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day108 素材集めと宴

「この岩は直接アイテムボックスに入れた方が良いね」


今日は増築と改築の工事で家にいる事ができないので、エルフの森に素材集めにやってきた。

シアとレヴはエルフの集落でお留守番だ。

本当は皆で集めたかったけど、パーティー人数の関係上誰かはお留守番になってしまう。


調薬では主に植物しか素材として使えないそうなのだけれど、錬金術では植物以外にも鉱石や宝石、岩や砂、木材等様々な素材が材料になるそうだ。

たくさんの素材を集める事になるので、アイテムボックスはすぐに一杯になってしまうだろうと荷車を買っておいた。

購入したばかりの荷車をゴロゴロと引きながら、素材を集めて回る。


「結構な量になりそうですね」

「そうだね。でも、置く場所には困らなさそうで良かったよ。

 地下の増築、2階まで一気にお願いしたのは正解だったね。

 工事が終わるまではクランハウスに置かせてもらうしかないけど」


工事が終わるのは3日後の朝。俺が次にログインした日だ。

前回は朝から工事が始まり、夕飯前には終わっていたけど、今回は地下1階と地下2階の増築と家全体の改築だ。

3日でも信じられないくらい早いけれど。


その間はクランハウスに滞在することにした。ネイヤのベッドを置く場所がなかったので、昨日の夜から滞在している。

現在クランハウスにある寝室は6部屋。その内3部屋はベッドが1つ、3部屋は2つずつ置いてある。

家具を交換した時は誰がどの部屋を使うかは決めていなかったけど、個室はエルムさん、ガヴィンさん、ヤカさんが使うだろうと思っていた。

結局、俺が一番最初に個室を使う事になった。


ちなみに、クランハウスにあるベッドはポイントで交換した物で、ベルデさんが作った物ではない。

ベルデさんの作ったベッドや家具はテラ街の家に置く予定だけれど、アイテムスロットを埋めてしまっているので、とりあえずクランハウスの地下に置いてきた。

クランハウスの地下は作業場にする予定だ。次回集まる日までに各自生産道具を持ち込む事になっている。

俺達の分は昨日作ったばかりの道具を夜の間に運んでおいた。全員分運ぶのに5回程往復したけれど。

生産道具と一緒に何故かベッドが積み上げられている状態になってしまっているので、早めにテラ街に移動したい。


そう言えば、昨日クランハウスを訪れた時、玄関先に置いてある石像の顔が変わっていた。

以前来た時は……良く言えば愛嬌のある顔をしていた石像だったけど、あらゆる厄災から守ってくれそうな精悍な顔つきになっていた。

ガヴィンさんがいつの間にか手を加えたらしい。


「シアとレヴ、暇してるかなぁ」

「だなぁ。エルムの婆さんの家には鋳造の道具もあるけど、鋳型は持ってきてねぇもんな。

 まぁでも、お絵描きして遊んでんじゃねぇか?」

「そうだね。何かおもちゃとかあったら良かったんだけど……アクア街に戻ったら探そうか」


とは言え、あまりに高いおもちゃは買えそうにない。随分お金が減ってしまった。

増築費用が1,820万CZ、改築費用が400万CZ、ガラス細工品が全部で約230万CZ、それから荷車が20万CZ。


菖蒲さんは街での買取価格で売ってくれようとしていたのだけれど、せめて3倍は払わせて欲しいとお願いして取引させてもらった。

クランハウスとテラ街の家に置く魔道具用にそれぞれ3個ずつ作って貰ったし、魔道具で使うガラス細工だけでなく、錬金術で使うらしい容器や素材を入れておく為の瓶なんかも一緒に作って貰った為、大きな値段になった。


手持ちが約50万CZ、銀行に約210万CZ……合計約270万CZが現在の全財産だ。

また貯めなければ……と、思うけど……どうしよう。

出品の事は考えないようにしていた。いや、考えたくなかったのか。


「この辺集めるけど」

「おお、目に見えとるもん全部使える」

「ん、わかった。俺の分と一緒に集めとく」


視界に映る全ての収集可能な素材を集めていく。

ネイヤが伐採スキルを持っているので、木材も集める事ができるようになった。

木工スキルを持っているわけではないので、錬金術以外では使えないけれど。


エルフの森で素材を集めさせて貰うにあたり、エアさんには許可を貰っている。

日が経てば生成されるから好きにして良いとは言われたけど、こんなに綺麗な場所を荒らし放題にするのは申し訳ない。

景観ががらりと変わらない程度に集めているものの、エルフの森には潤沢に素材がある。

荷車に乗らない大きな素材を入れているアイテムボックスにはまだ余裕があるけど、荷車はたくさんの素材が積み重なっている。

一旦収納箱に入れて纏めてしまった方が良さそうだ。


「ジオン! そっち行ったよ!」

「ええ、お任せください!」


俺とジオンは、採取をしている皆を魔物から守るのが主な仕事だ。

採掘はリーノとフェルダ、採取はイリシア、伐採はネイヤが行っている。

ネイヤは採掘も採取も伐採も全て出来るけど、伐採はネイヤにしか出来ないので伐採担当だ。

《翡翠聖木の苗木》だけでなく、この森にある植物の種や苗木は全て手に入れる事が出来たので、テラ街の家に行くのが待ち遠しい。

テラ街に行く為にレベル上げもしなければ。


「ライー、今何時だ?」

「えーと……15時半だね」

「宴は18時からだっけ?」

「うん、そうだよ。楽しみだね」


イリシアが仲間になった日、イベントを理由に泣く泣く断る事になった宴は、本日開かれることになった。

ふらりと訪れたその日に、まさか宴が開かれるとは思っていなかったので、準備はもちろん予定だってあるのではないかと申し訳なくなったのだけれど、どうやらクラン戦前から今か今かといつ俺達が訪れても良いように準備を続けていたそうだ。


あの時はばたばたしていた為、エルフの皆はイリシアとほとんど交流が出来ていなかった。

イリシアと過ごす時間を待ち望んでいた皆も、それからイリシアも。今夜の宴を心待ちにしているのだろう。


俺も凄く楽しみだ。

エルフの森に滞在していた時は《光球》を作る為に作業場に籠っていたか、レベル上げの為に森の中にいたので、エルフの皆とほとんど交流できていない。

狩りに出掛ける時に少し話した程度だ。

あの日のお礼もちゃんとしたい。あの日皆が助けに来てくれていなかったら、どうなっていたか分からない。

もしかしたら、目が見えなくなっていたかもしれない。あの時、目を奪われてしまっていたらと思うとぞっとする。

傷ではなく、奪われたものがリスポーンして元に戻るかは分からない。


「よし! もうひと踏ん張り!」






「ライ君。依頼があるのだけれど」

「依頼? うん、良いよ。魔道具?」

「そう、その通り」


夜光草の柔らかい光に照らされた鐘のある広場には笑い声が溢れている。

その中心にはイリシアの姿があり、イリシアもそれからエルフの皆も楽しそうに笑っている。


「実はね、集落で使っている魔道具に、魔石の力が薄れている物がいくつかあるんだ。

 今すぐでなくても問題はないのだけれどね。使えないわけではないんだよ。

 けれど……うん、まぁ、うん。これが依頼書だ」

「うん……? うん、魔石を取り替えたら良いんだね」

「ああ、そう。そうなんだ。元々使っている魔道具が少ないから、そんなに量も多くない。

 それに、使われている魔石は基本属性の物ばかりだから……どうかな?」


基本属性だけなら俺達で用意できるだろう。

聖属性と火属性は用意できないけど、ヤカさんの店に行けば手に入れることが出来る。

ああでも、今ならポイントで交換したら良いのか。

黒炎属性の魔石を火属性の魔石と取り換えるには、魔法陣はもちろん元となる生産品ごと変えなければいけない可能性が高い。

そうなると一から作るのと変わらないので、今回は火属性の魔石を用意した方が良いだろう。


受け取った依頼書を見て、依頼内容を確認していく。

料理の道具に木工の道具に鋳造の道具……エルフの皆の生産道具の魔石を取り換えて欲しいと言う依頼のようだ。

期限は無期限、報酬は先払い……先払い? 先払いなんてことがあるのか。まぁ、持ち逃げなんて絶対にしないけど。

それで、報酬は家……家!?


「……エアさん……? 家って……?」

「いやね、前回の依頼で《翡翠聖木の丸太》と《グリーンクォーツ》は渡したし、それに、ライ君達で集められるだろう?

 せっかくなら別の物をと思ったのだけれど……いやはや、困った。家しかなくてね」

「家しか……!? いや、いや。違う、それは多分違う。

 俺でもわかるよ! いくら俺が騙されやすいからってこれは騙されないよ!」

「出来れば騙されやすいライ君のままでいて欲しいのだけれど」

「やっぱり! 騙されるところだった!」

「魔石の魔力が薄くなっているのは嘘ではないよ。十数年は持つだろうけれど」

「今取り換える必要ないね……」

「そう。だから、無期限」

「なるほど……」

「ほら、前に家をあげるって言った時は断られてしまったから……依頼という形なら受け取ってくれると思ったのだけれど駄目かい?

 ライ君達ばかりイリシアさんを独り占めしているのだから、少しくらい私達の我儘を聞いてくれても良いと思うのだけれど」

「うっ……そう言われると何も言い返せない……でも、いくらなんでも、魔石を取り換えるだけの依頼で家はちょっと……。

 それに、今すぐ必要ってわけでもない依頼で貰うのはね。購入なら良いんだけど……」

「購入、ね。私達はお金をほとんど必要としていないんだよ。

 使う機会があまりないものだから……森の中で完結しているからね。

 街の人と取引をすることがないわけではないから、ある程度は置いているのだけれど」


イリシアと共に今は哀歌の森と呼ばれるあの場所で過ごしていたエルフの人達は、ここに移住してきた。

時が経ち、当時の皆はいなくなってしまったけど、子孫の人達が過ごすこの場所は、イリシアの故郷と言って良いだろう。

故郷にいつでも帰れるように、過ごせるように、家を用意するのは不思議ではない。

エアさん達もそれを望んでいるのだろう。強引ではあるけれど。


「本当はね、君がイリシアさんを助けてくれるだなんて、思っていなかったんだ。

 僅かでも可能性があるなら話すと言ったけれどね。

 ふふ、僅かでも可能性があるなら、なんて。それこそ信じていない者の言葉だろう?」

「そうだとしても、俺は聞けて良かったって思ってるよ」

「君がイリシアさんの為に色々動いている事を知っても、精霊の集落に行く事を知っても、それでも私達は無理だと決めつけていた。

 私達は諦めていたんだよ。願うだけで、諦めていた。

 エルムに叱られたよ。そして、言われたんだ。ライ君が助けると決めたのなら、絶対に助けると」

「そう思われているのは嬉しいけど、買い被り過ぎだよ。

 話を聞いて助けたいって思ったのは確かだけど……仲間が欲しかっただけだから。

 それに、俺だけの力では助けられなかったわけだし」

「エルムは君に動かされた。そして私も動かされた。それから、君に手を貸した他の人達も。

 どんな理由でも、君だけの力ではなくとも、君が助けると決めたから、イリシアさんは今ここにいる」


真っ直ぐに俺の目を見て告げられた言葉に、視線を逸らす事も出来ずに、小さく頷く。

俺がそんな大層な事をしたとは思えないけど、否定するのも違うと思う。

誰かが動かなければ何も変わらないって事はある。


「だから、私達はライ君達に感謝しているんだよ。この集落のエルフ全員がね。

 この依頼の報酬は、私を含めたエルフの皆から、ライ君達へのお礼なんだよ」

「……うん。依頼、受けるよ。

 ありがとう、エアさん」


前にエルムさんがカヴォロに、『感謝の気持ちなのだから、全て受け止めてしまえ』と言っていた事を思い出す。

やっぱりちょっと申し訳なく思ってしまうけれど。


「宴が終わったら案内するよ。

 実はね、君が気に入っていたようだから、ハンモックも人数分用意したんだよ」

「やった! ハンモック!」

「喜んでくれて良かったよ。

 人数分のベッドが置ける程広い家ではないから、ベッドが良いと言われたらどうしようかと思っていたんだ。

 広くはないけれど、君達の拠り所になればと思う」


今日はこのまま、エルフの集落に滞在しよう。

明日は半日しかいないし、エルフの森でレベル上げしようかな。

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[一言] ライ達の持ち家がどんどん増えていく。
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