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day111 発掘

「ここは……ここが……銀の洞窟?」


海面から顔を出したよしぷよさんが、銀の洞窟の様相を見て眉を寄せる。

よしぷよさんの言葉に頷いて応え、階段を登る。


「銀、銀……なぁ、ライさん……。

 ……銀を喰らう者って……」

「……よしぷよさんの考えている通りだと思うよ」


俺の答えに、よしぷよさんの視線がシアとレヴに移る。


「……2人って……あ、いや、なんもない!

 えっと、そう! 転移陣! 転移陣は!?」

「ふ、あはは。そんなに気を遣わなくても良いよ。

 シアとレヴの故郷だよ。2人はちゃんと覚えているわけじゃないんだけどね」

「……なるほど……レアなの踏んでそうって話だったけど……2人がトリガーか……」

「多分ね」


そうじゃないかって思うけど、実際はどうなのかはわからない。

とは言え、100人程しかいない状態で起きるイベントではないだろう。


「転移陣はすぐそこの広場にあるよ。

 俺達はこの後も暫く素材集めと……少し用があるから残るけど、よしぷよさんも素材集めする?

 銀と金、それから珍しい色の宝石があるよ」

「はー……こんなとこにあったのか……。

 これは見つからねぇなぁ……」

「さっきの洞窟にもあるみたいだけど、難しいよね」

「なかなか辿り着けないよなぁ。

 魔物も出るし、シアちゃんとレヴ君がいたから大丈夫だったけどさ。

 あ、俺は大丈夫。生産しないし、どこで手に入れたんだって聞かれるのが面倒だから」

「場所を教えたら良いんじゃない?」

「教えて良いのか!?」

「うん……? 立ち入り禁止の場所とかじゃないし……ああでも、瓦礫が崩れてきたりしたら危ないのかな……」

「いや、シアちゃんとレヴ君に悪いというか……2人の故郷だろ?

 そのー……俺は過去の事わかんないけど、想像通りなら、結構やばそうだし……」

「シアとレヴが誰も来て欲しくないって言うなら内緒にするけどね。

 俺の独断で独り占めはしないよ」


例えばエルフの集落のように外とあまり関りを持ちたくない人達だと分かっているなら、口外して回ったりはしない。

そもそも俺もギルドで聞いたわけだし、誰でも情報は得られるだろう。


覚えていないとは言え、何か引っかかる事があればシアとレヴは言うと思う。

言わなかったとしても表情に出るだろう。

それに、2人はここが故郷なのだろうとは分かっているみたいだ。

前に『ボクたちのおうちなのかな?』って言ってた事もある。


まぁ、エルフの集落にしても銀の洞窟にしても、話す相手がほとんどいないのだけれど。


「うーん……いや、俺は黙っとく。

 ライさんと一緒に海中を探検したって話は自慢するけどな!」

「あはは、何の自慢にもならないよ」

「なるなる。俺幸せ者ー」


楽しそうに笑ったよしぷよさんは、広場の転移陣に視線を向ける。


「それじゃあ、俺、帰るな。

 今日はまじでありがと。助かった」

「ううん。俺が助けになれたなら良かったよ」

「とんでもなく助けて貰ったし、テイムに付き合わせたからなぁ。

 あー……ライさんは関係なさそうだけど……テイムの成功率の低さって聞いたことある?」

「んん……聞いたことはない、かも?」


俺のテイムスキルは、種族特性が反映されているので普通のテイムとは違うだろう。

そもそも、制限がある時点で別物だ。


「めっ……ちゃくちゃ、成功率低い。

 俺もこいつテイムするのに、どれだけ時間掛かったか……。

 HPが満タンだとまず成功しないし、HPぎりにしても、何十回、何百回ってテイムし続けないと成功しないし」

「あー……俺も、シアとレヴをテイムするのに、40回以上死んだよ」

「そうなのか? ん? 死んだ……?

 ……ま、まぁ、そうなんだよ。めちゃくちゃ成功率低い。

 よっぽど運が良ければ、一発成功もあるんだろうけどさ。

 ほとんどのやつは、繰り返しテイムしてる内にもう良いわってなるんだよ」

「よしぷよさんは、それでも諦めずにテイムし続けたんだね」

「俺の場合は、どうしてもスライムと一緒に冒険したかったからってだけで、戦力云々は二の次だったからさ。

 今はこいつも多少は戦えるようになったけどな。

 成功しないし、やっと成功しても戦えるようになるまで時間かかるし……」


そこまでテイムの成功率が低いとは思わなかった。

スキルレベルが上がれば成功率も上がるんだろうけど、スキルレベルを上げる前に心が折れてしまうのかもしれない。

テイムを覚える人が少ないというのも頷ける。


「それに付き合わせて、テイムしてる間も手伝わせて……。

 挙句お土産まで貰っちまって。炎上するわこんなもん」

「炎上……よくわからないけど、俺は一緒に出掛けられて楽しかったよ。

 また機会があったら遊びに行こうね」

「おう! また遊ぼうな!

 あ、次はお土産は程々にしてくれよ。俺が駄目になるから!」

「了解。次からはよしぷよさんに頼まれない限りは用意しないようにするよ。

 ……あ、これ、良かったら……」


そう言って、待機状態にした《魔伝宝石》をよしぷよさんに差し出す。


「言ってるそばから……? 羽あげる!!!」

「さっきたくさん貰ったよ。

 ああでも、そんなに使う機会ないよね。必要ないなら……」

「いや、めちゃくちゃ欲しいけど。

 これ以上貰ったら炎上するから……」

「大丈夫大丈夫」

「何を根拠に……?」

「銀の洞窟にない素材も見つかったからね。

 よしぷよさんとスライムを探しに行かなかったら、見つけられてなかったよ」

「だとしても釣り合ってないけどな。

 まぁ、良いか……良くないけど……ありがとう。大切にする」


従魔念話があるので俺達は使わなくて良い魔道具だ。

明かり代わりに使うとしても、水中で話す機能は必要ないのだから、別の魔道具を用意した方が良い。

機能が多い分、無駄に魔力を消費することになるし。


「じゃあ、またな! また連絡する!」

「うん、またね」


転移陣に向かうよしぷよさんを見送り、辺りを見渡す。

近くにジオン達の姿はない。奥の方にいるのだろう。


『きたよー』

『奥にいる。俺は家に向かうよ』

『了解』


フェルダが遺物のある家に来てくれるようだ。

全員で行く必要はないし、シアとレヴ、イリシアは皆の所に行ってもらおうかな。

俺とフェルダ、ネイヤも遺物を回収したら皆と合流しよう。


「イリシアはシアとレヴと一緒に、皆の所に行ってね」

「ええ、分かったわ」

「こっちだよー!」


途中までは同じ道なので、ぴょこぴょこと歩くシアとレヴを追って歩き始める。


「壁がきらきらしているわ。素敵ね」

「あのね、あっちにはきらきらしたお花もあるんだよ」

「いるのかなー?」

「あら、あら。集められそうなら欲しいわ。

 お花なら、私かネイヤ君が使えると思うもの」

「いっぱい鉱石集めたら行こうねー」


お花もあるのか。前回来た時は見かけなかった。

その時は忘れていたのか、それとも使う人がいないから言わなかったのか。

食べられないからという理由で真珠を集めていなかった2人だから、後者なのではないかと思う。


銀の洞窟で一番大きな家の前に辿り着くと、フェルダは既に到着していた。

シアとレヴ、イリシアと別れ、早速家の中に入る。

前回来た時に道は作っておいたので、すんなりと地下に繋がる部屋に来る事が出来た。


ぽっかりと開いた床の穴から地下を覗き込み、落ちた床がない場所へ飛び込む。

俺の後に続いて、フェルダとネイヤも降りてきた。


「えーと……あったあった。あの辺の壁だよ」

「ほーか。ほんなら見てみるか」


じっと壁を見つめるネイヤの様子を眺めつつ、フェルダの道具をアイテムボックスから取り出しておく。

大掛かりな道具や魔道具は持ってきていない。

発掘作業をするのに必要な最低限の道具なのだそうで、家にある石工道具のほんの一部だ。


「んー……この辺りに違うもんがあるな。

 ここから……ここか?」

「大きめに削ったが良さそうだね。この辺?」

「おお、ここよここ」


ネイヤが示した場所に、フェルダが道具を突き立てる。

遺物を壊さないように少しずつ少しずつ、丁寧に削って行く。


「リーノのように、何があるかはっきりわかりゃ良かったんだが」

「宝眼と似た感じなのかと思ってたけど……」

「違う、違う。わしのは何があるかまではわからん。

 塩が含まれとる事は分かっても、それが《岩塩》であることはわからんからな。

 成分やら効能から何があるか想像することは出来るが、知らんもんは想像も出来ん」

「銀があるとか、何色の宝石があるかまではぱっと見ても分からないって事?」

「おう。宝眼は形もはっきりわかるようだし、見える範囲も広い。

 わしより奥まで見通しとる。採掘するならリーノの目の方が便利よな」


天眼は宝眼の凄いバージョンなのかと思っていたけど、どうやらそういうわけでもないらしい。

天眼で見えない物が見える、鉱石と宝石特化型の眼なのだろう。


「お前さんの魔力感知も大したもんよ。

 磨けば目に見えぬ素材が見つけられるようになるやもしれん」

「素材が? リーノの宝眼みたいに奥の方にある素材が見つけられるかもってこと?」

「おう。魔力はなんにでも籠っとる。そこらに転がっとる石ころにもな」

「あ、兄ちゃんの魔力感知だと全部に色が付いてたって言ってた。

 兄ちゃんなら見えてるのかも」

「おお、そういや兄がおるんだったな」

「そっか。ネイヤは会った事なかったね。

 近い内に紹介するね」


最近もエルフの森で狩りをしていると言っていた。

宴の時はテラ街にいたそうだけれど、基本的にはエルフの集落にいるとか。

どうやら兄ちゃんも家を貰ったらしい。

エルフの人は気に入った相手に家を贈る習性でもあるのだろうか。


がりがり、こんこんと石壁を削る音が響く。

大きめに取り出した後は、家で処理するそうだ。

フェルダに任せておけば傷一つ付くことなく綺麗に遺物を取り出せるだろう。


ゆっくりと丁寧に削られていく壁を眺めて過ごす事1時間と少し。

ボコリと音を立てて、直径30㎝程の石の塊が取り出された。


「後は家だね。ここまで分かれば、俺でも大体の形は分かる」

「お疲れ様」


フェルダの持つ石の塊に手を触れて、アイテムボックスに入れておく。


「……壁、このままで良いの?

 結構でかい穴空いてるけど」

「うーん……正直、今更感あるよね」

「確かにね。床も抜けてるし。

 とりあえず、応急処置くらいはしとくよ。

 素材はそこらに落ちてる瓦礫使ったら良いし」

「道具足りる?」

「ま、どうとでもなるよ」

「さすがフェルダ。格好良い」


弘法筆を選ばず。頼もしい仲間ばかりで幸せだ。


「眺めてても暇だろうし、先に行ってなよ。

 終わったら合流するから」

「んー……うん。それじゃあ、そうするね。

 何かあったら話しかけて」

「ん、了解」


高い天井ではないので、飛べば崩れた穴の淵に手は届く。

そこから力を込めて体を引き上げるのは俺のSTRでは至難の業なので、先に上がったネイヤに引き上げて貰う。

情けないとまでは思わないけど、悔しいのでこういう時に便利な魔道具を考えておこうかな。

いい加減肉体強化的なスキルが出ても良いと思うのだけれど。


「なんぞ? 痛かったか?」

「ううん、大丈夫だよ。自分の筋力の無さに絶望してるだけだから」

「おお……ほーか……」


家から出て、ぽつんぽつんと置かれた青白く辺りを優しく照らす水晶の傍を通り抜け、皆の元に向かう。


「寂しいもんだ。こんなに綺麗な場所だと言うのに」

「そうだね。活気があった頃にきてみたかったよ」

「住んどった山にも、こういう場所があったわ。

 ありゃなんだったんだろうな。じじぃに聞いてもわからんとしか言わんし」

「そうなんだ? 肆ノ国の山なんだよね?」

「おお、そうだ。その内連れて行ってくれ。

 じじぃを一発殴ってやらんと気が済まん」

「それを聞いて良いよとは言えないなぁ……」

「カカ、冗談だ。押し出された時はなんぞこのじじぃと思ったが、今は感謝しとるよ。

 お前さんらと出会えたことは僥倖だった」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


ネイヤと過ごした時間はたった数日だけれど、これからたくさん時間はある。

俺達の所にきて良かったと思えるように頑張らなければ。


「おっ、ライ! きたな!」

「お待たせ。わ、凄い量だね」

「だろ? あ、イリシアはシアとレヴと花探しに行ったぜ。

 フェルダは?」

「フェルダは壁の修繕をしてるよ」


アイテムボックスからいくつかの収納箱を取り出し、山になっている素材を詰めていく。

整理するのは家についてからで良いだろう。

とりあえず片っ端から詰めてしまおう。


「明日からは狩りをしなきゃだね」

「ええ、そうですね。テラ街に行くのが楽しみです」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんわかしてるわぁ [気になる点] >[どうやら兄ちゃんも家を貰ったらしい。 エルフの人は気に入った相手に家を贈る習性でもあるのだろうか。] ライの感想ちょこちょこ笑える [一言] 更新…
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