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day114 図書館

「ライ君、おはよう。狩りに行くのか?」

「おはよう、イーリックさん。

 図書館に向かっているところだよ」

「ああ、図書館。生活魔法か?」

「それも興味はあるけど……今日は魔力の勉強をしようと思って」

「魔力。なるほど。良い選択だ」

「俺、魔力の事何も分かってなくてね。

 魔力感知があるから、見えてるってだけで」

「異世界の者は魔力について詳しくないと聞く。

 見えているなら掴みやすいだろう。

 魔法の研究をするにしても、魔力の制御が出来なければ取得はできない」


生活魔法はともかく属性魔法は、俺がどれだけ魔力の勉強をしても取得できることはないだろうけれど。

呪術スキルのように研究……って程でもないかな。

最低限の知識を学ぶことで解放するスキルはあるけど、基本的には俺達プレイヤーは研究して取得することは出来ない。


「イーリックさんの今日の予定は?」

「森で狩りをする予定だ」

「狩り……レベル上げ?」

「はは、なるほど。君達はレベル上げの為に狩りをするのだな。

 ああいや、冒険を生業にする者がいるのだったか。

 この集落には冒険を生業にする者がいないから忘れていた」


と言う事は、素材や食材の為に狩りをするのだろう。


「私は狩人なんだ。服屋が皮を料理人が肉を求めていてな」

「服屋さん……あ、宴の時にイリシアと話していた人だよね?」

「ああ、そうだ。随分話し込んでいたやつさ。

 全く……他にも話したい者がいるのだから、少しは遠慮するべきだろうに」

「どんな服が売っているの?」

「うん? ああそうか。君達は食事処と食品店以外は見た事がないか。

 街の店と違い、常に営業しているわけではないからな」


エルフの人達は自然を守りながら、ゆっくりとした時間を過ごす種族なのだそうだ。

昼間は森の手入れをしたり、近くの湖に出掛けたり、世間話を楽しんだり。

もちろん仕事もするそうだけれど、朝から晩まで働くってわけではないらしい。


その日必要になる食べ物や飲み物以外のお店は頼まれたら開く程度で、そこに並ぶ商品も最低限なのだとか。

急を要するような場面もほとんどなく、冒険者が訪れる事もないからなのだろう。


「この集落で売られている物は森の中で集まる素材だけで作られている。

 エルフの集落に受け継がれてきた伝統ある生産品だ。

 街でどのような物が売られているかは知らないが……街にある物とは違う物が売っているのではないかと思う」

「へぇ~ここでしか手に入らない物なんだね」

「今度冷やかしに行ってやれ。服屋だけでなく、他の店も。

 店を持つ者のほとんどが、君達がいつ来るのかとそわそわしている」

「あはは、そっか。うん、今度聞いてみる」

「エルフの集落の取引の基本は物々交換だが、貨幣での取引ができないわけではない。

 ああいや……異世界の旅人は違う取引方法を用いるとか」

「大丈夫だよ。貨幣も使える」


アイテム化したら大丈夫だ。


「では、私はここで。また話そう」

「うん! またね! 狩り、頑張って」


にこりと笑って森へ向かうイーリックさんを見送り、ジオンとネイヤの3人で図書館へ向かう。

他の皆……イリシア以外は行けば読むけど本が好きってわけでもないとのことで留守番だ。

イリシアはエアさんに会いに行くと言っていた。


静まり返った図書館に足を踏み入れ、辺りを見渡す。

受付のような場所はあれど、司書さんの姿はない。

ぱらりぱらりと頁を捲る音だけが聞こえる。


ジオンとネイヤに顔を向けると、ネイヤがぱちぱちと瞬きをしているのに気付いて首を傾げる。

話しかけようと口を開こうとして、小声で話すよりも別の方法がある事を思い出す。


『ネイヤ、どうかした?』

『おお……やかましい場所よ』

『やかましい? 静かだと思うけど……』

『こんだけ本があると、視界がやかましい。

 紙やらインクやら……色んなもんがあるんやの』

『なるほど……そういうのも見えちゃうのか』


一面の本棚に視線を向ける。

当然本が並んでいるだけで、俺にはそれ以上の情報は見えない。


『魔力に関する本はあの辺りのようだな』

『どこに何があるかまでわかるの?』

『本の内容が全てわかるわけではないが、何について書かれとるかは分かる』

『たくさんある本全部?

 それは……凄く疲れそうだね……』

『カカ。慣れとるからな。

 少しばかり面食らったが、赤ん坊の頃から見えとったから、見えん方がわからん』


見え過ぎるのも考えものだ。

文字が見えるわけではないらしいけど、今ネイヤの視界はどうなっているのだろう。


『エルフについての伝承や伝統の本はありますか?』

『伝承。伝承……ああ、あの辺やの』


ネイヤの教えてくれた場所に向かい、本を選ぶ。

『魔力制御:初級編』、『魔力感知:初級編』……中級編以上はまた今度。

他には……『児童向け まりょくであそぼ』……俺はここから学ぶべきな気がする。


いくつかの本を抜き取り、机に向かう。

音を鳴らさないようにそっと椅子を引いて椅子に腰かけ、アイテムスロットから羽ペンと羊皮紙を取り出す。


俺の前に座ったジオンが手に持つ本の表紙にちらりと視線を向ける。

どうやら先程のイーリックさんとの話で、エルフの伝統的な生産品について気になったようだ。

鍛冶の本のようだけれど……何か違う手法で作られていたりするのだろうか。


『何か違う?』

『基本は一緒ですが……宝石を使うのだとか』

『剣に? 装飾じゃなく?』

『ええ、鍛冶です。

 こちらの頁にある短剣は全て宝石で打たれて……打っているわけではないのでしょうか……。

 エルフの方にしか出来ないのか、それとも……ふむ……』


宝石の剣……刀も出来るのかな。

夢中で文字を追うジオンから視線を外して、『児童向け まりょくであそぼ』の表紙を開く。


ぱらりぱらりと頁を捲っていると、かたりと小さな音と共に、隣の椅子にネイヤが腰掛けた。

手に持たれているのは『おしごと図鑑』……どんな職業があるかの本だろうか。

ステータスで見れる職業なのか、それとも魔石屋さんだったり、服屋さんのような普段の仕事なのか。


開かれた頁に視線を向ければ、『コックさんになるには』と文字が書かれていた。

コックさんに必要なスキル、そのスキルの取得方法等が書かれているようだ。


俺の視線に気づいたネイヤが顔を上げる。


『わしゃ知っとるスキルのことしかわからんからな。

 料理なんぞしたことがない』

『お爺さんも?』

『じじぃはなんでもかんでも鍋に放り込みよるもんで、まずいのなんの。

 あんなもん食うくらいなら毒茸食ったがましよ』

『そうなんだ……』


お爺さんは肆ノ国にいるみたいだから、いつか会えるかもしれない。

どんな人だろう。厳しいけど豪快なお爺さんなのではないかと思う。


『どくきのこって食べれるのー?』

『ネイヤくん食べたの?』


どうやら家にいる皆にも聞こえていたらしい。


『解毒薬と一緒に食えばええ』

『そこまでして食べたくはねぇな……』

『カカ、冗談よ。ありゃ舌が痺れる。

 解毒薬飲んだ後も暫く麻痺しとったから、あん時ならじじぃの飯も美味しく食えたかもしれんな』

『食べてんじゃん』


従魔召喚を試す時に、従魔念話の距離も試してみよう。

違う街や村にいても届くのか。スライムのいる洞窟から銀の洞窟へ届いたから、隣の街や村ならもしかしたら届くかもしれない。

あとは、全員に届くんじゃなくて、個人にだけ届ける事が出来たら便利だと思うけど……これは出来ないなら出来ないで問題ない。


ぱらりと頁を捲る。

児童向けと書かれているだけあって、簡単な内容だ。


魔力はこの世界の全てにあり、種によって性質が違う。

本には分かり易い例として人間よりもエルフの方が魔力量も多く、性質も綺麗だと書かれている。

エルフの図書館にある本だからだろうか。基本的にはエルフを中心にして書かれている本のようだ。


『いっぱいきたえよう!』と締めくくられた文字を撫で、本を閉じる。

磨けば光るし、磨かなかったら曇るという事らしい。


鍛えたら魔力は洗練される。悪い事をしたら魔力は歪む。

歪んだ魔力については、エルムさんが話していた。

堕ちた魔物の魔力、それから、ネイヤの天眼の話の時。

最悪堕ちる。悪い事はしないようにしなければ。


呪いを使うのは悪い事だろうけど、呪術と組み合わせた魔道具は悪い事に含まれるのだろうか。

そうだとしたらエルムさんが教えてくれただろう。

呪術用の魔法陣の本をくれたところを見るに、それでは歪まないのだと思う。


『ライさん。私にも羊皮紙と羽ペンを貸していただけますか?』

『もちろんだよ。はい』


アイテムボックスから取り出してジオンに手渡す。

ジオンはにこりと笑ってそれらを受け取り、また本へ視線を戻した。

真剣な顔で本の内容を羊皮紙に書き記している。


『ネイヤも使う?』

『んにゃ、使わん』


頷いて、次の本を手に取り、表紙を開く。


夢中になってログアウト予定時間を過ぎてしまわないように時間を確認しつつ、取ってきた本を読み進めていく。

時折分からない事が出てきた時は従魔念話で聞けば、ジオンやフェルダ、イリシアが応えてくれた。


魔力感知を取得するには、魔力の流れ、魔力量、種による魔力の差等をはっきりと認識できるまで鍛錬を積む必要があるらしい。

ただ、そこまで魔力を認識する必要もなく、感じる事が出来るだけで問題ないとのことで、あったら便利だけど、なくても困らないスキルのようだ。


それから、どうやらこの世界の人達が魔力感知を覚えても、赤の点が見えるわけではないらしい。

つまり俺達プレイヤーの魔力感知が赤い点なのは、鍛錬をしていない状態で取得をしているから、最低限の情報だけが見えているということだろう。

俺の魔力感知・百鬼夜行はこの世界の人達が魔力感知を取得した時と似た情報を得られているのかもしれない。

兄ちゃんの魔力感知・竜驤虎視は最終形態なのだろうか。それとも……制御出来ていないから見え過ぎているのか。


『ライ、ライ。これやってみんか?』

『どれ?』


ネイヤが指差す頁に視線を向けると、そこには『製本家になるには』と書かれていた。


『製本?』

『おお、製本スキルっちゅうもんがあるらしい。

 家にもたくさん羊皮紙あったろう? 魔道具やら呪術やら色々』

『そうだね。今も増えてるし』


手元に視線を向ける。

魔力感知について、基礎の基礎を書いた羊皮紙が数枚。

ジオンの手元にもエルフの集落の鍛冶について書かれた羊皮紙がある。


『羊皮紙やら紙に書いたもんを本にできるらしい』

『へぇ~そんなスキルがあるんだね』


本があるのだから製本する人がいるとは分かっていても、製本されていると考えながら本を読む事はなかなかない。

数枚の羊皮紙を本にする必要はないだろうけど、魔法陣や設計図の羊皮紙は結構溜まっている。


『後から本のページを増やしたり、減らしたり出来るのかな?』

『んん……待てよ……おお、製本した者であればできるようだな』

『良いね。取得してみようかな』


一応用途別に重ねて保管はしているけど、本にしてしまった方が整理整頓もできるし、他の用途の物と混ざってどこにあるかわからなくなったり、どこかに紛れてしまう心配もなくなる。

スキル一覧を開いて製本スキルを探してみれば、生産系のスキルが並ぶ場所に見つける事ができた。


必要SPは10。現在のSPは20……まぁ、良いか。レベルが上がったらまたSPは溜まる。

早速【製本】を取得してみれば、ふわりと頭の中に製本の方法が浮かんだ。


自身が製本した本であれば、内容やページ数の変更が可能。

また、複製する事もできるようだ。

売っている本や図書館にある本を複製する事は出来ない。

書いてある内容を全部書き写して製本、複製する事も出来ない。

今回のように本を読みながら纏めた物に関しては製本できるみたいだけど、全く同じ内容の本がこの世に存在していると本が完成しないらしい。


『次に来た時に製本してみるよ』

『ねぇ、ライ君。表紙って革細工で作れるわよね?』

『んん……』


頭に浮かんだ製本の手順には装丁についての手順はなかった。

鍛冶の時の鞘や柄のように、表紙は製本の妖精の力で出来るのではないかと思うけど。


『あら? 作れないのかしら……昔、エルフの集落に住んでいた頃、作った覚えがあるのだけれど』

『作った事がないからわからないけど……でも、イリシアが昔作った事があるなら作れるんだと思うよ。

 それじゃあ表紙は、イリシアに任せるね』

『ええ、任せて。うふふ、嬉しいわ』

『ありがとう』


さて、次は魔力制御の本を読もう。

兄ちゃんの助けになれたら良いけれど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お久しぶりです! 製本スキル!色々まとめているライにうってつけのスキルですね! 魔力制御、NPCとのプレイヤーの見え方が違うの面白い。プレイヤーも鍛えたらレンライみたいに見えるようになる考…
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