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day118 キャンプ地へ

「テント、寝袋……」


アイテムウィンドウに並ぶ文字を見ながら、忘れ物がないか確認していく。

昨日の準備中にカヴォロから頼まれたいくつかの調理器具も入ってる。

テーブルは空さんが作ってくれると言っていた。

お婆さんから貰った茄子も忘れずに持って行かなければ。それから楽器も。


「うん! 大丈夫! それじゃあ、行こうか。

 1時間から1時間半くらいで着くと思うから、リーノとフェルダはそのくらいの時間になったら呼ばれるって思っててね」

「おう、待ってるぜ!」

「ん、了解」


家から出て、ギルドに向かう。

待ち合わせ時間には余裕を持って行けるだろう。


お昼前にキャンプ予定地に着けば良いけれど。

兄ちゃん達やソウムもいるから、移動中の魔物で手こずる事はないだろう。

地図の大体の位置しか把握していないあの場所に迷わずに辿り着けるかが問題だ。

川さえ見つけられたら、後は上流に向かえば辿り着くはず。


「お昼ご飯何かなー?」

「茄子?」

「あはは、茄子だけじゃないよ。楽しみだね」


キャンプ中の食事は基本的にカヴォロに任せているけど、ある程度の予定は昨日の準備中にやり取りして決めている。

昼は元々予定していたバーベキュー、夜はカレーだ。

明日の朝ご飯はカヴォロに全部任せたのでわからない。


「堆肥どう?」

「もう暫く掛かりそうね。ネイヤ君ったら凄いのよ。

 それぞれの種に必要な栄養を教えてくれるの」

「んにゃ……わしゃ物を知らん。

 堆肥に出来ん素材、出来る素材、肥料に出来ん素材、出来る素材……そういうのはわからん」

「へぇ~堆肥と肥料に使える素材が違うんだね」


堆肥や肥料は、それぞれの装置に入れたらすぐに出来るわけではない。

素材を入れる樽のような部分が回りはじめ、暫く待って止まったら完成なのだそうだ。

今も庭に置かれた堆肥化装置と肥料化装置が回っている事だろう。

1つずつでは時間が掛かりそうなので2つずつ作ったけど、それでもまだまだ時間が掛かるみたいだ。


本来は、それぞれに合わせて堆肥や肥料を用意することはないそうだ。

いや、用意出来ないが正しいのかな。ネイヤがいるからそれが可能になっている。

同じ堆肥や肥料で植物を育てるのが普通らしい。

農家さんならいくつか用意するそうだけど、さすがにそれぞれに合った物を用意することはないのだとか。


「最高の堆肥と肥料があるのに、私の農業スキルが低いから凄く残念だわ。

 今のスキルレベルでは、堆肥と肥料だけの品質になってしまうもの」

「これから上がっていくんだから大丈夫だよ。 

 それに、今はそうでも昔は違ったんでしょう? イリシアの知識あってこそだよ」


転移陣受付で6人分の転移陣代を支払い、転移陣部屋に入る。

行き先は石工の村だ。待ち合わせ時間までは20分もある。余裕を持ち過ぎたかな。


辿り着いた石工の村の広場で辺りを見渡す。

一番乗り……かと思ったら、近くにソウムの姿を見つけた。 


「ソウム! もう来てたんだね!」

「うん……楽しみで、早くきちゃった」

「俺も! あ、俺の仲間のジオン、シア、レヴ、イリシア、ネイヤだよ。

 あと2人いるんだけど……また後で紹介するね」

「金髪の人と灰色の角の人だよね?」

「あ、そっか。手品の時も、その後会った時もいたもんね。

 リーノとフェルダだよ」

「よろしく。僕はソウム……えっと、手品見る?」

「見たいけど、後からのお楽しみに取っておこうかな」


二言目には手品を見るかと聞かれている気がする。

最初以外断ってしまってるから申し訳ない。

やっぱり見せて貰おうかな……と、ソウムに視線を向ける。


「あ、違うよ。別に、手品見せたがりとかじゃないから。

 まぁ……見せる人いないから、見て欲しいとは思うけど……せっかく練習したし……。

 困った時に言ってるみたいな……あ、ライに困ったわけじゃなくて、何も話せない僕に困ってるんだけど」

「なるほど……俺もそういう時あるよ。

 俺の場合手品は見せられないから、笑って誤魔化しちゃう」

「えーライは絶対ない」

「あるある。まぁでも……前よりは、少し減ったかな」


嫌われたくないって気持ちは相変わらずあるけど、前みたいに嫌われたくないから話せなくなるみたいな事はない。

緊張は未だにしている。でも、前よりは減ったと思う。


「そう言えば、手品の道具って街で売ってるの?」

「手品用品の店見たことない……手品の本は売ってるのに」

「手品スキルで作れるの?」

「作れないよ。でも、手品スキルで手品用に弄る事ができるから、今度ワードローブでも買おうかなって思ってる」

「ワードローブ……?」

「中に入って剣刺すやつ……あれに使えそうだなって。

 でも……ワードローブじゃ格好つかないか……」

「んん……なんで家具? とは思うかも……。

 木製じゃないと駄目なの?」

「大きな箱ならなんでも大丈夫だと思う」

「じゃあ俺、今度ソウムが入れるくらい大きな格好良い箱、作って貰うよ」

「えっ……良いの? 怒られない?」

「誰に……?」

「え、作ってくれる人に……」

「怒られないよ。金属と石、どっちが良い?」

「えっと……丈夫な方……?」


どっちが丈夫なのだろうか。

素材によっては岩の方が丈夫そうだし、逆も然り。

どちらも重くなるのは間違いないだろう。

フェルダがいたら聞けたんだけど、生憎今はいない。


「早いな。もう来てたのか」

「あ、カヴォロ! おはよう」

「おはよう。あんたが……手品師か」

「あ、僕、ソウム。えっと……今日はよろしく……手品見る?」

「今は良い。……俺はカヴォロだ。

 ちなみに、イタリア語でキャベツだ」

「……キャベツ好きなの?」

「食べ物はなんでも好きだ」


全く同じ会話をカヴォロとした覚えがある。

後は兄ちゃん達だけだ。話している内にくるだろう。


「ソウムはどれくらい食べるんだ?」

「えっと、普通だと思う……」

「そうか。それなら大丈夫だな」

「あっ、一応、肉持ってきた。使えそうなら……」

「助かる。レンにも頼んだが、たくさんあって困る物でもない。

 酒は飲むのか?」

「たまに……?」


どうやらソウムは年上のようだ。

未成年だけどこの世界では飲むって人かもしれないけど、たまにと言う返事からして、リアルで飲んでるのではないかと思う。


「そうか。俺は飲まないが、持ってきてはいる。

 果実酒が多いが、純米酒とエール、ビールも用意している」

「凄いね……?」

「味見していないから美味いかはわからないが」


カヴォロは未成年のような気がする。

もちろん酒が嫌いな成人の可能性もあるけれど。


俺はリアルと見た目がほとんど変わらないけど、他の人達もそうとは限らない。

見た目から実際の年齢を想像するのは難しい。

『Chronicle of Universe』に限らず、ゲーム内で出会う相手に敬語で話すべきか悩んだ事もあったけど、兄ちゃんが誰に対しても敬語をほとんど使わないのでそれに倣っている。

ちなみに、兄ちゃんは敬語が使えないわけじゃない。TPOに応じて使い分けている。


「待たせたかな? おはよう、ライ」

「兄ちゃん! おはよう!

 楽しみで早く来ちゃっただけだから大丈夫だよ」

「それなら良かったよ。

 手品を見せて貰った時以来だね。ソウム、だっけ?」

「あ、うん、ソウム……手品見る?」

「はは、キャンプで見せてくれるんだって?

 楽しみにしてるよ」


ちらりと空さんに視線を向ければ、朝陽さんの後ろに隠れていた。

初対面の相手がいるからだろう。


「俺は朝陽! よろしくな!」

「私はロゼよ。朝陽の後ろに隠れているのが空」

「……手品、楽しみにしてる」


朝陽さん達と会うのは、イベント後の打ち上げ以来だ。

兄ちゃんとは一緒に食事をした時に、カヴォロにはカヴォロのお店に行った時にネイヤの紹介をしたけど、朝陽さん達にはしていない。

簡単にネイヤの紹介を済ませて、石工の村の外に向かう。


「錬金術? にんげ……じゃなくて、金を錬成するの?」

「作らん。作ろうと思えば作れるかもしれんが、既にあるもんを作っても粗悪品にしかならん。

 錬金術は……ライの師匠の言葉を借りるなら、なんでもかんでも混ぜて、薬やらなんやらを作るスキルよ」

「薬……調薬スキルとは違う?」

「調薬スキルで作れる物も作れるし、作れない物も作れるんだって」

「っつーことは、ライはこれからうちの露店に来ることなくなんだなぁ。

 つーか、カヴォロも露店出してねぇし、露店広場に来る必要ねぇのか」

「最近全然行ってないね」


現状、装備で必要な物は杖と盾くらいだ。

他に魔道具の元になる生産品で木工品やガラス細工が必要な時はあるけど、生産頑張る隊の人達に頼むつもりだし、木工品でも家具系の物は空さんに頼もうと思っている。


その結果、露店広場に行く機会がなくなっているけど、たまにはウィンドウショッピングを楽しみに行ってみようかな。

新しい何かを発見できるかもしれない。

プレイヤーと関わる機会が減って行っているような気が……いや、これは、関わろうと思えば関われるのだから、俺の問題か。


話している間にも、俺達の間を兄ちゃんの魔力弾が飛んでいく。

この辺りの敵は兄ちゃんにとって強い敵ではない。

次々飛んでくる魔力弾によって、前方の敵がエフェクトとなって消えていっている。


「そう言えば、ソウムはどうやって戦うの? トランプ?」

「手品スキルも使うけど……メイン武器は鞭かな」

「鞭?」

「あんま使ってる人いないみたい。

 僕は手品師っぽいかなって思って使い始めたけど、よく考えたら鞭は猛獣使いだったかもって」

「確かに。手品師さんが戦う時って何で戦うんだろ? ステッキ?」

「ステッキもありだね。持ってないから今度買ってみようかな」

「あとは……ナイフ投げって手品なの?」

「一応手品でも出来るけど、サーカス感が強いよね」


ソウムはどこからか1本の短剣を取り出し、それをぽんっと軽く上に飛ばして柄頭を人差し指で突くように押した。

ナイフも持っているんだなと思うより先に、前方から鋭い斬撃音が聞こえてくる。

視線を向ければ魔物に短剣が突き刺さっていた。


ソウムがくいと人差し指を曲げると、何かに操られるようにくるりと回転した短剣は、小さな光と共に消える。

横を歩くソウムの手を見れば、そこには先程魔物に刺さっていた短剣が握られていた。


「おぉ……今のって手品スキル? 投擲と組み合わせたとか?」

「投擲スキルは覚えてない。……まぁ、手品だから、種はあるよ。

 これ以上は手品する時の種明かしになっちゃいそうだし、内緒」

「へぇ~! 手品スキルって凄いね。戦う事もできるんだね」

「狩りで使えないかって色々試してたら、なんとかそれっぽく組み込めた。

 使えるって言っても、ダメージ低いから……まぁ、これは……僕の持ってる短剣のせいでもあるんだけど」

「短剣の攻撃力が低いの?」

「露店に売ってた平均よりちょっと上のやつだよ。

 手品用に弄ったら、攻撃力半分くらいになっちゃった。

 この辺の敵なら……6本くらい投げたら倒せるかな」

「なるほど……ね、ジオン。短剣作って! 格好良いやつ!」

「待って、違う、違うんだよ。

 催促したわけじゃないんだよ。持ってる、持ってるから」


そう言ったソウムの周りに、形の違う短剣が6本浮かんでくるくると周り始めた。

その中の2本を手に取ったソウムは、魔物に向けてそれらを投げる。

ナイフの行方を俺の目が追うより早く、斬撃音が響いた。


続けて2本、そして最後の2本の短剣が魔物に突き刺さると同時に、魔物がエフェクトとなって消える。

魔物が消えた事で宙に浮いた6本の短剣もまた、光と共に消え、ソウムの周りへ戻ってきた。


「おぉ~……!」


俺以外の皆からも感嘆の声が上がる。

ソウムは気まずそうに視線を泳がせると、短剣を消して、代わりにトランプを周りに浮かべた。


「それも手品スキル?」

「そう。だけど……これは種も仕掛けもない不思議な力。

 ああいや……種も仕掛けもスキルなのか……。

 気を抜くとトランプが浮いちゃうんだよね」

「ずっと?」

「ずっと。最初はめちゃくちゃびっくりした。

 目を開けたらトランプ浮いてるんだもん。トランプが初期装備なのかと思った」


手品スキル、奥が深い。

不思議な力も働いて、種も仕掛けもあって、やりようによっては戦う事も出来る。

兄ちゃんがほとんど倒してしまっているから、鞭を使う姿は見れていないけど、手品と鞭で鮮やかに戦うのだろう。


これまで、ソウムとはゆっくり話せていなかったので、知らない事ばかりだ。

キャンプ中にたくさん話せたら良いな。

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