしておいたからリーノにピアスを作って貰えばすぐに作れる。
生産職の人達に需要がありそうだと分かったし、いくつか作ろうかな。