day107 烏天狗
なんとか召喚に成功し……4個で召喚できてよかった。
成功出来ていなかったら、全てのポイントをつぎ込むような事になっていたかもしれない。
4個で成功したのは運が良かっただろう……引くまで回す戦法は心臓に悪い。
そもそも本来は呼びかけすら届かないのが普通なのだろう。
運良く2回目でネイヤのお爺さんに届き、その縁のお陰なのかは分からないけど、その後ネイヤに届いた。
何にせよ、成功して本当によかった。仲間が増えたのだから20,000ポイントなんて安いものだ。
「お? 防具も武器も弱っちくなっとるな。
従魔ってのはそういうもんなんか?」
「弱く? 元々装備していた服や武器の性能が低くなってるってこと?」
「おう」
「ご、ごめんね! もしかして、大切な物だった?
そうだったら……解除したら元に戻るのかな……でも、解除したら契約できないし……」
「ない、ない。ただのぼろ切れよ。この薙刀も、ほれ。ボロだろ?
烏天狗共が置いてったボロを適当に使っとっただけよ」
「そう? それなら、良いんだけど。
武器はジオン、服はイリシア、アクセサリーはリーノに作って貰うね。
レベル1の装備でも、今の装備より良い性能になるはずだよ」
「そいつは楽しみやの」
ステータスページを開く。
ネイヤ Lv1 ☆5ユニーク
種族:烏天狗
HP:250 MP:550
STR:31 INT:22
DEF:13 MND:16
DEX:32 AGI:36
『種族特性』
・天眼
・雲珠桜
『種族スキル』
【錬金術】Lv☆【金翅薙刀術】Lv★
『戦闘スキル』
【体術】Lv1
『魔法スキル』
【土属性】
【土弾】Lv1
『スキル』
【採取】Lv1【伐採】Lv1【採掘】Lv1【魔力回復】Lv1
種族特性が2つある。ということは……烏天狗の種族のランクは☆4なのかもしれない。
でも、同じく上位種族であるフェルダとイリシアの種族特性は1つだから、☆4だから絶対に2つあるというわけではなさそうだ。
プレイヤーだとあるんじゃないかなとは思うけれど。
『真価を問う眼。
全ては天眼を通し、魔力と共にある。』
『黄泉由来武芸の攻撃力上昇。
黄泉由来武芸以外の攻撃力減小大。』
それぞれの種族特性の詳細を確認する。
雲珠桜の方はなんとなくわかる。恐らく和風な武器で戦えば良いって事だろう。
例えば柔道とか相撲とか……そういうスキルがあるのかはわからないけど、そういうスキルでも良いのだろうか。
「ネイヤ、天眼ってどういう特性?」
「どう説明したもんかね。ふぅむ……ライは鑑定はできるか?」
「うん、できるよ」
「わしは天眼を持つ代わりに、鑑定やら魔力感知やらをどれだけ研究しようと取得できんらしい」
「なるほど……知り合いにそういう人がいるよ」
「ほーか。なら、説明もしやすいな。
わしゃこの天眼で知り得た事をわしが出来る事にしか使っとらんから、他のスキルとの兼ね合いはわからんが。
例えば、そこの鉄……なんぞこれ」
ネイヤが氷晶属性が融合された《氷晶鉄》を手に取る。
「なんぞわからんが、氷晶が混じっとる。
本来この状態の鉄であれば、鎮痛等の効能が微少に含まれておるんだが……」
「効能が分かるの?」
「ああ、それもわかる。効能が分かれば扱いやすかろう?
鎮痛作用のある素材と毒を混ぜても毒薬にしかならんが、鎮痛作用と栄養素を混ぜれば薬になる。
まぁ、効能だけ分かっても、知識がなけりゃ作れんが」
本来なら植物図鑑なんかを見て効能を調べつつ作るのだろうけど、目で見えるのなら、例え解明されていない植物でも知ることが出来る。
植物図鑑だって万能ではないだろう。でも、ネイヤはそれを知ることが出来る。
「余程採掘が得意なやつが掘ったらしいな。不純物がまるでない。
更に質を上げたいのなら、一度溶かし、再度固めて使えば良い」
「そんな方法が……それは、その《氷晶鉄》に限った話なんですか?」
「わからん。氷晶が混じっとると言うのに、不純物が見当たらん。こんなもの初めて見たから、比べた事がない。
まぁ、単なる鉄であれば大差はない。不純物を取り除く行程が増えるか減るかの差よ。
どんな素材でも、それぞれに合った加工や処理の方法がある。作る物によって加工や処理の方法も変わる」
「確かに、アクセサリー作る時、力の加え方とか変えるもんなー。
そういうものだって思ってたからそうしてたけど、間違ってるかもしれねぇなぁ」
「ふむ……リーノが付けとる耳飾りは、リーノが作ったんか?」
「そうだぜー! 俺達が付けてるやつは全部俺が作ったやつだな」
「ならば心配なかろうて。お前さんの加工、処理は何のずれも起きとらん」
「装備の事も分かるの?」
「良し悪しは分かるが、性能は分からん。
装備のスキルについてなんも知らんから、良し悪しについてもずれとるかずれとらんかしか分からん」
ずれているかずれていないか……魔法陣のずれみたいな、そういう話だろうか。
空さんの師匠のお爺さんが『個々は小さなずれでも、合わされば大きなずれとなる』と言っていた事を思い出す。
それと同じく、加工や処理、素材の合わせ方等で、些細なずれならともかく、大きなずれになると良い物は作れないってことかな。
「魔物の事は?」
「分からん。魔物の素材なら分かる」
「何の呪いにかけられてるとかは分かる?」
「呪物なら分かる。魔物や亜人に掛かっとる呪いは分からん」
「俺の事は? 種族とか分かる?」
「見た通りの事しか分からん。角が生えとる」
あくまで分かるのはアイテムに限るようだ。
秋夜さんとはまた違う、アイテムに特化した目なのだろう。
「生産するには便利な眼よ。
だが常にMPを消費しとるせいで、すぐにMPがなくなる。
おまけにMPが100を切ると目が見えんくなるもんで、しょっちゅう回復薬を飲まないかん」
「見えなくなるの!? 何もしてない時でも減る?」
「今も減っとるぞ。種族特性であってスキルではないからな。
まぁ、魔力回復もあるし……ああ、こっちも1になっとるんか。
ほんなら、今のMPだと4時間くらいなんもせんでおったら見えんくなるか」
そっとネイヤの目の前にマナポーションを置く。
これからはたくさんのマナポーションを用意しなければ。
今持っているマナポーションは《中級マナポーション》と《初級ハイマナポーション》、《初級エリアルマナポーション》。
クールタイムの事を考えて、違う種類のマナポーションも用意した方が良いだろう。
「ほう。悪くない《中級マナポーション》だ。
しかし、いくつか変えた方が良い素材がある。素材の処理も荒かったようだ。
良い道具を使っとるようだから、道具に頼りすぎたのかもしれんな」
「おぉ……そんなことまで分かるんだ……凄いね。
って、違う違う。目が見えなくなる前に飲んでね」
「おお、ほーか。てっきり見て欲しいんかと思ったわ」
ネイヤは瓶の蓋を開けると、こくりとマナポーションを飲み干した。
ふわりと消える瓶からステータスページに視線を戻す。
種族スキルも2つある。その上両方尤……あれ? ☆じゃなくて★だ。
「もしかして、ネイヤの金翅薙刀術って極致?」
「おお、じじぃに長年扱かれたお陰でな」
「わぁ~! ずっと長い間、磨き上げられてきた技かぁ……狩りに行くのが楽しみだね」
「金翅薙刀術……烏天狗の方が使う薙刀術ですね。
極致……是非ご教授いただきたいです」
「充分強そうに見えるが……そもそも刀と薙刀は違うだろうに」
「いえ、斬れるなら一緒なのだそうですよ」
「ほーか……そんなもんなんか……」
始めて戦闘スキルの星マークを見た。☆ではなく、★だったけれど。
契約した時に極致だったらどうなるのかという疑問は、そのまま引き継げるということで解決した。
ってことは、極致は尤に届いた者というエアさんの予想は当たっているのではないだろうか。
極致はただ磨くだけでは到達しないみたいだし。
俺の刀術は刀術自体にレベルは設定されていないけど、金翅薙刀術だと設定されているみたいだ。
連斬等のスキルがないということなのだろうか。
金翅薙刀術の文字に触れると、ポップアップが開いた。
『金翅刃斬Lv★
金翅連斬Lv★
金翅強化Lv★
金翅疾風斬Lv★
金翅滅斬Lv★』
なるほど。全てのスキルが★になっているから、纏めて金翅薙刀術自体が★として表示されていたようだ。
……俺が次に覚えるスキルは滅斬か。どんなスキルなんだろう。
「ねぇネイヤ。錬金術って……」
『何が出来るの?』と、続けようとした時、コツコツと扉から音が鳴った。
「おーい、ライ。開けてくれ」
「あれ? エルムさん?」
昨日アクア街で別れた後、エルムさんはカプリコーン街に帰っていたはずだけど。
不思議に思いつつ扉を開くと、目の前に本が聳え立っていた。
「……? エルムさん?」
「ライ! 手伝ってくれ! 崩れる!」
「わわ、フェルダ!」
積み重ねられた本がぐらぐらと揺れ始めている。
慌ててフェルダと場所を変わると、フェルダがエルムさんから本を受け取ってくれた。
「昨日は浮かれていて、君に本を渡すのを忘れていたからな!
ほら、呪術用の魔法陣の本を渡すと言っていただろう?」
「わ、ありがとう。……これ全部、呪術用……?」
「いいや違うぞ。以前ライに本を渡したのは、君が魔道具製造スキルを取得してすぐだっただろう?
ライの今のスキルレベルに合わせて、追加の本も一緒に持ってきたのさ」
「なるほど……ありがとうエルムさん。頑張るよ。
……全部覚えられるかな……」
「全てを覚える必要はない。
私も別に覚えているわけじゃない。全て覚えているなら、私の家は散らからないからな」
「どの本に何が書いてあるかくらいは覚えられるように頑張るよ」
「それが良い。私のように書斎をひっくり返さなくてよくなる」
一息ついたエルムさんは、ネイヤに視線を向けてきょとりと目を瞬いた。
「おや? 君は誰だい?」
「お、わしか? わしはネイヤ。ライの従魔になったばかりの新参者だ」
「ほう? 私はライの師匠、エルムだ。
ライの事をよろしく頼むよ」
「師匠とな。なんの師匠だ?」
「おや、聞いてないのか?」
「さっき召喚石で来てくれたばかりだからね。
まだ自己紹介くらいしかできてなくて」
「なるほど。忙しい時に来てしまったようだね。
魔道具製造の師匠さ」
「魔道具……ああ、大釜を作るやつよな」
「君、魔道具製造スキルを大釜を作るスキルだと思っているのかい?」
「すまんな。わしゃずっと山に引っ込んどったから、世間知らずなんよ」
「ほう。道理で君、見た目の割に……」
「じじ臭い話し方だろう? じじぃとずっと2人でおったもんでな」
確かに見た目はお兄さん……ジオンやフェルダとそう変わらないように見えるけど、毎度の如く長生きな種族の人なのかとあまり気にしていなかった。
「うん? 君、大丈夫かその目」
「目? 見えとるよ」
「見えるかどうかを聞いているわけじゃない。
なんだそれは? 妙に魔力がそこに集まっているようだが……不調はないか?」
はっとして、《初級ハイマナポーション》をネイヤの前に置く。
いつでも飲めるように、いくつか並べて置いておこう。
ことりことりと《初級ハイマナポーション》と《中級マナポーション》を並べていると、エルムさんから不思議そうな視線が飛んでくる。
「……何をしてるんだい?」
「マナポーション飲まないと、ネイヤの目が見えなくなっちゃうんだって」
「何かの病か? 呪いか?」
「んにゃ、天眼って知っとるか?」
「天眼!? 天眼だと!? 君、天眼持ちなのか!?」
「おう。便利だろ」
「便利!? 便利なんて言葉で片付くものではないだろう!?
目を見せろ。……右向け。次は左だ」
エルムさんの様子から、マナポーションで回復していたら良いだけではないという事が窺える。
ネイヤの顔をがしりと掴んで、診断を始めたエルムさんの姿をはらはらしながら見守る。
「うぅん……異常はなさそうだな……余程鍛えたと見える。
ライ。そしてネイヤ。気を付けておけよ。魔力が乱れでもしたら、最悪堕ちるぞ」
「堕ちるの!?」
「これだけ安定しているのなら、回復してどうこう出来る内は問題ないだろうがね。
だが、MPが尽きたまま放置するな。この目は魔力を乱す。
乱れた魔力は自身にも、周りにも害を及ぼす。乱れ、歪み、最後は魔力が尽きて死ぬか、堕ちる」
「ひぃぃいいい……! ネイヤ、目、閉じて、閉じて!」
「カカ、閉じても変わらん。
しかし……ほうか。わしも知らんかった」
「何故君が知らないんだい!?」
「じじぃはなんも言っとらんかったでな。
だが、滝行だの修験だのなんだのと、そりゃもう散々っぱら扱かれたから、知っとったんかもしれんな」
「うぅむ……余計な事を言ってしまったか?
良い師がいたようだ。それならば、とりあえずは安泰か」
「安泰安泰。マナポーション飲んどきゃええ」