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day107 葛藤と掲示板

家から出て1人でトーラス街を歩く。

ふと、皆がいない事に不安を覚えて、ぴたりと足が止まる。

トーラス街は今一番プレイヤーがいる街だ。皆がいれば、周りの事なんて気にならなかったけど。


気にし過ぎだと、溜息を吐いて、止まっていた足を進める。

何か違う事を考えよう。


増築か改築。増築するなら地下だ。あの家は地下の増築しかできない。

改築は地下の部屋割りかな。2階の素材置き場を地下に移動して、2階の部屋割りを変えてもらっても良いかもしれない。

隣が空き家なら購入して改築でも良いけど、横長になってしまう。

横に広くなるのは良いけど、それなら奥行も広くなって欲しい。


「あ、いた。ライ君」

「んえ? 秋夜さん?」

「何その間抜け面」

「失礼な」


出会い頭に失礼な人だ。

まぁ、いつもの事だから、良い加減慣れたけど。


「1人?」

「うん、皆は家にいるよ。

 どうかした? あ、文句は聞かないよ」

「別に文句言っても良いけどさぁ。

 そんな事より、面白い物見せてあげるから、付いてきなよ」

「えぇ……今ギルドに向かってるんだけど……」

「何しに?」

「増築しようかなって」

「ふぅん。まー、それは後にして、ちょっときてよ。

 うちのクランハウスに行くだけだからさぁ」

「……クランハウス……? 凄く行きたくない……」

「良いから、早く」


俺の返事はどうでも良いとばかりに、俺が来た道を進んで行く秋夜さんの後ろ姿に溜息を吐いて、大人しく付いて行く。

碌な目に合わない気がする。吊るし上げられるかもしれない。

とは言え、そんな事の為に秋夜さんが俺をわざわざクランハウスに連れて行くだろうか。


「面白い物って?」

「見たら分かるから。愉快だよ」

「秋夜さんの言う愉快程信用できない物はない……」

「言うねぇ」


我が家の近くまで逆戻りした頃、秋夜さんが足を止めた。


「ここ。うちのクランハウス」

「ご近所さんだったんだね……」

「この辺り、プレイヤー向けの住宅街らしいからねぇ。

 見つからないように付いてきて」

「う、うん……?」


秋夜さんはクランハウスの扉を開くと、俺を手招いて中の柱を指差した。

あの柱に隠れろって事かな。頷いて、抜き足差し足で柱に向かう。


「あっち、見て。クラメンが集まってるとこ」

「んー?」


促されるまま視線を向けると、そこには数人のプレイヤーが立っていた。

何やら『うー』とか『あー』とか、呻き声のようなものをあげている。


「……えっと……何してるの?」

「あれね、葛藤してんの。まー、見てなよ」


1人のプレイヤーが腰に差したロングソードを抜いて、振り上げる。

そのまま地面に叩きつけるように振り下ろしたかと思うと、ぴたりと止まった。


「無理! これ捨てたら戦えない!

 他にこんな武器売ってねぇもん! 高い金出して買ったのに!」

「あ゛ーーー!! 本人だと知らずに、本人目掛けて馬鹿みたいな喧嘩売ってなきゃ、気にせず使うのに!」

「本人に高い金払って買ったって自慢したわけ? は? 馬鹿じゃん」

「恥ずかしくてこの先どんな顔して装備したら良いか分からない……!」


秋夜さんが見せたかったのはこれかと納得すると同時に、俺が見て良かったのかと困惑する。

この姿を一番見られたくない相手なのではないだろうか。


「愉快でしょ」

「いや、まぁ……面白い人達だなって思うよ」


悪い人達ではないんだろう。

本当に嫌な人達だったら、そんな事忘れてしまっているか、気にもしないだろう。


「あ、謝るか……?」

「無理。謝るくらいなら叩き折る」

「それな。別にこれ作ってるからって、秋夜さんより上って顔して歩いてんのがむかつくのは変わらないし」

「そう。そう。なぁにが一番人気か。

 秋夜さんが一番強くて格好良いんだって。見る目ねーわ」

「よしっ……! やる! やる!」


振り上げて、振り下ろして、止まる。


「なんであいつなわけ!? あいつじゃなきゃ使ってたわ!

 なんでこれ作ってんの!? 誰が!? あの鬼人さん!?」

「鬼人さんが作ってんならもう良くね!? あいつとは別で良いじゃん!」

「待った。魔道具は? 帰還石は誰?」

「……最初は売ってなかったよな……アクセが売られてるって言われ始めたのが……」

「多分、時期的に金髪の人だと思う。魔道具は……双子の子達いたっけ?」

「……一番最初の出品は、確か……オークションが実装した時だよな……いなかった気がする……」

「駄目じゃん。魔道具はあいつじゃん」

「何なの!? 俺達あんだけ文句言っといて、あいつに貢いでたわけ!?

 もうわけわかんないんだけど!? あ゛ーーーー」


仲間になった時期や順番までよく覚えているなと感心する。

案外目の敵にしている相手の方が、動向を見てしまうのかもしれない。


「イベント終わってからずっとこうなんだよねぇ。

 平気な顔で使っててもライ君は気にしないって言ったんだけどさぁ」

「まぁ……買った人が好きにして良いと思うけど……。

 でも、叩き折るくらいなら返品して欲しい……」

「あいつらは手放さないだろうねぇ。折るなんて無理。

 競り落とした時、随分嬉しそうにしてたから。べた褒め」

「それは……ありがとうございます……?」


喜んで良いのかいまいちわからない。


「ねぇライ君。いつもお買い上げありがとうございまーすって言ってきてよ」

「嫌だよ。なんで自ら地雷に飛び込まなきゃいけないの」

「可哀想だと思わないの? ライ君のせいであんなに葛藤してるんだよ?」

「全然思わない……」

「そうだねぇ。思うわけないよねぇ」


正直に言うと、すっとしている。ざまぁとまでは思わないけど。

狩猟祭の時のあれは、これで帳消しにしても良いと思えるくらいにはすっとした。

まぁ、ラセットブラウンの人達は秋夜さんの事を尊敬し過ぎて少し……暴走しているというか、なんというか。そういう人達だという印象になってからは、あの時のあれもそういう事なんだろうと気にしていなかったけど。


「まー、ほっときゃその内、開き直るでしょ。

 ライ君に絡みに行くかもしれないから、その時は相手してやってよ」

「秋夜さん面倒臭がってない?」

「当たり前でしょ。あんなのどうしろって言うわけ?」

「宥める……?」

「どうやって?」

「うーん……」


思いつかない。


「そう言えば……あー、ここで話してたら見つかりそうだし、ギルド行こ」

「秋夜さんも行くの?」

「そろそろ狩りに行きたいからねぇ」


来た時と同じく、こそこそと移動してラセットブラウンのクランハウスを後にする。

なんだかんだ言って、彼等の事は秋夜さんがなんとかするんだろう。

俺が出来る事は何もない。


「この前の堕ちた元亜人? テイムできたんだねぇ」

「お陰様で。秋夜さんが呪いを確認してくれたから、前進できたよ」

「へぇ。あの後どうしたの?」

「呪いの勉強して、精霊の集落に乗り込んで、解呪してもらって、哀歌の森に行ってテイムしたよ」

「あの日からよくそれだけ動けたねぇ。イベントまでほとんど時間なかったのに」

「間に合うか結構ぎりぎりだったよ。

 テイムが一回で成功したから間に合ったけど、そうじゃなかったらイベントには間に合ってなかったと思う」

「ふぅん。装備で苦労しないのは羨ましいねぇ」

「……スキルの事も見えるの?」

「仲間が増える度に装備が増えてるんだからわかるでしょ」

「たしかに」

「ネーレーイスと黒龍人の時は装備は増えてなかったみたいだけど。

 まーでも、全員生産持ちとかなんでしょ。

 ☆4以上なんて生産特化か戦闘特化か、両方かだろうし」

「秋夜さんに隠し事は通用しないの?」

「☆4以上の人型ユニークしかテイムできないって言ってたのはライ君だけどねぇ。

 それだけ情報があれば大体わかるでしょ。

 まー、レベル1になるんじゃないかって疑問は残ってるけど……その内ぽろっとライ君がヒントくれそうだよねぇ」


秋夜さん相手には小出しに話しても暴かれてしまいそうだ。何かが見えているようだし。

気を付けよう……知られていない事の方が少ない気がするけれど。


景色を眺めつつ足を進め、少しの沈黙の後、秋夜さんが溜息を吐いた。


「あーあ。2連敗か。むかつく」

「俺の事も笑ってるだけで気に食わない?」

「は? ああ、はいはい。お兄ちゃんね。

 お兄ちゃんはさぁ、対人興味ないですって顔してPvPエリアにくるから」

「うーん……確かに、そこまで興味あるわけじゃないと思う」

「勝てるなら、良いんだけどさぁ。

 何しても勝てないわけ。興味ないですって顔してるやつに。腹立つじゃん」

「まぁ……わからないでもないけど……」

「つまり、逆恨みね」


ここまではっきり逆恨みだと言われてしまうと何も言えない。

潔さすら感じる。


「まー別に良いでしょ。逆恨みだろうがなんだろうが。

 僕にどう思われていようと、どうでも良いでしょ。お兄ちゃんは」

「あー……まぁ、秋夜さんに限ったことではないと思うけど。

 もしこの先PvPエリアが実装されたら、常駐するの?」

「別にβの時も常駐してたわけじゃないけどねぇ。

 まー、お兄ちゃんよりは行ってただろうけど」

「秋夜さんは常駐してたのかと思ってた」

「他に色んな事出来るのに、PvPばっかやっててもつまんないでしょ」


生産も戦闘も、街の人達との交流も、フィールドでの新たな発見も、この世界ではたくさんの事が出来る。

俺は色々やりたいと思うけど、人によってはPvPが好きで常駐する人もいるだろうし、生産が好きな人、狩りが好きな人等様々だ。


ギルドに辿り着く。

秋夜さんは転移陣受付へ向かって行った。テラ街周辺で狩りをするらしい。

俺も早くテラ街に行けたら良いのだけれど。


「すみません、増築の相談なんですが」

「はい、増築ですね。ギルドカードはお持ちですか?」





【トマトは】雑談スレ part142【果菜】


236 名無しの旅人

出品ないなぁ


237 名無しの旅人

元々出品そんななかったでしょw


238 名無しの旅人

これからも匿名で出品するんかね?


239 名無しの旅人

匿名で出品してもすぐわかるけどね


240 名無しの旅人

どれくらい値段が吊り上がるのかが楽しみで待っている俺がいる


241 名無しの旅人

名前出して出品してくれないかなぁ

間違って買うことなくなりそうだし

勘違いして入札した俺が悪いっちゃ悪いんだけど


242 名無しの旅人

あれ詐欺みたいなもんだろ


243 名無しの旅人

全員が全員そうとは言わないけど狙ってるやつはいるだろうな


244 名無しの旅人

あれは俺も騙されかけたわ

よくよく見たら数値+1だし攻撃力も全然違うしで例の付与武器じゃないって気付けたけど


245 名無しの旅人

詐欺っぽいやつは開始価格が高い上に落札期間もめちゃくちゃ短い

慌てて碌に確認できずに匿名+付与武器+価格で例の付与武器だと勘違いして入札する


246 名無しの旅人

入札してしまったことある・・・

ちゃんと確認してから入札しろって言われたらそれまでなんだけどさぁああ


247 名無しの旅人

消えた大金

そして俺には大金に見合わない付与武器だけが残った


248 名無しの旅人

俺も3回入札した・・・


249 名無しの旅人

>>248

それは馬鹿


250 名無しの旅人

>>248

1回目の失敗で何も学んでないwww


251 名無しの旅人

ああいうのって迷惑行為?詐欺行為?にならないの?


252 名無しの旅人

意図的かどうか判断できないから無理じゃね?


253 名無しの旅人

入札した側の確認不足なわけだし


254 名無しの旅人

いやそりゃそうだけどさぁ

結局詐欺した方が悪いんじゃないの?


255 名無しの旅人

騙されたほうが悪いってか


256 名無しの旅人

詐欺ってそういうもんでしょ

騙された方が悪いと思わせるようなことして

泣き寝入りする人がいるから横行する


257 名無しの旅人

前はやってしまったって書き込み結構あったよね

最近は皆慎重になって減ってきてはいるみたいだけど


258 名無しの旅人

リアルマネー絡んでるわけじゃないから判断難しい


259 名無しの旅人

例え意図的だったとしても意図的ですって認めるわけないし

運営も動きにくいだろうな


260 名無しの旅人

ただまぁそれやってるプレイヤーがクソってことは分かる

意図的にやってるならね


261 名無しの旅人

頑張って作ったからこの値段で売るんだもん!ってやつならまぁ

相場勉強してから出品しろと文句言いたい


262 名無しの旅人

匿名でも良いけど名前出してる人の方が多いよね


263 名無しの旅人

別に匿名でもなんでも納得できる値段と質のアイテムなら良いんだけどね

知ってる名前なら安心して入札できるのはある


264 名無しの旅人

名前で検索できるようにもなるしな

まぁ名前効果のある人達って結局生産上位陣だから

それ以外の人達は匿名だろうが名前出そうが一緒っちゃ一緒


265 名無しの旅人

とは言え付与武器詐欺は匿名だからこそ起きてたわけで


266 名無しの旅人

ライさんが匿名で出品しなくなったら解決!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白くて一気読みしてました! ゲーム世界の人たちだけでなく、秋夜さんみたいなプレイヤーとも交流していくようになっている過程にホロリでした なんやかんやでこの人との関係が1番見てて面白いんです…
[良い点] 小豆一派は良くも悪くもめんどくさい人々の集まりやね(笑) [一言] 百鬼夜行の作製物、ギルド(運営)管轄のオークションとか抽選式にしようぜ。
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