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day117 園芸屋

「この辺りだと思うんだけど……」


店先のポストに書かれた店舗IDとクリントさんの手紙に書かれた店舗IDを見比べながら、園芸屋さんを探す。

1ずつ増えて行く数字を辿って行けば、探していた店舗IDの書かれたポストを見つけた。


『OPEN』と書かれたドアプレートを確認して扉を開けば、ちりんと高い音が鳴った。

恐らく店主さんであろう作業中の男性が、その音に気付いて振り向く。


「いらっしゃ……うん? 異世界の旅人?

 ここは園芸屋だけど……武器屋は6軒横だよ」

「えっと、クリントさんに紹介して貰って種を買いにきたんだけど……」

「あーはいはい! ライ君!

 いや、ごめんね? 異世界の旅人が来るなんて初めてだったからさ」


俺達に怪訝そうな視線を向けていたお兄さんはへらりと笑い、エプロンのポケットから1通の手紙を取り出した。


「これ、クリントからの手紙。

 手紙に書かれた人数より1人増えてるみたいだけど……うん。ま、そういう事もあるよね。

 僕はリュヴェ。ドリュアスだよ」


ドリュアスと言えば……ドライアドとも呼ばれる木の精霊だ。

どうやらこの世界では精霊の括りではないようだけれど。


「俺は鬼神のライです。よろしくお願いします。

 ドリュアス……初めて会ったよ」

「へぇ、そう? あは、クリントもドリュアスなんだけどね」

「え!? そうなの!?」

「見た目で分かる種族じゃないからね。

 わざわざ種族を言う人も珍しいし。僕はほら、園芸屋だから。

 ドリュアスがやってる園芸屋ってだけで信用されるんだよ」

「植物に強い種族なの?」

「そういうこと。植物に強いというか、植物を育てるのに強いというか……。

 とにかく、農業や林業で分からない事があったらなんでも聞いてね」

「ありがとう。頼りにさせてもらいます」


クリントさんもドリュアスなのか。人間だと思っていた。

見た目は人間と変わらない……それを言うなら、リーノやシア、レヴ、イリシア、ネイヤも見た目で種族はわからない。

角が生えていたり、耳が尖っていたり、動物の耳が生えていたりしたら人間じゃないんだなとわかるけれど。

……そもそも俺も、人間じゃないんだったな。


「それで? 何をご希望かな?」

「んー……カタログにあった種と苗木は交換したんだけど……。

 あ、この前のお祭りで貰ったポイントと交換できる賞品なんだけどね」

「ああ! お祭りね。僕は見に行ってないんだけど、クリントに話は聞いたよ。

 優勝したんだって? こんなことなら見に行けば良かったな。

 ね、そのカタログ見せてくれる?」

「うん、もちろん」


交換ウィンドウからカタログ化して、リュヴェさんに手渡す。

ぺらりぺらりと頁を捲り、そこに並ぶ種や苗木、種菌を確認している。


昨日家具を交換した後、残ったポイントで種と苗木、それから種菌に交換しておいた。

それらではポイントを使いきれなかったので、クランハウスに置いてある貴重な本を自宅用にもう1冊ずつ交換して、貴重な本以外の本も交換した。

が、それでもたくさんポイントが残った為、封印前のカットされていない魔石と俺達で封印できない《火魔石》と《聖魔石》をたくさん。

つい先日魔石を集めに行かなきゃと考えた気がするけど、暫く集める必要はなさそうだ。


それから、トーラス街の家のゲストルーム、キッチン、浴室用の家具も交換した。

コンロや浴槽は魔道具なので、その内作るつもりだけど、急を要するわけではないのでいつになるかはわからない。


それだけ交換しても16,600ポイントも残ったので、悩んだ結果召喚石3つと交換してみたけど、全て失敗した。悲しい。

後は魔物の素材や羊皮紙、おもちゃ、お菓子等と交換して、なんとか全て使い切った。


「うん。なんとなくわかったよ。

 カタログの種より品質の良い種を揃えてるけど……そっちは育てながら品質を上げるんだね?」

「ん……俺、農業の事よくわかってなくて、イリシアに任せてるんだ。

 育ててる内に品質が上がって、収穫の時に手に入る種の品質も上がるって事?」

「その通り。どれと交換したの?」

「野菜以外全部。あ、でも、野菜もいくつかは交換したよ」

「そんなに育てるの?」

「うん。ネイヤが錬金術で使えるから、色々育てたくて」

「錬金術か。なるほどね。植物を使うのは錬金術だけ?」

「ううん。イリシアが裁縫で使うよ」

「ふんふん。錬金術と裁縫ね。ちょっと待ってて」


店内にある種や苗木を手に取っては大きな籠の中に入れていくリュヴェさんの姿を眺める。

恐らく俺達に合う種と苗木を探してくれているのだろう。


いくつかの種と苗木を籠に入れたリュヴェさんは、それらを机の上に並べて俺達を手招いた。

机まで移動して、並べられた商品に視線を向ける。


「おすすめはこんな感じかな。ま、錬金術ならなんでも使えるんだろうけどね。

 えーと、育てるのは君?」

「ええ、私よ。あら、これは昔見た気がするわ」


種類や育て方等の丁寧な説明をイリシアは楽しそうに、時に質問をしながら聞いている。

俺も一緒に聞いているけど、所々専門用語が出るのでよくわからない。

うん。イリシアがいたら大丈夫だろう。


種をじっと見ているネイヤに気付いて視線を向ける。

種と収穫物では成分が変わりそうなものだけど、種の状態でも分かる事があるのだろうか。

リュヴェさんの説明の邪魔にならないような小さな声で話しかける。


「何かわかる? 成分とか効能とか」

「種から育てた事なんぞないから、いまいちわからんな。

 足りんもんがたくさんありそうやの」

「足りない物……?」

「色々あるが、まぁ、一番は水よな」

「育て方が分かるってこと?」

「んにゃ、わからん。ふむ……肥料で与えりゃ良いんかの」

「なるほど。その植物に必要な栄養が分かるんだね」


そう言えば、前に鉄の加工について話していた。

どう手を加えれば良い物になるのかが分かるのだろう。


「こんな感じかな。ま、分からない事があったらいつでも店にきてよ。

 どれにする? あ、最初に聞いておけば良かったんだけど、予算とかある?」

「うーん……おすすめ全部でいくらくらい?」

「4、5万かな。どうする?」

「んー……おすすめ全部で!」

「あは、太っ腹だね」

「あ、それと牧草の種も欲しいんだけど」

「うん、牧草ね。動物飼ってるの?」

「羊と馬を飼いたいなって思ってるんだ。

 育て方分かってないんだけど……牧草育てたらとりあえず食料確保はできるかなって」

「そうだねぇ。畜産の事はクリントに聞いたらみたら?

 動物の餌は自分達で育ててるみたいだしね」


言われてみれば、大きな牧草地があった気がする。

他にも植えていた覚えがあるけど……今度色々聞いてみよう。


「クリントは参ノ国には行商にこないからね。

 元はクリントもテラ街出身なんだけど、弐ノ国に引っ越してからは全然会えてないんだよ」

「幼馴染?」

「そうそう。おじさんがね、適当にやっててもそれなりの植物になるのがつまんないって。

 動物育てるほうが面白そうって、牧場譲って貰ったんだってさ」

「へぇ~そうだったんだ。

 テラ街はドリュアスが多いの?」

「そうでもないよ。いないわけじゃないけど。

 田舎だからね。もっと賑やかな場所に行きたいって出て行っちゃう。

 ま、どこに行っても農業で生計立てられるからね」


農業特化な種族なのだろう。

他の種族と比べて植物が育ちやすかったり、品質の良い植物になったりするのかな。


「全く関係ない仕事してる人もいるけどね。

 僕も無関係ではないけど、園芸屋だから農業はしてないし。

 あ、でも、ここで売ってる商品は僕の両親が育てたやつだから、品質には自信あるよ」


にっこりと笑ったリュヴェさんは、数枚の紙袋を取り出し、机の上に並ぶ種や苗木、種菌を入れていく。

結構数もあるし、苗木は種や種菌と違い少々嵩張るので、全部纏めて1つの紙袋には入らないようだ。


「あ、ごめん。忘れてた。

 いくつか種菌があるんだった。えーと……」

「種菌って茸だよね?」

「そうだよ、茸。中には岩で育つやつもあるけど……うん、おすすめのやつは全部木だね。

 原木が必要。うちにも一応置いてあるけど、君達で用意できる原木ある?」


昨日交換した種菌以外にも、海中の洞窟やエルフの森で種菌を手に入れている。

イリシアが特に何も言っていなかったので、原木が必要だとは思っていなかったけれど。

海中の洞窟で採った《水縹茸》は岩に生えていたから、岩で育てるのかな。


「ふふ、大丈夫よ。《翡翠聖木》があるもの」

「え!? 《翡翠聖木》!?

 エルフの知り合いがいるの!?」

「うん、凄くお世話になってるよ」

「……そっかぁ。それなら、原木の心配はないね。

 《翡翠聖木》ならなんでも育つよ」


杖や魔力銃を作る時に使えば魔法攻撃力が上がるとは知っていたけど、それ以外にもそんな効果があったとは知らなかった。

本来は茸によって向き不向きの原木があるのだろう。


「岩で育つ茸も育つ?」

「さすがにそれは無理だね。岩で育つ茸の種菌を持ってるの?」

「《水縹茸》って茸の種菌なんだけど……」

「へぇ? 海中の洞窟にある茸だったかな?

 珍しい物を持ってるんだね。うーん……《水縹茸》が生えていた洞窟の岩があれば育つはずだよ」

「岩塩なら持ってきたんだけど……」

「フェルダが採った岩ん中に、茸が生えとった場所と同じ成分の岩があったぞ」

「あー……銀の洞窟で採ったやつ?

 なら、調整しとく。結構でかいし」

「大丈夫そうだね」


育て方は岩と原木どちらもほとんど変わらないそうなので、イリシアに任せておいたら大丈夫だろう。

堆肥や肥料もネイヤと話して用意してもらえば、良い物が育つのではないかと思う。


「うん、じゃあ、全部で4万6千CZだよ」


取引ウィンドウが開く。

商品と金額を確認して取引を完了すると、机の上の紙袋がアイテムボックスの中に消えた。


「へぇ、異世界の旅人と取引するのは初めてだけど、こんな感じなんだ?

 良かったら、お友達にも紹介してね」

「知り合いに農業が好きな人がいるから話しておくね」

「ふぅん? 異世界の旅人は基本的に冒険ばかりしてるって話だったけど、そうでもないんだね。

 生産する人も、冒険に関わる生産が多いらしいし。

 ああでも、品評会では農業部門もあったね。僕、審査員してたんだよ」

「そうなんだ? 話そうと思ってる人、農業部門で一番のかぼちゃだったって言ってたよ」

「ああ! かぼちゃの子!

 えーと……ぐんぐん君だったかな? 大歓迎だよ!」


カヴォロに伝えて貰おう。

ああでも、生産頑張る隊の人達はカヴォロのお店にいる事も多いそうだし、直接会って話そうかな。

みきさんに渡したい物もある。


「それじゃあ、またね。農業スキルのレベルが上がったらまたおいで」

「うん! その時はまたよろしくお願いします!」


スキルレベルによって育てられる物が変わるそうだ。

残念ながらエルフの森で手に入れた種や苗木、種菌は育てられない物もあるらしい。

カタログで交換した分は一応全て育てられるとのこと。

ただ、スキルレベルが低いと育つのに時間が掛かる物もあるのだとか。


店から出て、出入りの邪魔にならない場所に移動する。


「それじゃあ、俺とジオンは従魔召喚の実験をしてくるね」

「おう! 行ってらっしゃい!

 買った物は俺達で持って帰るぜ」

「ありがとう」


アイテムボックスから紙袋を取り出して、皆に手渡す。

俺とジオン以外は家に帰って農業の準備だ。

農業の道具は以前ぐんぐんさんに作った時の鋳型が残っているのでシアとレヴが作ってくれる。

堆肥化装置と肥料化装置は俺達が帰ってからだ。


「帰りにお昼ご飯買ってくるね。またあとで」

「「いってらっしゃーい!」」

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