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day13 お土産

「兄ちゃん確認終わった?」

「ああ、終わったよ。何の問題もなし」

「お疲れ様、兄ちゃん。ようやくログインできるね!」

「さっき少しログインしてきたよ。

 キャラ作って、夕飯まで時間なかったから露店広場をぶらぶらしただけだけどね。

 あ、そうだ、来李。通知連携してないだろ」

「通知連携?」

「そう。現実世界で電話とかメッセージ届いたら、ゲーム内でも通知が来るように連携できるんだよ」


そんな機能があったのか。

特に誰からも連絡がこないので気にしたこともなかったけれど、ログアウトするまで気付かないなんてことになるのは確かに不便だ。

重要な電話が掛かってくることもあるだろうし。


「ログインする前にメッセージ送ったんだけど、反応なかったからね」

「あ、ほんとだ。言われて気付いたよ、ごめんね。

 でも、そっか。家族から連絡くるよね。後で連携しとくよ」


兄ちゃんから連携の仕方を聞く。

ログインする前に連携しておこう。


「兄ちゃんどんなキャラにしたの?」

「んー会うまでのお楽しみってことで」

「そっかぁ。楽しみにしとく」





ログインしてからはお昼ご飯を食べて、アリーズ街に行くことになった。

弐ノ国にはまだあまりプレイヤーがいないようだから露店を出すならはじまりの街にしようという話になり、それならカヴォロにお土産を買って帰ろうとなったのだ。

道中でキラービーを相手に新しい刀の試し斬りをする。


飛び回ってて当てにくいことに変わりはないが、《はじめての刀》と比べて格段に強くなっていることがわかる。

《はじめての刀》と比べて攻撃力が高くなっているし、氷晶属性の魔法ダメージも乗っているから全然違う。

どういうダメージ計算なのかはわからないし、検証する気もないので詳しくはわからないけど。


「ジオン、凄く強くなったよ」

「ええ。今ならホーンラビットなら一度斬り付けるだけで倒せるのではないでしょうか」


STRが低くても強くなれることが改めて分かってほっとする。

ちょっとずつではあるけどSTRが全然上がらないってわけでもないし、もっと強くなれるだろう。


「ジオンが鍛冶できるお陰だね。街で売ってる刀だとSTRが足りなかっただろうし」

「ふふ。鍛冶をやっていて良かったです」


アリーズ街に着いてからは早速市場へ向かいお土産の食材を吟味していく。

はじまりの街で売っている食材がわからないので、適当に買うと被ってしまうかもしれない。

ならば、魚介はどうだろう。露店広場に売っていた料理のほとんどが串焼きだったし、街でも魚介料理は焼き魚程度しかなかった。

弐ノ国の名産だと言っていたから被ることはないはず。


イカ、アジ、アサリ。

弐ノ国で食べた料理には他にも様々な魚介が使用されていた覚えがあるが、カヴォロが言っていたようにプレイヤー向けに売られる食材には制限があるのだろう。


「今日取れた新鮮な魚介だよ! どうだい、兄ちゃん買って行かないか?」

「それじゃあ、イカを3杯とアジ3尾……それからアサリを200グラムください」

「あいよ! 全部で1,326CZだな! 毎度あり!」


他には何を買おうかな。

料理のことはわからないから何が良いのかわからないし。

果物なら味付けしなくても大丈夫だし、果物にしようかな。


「あ、ジオンって俺がいない間に街を散策してたんだよね?

 何の果物が売ってたか覚えてる?」

「ふむ……りんごが売ってたのは覚えてますね」

「そっか、それじゃあ、梨と……あ、バナナ買おう」


バナナは4本で1セットのようだし1つでいいかな。

それから……レモンなら色々使えるかな?


「すみません。梨を2個とバナナを1つ、レモンを2個ください」

「はいはい。928CZだよ。ありがとね」


あとは何を買おうかなと辺りを見渡していると、他の露店とは違う移動式屋台のような露店があった。

見たところ料理を売っているわけではなさうだけど、何を売っているんだろうかと近付いてみる。


「こんにちは。何を売っているの?」

「よぉ。兄ちゃんは……異世界の旅人か。

 俺はアリーズ街の先にある村で牧場やっててな。

 牧場でできたものを売りにきたんだ」

「牧場って言うと……牛乳とか卵?」

「おう。他にもチーズやウィンナー、あとは肉なんかもあるぜ。

 つっても、残ってるのは牛乳と卵だけどな」


そう言って牛乳の入った瓶を見せてくれた。

お風呂上がりに飲むサイズの瓶ではなく、1リットルくらい入る大きな瓶だ。


「飲んでみるか?」

「いいの?」

「おう。試飲ってやつだな」


見せてくれた瓶とは違う、おそらく試飲用の牛乳の入った瓶を取り出し、2つのグラスに注ぐ。

差し出されたグラスを受け取り、ぐびっと飲んだ。


「美味しい!」

「ええ、美味しいですね。臭みもなく、甘みがあります」

「だろうっ? 兄ちゃん達、牛乳好きか?」

「うん、好き。毎日飲んでるよ。

 あ、俺の世界でだけどね。こっちでは初めて見たよ」


グラスを返しながら、お礼を伝える。


「買ってくか?」

「うん! 牛乳は2本。それから卵は……10個ください」

「おう、1,572CZだな」


家の冷蔵庫に入ってる卵が1パック10個入りだったから10個にしておく。

牛乳1本は俺達が飲む用だ。後でどこかでグラスを買わなきゃ。


「いつもここで売ってるの?」

「いや、日によって違うな。トーラス街に行く時もあるし、他の村にも行くからな」

「そっかぁ。運が良かったらまた買えるかな」

「牧場に直接きてくれりゃいいよ。えーと、地図持ってるか?」


頷いて地図を開く。


「この辺りに村があるから、そのうちこいよ。歓迎するぜ」

「ありがとう。今度絶対に行くよ」


まるで太陽のような笑顔を浮かべるお兄さんと別れて、市場を後にする。

これだけあれば充分だろう。何よりお金がもうほとんどない。

所持金は7,243CZ。金欠だ。昨日から使いすぎちゃったな。


お金がないので転移陣は利用せずに歩いてはじまりの街まで戻ることにする。

道中のモンスターは積極的に倒しておこう。

金策のためと、ジオンのレベルを早く15にしたいからだ。


鉱山で吸血蝙蝠を倒していたこともあって、はじまりの街に到着した時にはそれぞれ1ずつレベルが上がっていた。


「さて、まずは店主さんのところに行こう。刀を見せに行かなくちゃ」

「ええ、そうですね。行きましょう」


武器屋に向かい、武器屋の扉を開ける。

数人プレイヤーがいるが、店主さんは対応していないようだ。

カウンターに近付いて、店主さんに挨拶をする。


「よう。2日ぶりだな。今日はどうした?」

「刀見せにきたよ」


刀を店主さんに差し出す。


「鑑定していいか?」

「うん、もちろん。そのために持ってきたんだから、断るわけがないよ」

「ん……ああ、所有物は売り物以外は許可なく鑑定できねぇからな」

「そうなんだ?」


言われてみれば、なんでもかんでも鑑定できたら他のプレイヤーの装備が全部わかるってことになる。

これまで他のプレイヤーが持ってる装備を鑑定したいと思ったことがないので気付かなかった。


刀を見ている店主さんの目が大きく見開かれていく。


「おい、これっ」


口を開いた店主さんに、しーっと口の前に指を当てて見せる。

それからちらりと他のプレイヤーに視線をやった俺を見て、なるほどと頷いた。


「……悪い。すごいな、これ」

「でしょう? スキルのお陰なんだけどね」


小さな声で話し始めた店主さんと同じく俺も小さな声で答える。


「そうか。詳しくは聞かねぇでおく」

「そう? 店主さんがそういうのならそうするけど。

 あ、前の刀を売りたいんだ。それからもう1つ。

 一番最初に作ったやつなんだけど……」


取引ウィンドウに《はじめての刀》と《スノーダガー》を並べる。

最初に作ったこのスノーダガーは最初に氷晶鉄だけを使って作った物なため、露店に並べることはしない。

だからと言って使わないので店で売ってしまうことにした。


「ふぅむ……」


店主さんは察してくれたのか少し唸った後、頷いた。


「本当にいいんだな?」

「うん」


プレイヤー間でやり取りしたほうが高く売れると言いたいのだろう。

他の鍛冶師プレイヤーに恨まれるのはごめんだし、問題ない。


ウィンドウに表示された売却額は20,000CZ。

《はじめての刀》が2,000CZで、《スノーダガー》が18,000CZだ。

街で売るのは安いはずなのに、思ってた以上に高くて驚く。

プレイヤー間の取引だとこれよりも高くなるのだろうか。


「もっと渡してやりてぇとこだけど、規定があるからなぁ。

 こいつは家に飾っとくことにするわ」

「飾るの?」

「おう。兄ちゃん達が初めて作った短剣だからな。記念だ。

 それに、ご利益ありそうだし」

「はは。ご利益なんてないよ」


ついさっきまでは金欠だったけど、一気に余裕ができた。

とは言え、家を買うには最低でも100万だと言っていたし、どうせ買うならそれなりの家を買いたいからもっと用意しておく必要があるだろう。


「それじゃあ、またね」

「おう。またいつでもこいよ」


店を出て次はカヴォロを探すために露店市場に向かう。


「おや、今日も大繁盛のようですね」

「すごいね?」


2日前に来た時はその前に見た時よりも少し落ち着いていたように見えたが、今日はまた大繁盛している。

並ぼうか並ぶまいかと迷っていると、俺に気付いたカヴォロが例の看板を出して、手招きをしてくれた。

カヴォロの善意に甘えることにして、露店へ近付いて行く。


「今日は一段と凄いね。あれ? 串焼きじゃないんだ?」

「あー……昨日の閉店間際に、売れ残ってたつくねを買ってくれたプレイヤーがいたんだ。

 何やら懐かしいとか言ってたが……どうやらその人が有名人だったみたいで、この有様だ」

「へぇ。有名人パワーって凄いんだね」


有名人が食べていたから、食べてみたいということだろうか。

まぁ、カヴォロの料理は美味しいからそれだけじゃないだろうけど。

良い宣伝ではあるのかな。


「買って行ってくれるプレイヤーと肉を取引できてるから、なんとかはなっているが……。

 串焼きの次はつくねばかりを作るはめになった。

 違う料理も作ってみたいし、そのための材料を探しに行きたいのに、露店から離れられない」

「はは」

「笑いごとじゃない。

 ……まぁ、順調に所持金が増えているから有難いことだが……正直、肉はもう見たくない」

「それならちょうど良いや。お土産持ってきたんだよ」


ぶつくさ言っていたカヴォロが期待の目を俺に向けてくる。

俺はにっこりと笑って取引ウィンドウに蜂蜜とローヤルゼリー、それから今日買った食材を並べていく。


「是非、売ってくれ」

「いや……お土産だからあげるよ」

「しかし……」

「それじゃあ、これを使った美味しいご飯を今度2人分作ってくれない?」

「……だが」

「それから、この先もお土産持ってくるから、その時はそれでご飯作って欲しいな」

「……はぁ……わかった。

 ありがとう、ライ」


カヴォロは渋々といった様子で頷いた後に、少しだけ口角を上げて笑った。

喜んでくれたようで良かった。


「いいか。絶対に食べに来いよ」

「もちろん。楽しみにしてるからね」

「あぁ。期待してくれ」

「あ、忘れてた。もう1つお土産あるんだった」


再度取引ウィンドウを開いて《冷気包丁》を置く。


「……はぁ? いや、これはさすがに無料で受け取るわけにはいかない」

「鍛冶の残りで作ったものだから、気にせず受け取ってよ」

「気にせず受け取れるわけがない」

「えぇ……でも、頼まれたわけでもないし、そんな押し売りみたいなことできないよ」


食材にしても包丁にしても頼まれたわけではない。

頼まれたのならお金も受け取るけど、俺が勝手にしたことだ。

頼まれてもないのに売りつけるなんてどんな悪徳商法だろうか。


「鍛冶が出来るなんて知らないんだから、頼めるわけがない。

 冷気包丁の存在はプレイヤーに聞いて欲しいと思っていたが、街でも露店でも見つからなかった。

 喉から手が出る程に欲しい」

「うん。どうぞ」

「だめだ」

「でも、お土産」

「だめなものはだめだ」


料理を作って食べさせてはもう使えないだろう。


「んん……でも、相場わかんないし……」

「……それは、俺もわからない、が……」


長いこと休憩中看板を出させておくわけにもいかない。

無理矢理置いて行ってしまおうかなと考えていると、取引ウィンドウに数字が追加されていく。


「俺の使ってる包丁は街で4,000CZで売っているやつで調理は5のものだ。

 これ以上押し問答となるのは避けたいから甘えさせてもらうが……せめてこの金額は受け取ってもらうぞ」


表示された取引額は20,000CZ。


「こんなにいらないよ」

「恐らくこれでは相場に足りてない」

「多いかもしれないよ」

「それはない。

 わかった。この先包丁を替えたいと思った時はライに頼むことにする」


俺と同じ手法である。

さっき、それで渋々頷かせた手前断るわけにはいかない。


「んん……わかった」


渋々頷いて取引を完了する。

お金が増えたと前向きに捉えよう。


「ありがとう。これでもっと美味しい料理が作れる」

「こちらこそ。包丁を替えたい時は言ってね」

「ああ、必ず」

「それじゃあ、またね」

「またな」

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずここまで読んで思うことが、主人公のライって小中学生?って事ですかね 言動が幼すぎる、年齢って明記してました? 小中学生の明記があれば言動が幼くても何ら違和感がないのですが、逆に高…
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