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day118 キャンプ②

「前から思っていたんだが」

「うん?」

「ライって結構食べるよな」

「そう? 普通だと思うけど……ああでも、兄ちゃんよりは食べるかも」


とは言え、この世界でも同じかと言われたら、現実より食べている気がする。

空腹感は感じるけど、満腹感はあまり感じないから美味しい料理を好きなだけ食べているように思う。


串に刺さったお肉を食べながら、カヴォロに視線を向ける。


「これ、お肉に味が付いてて凄く美味しいよ。

 カヴォロが用意してくれたタレも、甘くてちょっとぴり辛で美味しいね」

「そうか。それなら良かった」

「焼きそばも塩焼きそばとソースの2種類あったから、どっちも食べてみたくてつい食べちゃったよ。

 つまり……カヴォロの料理が美味しいせいだね」

「ふ……まぁ、そんだけ美味そうに食べて貰えたら作った甲斐がある。

 あっちの世界では、食べるのに限界もあるし、材料費や道具代も掛かるからな。

 趣味で料理すると言っても、精々夕飯くらいだ」


飛び出したリアルの話に、お肉をごくりと飲み込む。


「俺は料理は全然できなくて……お母さんがいない時なんかは兄ちゃんがご飯作ってくれるよ」

「そうなのか。レンはどんな料理を作るんだ?」

「うーん……和食はあんま作らないかも。

 あ、この前はイタリアンだったよ。あくあぱっちゃ」

「アクアパッツァ」

「そうそれ。カヴォロも作った事ある?」

「あっちでは作ってないな。ここでは作った事がある。

 ……ああそうだ。この世界ではまだ先の話ではあるが……day150以降、いない日が増える」

「えっ、そうなの? ……聞いて良いのかわからないんだけど……何か、あった?」

「夏休みが終わる」

「なるほど」


現実世界ではあと1週間で夏休みが終わる。

ああでも、大学生の夏休みは長いんだったかな。

ってことはカヴォロは大学生ではないのかもしれない。

小学生ってことはないだろうし、中学生……で、船を運転するだろうか。


「ほぼ毎日カヴォロのお店にご飯を食べに行ってたから寂しいね」

「一応、俺がいない間も従業員を雇う予定だ」

「それじゃあ、カヴォロがいない間もご飯食べに行くね。

 味は変わるのかな?」

「どうだろうな。雇う料理人によるだろうが……まぁ、俺よりスキルレベルの高い料理人はいる。

 ただ……強化料理は難しくなるかもな」

「あ、そっか。色んな料理系スキルを使って作るんだもんね」


料理スキル取得の難易度は低いそうだけど、それ以外の例えば発酵や製パン、調合等と言ったスキルを網羅した上でスキルレベルもそれなりに上がっていないと作れないだろう。


「いくつかは置いて行く予定だが、なくなったら終わりだな。

 まぁ、ライは強化料理を好んで食べているわけではなさそうだが」

「俺は食べたい物を食べてるね」


俺だけでなく皆も同じだ。

その時食べたいと思ったメニューが強化料理だったら食べるし、強化料理じゃなくても食べる。

とは言え、カヴォロのお店のメニューの半分くらいは強化料理なので、強化料理を口にする事は多い。


「それで、頼みがあるんだが。

 来れなくなるまでに、テラ街に連れて行ってくれないか?」

「うん! 行こう行こう! 農業始めるの?」

「ああ、そのつもりだ。テラ街の家と交換したからな。

 ライも交換したんだよな?」

「うん。搬入作業……驚くことに、ラセットブラウンの人達が手伝ってくれたんだけどね。

 お陰で時間も掛からず搬入作業が終わったよ」

「何がどうなってそんな事になったんだ……?」


狩猟祭の時の事を含めて、ラセットブラウンのクラメンの人達とのやり取りをかいつまんで話す。

恐らく罪滅ぼしか何かだろうと締めくくれば、カヴォロは溜息を吐いた。


「あいつらは……うちの店にいる時も、延々秋夜の話をしている」

「カヴォロにはこう……怒ったりしないの?」

「俺にはないな。まぁ、態度が良いとは言えないが、あいつらは誰にでもそんな感じだろう。

 身内意識が強いというか……クラメン以外に愛想がない」

「意外と律儀な人達みたいだし、秋夜さんに似てるのかな。

 ラセットブラウンの人達、カヴォロのお店でご飯食べるんだね」

「割と早い頃から来ていたな。ライ達が来る時間とはずれているから、会っていないだけだ。

 レン達もよく来る。秋夜も来るが、1人で来る事が多いな」

「秋夜さんってご飯食べるんだ……」

「分からない事はないが、食べるだろう」


それもそうか。食べなきゃステータスが減る……と言っても、秋夜さんは割と常にステータスが変化していそうだけれど。

クランハウスから近いし行きやすいのだろう。何より美味しいし。


最初の頃はお客さんも少なく暇な時間が多かったそうだけど、今では結構色んな人が来ているのだそうだ。

基本的にずっと料理をしているから、お客さんと交流する事はほとんどないらしい。

俺達が行った時も一言二言話すくらいだ。


追加のお肉を焼いてくるとバーベキューコンロに向かったカヴォロの背中を見送り、皆の様子を窺う。

こういう集まりでは珍しく、俺の近くにジオンはいない。

途中まではいたけど、今は兄ちゃんとソウムの3人で話しているようだ。

リーノは朝陽さんと話している。あの2人はこういう集まりになるとよく話している気がする。

シアとレヴ、イリシアはロゼさんと、フェルダとネイヤは空さんと話している。

空さんがフェルダとネイヤと話しているのは少し珍しいと思うけど、皆楽しそうだ。


俺も混ぜて貰おうと兄ちゃん達の元へ向かう。


「兄ちゃん、何飲んでるの?」

「レモン酒だって。珍しいよね」

「へぇ~、美味しい?」

「美味しいよ」


カヴォロはビール、エール、米酒、葡萄酒、林檎酒、レモン酒、キウイ酒とたくさんのお酒を用意してくれたみたいだ。

その上アルコール以外の飲み物も数種類用意してくれていた。俺は今ハイビスカスティーを飲んでいる。

ハイビスカスティーは少しすっぱくて、口に残る油分をすっきりさせてくれるので、いくらでもお肉が食べられそうだ。


「ソウムは?」

「僕は米酒……飲みやすいけど、結構度数ありそう」

「そっかぁ~……うーん……気になる……」

「えっと……ライって、未成年? あ、いや、答えなくても大丈夫だから!

 そのー……未成年でも飲めはするけど、酔いはしないみたい」

「未成年に酩酊を覚えさせるわけにはいかないんだろうね。

 ま、味だけ楽しめるみたいだし、飲んでみる?」

「うーん……やめとく!」


どんな味なのか凄く気になるし飲んでみたいけど、初めてのお酒は兄ちゃんとお父さんと飲むと決めている。

ここにお父さんがいたら考えたけど……でも、せっかくなら、お酒が飲める歳になったその日に一緒に飲みたい。


「ジオンは何を飲んでるの?」

「私も米酒ですね。他の酒も美味しいのですが、米酒が一番馴染みがあります。

 師匠も米酒を好んで飲んでいました。鬼人の街では米酒が主流なのだとか」


米酒とはつまり日本酒だろうか。

この世界の言葉で表現するなら黄泉酒かな。なんだか黄泉竈食を連想して少し怖い。


黄泉風等の言葉はイリシア以外は使っていないようだ。

遠い昔の言葉なのだろう。長命の種族の使う言葉なのかもしれない。

俺の仲間達は皆長命の種族ではあるらしいけど、精霊は別格なのだとか。ほとんど不死らしい。

自然の力を持たないイリシアは不死ではないそうだけど、それでも皆よりずっと長生きなのだそうだ。


「手品は夜するの?」

「そのつもりだったけど……見たいならするよ?」

「んー……あ! そうだ。手品の道具の話、途中になってたよね。

 フェルダー!」


丈夫なのは石なのか鉱石なのかってところで止まっていたはずだ。

俺の呼ぶ声に気付いたフェルダが、ネイヤと空さんを残してこちらへとやってきた。


「なに?」

「岩と鉱石、どっちが丈夫?」

「種類によるんじゃない?」

「うちにある鉱石……鉄、銅、玉鋼、銀、金より丈夫な岩とか石ある?」

「丈夫ってどういう基準? 風化し難い? 壊れ難い?」

「ソウム、どうなの?」

「ぅえ!? えっと、壊れ難いやつ……」

「上から叩き落としたりする?」

「叩き落としはしない……精々僕の頭くらいの位置から落とす程度だと思う」


落としはするのか。

鋳造や細工で作った箱だと丈夫とは言え重くなりそうだし、ここには空さんもいるから木工で作って貰えないか聞いてみても良いかなと思っていたけど、落とすとなると木工品だと耐えられないかもしれない。


「何に使うの?」

「剣を刺したり、鎖巻きつけたり……?」

「拷問?」

「手品です」

「ああ……よっぽど切れ味良い剣じゃないと、岩にも鉱石にも刺さんないと思うけど」

「あ、それは大丈夫」


ソウムの返事に首を傾げたフェルダは、手品スキルがあれば手品道具として弄る事が出来ると説明を受けると、なんだか腑に落ちないと言った顔をしたものの頷いた。


「俺の知ってる手品スキルじゃないね」

「はは……僕もスキルレベルがいくつか上がった状態で気付いたから……スキルレベルが上がらないと出来ないのかも」

「なるほどね。それなら納得。

 モテたくて覚えたようなやつはスキルレベルが上がる程しないだろうし」


手品を生業にしている人だとそれは種を明かす事にもなるのでわざわざ人に言ったりしないのだろう。


「石工や鋳造で作った箱って、やっぱり重くなるよね?」

「重いね。ま、軽くて丈夫なのもないことはないけど。うちにはないね」

「あ、重い分は大丈夫。持ち運ぶわけじゃないから」

「そうなの? だったら気にしなくて良さそうだね。

 あ、そうだ。今度うちに来ない?」

「良いの?」

「うん、良いよ。どんな形が良いとか聞きたいからね。

 後でID送っておくね」

「あ、ライ。俺も頼みたい事があるんだった。

 防具頼めないかな?」

「もちろんだよ! そっか、兄ちゃんお祭りのポイント全部空さんの素材と交換したんだっけ」


俺も兄ちゃんも防具を露店や街で買った事がない。

いつもイベントのポイントで交換していた。

兄ちゃんの場合、防具を変えたところで即死だから防具を変える必要がないと言っていたけれど。

交換した理由もずっと初心者装備はいかがなものかと周りにいわれたからって理由らしい。


「イリシアー!」


イリシアを呼べば、一緒にいたシアとレヴ、ロゼさんと一緒に俺達の元へと来てくれた。

前回イベントで俺達の服を作って貰った時の様子からして、イリシアはじっくりデザインを考えたいのではないかと思うので、早めに頼んでおこう。


「はいはい、なぁに? 何かあった?」

「兄ちゃんの服を作って欲しいんだけど、デザイン考えておいてくれるかな?」

「ええ、任せて。そうね……レン君はハイエルフなのよね?

 でも……エルフらしいミントグリーンの服は……似合うとは思うけれど、なんとなくイメージできないわね」

「緑はあんま着ないね。でも、イリシアが作ってくれるならなんだって着るよ」

「あら、あら。うふふ。素敵な服を作るわね」

「服かぁ」


後ろから聞こえた声に振り向けば、その声の持ち主である朝陽さんがリーノと一緒に立っていた。

俺達が集まっているからか、リーノと共にやってきたようだ。


「な、ライ。俺も作ってくれねぇか?」

「うん、イリシア良い?」

「もちろんよ。うふふ、楽しみね」

「やったぜ! さんきゅ! あ、金は払うからな?」

「ん……うん、わかった」


別にいらないけど、朝陽さんは納得しないだろうし、もし俺が逆の立場でも払わせてと言うと思う。

それに、気を遣わせてしまうだけだろう。

よしぷよさんにも凄く気を遣わせてしまったし……あ、よしぷよさんもキャンプに誘ってみれば良かったな。


「しっかし、俺だけ作って貰うのもなぁ……」

「そうよ、朝陽。さらっと約束しちゃうなんてずるいわ。

 ねぇライ君。私も作って貰えるかしら?」

「うん! イリシア、よろしくね」

「ええ、任せて」

「ありがとう、嬉しいわ。空も良い?」

「もちろん。ね、イリシア」

「ええ、楽しみだわ」

「空ー」


ロゼさんの声に反応した空さんがネイヤと共にやってくる。

ほぼ全員が集まっている。残る1人、カヴォロも呼ばなくては。


「カヴォロー!」

「肉を焼いてるから忙しい」

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