day121 完成
「ど、どう……?」
「……凄い……見えない……」
「! やった! 成功だ!」
試作品1号は魔力の色が発光してしまうというなんともよくわからない物になってしまった。
2号は点滅、3号は……なんだったかな。とにかく、5号までは負荷が増えるような状態の物しか出来なかった。
見えるものが見えなくなるのはデバフと変わらないなと考えて、いっそのことデバフ系の効果付与を使ってみたらどうかと切り替えたところ、試作品11号にして漸く成功した。
混乱と暗黒が凝固された魔法宝石を使い、魔力を魔法陣で細かく制御し、それにプラスして魔力の分厚い壁を出すような魔法陣を描いたものだ。
恐らく魔力の分厚い壁に暗黒が乗り、混乱でそれをかき乱して、それらを制御して出来た膜が魔力感知をできなくしているのではないかと思う。
正直なんでそうなってるのかよくわからない。出来たから問題ないってことで。
起動したら目の辺りに膜が覆い、その膜を通せば見えないようになるという魔道具だ。
膜は無色透明で周りからも自分からも見えないのでいまいち分かり難いけれど。
「それじゃあ、完成させちゃうね」
魔力が見えるようになる魔道具も出来た。と言っても自分の魔力のみだけど。
それでも生産をする時には大活躍してくれるのではないかと思う。
こちらも形や使い方は魔力が見えなくなる魔道具と同じだ。
ちなみに見え方は赤い点でもなく、フィルターがかかるわけでもなく、もやに近いものが見える。
俺の魔力感知に近いけど、もやと言うよりは薄い霧のような感じで色は赤色だ。
皆や兄ちゃん、ソウムにも試して貰って同じ結果だったから、見える魔力の色は赤色のみのようだ。
つまり、普通の魔力感知と魔力感知・百鬼夜行を足して割ったような感じで魔力が見える。
「アクセサリーが1つ、魔道具になっちゃったね」
「大丈夫みたいだよ。魔道具はアクセサリー扱いにはならないみたいだね。
装備欄でもリーノに作って貰ったピアスが載ってる」
「そうなの? それなら良かった」
眼鏡が一番簡単だろうとは思ったけど、レンズ部分がすぐに用意できないのでピアスになった。
宝石部分に起動と停止の記号を描いているので必要な時だけ切り替えられる。
「はい、完成! どうぞ!」
「ありがとう。助かったよ」
早速羊皮紙に完成品の魔法陣と設計図を書いておこう。
試作品1号から10号までの過程と結果もおまけ程度に一応纏めて書いておこうかな。
「ライ、終わった?」
「終わったよ。ソウムはどう?」
「うん……ちょっと、外からライの刀刺してみてくれる?」
「え゛……大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫」
両開きの扉がついた人が2人くらい入れそうな縦長の箱にはお洒落な装飾がされていて、一見丈夫な金庫のようにも見える。
刀と言われたけど、刺すものは手品用じゃなくても大丈夫なのだろうか。
「入ったら、よろしくね」
「う、うん……」
「あ、ジオンもお願い」
「……は、はい……」
「ど真ん中にね」
俺が戸惑いながら頷いたのを確認したソウムは、両開きの扉を開いて中に入り、中から扉を締めた。
いいよとくぐもった声が中から聞こえてくる。
刀を抜き取り、鉄と岩の両方を使って作ったという箱に恐る恐る突き刺せば、するりと中に入って行ってしまった。
続いてジオンの刀もするりと入って行った。反対側を確認すると見事に貫通している。
一度も使った事のない手品道具なので、失敗している可能性だってある。
「あわわわわ……」
「血の匂いはしていないようです」
「してたら大変だよ……」
様子を窺っていると、抜いて良いと声が聞こえてきた。
俺とジオンの刀が引き抜かれると、ゆっくりと扉が開いて中からソウムが出てきた。
「大丈夫そう」
「無事!?」
「無傷だよ。立派な箱作ってくれてありがとう。
お陰で色々試せそう。あ、お金は買取額の5倍で良い? もっと?」
「5倍……装備とかじゃないし、効果付与があるわけでもないのに、5倍は高くない?」
「それは……まぁ、そう……かもしれないけど。でも、ライ達が作ってくれた物だし……」
「3倍で大丈夫だよ」
魔法鉱石も魔法宝石も使っていないし、細工で何か数値がついているわけでもない。
装備条件もない……これに関しては、手品道具として作り替えた時に追加されてるかもしれないけど。
「えっと……じゃあ、それで……ありがとう。
買取額は……手品用にする前は60,400CZだったよ」
「たっか。やっぱり買取額で良いよ」
「それはさすがに……えっと、181,200CZだね」
取引ウィンドウが開き、181,200CZが入力されていく。
うーむ……カヴォロよりも強引かもしれない。有無を言わさずウィンドウに入力されてしまった。
これ以上の交渉は無理そうだと確認を押す。
「ありがとう。これからも必要な物があったらいつでも言ってね」
「その時はお願いします。暫くはこれで遊べると思うけど」
「遊ぶ? 練習って事?」
「練習もだけど……狩りでも使えそうだから。魔物を中に入れて刺そうかなって」
「そんな事できるの!? あ、でも、無傷なんじゃ……」
「それは……まぁ、仕掛けがあるからね。多分、大丈夫だと思う」
「あ、それじゃあ、そこにいっぱいある剣……1本あげる! サービスってことで!」
飛ぶ剣の魔法陣を消した剣達だ。
使うだけ持って行って貰っても構わないくらいあるけど、さすがにそれは気を遣わせるどころの話じゃないのは分かるので1本だけ。
「弄ったら弱くなっちゃうし、ライ達の武器を弱くしちゃうのはちょっと……」
「大丈夫大丈夫。21本もあるんだよね。
この前のお祭りの時に使った残りなんだけど……」
「あー……もしかして、飛んでたやつ?」
「そうそう。魔道具にしてたんだけど、割とすぐ使えなくなっちゃうから普段使いは難しくてね。
装備条件も40だし、効果付与もちょっとよくわからない感じになってるんだけど……」
風属性+3、雷属性+3までは他の武器にも付いている効果付与だけど、そこに魔力回復+3と麻痺耐性+3も付いている。
後者は剣にはあまり付けない効果付与だ。魔道具にするにあたって必要な効果付与だけ付けたから不思議な構成になっている。
一応4種類も効果付与があるので追加はしてもらっていない。
「耐久力も下がってるだろうしね。お古みたいなものだから……」
「あ、じゃあ、あと2本……いや、お金足りるか……? 1本売ってくれない?」
「大きな箱との纏め買いってことでお安くするよ!」
「そんなキャンペーンが……!?」
「1本分のお値段でなんともう1本付いてきます!
更に! 今回大きな箱をご購入いただいたお客様にはもう1本プレゼント!」
「でもお高いんでしょう……?」
「気になるお値段は取引額の約3倍! 150,000CZ!」
「いや3倍はやり過ぎ」
「えー乗ってくれたからいけるかと思ったんだけどなぁ。
じゃあいつもオークションには4倍で出品してるから4倍で。
元々俺、友達割引してるからね。まぁ……カヴォロだけだけど……」
「ええと……うーん……ありがとう。凄く助かる。
僕の場合、数が稼げるから1本1本の攻撃力は低くてもなんとかなるけど、元の武器の性能が高い方がやっぱ効率上がるから」
20万CZを受け取り、並んだショートソードを3本渡して取引は完了だ。
再度お礼を告げてちらりと現在の時刻を確認すると、カヴォロのお店に行く時間が近付いていた。
普段は行く時間が決まっているわけではないけど、今日はみきさんを呼んでもらっているので遅れずに行かなければ。
ぱぱっと出品しておこう。出品予定の生産品を全てアイテムボックスに入れていく。
まずは今日ジオンが作ってくれた武器15本。それからリーノのアクセサリー6個。
《帰還石》10個に呪術と組み合わせた魔道具を20個。それから槍を10本、飛ぶ剣のショートソードを10本。
最後にネイヤが作ってくれた髪の色を変える《艶麗染剤》を黒、白、赤、金、茶をそれぞれ10個ずつ。
色を元に戻す薬とセットで出品しておこう。
ちなみに、実際にネイヤが試しに飲んでみたところ、綺麗な白色の髪になった。
今は元に戻す薬を飲んで元通りになっている。
《艶麗染剤》は欲しいと思う人がどれだけいるのか謎なので買取額の2倍で出品しておこう。
他はいつも通り4倍で。期間は約5日後、現実世界で1回寝て次にログインした朝に設定しておいた。
「出品終わったよ。カヴォロのお店に行こう。
兄ちゃんとソウムも良かったらどうかな?」
「そうしようかな」
「僕場所知らないから行きたい」
頷いて、家を出る。今日は何を食べようかな。
ギルドから転移陣でトーラス街に移動して、カヴォロのお店への道を歩く。
カランコロンという鐘の音と共にカヴォロのお店に入る。
今日も繁盛しているようだ。
「ライちゃん! こっちこっち!」
「あ、みきさん。こんばんは」
「やほー争奪戦ぶりだね! あれ? レンさんと……」
「ソウムだよ」
「ソウちゃんだね!」
「ぅえ!? え、あ、うん。ソウム……」
お店の一番奥の大人数用テーブルに向かって席に座る。
4人掛けテーブルと2人掛けテーブルが並ぶ中、1つだけある大人数用テーブルはほとんど俺達用のテーブルなのだそうだ。
お店に最初に来た時は5人だったけど、仲間が増えて行くうちにいつの間にかカヴォロが用意してくれていた。
椅子に腰かけ、メニューを眺めているとことんことんと俺達の前にレモン水が置かれた。
「カヴォロ、みきさん呼んでくれてありがとう」
「ああ……ライに言われる前からずっといる。暇なんだろうな」
「えー! 忙しい時間に料理運んだりお手伝いしてたのに!」
「まぁ、それは助かったが。決まったら呼んでくれ」
これだけ繁盛していると注文を聞いたり、料理を運ぶのも大変だろう。
夏休みが終わったら、店員さんが増えるかもしれない。
メニューが決まり、カヴォロに注文してから早速本題に移る。
「今日はみきさんにプレゼントがあって」
「ぷ、プレゼント!? 私に!?」
アイテムボックスから《艶麗塗料》を取り出していく。
赤、青、黄、白、黒、金、銀の7色の小瓶ときらきらしたのが2つ、透明なのが1つ、それから落とすやつを並べる。
「前に、ネイルが出来たら良いのにって言ってたでしょう?
調薬では作れないみたいなんだけど……ネイヤが錬金術で作ってくれたんだ」
「良いの!? てか、あんなほぼ独り言みたいな話覚えててくれたの?
うちのクラメンじゃ忘れてるか、覚えてたとしても別に何もしてくれないよ!?
装備ならともかく、ただのお洒落の為のアイテムなのに……」
「俺もネイヤがいるから作って貰えただけだよ。
塗るやつ……筆かな? は、用意できなかったんだけど……ごめんね」
「筆? あ、いやいや! 大丈夫だよ! 街で使えそうな筆、売ってるから!」
「それなら良かった。使ってないからいまいちわかんないんだけど……。
簡単に混ざるみたいだから好きな色に調整して使えるみたいだよ。それとこの……なんだろうキラキラしたやつ」
「これパール? こっちはラメかな?」
「うん、多分そう。パール? のやつは、混ぜて使うとキラキラになるみたいだよ。
ラメのやつは上から塗ったら良いんだって」
「わぁ~……! 凄い! こんなにたくさん……!」
「どんなものを用意したら良いかわからなかったんだけど……大丈夫そうで良かったよ。
それと、この透明なのを塗ったらすぐに乾くんだって。これは色を落とすやつね」
リアルのマニキュアとは使い方が違うかもしれないので、わかっていないなりに使い方を説明しておく。
目をキラキラさせて俺の説明を聞いているみきさんの姿に喜んでくれたようだとほっとする。
「ライちゃん、ありがとう! すっごく嬉しい!」
「みきさんが喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「貴方がネイヤさん? ネイヤさんもありがとう!」
「おう。わしも初めて作るもんやったから面白かったわ」
満面の笑みのみきさんに俺も笑顔を返す。
渡そうと思っていた《艶麗塗料》も渡せたし、こんなに喜んでくれるなんて用意した甲斐があった。