day106 サポート枠
「ご馳走様! 今日のご飯も美味しかった」
「それは良かった」
お昼ご飯を食べる為にカヴォロの店に向かうも、お店の扉にはcloseと描かれた看板がぶら下がっていた。
それならば仕方ないと、別のお店に行こうと踵を返した時、中からカヴォロが出てきて食べて行って良いと言ってくれた為、カヴォロの料理にありつくことができた。
「そう言えば、エルムは一緒じゃないんだな。
てっきり……サポート枠に誘いに行ってるかと思ったが」
「……え?」
「今日からだぞ。知らなかったのか?」
「そうなの!?」
「知らなかったのか。街にも貼ってあったが……」
「み、見てない……」
ジオン達に視線を向けると、まさか俺が知らなかったとは想像していなかったようで、驚いた顔をしている。
今朝はそれどころじゃなくて知ることが出来ていない。
ここにくる道中も皆と話すのに夢中で展示物を見ることがなかった。
あと……周囲にあまり意識を向けないようにしていたのも原因だと思う。
「クランレベル1から誘えるらしい。
1上がる毎に1人誘えるそうだ」
「なるほど。俺達は今クランレベル2……あれ? 3になってる」
「俺達も上がっていたから、クラン戦で優勝……もしくは、上位に入った事で、上がったんだろうな。
クランポイントでクランレベルを上げる事も出来るらしい」
「そうなの? 見てなかったよ」
クランポイントで交換出来る物はまだ確認していない。
恐らくクランハウスやクランショップがあるんじゃないかと思うけど。
クランウィンドウを開いてみれば、サポート枠招待の文字が追加されていた。
イベント前に見たウィンドウと同じだ。
「1レベル上げるのに1万ポイント必要らしい」
「結構多いね。
生産頑張る隊は誰か誘った? ヤカさん?」
「ジャスパーが魔道具の師匠を誘って良いかって話してたな。
ヤカは……ライが誘いたいんじゃないのか?」
「うん。ヤカさんも誘いたいな。
ガヴィンさんも誘いたいし、誘いたい人ばっかだよ」
とは言え、まずはエルムさんだ。
すぐに教えてくれと言われているし、早くエルムさんの元へ行かなければ。
「教えてくれてありがとう。エルムさんの家に行ってくる!」
「ああ、行ってこい」
エルムさんの家に行くなら、イベント中に作った魔道具の魔法陣を描いた羊皮紙を持って行こう。
逸る気持ちを抑えつつ、家路を急ぐ。
「ライ、魔法陣が描いてあるやつはこの辺りに置いてるぜ」
「ありがとう、リーノ」
羊皮紙に描かれている内容を確認して、アイテムボックスに入れる。
実際に作った魔道具も入れておこう。
何も書かれていない羊皮紙も持って、それから羽ペンも。
借りていた本は打ち上げの時に返したし、大丈夫。準備は万端だ。
家から出て早速ギルドに向かう。
正直に言うと、プレイヤーの多いギルドに行くのは怖いけど、そんな急に何かが起きるわけない……そう自分に言い聞かせて足を進めた。
ギルドの扉を開けて転移陣受付に向かう途中、ちくちくと視線が刺さる。
今までもこうだったのだろうか。いや、さすがに……違うかな。
ずっと隠していた事が公になって、それが他の装備と比べて随分性能の高い装備を作っている人となれば、俺でも『あの人だったのか』と見てしまうだろう。
強化賞に選ばれただけでは俺がそれだと知られないんじゃないかとも思ったけど、ただでさえ俺は隠し事が下手だ。
そもそも、俺の周りの人達がそうしてくれていただけで、俺は匿名で出品する以外に隠し事らしい隠し事はしていなかった。話す相手もいなかったし。
随分前に秋夜さんにも気付かれたし、シルトさんとベルデさんにも気付かれた。
ジャスパーさんやみけねこさん、クラーケン戦で同じ船だった人達にも気付かれているという話だった。
強化賞というヒントが1つあれば、ぼろぼろと剥がれてしまうようなメッキだったのだろうと思う。
そう言えば、有名人になれば今まで以上に武器が売れるようになるかもしれない、なんて考えた事もあった。
いざそうなったら引き籠ろうとしてしまうんだから、ふがいない。
「転移陣7名でのご利用ですね。
7,000CZになります」
色々不安になっていたけど、ちくちくと視線は刺さっているものの、受付を済ませて転移陣部屋に入る事ができた。
今回は狩りに行くわけではないので全員で行動している。
街の中でならパーティー関係なく一緒に行動出来る。
フィールドに行った時、パーティーに入っていない人がどうなるかは試したことがないから分からないけど。
辿り着いたカプリコーン街のギルドから、エルムさんの家に向かう。
「エルムさん、いるかな?」
「どうでしょう? ですが、今日からだということはエルムさんも知っているでしょうから、ライさんが来るのを待っているのではないかと」
「そっか。へへ、楽しみだね。
今回は禁止されていないと良いんだけど」
「大丈夫なんじゃねぇか? 暫くクラン戦はないだろうしな!」
「それもそっか。……もし次クラン戦があったら、俺達纏めて参加禁止になったりしないよね……?」
「……さぁ。あるかもね」
ノッカーで扉を叩く。
暫く待てば中から足音が聞こえてきた。
「……どちら様だい?」
「ライだよ」
答えると同時に、勢いよく扉が開いた。
「ライ、来たな! さぁ入ってくれ!」
腕を引かれて、扉の中に入ると、そのままぐいぐいとリビングまで連れて行かれた。
ソファに腰かけ、エルムさんに体を向ける。
「エルムさん、俺達のクランに入ってください」
「ああ! もちろんさ! 待っていたよ!」
クランウィンドウを開いて、サポート枠招待のウィンドウを開く。
名前と住居ID、それから種族を打ち込んで、完了。
「ほう……これがウィンドウか。
クランカード? なんだそれは……なに? ギルドで貰えだと?
何故私がギルドの阿呆共に頼んでカードを貰わねばいかんのだ」
「クランカード?」
「ここに書かれた説明によるとだな……この世界の者が異世界の旅人のクランに参加している事を示す為のカードらしい。
加入する際に登録した住居ID、または店舗IDのある街とクランが所有する施設のある街間は、異世界の旅人と同じ値段で転移陣が利用できるようになるとか」
「へぇ! 凄いね」
するりとエルムさんの指が宙を動く。
『クラン『百鬼夜行』のサポート枠に『エルム』が参加しました』
「エルムさん、これからもよろしくお願いします」
「ああ。これまで以上に私を頼ると良い。
……で、だ。私は何をしたら良いんだ?」
「ん? んん?」
「せっかくクランに入ったんだ。何かしたいじゃないか」
「……確かに。じゃあまたね、だと今までと変わらないもんね」
「そうだろう? 活動方針を決めようじゃないか。
まぁ、君達も私も、それぞれでやる事があるから、常に一緒に活動できるというわけではないがね」
「活動方針か……うーん……」
頭を悩ませる。
出来れば楽しい事が良い。
「何か、皆で出来る事、考えてみる?
月に1回でも、半年に1回でも良いから、集まってなんかしたり」
「ふむ……交流会か。しかし、そうなると私だけでは寂しいものだな」
「そうだね。今は後2人しか誘えないし……あ、でもクランポイントでクランレベルを上げる事が出来るんだって」
「ほう? ちなみに、誰を誘うつもりなんだい?」
「ガヴィンさんかな。ヤカさんも誘いたいんだけど……」
「そこを誘うのは妥当だな。
どちらも君と共にクラン戦を勝ち取った2人だ」
「問題は、誘って来てくれるかだけどね」
「あの坊主とヤカが君の誘いを断るわけないだろう」
「だと、良いけど」
他にも誘いたい人はいる。
アルダガさん、アイゼンさん、グラーダさん、クリントさん、店主さん。
エアさんやイーリックさんは……難しいかな。
とは言え、この先またクラン戦のようなイベントがある時、俺が皆誘ってしまっていたら、共通の知り合いであるカヴォロや兄ちゃんが誘えなくなってしまう。
それに、店主さんはカヴォロの方が長い付き合いだし、クリントさん家族にもカヴォロの方がよく会っているようだ。
エアさんも兄ちゃんの方が過ごしている時間が長いし、仲も良い。俺ももちろん良くしてもらっているけれど。
皆誘いたいけど、今は一旦エルムさんとガヴィンさん、ヤカさんだけ、かな。
「ふむ……よし、善は急げだ。行くぞ」
「え?」
「石工の村に行くぞ」
そう言って、エルムさんがソファから立ち上がる。
「……エルムさんも行くの!?」
「ああ、行く。たまには君に付いて回りたいからな」
「エルムさんとお出掛けできるのは嬉しいけど……転移陣代が……」
「私を誰だと思っているんだい?
街の端っこのぼろ家に住んでいるがね、金に困った事はないのさ」
ほら行くぞと急かされ、ギルドに向かう。
「まぁ、私の転移陣代は他の連中と比べると安いんだがね」
「あ、制作者だから?」
「そうさ。まぁ君達のように1,000CZなんて破格の値段ではないが」
「制作者なんだから使い放題でも良さそうなのに」
「その代わり借料を毎月受け取っているからな。
少しの転移陣代くらい払ってやるさ」
「なるほど……」
転移陣はエルムさん、そしてエルムさんの師匠から借りているという形になっているようだ。
ギルドの扉を潜り抜ける。
「ちっ。ギルドに来たのならついでにクランカードを貰っておくか。
おい、そこの男。お前だ。髭面」
「は? ……エルム様!? どうされました!?
何か問題がございましたでしょうか……?」
「クランカードを寄越せ。百鬼夜行だ」
「は、はい! 直ちに!」
イベントへの禁止を伝える為、エルムさんの家に朝の7時から訪れたというギルド職員さんは、カプリコーン街のギルド職員さんなのだろう。
それが先程の彼なのかはわからないけれど。
エルムさんと共に依頼の掲示板を眺めながら待っていると、すぐに先程の男性が戻ってきた。
「エルム様、お待たせしました。
こちらがクラン百鬼夜行のクランカードでございます。
こ、この度はサポート枠への参加、おめでとうございます」
「君達が禁止にしていなかったら、もっと早くに叶っていたんだがね。
……まぁ、良いだろう。私は今機嫌が良い。次はないぞ」
「申し訳ございませんでしたぁー!!」
余程お灸を据えられたのだろうか。
聞けば彼はカプリコーン街のギルドのギルドマスターなのだそうだ。
普段はあまり表には出てこないらしいけれど、たまたま出たその日にエルムさんが来るだなんて、想像もしていなかっただろう。
「待たせてすまなかったね」
「ううん、全然待ってないよ」
エルムさんが先に受付を済ませ、転移陣部屋に入って行く。
俺達も受付を済ませて転移陣部屋へ入れば、エルムさんが待っていた。
「さぁ、石工の村に行こうか」
石工の村までひとっ飛びだ。
辿り着いた石工の村の広場からガヴィンさんの窯元へ向かう。
石工の村に来るのが初めてなイリシアに、シアとレヴがあれこれと案内している姿に頬が緩む。
今日もガヴィンさんは庭先で作業しているようだ。
「坊主! きたぞ! こっちに来い!」
「……婆さん……今日は随分機嫌が良いな」
「こんにちは、ガヴィンさん」
「ああ、ライ……なるほど。自慢に来たの?」
「そんなことの為にわざわざくるか。
ほら、ライ」
「ガヴィンさん、俺達のクランに入ってくれませんか?」
「さっさと頷け。まさか断るだなんて選択肢があるとでも?」
「脅してこなくても断らないから。
良いよ。またよろしく」
笑顔で頷いて、早速招待ウィンドウを操作する。
名前と種族、住居ID……完了。
「うわ、また出た。……クランカード……?
ま、良いや。承認」
『クラン『百鬼夜行』のサポート枠に『ガヴィン』が参加しました』
「ガヴィンさん、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「よし! 次だ!」
「ん……もしかしてこれからヤカさんの所にも行くの!?」
「まぁ、ライが今じゃなくて良いと言うなら行かないが。
その場合、このままここでクラン会議だな」
「ここで……? 俺の家でってこと……?」
「んー……行く!」
「ああ、行こう! アクア街だ!」
「行ってらっしゃい」
「何を言っている。君も行くんだ。
ほら、早く行くぞ」
「……はぁ!? アクア街に!? 馬鹿じゃないの!?」
「誰に向かって言っているんだ。
金の心配ならするな。私が払う」
「作業の途中なんだけど……?」
「関係ないな。少し仕事を放棄したからって、君程の男なら何の問題もないだろう」
「はぁ……? はー……分かった分かった。行くよ」
「い、良いの……?」
「良いよ。婆さんが来る時は大体こんなんだから」
大きな溜息を吐いたガヴィンさんは、家の中へ入って行った。
少し待っていれば玄関の扉が開き、鍵を閉めたガヴィンさんが俺達へ向き直る。
「よし、行くぞ」
「はいはい」




