day112 レベル上げ
「うーん……」
さて、どうしたものか。
今日からレベル上げだ……が、全員で狩りをすることはできない。
辿り着きさえすれば、その後全員転移陣で移動できるようになるから、全員で向かう必要はないけれど。
進みやすいのはやっぱりレベルが高い順だろうけど、イリシアとネイヤのレベルが上がらない。
プレイヤーレベルに換算して考えるなら、ジオン、リーノ、フェルダ、シアとレヴ、ネイヤ、イリシアの順に高い。
ちなみに俺とリーノのステータスの合計値はほぼ一緒だ。
高い順だとしても今のままでは適正レベルには届いていない。
全員のレベルを同じくらいまで上げられるのが一番良いけど、どれだけの時間が掛かるかわからない。
ポイントの交換期限までにテラ街に行く事は難しくなるだろう。
今日がday112、交換期限の最終日がday117。今日を入れて6日あるけど、その内1日半はログアウトしている。
出来ればday116にテラ街に辿り着きたい。
行くだけならまぁ、敵と戦わず全力で逃げ回れば行けないことはないだろうけれど。
テラ街までの道のりの適正レベルは60から65くらいだと兄ちゃんは言っていた。
今の俺のレベルは51。全然足りていない。
せめて55にはしたいところだけど……俺のレベルが足りなくてもジオン達のレベルが上がればなんとかなるだろう。
「戦闘特化で良いんじゃねぇか?
俺とシアとレヴが留守番」
「あら、私は戦闘特化じゃないわよ?
シアちゃんとレヴ君の呪言も、リーノ君の防御力も必要よ」
「いやぁ、俺とシアとレヴは攻撃手段が少ないからなぁ。
イリシアは3つ属性持ってるし、冷却時間も杖術があるから戦えるだろ?」
「そうだけれど、杖術も得意と言う訳じゃないのよ。
魔法が使えなかったから、杖を振り回していただけだもの」
「ま、イリシアとネイヤはレベル上げれる時に上げといたが良いと思うけど」
「そうだね。うん、イリシアとネイヤは行こう」
俺を含めて3人。後3人だ。
それぞれ出来る事が違うので、どうにもこうにも悩む。
「アタシたちお留守番するー」
「お、んじゃ、俺も留守番するかな」
「リーノくんはイリシアちゃんとネイヤくん守らなきゃだよ」
「けどさー、2人じゃ寂しくねぇか?」
「寂しくないよー」
「あのね、レンくんにお願いして?」
「うん? 兄ちゃんに?
ああ、夜の狩り?」
「うん! レンくんがいたらすっごく強くなるから、その時はボクたちが行く!」
兄ちゃん曰く、本来の道筋……アクア街からテラ街、そしてその次の街のような、ほとんどのプレイヤーが進む道とは違い、知らなきゃ行けないような場所だからなのか、エルフの森の適正レベルは高いそうで、テラ街周辺よりも高いとのことだ。
だからこそ兄ちゃんはテラ街周辺ではなく、今もエルフの森で狩りをしているのだろう。
ちなみに、精霊の集落へ行く道は更に高いらしい。道理で苦労するはずだ。
この辺りの狩りに慣れておけば、テラ街に行くのに困ることはないだろう。
イベント前にもこの辺りで狩りをしていたけど、まだまだきつい場面が多かった。夜は特に。
「んー……うん、そうしよう。
昼はジオン、リーノ、フェルダ、イリシア、ネイヤ。
夜はイリシアとネイヤがシアとレヴと交代ね」
皆が頷いてくれたことを確認して、兄ちゃんにメッセージを送っておく。
予定がなければ良いのだけれどと返事を待っていたら、すぐに了承の返事が届いた。
「それじゃあ行ってくるね。
お留守番は任せたよ」
「「はーい!」」
スケッチブックと色鉛筆を取り出して、2人に渡しておく。
それからお昼ご飯も忘れずに置いておかないと。夕方には帰ってくるから夜ご飯は大丈夫だ。
鋳造の道具があれば良かったけど、エルフの集落の家には生産道具は1つもない。
「「いってらっしゃい!」」
「魔力の色が見えなくなる魔道具?」
「そう。そういうの出来ないかな?」
「うーん……魔力を一切感知できなくするんじゃなくて、色だけ失くしたいってことだよね?」
「そうだね。色だけが難しいなら、魔力自体を感知できなくなるものでも良いけど……」
「取った意味がなくなっちゃうね」
種族特性が反映されたスキルと言う事は、SP30を消費して取得したスキルだ。
兄ちゃんくらいレベルが高いとSPも余っているだろうけど、それでも損した気分になるだろう。
それに、世界が虹色に染まらないのであれば、魔力感知はあって困るスキルじゃない。
俺は重宝しているし。
サラダにフォークを突き刺して、ぱくりと口に入れる。
もぐもぐと口を動かしながら、兄ちゃんからの問いについて考えを巡らしてみる。
「気を抜くとすぐあちこちカラフルになるから、困ってるんだよ。
空にも聞いてみたんだけど、そういうのはライに聞いた方が良いって言われてね」
それは俺と言うより、エルムさんじゃなかろうか。
空さんは家庭用魔道具をメインに学んでいるってだけで、魔道具製造スキルを覚えてからの時間は俺とそんなに変わらない。
寧ろ俺より魔道具を作っている時間は長いのではないかと思う。
空さんの師匠のお爺さんは参ノ国に住んでいるようだけど、日にちを決めて週に1度から2度勉強会をしているらしいし、俺よりも知識が多いのではないだろうか。
「そんな不便か? なんでも見えとる方が便利だろうに」
「ああ、ネイヤは常に色々見えてるんだっけ?」
「見えとるよ。今食べとる料理の成分もな」
それは便利なのだろうか。
俺だったら脂質とか糖質とか、栄養なんかを気にし過ぎて食欲を失くしそうだ。
ごくりと飲み込んで、口を開く。
「兄ちゃんの魔力感知って、リーノとネイヤの眼に近いと思うんだよね。
だとしたら、結構大変かも」
魔力感知は、意識して集中しなければ見る事ができない。
それは俺の魔力感知・百鬼夜行も一緒だ。
けれど兄ちゃんは最初から、覚えた瞬間から見えていたそうだ。
宝眼と天眼は目を閉じない限りは見えなくなることはないと言っていた。
ネイヤは目を閉じていてもMPは消費されるようだけれど……ちなみに、意識がない時はMPの消費はないようで、寝ている時は大丈夫なのだそうだ。
兄ちゃんも同じく、目を閉じたらカラフルな世界からは解放される。
ただ、2人の眼と違い、目を閉じていても魔力を感じるのだとか。
「そもそも、魔力感知がなくても、魔力を感じる事はできるみたいなんだよね」
「そうなんだ?」
「俺達もそうなのかはわからないけど、この世界の人達は感じる事ができるみたいだよ。
詳しく聞いたことはないけど……どうなの?」
「そうですね。目に見えるわけではありませんが、気配のようなものを感じる事はできます。
魔力感知スキルを持つ方は、それらを視覚的に感知することが出来るという認識ですね」
第六感のようなものだろうか。
「今は魔力制御で制御出来てるんだよね?」
「そうだね。魔力制御に意識をずらすって言うよりは、魔力制御を使用してるって感じかな」
本来魔力制御は使用するスキルではない。
魔法スキルを使用する時のMPが減るというスキルで、特に何かを意識したり、使用したりしなくてもMPは減っている。
常時発動スキルと言っても良いだろう。
「意識しなくても魔力制御が発動していたら良いのかな。
それなら、魔力制御が付与されたアクセサリーとかでも効果はありそうだけど……うーん。
兄ちゃんの場合、種族特性が反映された魔力制御だからなぁ」
「ライくん、ケーキ食べて良い?」
「うん、良いよ」
どのケーキにしようかとメニュー表を眺めるシアとレヴ、イリシアの姿を眺めつつ、頭を悩ませる。
あくまで俺の予想ではあるけれど、魔道具はスキルや種族特性と似た効果を得る為の物なのだろうと思っている。
もちろんどうしたって出来ない事もあるだろうけれど。
これは別に魔道具に限った話ではない。
例えば聖属性等の回復スキルはポーションで代用できるし、呪いを貰ってしまったとしても錬金術で作った薬や魔道具で解呪出来る。
それらを作る人、生産者はスキルが必要になるけど、持っていない人はそれらを貰うなり、購入するなりで得られる。
「調べてみるね」
「ありがと。助かるよ」
「出来なかったらごめんね」
「大丈夫だよ。出来ないなら出来ないで、慣れるまで繰り返せば良いだけだからね」
近い内に図書館で勉強しようと思っていたし、その時に魔力に関するスキルの本を探してみよう。
エルムさんやヤカさんに聞いてみても良いけど……まずは図書館で基礎を学ぶべきだ。
魔力制御を常に発動する魔道具が出来るのなら、魔力感知を常に発動する魔道具も出来るかもしれない。
スキルレベルが上がったからか、それとも慣れたからか、前と比べると魔力感知に集中しなくても見えるようになってきたけど、それでも結構疲れる。
こうしてご飯を食べているだけなら良いけれど、狩りの途中なんかだと魔物を見て、皆の事も確認して、スキルの事やクールタイム、HPやMP……様々な事に意識を向けなければならない。
1つ意識を向ける場所が減るだけでも楽になるだろう。
「兄ちゃんは、攻撃を受けるわけにいかないから大変だよね。
俺は皆もいるし、多少攻撃受けても大丈夫だけど……」
「まさかスキルを取って負荷が増えるとは思わなかったよ」
「俺も気を付けなきゃ……種族特性が反映された魔力冷却の効果も分かってないし」
「そう言えば、追加されてたって言ってたね。
何の変化もなし?」
「うん、今の所何も。その内分かるかなって思って、検証したりもしてないしね」
本来の魔力冷却や種族特性の地獄の業火と一切関係ない効果ではないだろうから、それらと関係した効果があるのだろうとは思う。
魔力冷却についても、今度一緒に調べておこう。
「ちなみに兄ちゃん、俺は何色なの?」
「ライは黒炎の色だよ。それに、何も見えない」
「何も見えない?」
「朝陽とかだと、んー……なんていうのかな……。
ピンク色のフィルターが掛かったみたいになってるんだよな。
元の服の色とか肌の色とかはなんとなく分かると言うか……大分ピンクだけど」
「テクスチャの上にピンク一色のレイヤーをオーバーレイで重ねた感じ?」
「そんな感じ。その上から薄いピンクの乗算レイヤー重ねても良いかも。
でも、ライは人型の黒炎に見えるんだよ。
声を聞かなきゃライって分からないから、これが一番困るね」
「人型の黒炎……」
敵にしか見えなさそうだ。
禍々しさや瘴気が追加されたら堕ちた魔物や元亜人とそんなに変わらないのではなかろうか。
「朝陽やロゼや空は見えてるけど……たまに見えない人がいて、集中力が切れた時とか、驚くんだよな」
「それは驚くね……間違って攻撃しちゃいそう。
……兄ちゃんと一緒に狩りして大丈夫? 俺攻撃されたりしない?」
「大丈夫大丈夫。攻撃したことはないよ。
ジオン達は見えるからね。ネイヤは見えないけど」
「ネイヤは何色?」
「金色」
「眩しい!」
俺が黒炎の色だったから、持っている属性なのかと思ってたけど、どうやら違うようだ。
得意な属性の色とかなのだろうか。得意な属性だとして……金色は何の属性なのかな。
「ところで、ライは暫く狩りをする予定なのかな?」
「うーん……数日は?
テラ街に行きたいんだけど、家具の事もあるから、ポイントの交換期限までには移動したいんだよね」
「ああ……なるほど」
「兄ちゃんは何と交換した?」
「空の素材」
「全部!? 20,000ポイント全部?」
「特に欲しい物もなかったからね。
クランポイントもクランハウスと素材にしたよ」
「どこのクランハウスにしたの?」
「空の師匠がテラ街にいるみたいだから、テラ街にしたよ。
どうせ俺達4人しか使わないし」
「兄ちゃん達だけ?」
「皆狩りばかりして、街でのんびりなんてしないからね。
どこでも良いってさ」
「なるほど……生産するのも空さんだけって言ってたもんね」
「祭りの後、何人か覚えてみたらしいけど、向いてないって言って結局やってないね」
クランを設立する前も後も、兄ちゃん達のスタイルは変わらずのようだ。
クランメンバーと集まったり、一緒に狩りに行ったりはしていないらしい。
生産頑張る隊の人達は一緒にいる時間も多いみたいだけど、クランによって様々なスタイルがあるのだろう。
「「ごちそうさまー!」」
「甘い物って良いわね。幸せな気分になるわ」
「そうだね。俺も好きだよ」
「狩り行こー?」
「レンくん行こ?」
「うん、行こうか」
お金を払って店から出る。
イリシアとネイヤはお留守番だ。
「それじゃあ、行ってくるね」