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day116 製本

今日のログインはトーラス街の家。

ログアウト期間が1日半空く時は、皆が生産できるようにトーラス街の家かクランハウスからログアウトするようにしている。


「とりあえず、いくつか革表紙を用意してみたわ。

 魔道具関係の本にはこれが合うんじゃないかしら」

「わぁ~! 格好良いね。綺麗」

「うふふ、素敵でしょう?

 リーノ君がね、手伝ってくれたの」


にこにこと笑うイリシアが見せてくれた栗皮色の革表紙には、金を使った装飾がされており、留め金が付いている。

重厚感のある本になるだろう。


「魔道具関係から製本するんだよな?」

「そうだね。他のはまた今度」


今日はテラ街に行く予定だけど、1冊だけ製本を試してから出発することにした。

一番枚数のある魔道具関係の羊皮紙……魔法陣や設計図、それからエルムさんに教えて貰った事について書かれた羊皮紙で本を作る。


製本するなんて全く考えていなかったので、綴じる部分……のどについて気にする事なく、好き勝手に書いた羊皮紙だ。

綺麗にカットされた羊皮紙ではあるけど、大体同じサイズとは言え多少のばらつきはある。

片面に横書きで書いているし、ど真ん中に魔法陣や設計図が描かれている羊皮紙もあるので、半分に折ることも出来ない。


しかし、侮ることなかれ。ここは魔法のある世界。

この状態から綺麗に製本することが可能だ。少し多く羊皮紙を使う必要はあるけれど。

朝食を食べた帰り道に、普段使う羊皮紙より大きな羊皮紙を買っておいた。それから刷毛も。


「イリシア、針と糸借りて良い?」

「針はね、太めの針を用意してもらったのよ。

 糸はどんな糸が良いかしら?」

「用意してくれたの? ありがとう!

 出来れば少し太めの糸が良いな。

 それから、切るやつ……はさみとか……」

「裁断機、作っといた。手動だけど」

「わ、裁断機も? ありがとう、凄く嬉しいよ」

「刃は軽くしてありますが、切れ味には自信があります。

 軽く力を入れるだけで切れると思いますよ」

「持ち手部分も軽い石選んどいた」

「なるほど……」


俺のSTRではレバーを持ち上げる事も難しいのか。

気を使ってくれたのだろうけど、なんとも言えない気持ちになる。

机に置かれた裁断機のレバーを上げ下げしつつ、他の材料に考えを巡らす。


「あ、糊……」

「ほれ。用意しとる」

「ありがとう、ネイヤ」


ネイヤの用意してくれた糊……膠と言うらしい。

膠を受け取り、お椀サイズの陶器に瓶から膠を出しておく。

アイテムボックスから大きなサイズの羊皮紙と刷毛を取り出して準備は完了だ。


まずは、大きな羊皮紙を広げて綺麗に半分に折る作業。

これは製本スキルがなくても出来る作業なので、全員で大きな羊皮紙を折っていく。


「ちょっとずれちゃったー」

「大丈夫だよ。綺麗に折れてる」


全部折ったら、裁断機で同じサイズになるように一気にカット。

魔道具製造に関する事が書かれた羊皮紙の裏側にべたべたと膠を塗り付けて、折った羊皮紙の半分にぺたりと貼る。

雑に貼っても後から綺麗になるみたいだけど、真っ直ぐになるように心掛けて貼っていく。


のどがないなら作れば良いだけだ。綴じれたら問題ない。

現状イリシアが作ってくれた革表紙よりも大きいけど、ちょっとした手順を挟めばぎゅっと小さくなり、大きな羊皮紙に貼った事で出来た余白も他のページに合わせたものになるらしい。


順番を考えつつ全ての羊皮紙を貼り終えると、次は糸で綴じていく作業に移る。

針と糸で縫わなくても、角を揃えて表紙にぺたっと貼れば出来るみたいだけど、糸で丁寧に綴じた方が頑丈な本になる……と、頭の中の知識が言うのでそうしてみる。

針に糸を通し、ひと針ひと針丁寧に綴じていく。


恐らく現実の製本はもっと道具や手順が必要なのだろうけれど。

俺が知っているのは最低限の知識なので、拘ろうと思えばもっと拘れるのだろう。


「あら、あら。とっても上手だわ。

 お裁縫の経験があるの?」

「うーん……兄ちゃんと刺繍対決をした事ならあるよ」

「刺繍対決……? 何を競うのかしら……」

「うん、勝敗はつかなかったよ」

「そういや、前にエルムの婆さんの家で、米に字を書いたことがあるって言ってたよな?

 細かい作業が好きなのか?」

「好きなほうだと思うよ」


お米も刺繍も、暇を持て余している時にテレビで見たからやってみただけだけれど。

その後どちらもやっていないから、その2つに関して言うなら好きではないのだろうと思う。


「生産は好きだよ。

 皆と一緒に出来るからって言うのが一番の理由だけどね」

「俺も俺も! 1人でやってても楽しかったけどさー。

 色んな生産できるやつらと出会えて、一緒に生産できて、すっげー楽しい!」


リーノの言葉に皆が頷くのを見て、頬が緩む。

皆が一緒の気持ちで、楽しんでくれていることが嬉しい。


最後のひと針を縫い終えて、縫い目を確認する。

多少ゆるんでいたり歪んでいたりしているけど、初めてにしてはなかなか良いんじゃなかろうか。

隠れてしまうから少しくらい歪んでいても大丈夫だ。


革表紙を広げて、製本スキルを意識しながら背の部分を合わせて置くと、ふわりと光が包んだ。

魔道具製造にはない、生産スキルの妖精の力を目の当たりにしてぱちりぱちりと瞬く。


綴じた羊皮紙が革表紙とぴったりの大きさに変わっていく。

表紙を用意していない場合は、製本スキルを意識しながら背に膠を塗ったら良いみたいだ。

恐らく膠を塗り終わると同時に製本の妖精の力で羊皮紙のサイズや本文の余白等が綺麗に整えられ、表紙が付くのだろうと思う。


「よし、あともう少し」

「本って作れるんだなぁ。

 いやまぁ、そりゃ作れるんだろうけどさ」

「ふふ、そうですね。

 誰かが作っているとは知っていましたが、作られる行程を見るのは初めてです」


綺麗に整えられた綴じた羊皮紙の背に膠を塗り付けていく。

間違っても中に塗って開かないなんてことにならないように丁寧に。


刷毛を置いて、最後にもう一度満遍なく綺麗に塗れているかを確認してから、慎重に背表紙の位置を見ながら貼り合わせる。

ぱたりと本を閉じれば、再度光に包まれた。


「完成!」

「題名はつけねぇの?」

「んー……今は良いかな。後から追加したり分けたりするだろうから。

 思いつかないしね」


本のタイトルは羽ペン等を使って表紙や背表紙に書くだけだ。

製本スキルがなくても書けるけど、製本スキルがあれば雑に書いてもある程度綺麗に整えてくれるし、箔押しのような文字を描くことが出来るみたいだ。

一応、細工でも似た事は出来るみたいだけど、製本スキルの方がお手軽に出来る。

これまで黒色のインクしか使ってこなかったけど、タイトルには違う色のインクを使っても良いかもしれない。


エルムさんに貰った黒色のインク瓶の中身も少なくなってきている。

インクは錬金術で作れるそうだ。他にも、石工の絵付けや裁縫の染色等に使う染料も作れるとのこと。

錬金術スキルがなくても、石工で使う染料はフェルダが、裁縫に使う染料ならイリシアが作れるけど、錬金術で作った染料の方が質が良いのだとか。


「後は複製も試してみたいけど……」


2冊あっても俺しか読まないだろう。

誰かに渡すにしても、今の魔道具関係全部ごちゃまぜ状態の本を渡すのは気が引ける。

魔法陣のみとか、設計図のみとか、内容を揃えた物なら良いけれど。

後から見返した時にもわかりやすいように丁寧に書いているつもりではあるけど、書いた俺にしか分からない部分もあるだろうし。

そもそも、俺が書いた物を誰かに渡すのが恥ずかしい。


「エルムさんに渡してみてはどうでしょう?

 ライさんの今が分かる本ですから」

「なるほど。そうだね」


エルムさんの教えから得た知識、そしてそれらから何を作り出したのかがここには書かれている。

俺の成長記録のような本だ。課題を提出するようなものだろう。


そうと決まれば早速複製の手順に取り掛かる。

複製するにはまず、原本と同じか多い頁数の何も書かれていない本を作る必要がある。


折った羊皮紙を重ねて、針を通していく。

1回目よりは少しだけ綺麗に出来ている気がする。


「ネイヤ、黒色のインクたくさん作れる?」

「おお、今いるんか?」

「時間かかる?」

「んにゃ、すぐできる」


地下2階の素材置き場に向かったネイヤは、いくつかの素材を持って地下1階の作業場へと戻ってきた。

早速錬金術を始めるネイヤの姿を横目に見つつ、手を動かす。


エルフの森と海中で集めた素材は、いくつかは持ち帰ってきているけど、大半はクランハウスに荷車と一緒に置いたままだ。

改築が終わって地下2階全てが素材置き場になり、凄く広くなったので、テラ街の家への家具搬入のついでに素材も運ばなければ。


増築と改築後、これまで作業場だった1階はリビングダイニングになった。

とは言え、建物2つ分の広さがある部屋では、リビングダイニングだけだと広すぎるので、もしかしたら人が泊まる事があるかもしれないと、ゲストルームも追加されている。

それと、前回の改築時になくなった浴室と洗面所のスペースが復活した。

キッチン用のスペースには冷蔵庫だけしか置かれていないし、ゲストルームと浴室、洗面所には何もない。

その内購入しようとは思っているけど、今はお金がない。ポイントが残るようだったら交換しようかな。


2階の素材置き場はなくなり、2人部屋の寝室が増えた。

イリシアは女性なので1人部屋だ。俺はネイヤと同じ部屋になった。


我が家は、俺が1日半空けてログインする度に何かしらが増えている。

それは武器だったり、アクセサリーだったり、生産道具だったり様々だ。

今日はカーテンが追加されていた。確かに時々眩しいなと思っていた。

今いる作業場は地下1階だから陽は差し込まないけれど。


「さっきより綺麗に出来てるかな?」

「ええ、そうね。少し粗い箇所もあるけれど……とっても上手よ」

「もっと綺麗にできるように、練習しなくちゃだね」


書かれている内容が重要であって、出来によっての品質の差はない。

頑丈かどうかだけの差なので、下手でも問題はないけど、綺麗に出来るに越したことはないだろう。


「出来たぞ。他にいるもんあるか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」


黒色のインクが入った大きな瓶を受け取り、辺りを見渡す。


「あれ借りて良い?」

「良いけど。今は水入ってないよ」

「うん、水は入ってなくて大丈夫」


フェルダが陶芸をする時に水を入れている陶器の桶を指差せば、頷いたフェルダが持ってきてくれた。

手元の本と桶のサイズを見比べていると、皆が首を傾げる。

正直俺も本当にこれで大丈夫なのかと不安だ。


2冊の本を桶に入れて、インクの入った瓶の蓋を開ける。


「……よし」


2冊の本目掛けてインクの瓶をひっくり返す。

空になった瓶がふわりと消えた。この瓶も妖精の力で出来た物だったようだ。


たっぷりのインクでひたひたに浸かった本の様子を窺う。真っ黒だ。

じっと見つめていると、ふわりと光が広がり、何も書かれていない本の中へゆっくりとインクが吸い込まれ始めた。


全てのインクがなくなり、光が消えるのを確認して、本を手に取る。

中を見てみれば、何も書かれていなかった真っ白な頁に文字や魔法陣、設計図が描かれていた。

はらはらする手順だったけど、複製完了だ。

一応原本の方も確認してみたが、染み1つ見当たらなかった。


「豪快なんですね」

「ね、真っ黒になっちゃったらどうしようかと思ったよ」


誰かに習ったわけでも、調べたわけでもない知識なので、それが正解だと分かっていても実践するのは躊躇してしまう。

何はともあれ、初めての製本は大成功だ。

パチンと留め金を留めて、本を閉じる。


エルムさんに渡すのは……次に会った時で良いかな。

とりあえず今日は2冊とも本棚にしまっておこう。


使った道具を片付け、皆へ顔を向ける。


「それじゃあ、テラ街に行こう!

 まずは、薬師の村だね」

「いってらっしゃーい!」

「またあとでねー!」

「うん、お留守番よろしくね」


シアとレヴに見送られ、家から出る。


今日中に辿り着けるだろうか。

家具や道具の移動もあるし、出来れば今日中に辿り着きたい。

引っ越し作業が終わってからゆっくり交換する物を選べたら良いのだけれど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆でワイワイと協力して1冊の本に仕上げる。 初めての作業に興味津々のみんなの表情が見えるようです。 ライがこの世界を十二分に満喫しているようで何よりです。これって、でも、絶対、運営側の想定…
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