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day118 キャンプ③

「そしたらお母さん、サーチアンドデストロイよ! って」

「だっはっはっは!」

「楽しそうだな朝陽」


昼からずっと飲み続けていた人達はすっかり出来上がっている。

とは言え、皆お酒には強いのか箸が転んでもおかしい状態にはなっているものの問題は起きていない。

酒を飲んでいない俺達もそんな皆のテンションに引っ張られてテンションが高くなっている。


なんだかバーベキューからずっと食べていたような気がするけど、夜ご飯は予定通りカレーを食べた。

兄ちゃん達とソウムが持ってきてくれたたくさんのお肉はバーベキューだけでは食べきれなかったので、夜ご飯のカレーはお肉がゴロゴロ入り、この前お婆さんに貰った茄子もたっぷり入った具だくさんカレーになった。

飯盒で炊かれたご飯はちょっぴり焦げていたけど美味しかった。

他にもおつまみのような料理がいくつか並んでいて、俺はお酒を飲むわけではないけど全種類少しずつ美味しくいただいた。


「次レンな!」

「んー……そんな驚くような事起きてないんだけど……。

 じゃ、ライに倣って、母親……じゃなくて、父親の話にしようかな」


今はソウムの手品を堪能して凄い凄いと盛り上がった後、最近驚いた出来事をトークテーマに話しているところだ。

何故か皆、この世界の話ではなくリアルでの出来事を話していたので俺もお母さんの話をしておいた。

ジオン達には分からないかもって思ってたけど、異世界の話を聞くのが面白いと興味津々な様子だ。


兄ちゃんの話すお父さんの話に、そんな事あったなぁと思い出しながらくふくふ笑う。

皆の話が面白くて、ずっと笑いっぱなしだ。


「あら? 空はどこに行ったの?」

「ん? 寝たのか?」


言われてみればいつの間にかいなくなっている。

ついさっきまでいた記憶があるのだけれど。

空さんが寝る予定のテントの中をロゼさんが確認しに行くが、空さんの姿はなかった。

全員が首を傾げて辺りを見渡すが、空さんの姿はない。


「ん……? ……何の音?」

「何か、聞こえてきてるね」


笑い声が止んだことで気付いたのは、コーンコーンと固い物を金属で叩くような音だった。

その音に耳を傾けていたネイヤが口を開く。


「こりゃ、木を切る音やの」

「まさか……空……」

「ぶふ、だーはっはっは! なんでこんな時まで素材集めしてんだよ!」

「私の驚き話はこの話にするわ!」


心配よりも笑いが先にくるのは信頼している証なのだろう。

この辺りは魔物も出ないし、万が一出たとしても兄ちゃん達パーティーのレベルよりも随分適正レベルの低い場所だ。

空さんは他の3人よりレベルは低いみたいだけど、それでも魔物に襲われたからって何の苦もなく倒せるだろう。

音の大きさからして兄ちゃんから15m以上離れている場所にいるようだし強くもならないはずだ。


コンコンドサリと木を伐採しているのであろう音をBGMに話を再開する。

1人ずつ話している驚いた話が2周目に入った頃、漸く空さんが戻ってきた。


「キャンプファイヤー!」


戻ってきてすぐ口を開くやいなやそう言い放った空さんに、ここにいる全員がぽかんと口を開いた。

空さんは俺達の返事は必要ないとばかりに、次から次に今しがた切ってきたばかりなのであろう木をアイテムボックスから取り出すと、俺達の中心にせっせと木を井桁型に組み立て始めた。


いつもは慎重そうな空さんも酔うと豪快になるのだなと驚く。

空さんのそんな姿を見た兄ちゃん、朝陽さん、ロゼさんはけらけらと笑って組み立てを手伝い始めた。

普段4人でいる時間はそんなに多くないみたいだけど、良いパーティーだなと思う。


「驚き話は空が優勝だな!」

「いえーい」

「んふふ、見てレン。ちゃんと処理されてるの!」

「ああ、本当だ。綺麗な薪だね」

「レンが薪口説き始めたんだけど!」


いや、本当に仲良いな。羨ましい限りである。


組み上がったキャンプファイヤーは大きくはないもののそれなりの大きさになった。

中にどんどん葉や小枝、木の皮を放り込んで完成だ。


「弟君。やって」

「え? 何を?」

「黒炎弾」

「……え!? 黒炎弾で火を点けるの!?」

「おっしゃ! やれ! ライ!」

「ナイスアイディアよ! 黒炎のキャンプファイヤーなんてロマンチックだわ!」

「ロマンチックか……? ロマンチックだな」

「ふふ、全然ロマンチックじゃないと思う。

 どうしちゃったのカヴォロ」

「僕近くで黒炎弾見てみたい」


ジオン達に視線を向けてみるが、楽しそうに笑っていて止める気はないようだ。

ちゃんと狙わないと他に引火してしまうかもしれない。

これだけ人がいるならそんなことになってもなんとかして……なんとかなるかな。

なんとかしてくれると信じよう。


「弟君、GO」

「どうなっても知らないからね!?

 こ、【黒炎弾】!」


狙い通り枠組みの中に着弾した黒炎弾は轟々と燃え盛り、しかしさすがは黒炎弾。枠組み全てを消し炭と変えてしまった。

キャンプファイヤーとはこんな一瞬で終わるものだっただろうか。


「だっはっはっは!」

「ふふふ、あははは!」

「ふ、はは。良いね。良い火力」

「んふ……弟君ナイス」


本当に箸が転んだだけで笑うんじゃなかろうか。

組み立てた本人達が楽しそうなので、消し炭にしてしまった事は気にしないで良さそうだ。


「ふふ……本番」

「うし、組み立てっかー!」


1つめのキャンプファイヤーは最初から消し炭にする予定だったのか、空さんは満足げに笑うと、先程より多い木材をアイテムボックスから取り出した。

今度は全員で組み立てて、さっきより大きなキャンプファイヤーを組み立てていく。


「よし、俺に任せろ」

「お! カヴォロ任せたぜ!」

「【火弾】」


2つ目のキャンプファイヤーは無事カヴォロの火弾で程良い火加減の火を灯す事が出来た。

火を起こす魔道具、つまりはライターやチャッカマンのような魔道具はカヴォロが持ってきていたから、魔法で火を点ける必要はなかったのだろうけど。


ぱちぱちと火花を散らせながらゆらゆらと揺れる火柱を眺める。


「あ、そうだ。楽器持ってきてるんだよね」

「楽器?」


頷いて、エアさんに貰ったギター、バウロン、ティンホイッスルを取り出す。


「キャンプには楽器だって、エルフの人に貰ったんだ。

 はい、兄ちゃん。ギター」

「ん? ああ、うん」

「俺その太鼓叩く!」

「私その縦笛」


後はどうしようかなと思っていたら、奏者はすぐに決まった。

朝陽さんと空さんにバウロンとティンホイッスルを手渡す。


「へー……ま、大丈夫か。ドラムと似たようなもんだろ!」

「……大体わかった」


兄ちゃんがギターを弾けるのは知っていたけど、どうやら朝陽さんもドラム経験者で空さんもフルート経験者なのだそうだ。

空さんのティンホイッスルから始まり、兄ちゃんのギターと朝陽さんのドラムが加わる。

凄く上手だ。しかし……この曲は……。


「お上手ですね。これはどういう曲なんですか?」

「……俺達の世界で一時期流行ってた曲だね」


アニソンである。

カヴォロとソウムもその曲を知っているようで、笑いながら手を叩いている。


「あらやだ、私除け者じゃない。

 仕方ない……歌うわ!」


歌って騒いで笑って、キャンプの夜は過ぎて行く。






川のせせらぎと虫の鳴き声だけが聞こえてくるテントの中で、今日1日の出来事に思いを馳せる。


「あー……飲み過ぎた……」

「大丈夫? ソウム」

「大丈夫……一周回って目が冴えちゃってるけど」

「酔うと眠くなるイメージだったけど、目が冴えちゃうこともあるんだね」

「体質によるのかも」

「見てる感じ一番強いのはジオンか」

「最初から最後まで米酒飲んでたね……僕はさすがに途中から果実酒を割って飲んでたけど」

「レンも強そうだな。最後まで全然変わらなかった」

「変わってたよ。ずっと笑ってたもん」

「レンはいつも笑ってないか?」

「そうだけど。微笑みと爆笑は違うくない?」


もぞもぞと寝袋の中で動きながら、小さな声で会話する。


部屋割り……テント割りだろうか。俺とカヴォロとソウム、兄ちゃんと朝陽さん、ロゼさんと空さん、ジオンとリーノとフェルダとネイヤ、シアとレヴとイリシアに別れた。

ジオン達のテントが一番人数が多いけど、5人は余裕で入れる大きなテントなので問題ないだろう。


「明日の朝ご飯何?」

「あんだけ食べておいて、まだ食べ物の話をするのか。

 和食だ。今はまだ珍しいからな」

「え、和食あるの?」

「準備期間中の朝ご飯で食べたけど、カヴォロの和食美味しいよ。

 味噌とか豆腐とか、手作りなんだって」

「手作り……街には売ってないよね?」

「売ってないな。大豆は売って貰えたから、作った」


友達とお泊りなんて初めてだからそわそわしてしまう。

修学旅行の時は同じ班になった人達に物凄く気を遣わせてしまって申し訳なかった記憶しかない。あんまり視線も合わなかったし、なんだかぎくしゃくしていたけど、嫌な顔はされなかった事だけが救いだ。


「……恋バナしよう」

「嘘だろ……」

「ライから恋バナとか出てくるの信じられない……」

「こういう時は恋バナするものなのかなって」

「したいのか? 話す事があるのか?」

「ない!」

「寝ろ」

「兄ちゃんの恋バナならできるよ」

「やめてあげて……気になるけど。

 いや待って。レンの恋バナとか……とんでもない事になりそう……」

「それ、人前で話すなよ」

「同情しかされないと思うよ。

 ポストに怪文書みたいなラブレターが届いてたり」

「愛憎劇は恋バナじゃない」

「レンってリアルでもモテるんだ……羨ましい……」

「怪文書欲しいのか?」

「それはいらない」


さすがに俺もいらない。1通でも怖いのに、何通も届くのは勘弁して欲しいものだ。

宛名も何もなかったから最初の1通目は俺が開けてしまったが、内容で兄ちゃん宛てだと分かったものの渡すべきではないだろうと、厄落としも兼ねて火にくべようとしてたら兄ちゃんに見つかってしまった。


「カヴォロはないの?」

「ない。ほとんどの時間ゲームしてるんだぞ。

 浮いた話が出てくると思うか?」

「たしかに」


恋人がいたらゲームをしないってわけじゃないだろうけど、1日中どっぷりゲームばかりしていたら振られてしまいそうだ。


「ソウムは?」

「えっ!? あるわけない……」

「そら見てみろ。恋バナなんて出来るわけがない」

「2人共モテそうなのに」

「何を根拠に……?」

「そもそも、リアルで同じ見た目かもわからないのに、モテそうも何もないだろう」

「俺別に見た目でモテそうって言ったわけじゃないよ。

 カヴォロもソウムも優しいし、頼りになるから」

「頼りになるとか初めて言われたんだけど……」

「谷底に落ちた時助けてくれた」

「スキルがあるから出来ただけなやつ……!

 リアルの僕じゃ潰れて即死だよ」

「いやまぁそうなんだけど、咄嗟に助けようって思えるの格好良いと思う」

「人たらし……」

「それこそ初めて言われたよ」


恋バナには……なってないな。

とは言え、恋バナもどきをした思い出は残るから良しとしよう。


「大体、ライこそモテるんじゃないのか。

 怪文書送られるくらいモテる兄の弟なんだから」

「兄ちゃんはモテるけど、俺は全然だよ」

「ライってモテたいとか思うの?」

「人並みに……? あんま考えた事なかったかも。

 まぁでも、まずは筋肉だよね。筋肉ないとモテないよね」

「何故そんなに筋肉を過信してるんだ……」

「脳筋キャラの考え方じゃん……」

「ライ、それ人前で話すなよ」

「なんで!?」

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