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day123 ノッカーのいる洞窟

霧に覆われた森を迷宮の欠片を持ってカランコロンと鳴る鐘の音を頼りに進む。

真っ白だ。隣を歩くソウムにちらちらと視線を向けつつ、離れていないことを確認しながら歩みを進める。


「これだけ霧が出てると……奥に行けないって言われるのは分かるね」

「実際はここまでくる人もいないみたいだよ。

 幽霊の噂と言うか……奥に行ったら帰らぬ人になるみたいな噂があって、誰も近付かないみたい」

「え……僕達大丈夫……? 帰れる?」

「大丈夫大丈夫。幽霊はいないからね」


リーノの過去やイリシアの過去については触れられなくて、ソウムには話していない。

良い過去とは決して言えない過去なので、誰彼構わず言いふらすのは気が引ける。

どうしても話さなきゃ話が進まないとかじゃない限りは話すつもりはない。

とは言え、堕ちた元亜人であったことは話しているから、何かしらあって堕ちたってことはわかっているだろうけれど。


辿り着いた大きな鐘の前に立ち、紐を引っ張ってカランコロンと鐘を鳴らせば、辺りの風景が変わっていく。

今回はもう危険がないので気楽なものだ。

相変わらず真っ黒に焼け焦げたかのように荒れた森に視線を巡らせてから、一応鐘の前で迷宮の欠片を鳴らしてみる。

やはり転移陣には繋がっていないようだ。あとどれくらいここに滞在したら迷宮の欠片と転移陣が繋がるだろう。

とは言え、一度霧のない状態のここに立ち入ったなら、この先は霧の中を彷徨う必要はなくなるはずだ。

迷宮の石の範囲内であれば再度鐘を鳴らさない限りは霧は出ない。と言っても、範囲外に行ってしまうと再度霧が出てしまうけれど。

ソウムのテイムが成功するまで何度この霧の中を進むことになるだろうか。


ここに長居する必要もないので、岩山に向かって足を進める。

迷いの森のエルフの集落周辺は霧が晴れたら魔物が出てたけど、どうやらこの辺りは魔物もいないらしい。


暫く歩いて、後方に霧が広がるまで進み続けると岩山のすぐ近くまで辿り着いた。

確か洞窟に続く出入口がたくさんあると言っていたはずだ。

リーノに視線を向ければ、きょろきょろと辺りを見渡してから一番近くにある空洞の中を覗き込んだ。


「んー……ああ、ここか。ってことは……あっちのほうだな」

「ここから入る?」

「いや、ここから入ったら遠回りになるから、別の入口に行ったが早いぜ」


頷いて、リーノの後ろに付いて行く。

見つけた空洞を覗いては中を確認するリーノの姿に、本当にこの洞窟の中にいたのだと改めて実感する。

それにしても……本当に空洞の数が多い。それぞれの空洞から別々の道が入り乱れるように中で繋がっているのだろう。これは確かに迷子になりそうだ。

ソウムはノッカーの人達に案内して貰ったと言っていたけど、ノッカーの集落にはそれなりに簡単に辿り着けるということだろうか。

と思っていたら、リーノが中を覗くどころか視線すら向けずに通り過ぎる空洞がいくつかあることに気づいた。

恐らく集落に続く……と言うよりは、集落から近い出入口なのだろう。

こっそり中を覗き見てみれば、他の空洞と比べて比較的明るく、ぽつんぽつんと光源が一定間隔で置かれていると分かった。

依頼を受けた人達はこの光源を頼りにノッカーの集落を訪ねて堕ちた魔物のいる場所までの道を案内して貰ったのだろう。


「……ここかなぁ」

「入る?」

「おう。ここからならそんなに遠くないはずだぜ」


頷いて、中に入る。真っ暗だ。

俺達もソウムも夜目が効く種族なのである程度見えているけど、それでも奥の方は暗闇で先がどれ程続いてるのかも分からない。

ぴちょりぴちょりと水滴が落ちる音が聞こえてくる中、でこぼことした道を進む。


「……採掘して行く?」

「お、良いな。ここにはこれまでなかった鉱石もあるぜ」

「そうなの? なんて鉱石?」

「《竜胆鉄》、《月白銅》、《退紅玉鋼》だな! まぁ、鉄と銅と玉鋼の方が多いけどなー」

「おや、それは良いですね。これまで以上に強い武器が打てます」

「鉄と銅と玉鋼よりランクが上の鉱石?」

「ええ、基本的にはその認識で問題ありませんよ」


なるほど。鉱石の品質の最高は☆5なのだと思う。これまで☆6の鉱石は見たことがないし、融合した後も☆6以上になることはなかった。

☆2でも☆4でも黒炎弾を融合したら☆5になっていたから、もしかしたらそうなのかもとは思っていたけど、単純にもっと先に行かなければ手に入らないとか、魔力の操作が下手で出来ないのだろうとも思っていた。

しかし、先に進めば上位の鉱石が手に入るようになるらしい。確かにジオンも最初の頃に鉱石はたくさんあると言っていたし、鉄や銅、玉鋼は比較的初心者向けの鉱石だと言っていた。

銀と金もあるのかな。今のところ銀と金は☆1の物しか手に入っていないので、あるとしても手に入るのはまだまだ先になりそうだ。


「ソウム、少し採掘しながら進んでも良い?」

「うん、良いよ。僕も手伝う……あ、つるはしない……」

「ソウムは敵をよろしく!」

「敵? それは良いけど、近くにいる?」

「うん、魔力が見えてるからそろそろ出てく……ひぃいいい!!!」

「え!? 何!? 何事!?」

「あわわわ……むりむりむり、だめ、あああ……無理ぃいい!!」


奥からかつかつと固い足音を響かせながら出てくる敵の姿を視界に入れた瞬間、回れ右して全力で走る。


「蜘蛛は無理ぃいいい!!! 後は頑張ってぇええ!!!」

「ら、ライさーん!!」

「そういやこの道蜘蛛出るんだった……。

 ライー! 蜘蛛出ない道あるから! そっちそっち!」

「どっち!? どこ!?」

「そのまま右に曲がってくれー!」


洞窟内を反響して届く声に従い、右に曲がって立ち止まる。

曲がり角からそっと顔を出して逃げ出した場所の方へ視線を向ければ、皆がこちらへ向かって歩いてきていた。


「ライにも苦手なものってあるんだね」

「それはまぁ……ソウムは蜘蛛好きなの……?」

「いや別に好きではないけど。そこまでではない」

「ぐぅ……蜘蛛だけは一生克服できない気がする……。

 この道には蜘蛛いない? 何がいるの?」

「こっちは蛇だな」

「それなら大丈夫だね。行こう行こう」

「蛇は良いんだ……」

「あのね、ライくんはね、エビも大丈夫なんだよー」

「えび……? 何の話……?」

「あー……前に足が多い系が苦手って話をしたことがあって、その時に『エビは?』って聞かれたんだよ」

「た、確かに足いっぱいある……」


洞窟の中には蜘蛛がいることもあるんだなと、この先訪れる洞窟に思いを馳せながらつるはしを握る。

俺とリーノ、フェルダで採掘して、ソウムとジオン、シア、レヴが戦闘だ。

今回は採掘メインではないし、戦闘中だけ鉱石を集めることにした。

と言っても、狭い道だから敵が出てくると避けられないので必ず戦闘になるのだけれど。


奥に進めば進むほど、敵の数が増えてきた。

ソウムはともかく、俺達にとっては適正レベルの高い場所だ。

徐々に進む速度が落ちていき、なかなか進めなくなった頃、ソウムが洞窟の奥へ視線を向けて首を傾げた。


「うーん……手品しよう」

「今!?」

「まぁ、手品でもなんでもないけど……ちょっとだけ離れてくれる?」


頷いて、ソウムから少し離れる。

俺達が離れると同時に大きな箱……先日フェルダとシア、レヴが作ったお洒落な箱だ。

手品用の箱がどこからともなく出てきて、ガンっという音と共に地面に降りた。


「この手品には種も仕掛けもありません。

 さて、今回の手品、君達に手伝って貰いたいんだ」


ソウムはわらわらとこちらにやってきている蛇に向かってそう言いながら、パカリと扉を開く。

すると、たくさんいる蛇達が不思議なことにするすると箱の中へ入り始めた。

俺達の横を通り抜けて、箱の中に入って行く蛇にぎょっとする。

近場に沸いていた蛇達が全て箱の中に入ったことを確認したソウムは、パタリと扉を閉じていつのまにかソウムの周りに浮かんでいた剣を次々に箱に刺し始めた。

その中の3本はジオンの作った剣だ。


「ライも刺して、ジオンも」

「う、うん……?」


言われるがまま刀を抜いて箱に刺す。

先日ソウムが家でこの箱の中に入った時のことを頭に浮かべて、この後開けたら無傷の蛇が出てくるのだろうかと考える。

開けずにそのまま放置するのかな。


「さぁ、お手伝いしてくれた皆は無事なのか、それとも……」


どうやら放置ではないようだ。

刺した剣を次々に抜いていくソウムに倣い、俺とジオンも刀を引き抜く。

全ての剣を抜き終わると、ソウムは扉の取っ手に手を伸ばした。

ゆっくりと開かれる扉の中を恐る恐る窺う。


「種も仕掛けもないんだから、無事なわけないんだけどね」


正直、あれだけたくさんの蛇がぎゅうぎゅうに入っているところを見るのは遠慮したい。

そう思っていたのだけれど、箱の中は空っぽだった。


「あれ? あ、違う場所から出てくる手品?」

「手品じゃないよ。箱に詰めて刺しただけ」

「なるほど……そんな戦い方もあるんだね」


ソウムの匙加減で手品になったり手品じゃなくなったりするらしい。

ちょっとだけ魔物に同情する。紛うことなき騙し討ちだ。


「今この中に俺が入って剣刺されたら死ぬ?」

「……入ってみる?」

「やめときます」


再度スポーンしてしまう前に進み切ってしまおう。

一掃してくれたお陰で進みやすくなった道を足早に進む。


ある程度進めばまた蛇がたくさんいたけど、ソウムが次々に手品スキルを使って倒してくれた。

宙に浮いたトランプがあちこちに飛んで行ったかと思うと、蛇の額に貼り付いていたトランプに短剣が突き刺さっていたり、いつの間にか蛇達の中心にいたソウムの鞭が撓ったり、ダイヤと呼ばれる綺麗な小鳥がコインを咥えて飛んで行ったり、そのコインがクラブと呼ばれる黒猫に変わってバリバリと蛇を引っ掻いたりと、最早イリュージョンを見ている気分だ。

そんなソウムの姿を俺達は呆気に取られて見ていれば、採掘は良いのかと不思議そうな顔で聞かれたので慌ててつるはしを振るう。


「すげーなー」

「こんな使い方するやつ聞いたことない」

「他にどんな戦い方が出来るのか気になってきたよね。

 今度色々手品に使えそうなもの作ろう」

「やめて……ここ敵の数が多いから使ってるだけで、普段はこんなに手品スキル使ってないから……。

 あと、ここ暗いからなんとかなってるってだけだよ」

「あ、そう言えば、暗いところだとステータスが上がるって前に言ってたね」

「ほんのちょっとだけね。あと……さっき纏めて蛇倒せたし」

「蛇倒したら強くなるの?」

「蛇と言うか……僕ダンピールだから……」

「はっ……! 血……!? いつの間に飲んで……!?」

「飲んでない飲んでない。飲まなきゃいけない特性ならなかったことにしてる……」


流した血の量……つまりは倒した敵の数で一時的にステータスアップ出来るらしい。まぁ実際には血は流れていないのだけれど。

その代わり敵を倒していない間はステータスダウンなのだとか。と言っても、☆3種族なので微々たる変化なのだそうで。

今回の場合暗い場所かつ纏めて一気に蛇を倒せたから、塵も積もれば山となるということでいつもよりステータスアップが出来ているようだ。


「こんなに敵がたくさん沸く場所ないし、普段はあってないようなものだよ。

 纏めて倒した分もそろそろ切れると思う」

「色んな特性があって面白いね」

「ライだって☆4……鬼人ではないんだよね?」

「うん、俺鬼神だよ。鬼の神のほう」

「えっ……ライって神様なの……?」

「違う違う。妖精ちゃんはあくまで鬼って言ってたよ」


特性の話をしながら、採掘をしつつ進んでいると、嫌悪感を覚えるようなもやが見えてきた。

堕ちた元亜人の魔力とよく似ているけど、堕ちた元亜人と比べて荒々しい魔力だと感じる。

あれが堕ちた魔物の魔力なのだろう。


ここからはまだ少し距離があるけど、そろそろ警戒して進んだほうが良さそうだ。

俺とフェルダのつるはしをアイテムボックスに入れて、こそこそと岩壁に身を隠しながら進んで行く。

もやに近付くにつれて、他の魔物のもやが消えて行く。

最後には、先程までたくさん沸いていた蛇の姿が一切見えなくなった。


「やっぱり、リーノがいた場所にいそう?」

「ん……ライが言うもやの場所は俺がいた辺りだと思う。

 あの辺には魔物いなかったはずなんだけど……」

「リーノがここから出た後に来た魔物ってこと?」

「多分、な。こんだけ広い洞窟内で、よりによってなんでそこに居着いてんのかわかんねぇけどな」


道が入り組んでいるので、実際の距離感はわからないけど、僅かにあの嫌な臭いが届いてきている。

もう目と鼻の先だろう。

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