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day13 露店と銀行

カヴォロと別れた後は、武器の相場を聞くためにロゼさんか朝陽さんを探す。

それにしても、今日はなんだか人が多い気がする。


兄ちゃんからの伝言を聞いて先に進んでいるのかなと諦めかけた時、声を掛けられた。


「よ! ライじゃねぇか。買い物か?」

「あ、朝陽さん。それから、ロゼさんも。

 2人を探してたんだ。今日は露店開いてないの?」

「今日はこれから露店を開くところだよ。

 それにしても人が多いねぇ。場所移動しようか」


ロゼさんはきょろきょろと辺りを見渡して、小さく溜息を吐いた。

人が少ない場所を探して歩いて行くロゼさん達の後に着いて行く。


今日は2人で露店を開くようだ。

露店を開く様子を見学しながら、話しかける。


「兄ちゃんとは会えた? ログインしてたみたいだけど」

「兄ちゃん?」

「ああ、朝陽にはライくんが兄弟ってことは伝えてないんだよね」

「あれ? そうなんだ? てっきり知ってるものだと思ってたけど」


言われてみれば朝陽さんに最初会った時、詳しくは聞いてないと言っていた気がする。

特に隠すつもりはないけど、プライベートなことだから言わないでいてくれたんだろう。


「ん? んん? 今の話を纏めると……レンと兄弟ってことか?」

「うん、そうだよ。自慢の兄ちゃんなんだ」

「はーなるほどなぁ。言われてみりゃ似てるなぁ」

「アバターなんていくらでも弄れるんだから、兄弟だからって似てるとは限らない……はずなんだけど、似てるよねぇ」

「おう。目元のほくろとかな!」

「ほくろに似るも似ないもないでしょ、馬鹿」


2人が一緒にいるところは初めて見たけど、βの時から一緒にパーティを組んでるというだけあって仲が良い。

俺もいつかこんな友達が欲しいな。


「あ、レンには会ったぜ!

 前は妖精族でちっこかったから、最初誰だかわかんなかったなぁ。

 面影はあるというか、成長したらこうなるのかって」

「俺まだ会えてないんだよね。どんな風になったのかは会うまでのお楽しみなんだ」

「お? 悪い悪い。じゃ、これ以上は黙っとくわ。

 暫くソロで遊ぶっつってたけど、一緒にはしねぇのか?」

「明日……こっちだと3日後かな? 一緒にヌシを倒そうって約束してるよ」

「ヌシぃ? あいつさっきログインしたばっかだろ?

 もうヌシとか言ってんの?」


朝陽さんが呆れた顔をしてそう言う横で、ロゼさんも溜息を吐いている。

確かに、1日2日で倒す相手ではないだろう。


「うん。でも、2回目だからなんとかなると思う」

「あれ? ライくんってもうヌシ倒してるの?」

「ぎりぎりだったけどなんとか倒せたよ。

 それに、今度は新しい装備……あ、そうだ。武器のことを聞きたいんだった」

「武器?」

「ジオンが……あ、ジオンのことをちゃんと紹介したことはないよね?

 俺の仲間のジオンです」


朝陽さんとロゼさんに改めてジオンを紹介する。

ジオンはぺこりとお辞儀をして笑顔を2人に向けた。


「鬼人のジオンと申します。どうぞお見知りおきを」

「よろしくな! いやーそれにしてもイケメンだよなぁ」

「よろしく。知ってると思うけど、私はロゼ。それからこっちが朝陽ね」


ジオンが頷いたのを見て、話を続ける。


「ジオンが鍛冶スキルを持ってて、武器をいくつか作ったから売りたいんだ。

 でも、武器の相場が分からないから2人に聞こうと思ってて」

「なるほどね、見せてくれる?」


俺は頷いて取引ウィンドウに売るために作った武器を並べていく。

《スノーブレード》が1本と《スノーカトラス》が2本、それから《スノーダガー》が3本だ。

武器のことはよくわからないのでどんな武器を作るのかはジオンに任せたら、大中小それぞれのサイズの剣を作ってくれた。

恐らく、大剣、剣、短剣のスキルが必要なものだと思う。


「……うそでしょ……これ、作ったの?

 これ、付与じゃないよね?」

「うん。ジオンと俺のスキルで……」

「あ、待って待って。ごめん。聞いといてなんだけど、簡単に人に教えちゃだめなやつだよ、これ」

「何だ? 俺にも見せてくれ」


俺は頷いて、朝陽さんにも同じように見せる。

ウィンドウを見た朝陽さんは苦笑いを浮かべた。


「さすが兄弟だなぁ」

「兄ちゃんも武器作ってたの?」

「いーや? そうじゃなくて、まぁ、なんつーか……規格外?」

「規格外……」


朝陽さんの言葉を聞いたロゼさんも頷いている。

規格外と言われたのははじめてだ。

確かにジオンの鍛冶レベルはカンストだろうし、俺のスキルも鬼神の種族スキルだから珍しいだろう。


「誉め言葉だから気にすんな! 

 相場なぁ……弐ノ国の街で売ってた攻撃力10から15の武器が、大体10,000CZから15,000CZだったな」

「なるほど? それじゃあ攻撃力に1,000CZをかけたくらいでいいのかな?」

「んなわけあるか」


呆れたように言い放たれる。


「ライくん、正直に言うとわからない、かな。

 欲しい人はたくさんいると思うけど……いや、ちょっと待って」


難しい顔をして考え事を始めてしまったロゼさんの横で、取引ウィンドウを見ている朝陽さんを見る。


「つーか、この《スノーブレード》、俺が買ってもいいか?」

「いいの?」

「現状これより強い武器は手に入んねぇよ」


このスノーブレードに使った氷晶鉄は2つで付与効果は《氷晶属性+4》。

融合で付く付与効果は氷晶属性が多いようで、売る用に作った6本中4本に付いている。


「おい、ロゼ。いつまで考え込んでんだ。

 60,000CZってとこか?」

「……もっと多くてもいいかも」

「えっそんなに!?」

「ちょっと、ね……うーん……」


ロゼさんはまたもや考え込み始める。


「んじゃ、ライ。いくらにする?」

「えぇー……60,000CZでも高いのに」

「ははっ。こういうのはがめつくいけって!

 それに、あんまり安くするのも良くねぇからな。良い物を安く売ってるやつがいると、周りもそれに合わせなきゃいけなくなっからな」

「まぁ、そうだけど。

 なんていうか、他の武器のことを知らないから実感がわかないんだよね」

「間違いなく強い武器だぜ! な!」


にかっと笑いかけてくれる朝陽さんを見て、頷く。

前向きに考えよう。ジオンが作った武器なんだから強くて当然。高くて当然だ。

うん。ジオン凄い!


「でも、朝陽さんなら60,000CZでいいよ。兄ちゃんの友達だし、俺もお世話になってるからね。

 ジオンもいいよね?」

「ええ。もちろん」


ジオンが笑顔で頷くのを確認して、朝陽さんの顔を見る。


「そうか? ありがとな!」


スノーブレードと引き換えに60,000CZを受け取ると所持金は107,243CZとなった。お金持ちだ。


「……ね、ライくん。作った武器、私達に預けてみない?」

「預ける?」

「私達の露店で売るってことね。もちろん、売れたら全額渡す。

 ライくんだって、本当に必要な人に買ってもらいたいでしょ?」

「それはそうだけど……必要ない人は買わないんじゃない?」

「……まぁ、普通はそうなんだけど……。

 現状、この装備条件を満たしてるプレイヤーは少ないからその人達に売ろうかと思って」


せっかく作ったのだから使ってもらいたいし、必要としてくれる人の手に渡って欲しいのは確かだ。

俺は強いプレイヤーとの交流はロゼさんと朝陽さん以外ないし、誰がそうなのかも知らない。


「それは、ありがたいけど……」

「信じられない、かな?」

「え? ああ、違うよ。ロゼさんと朝陽さんのことを疑うなんてありえないよ。

 そうじゃなくて、面倒じゃないかなって」

「面倒だったらこんな提案しないよ。どうかな?」

「それじゃあ……お願いします」


自分で露店を開かないのならプレイヤーに対して緊張しなくていいし、相場のことで悩む必要もない。

それに、売れるまで露店に拘束されることもないし、メリットばかりだ。


俺の言葉に笑顔で頷くロゼさんに、《スノーカトラス》と《スノーダガー》を渡す。


「前金を渡しておくね」

「ううん。売れてからで大丈夫だよ」


お金に余裕がなければ受け取っていただろうけど、今はお金に余裕がある。

いくらで売れるかわからないし、売れてからで問題ない。


「そう……わかった。それじゃあ、預かるね。

 全部売れてから渡す? それとも、1本でも売れたら渡す?」

「んー全部売れてからでお願いします。兄ちゃんに伝えてくれたら、貰いにくるよ」

「ん? あぁ、うん。了解。それじゃあ全部売れたらレンに伝えるね」

「ありがとう。よろしくお願いします」


露店に並べられた様々なポーションを見る。

初心者用と初級というラインナップは変わらず、☆3だけが揃っている。

前回買った時は初級のものは☆2しかなかったけど、スキルレベルが上がったのか、先に進んだことで必要な材料が揃ったのか、いずれにしても☆3だけをこれだけの量揃えられるのは凄い。

そう言えば、もう1人のパーティの人がこのポーションを作ってるって言っていたけど、今日もいないようだ。


「あ、ポーション全然ないんだった。

 《初級ポーション》を10個と《初級マナポーション》を20個ください」

「お? いっぱい買ってくんだな」

「うん。この後ヌシを倒しに行くつもりなんだ。

 兄ちゃんと一緒に行く時のために予習……復習? しようと思って」

「勉強熱心だねぇ。全部で16,000CZだな」


取引を完了すると所持金は91,243CZになった。


「それに、たくさんお金持ってるとデスペナルティで一気になくなっちゃうから」

「ん? あー……そっか。知らない人もいるよね。

 銀行があるから預けたらいいよ。手数料は掛かるけど、安心でしょ?」

「え? 銀行があるの?」

「うん。この街なら冒険者ギルドの近くにあるよ。

 小さな村だとない時もあるらしいから、気を付けてね」

「そっかぁ……教えてくれてありがとう」


大金を持って死ぬ前に教えてもらえて良かった。

ヌシのところに行く前に早速行ってみよう。

改めて2人にお礼を告げ、露店から離れて冒険者ギルドへ向かう。


「ふむ。銀行ですか」

「ジオン知ってる?」

「出来るとは聞いてましたが、完成していたんですね」


つまり正式オープンから追加されたということだろう。

何にせよこれからはお金を預けることができるのだから一安心だ。


銀行の前に冒険者ギルドへ行って戦利品の納品、それから余った分は売ってしまう。

積極的に狩りをして、スライムが出現する地帯に入ってから鑑定してみればそれなりに戦利品があった。

それから、今のところ使い道のない宝石も一緒に売却する。

レベル上げのために一日中狩りをしていた時と比べれば少ないけれど、達成報酬と合わせて全部で14,054CZとなった。


冒険者ギルドを出た後は銀行へと向かう。

銀行の中にはそれなりにプレイヤーがいたけれど、長居する人もいないので数分並ぶだけで受付に行くことができた。

初回の利用であることと、お金を預けたい旨を受付の女性に伝える。


「ギルドカードはお持ちですか? ギルドカードをお持ちであれば、ギルドカードを銀行に登録するだけで手続きが終了しますので、何らかの理由がない限りはギルドカードでの登録をお勧めしております」

「それじゃあ、ギルドカードでお願いします」


差し出したギルドカードを受け取った女性は、宝石が装飾された小さな宝箱のような箱を開けてそこにギルドカードを入れて蓋を閉じた。

装飾された宝石がぴかりと光ったのを合図に、再度蓋を開け取り出したギルドカードを確認するとにこりと笑ってギルドカードを俺に差し出した。


「登録完了です! ギルドカードに預金の項目が追加されておりますのでご確認ください」


ギルドカードを受け取って確認すると、表面の右下に『預金残高:0CZ』と追加されていた。


「お預かりの際とお引き出しの際に200CZの手数料が掛かりますのでご了承くださいませ。

 また、宿泊代などの自動引き落としは銀行から引き落とされませんので、お気を付けくださいね。

 それでは、おいくらお預けになりますか?」


現れたウィンドウに7,000CZ残しておいたら充分だろうと98,297CZと入力して、完了する。

ウィンドウに表示された預金残高が98,097CZになったことを確認して、ギルドカードを見ればこちらの預金残高にも反映されていた。


「この先、従魔の方と口座を共有するシステムが予定されていますので、導入した際は是非ご利用くださいね」

「へぇ、便利だね」


お金を渡し忘れてた時やいない間に足りなくなっても安心だ。

ジオンなら使い込むなんてこともなさそうだし、導入されたら利用しよう。


受付の女性に挨拶を告げ銀行から出る。

これでどれだけ死んでも大丈夫だ。まぁ、お金が無くならないだけで、ステータス半減とアイテム消滅はあるので死ぬ気はないけれど。


「さて、ヌシのところに行こうか」

「はい。頑張りましょう」

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