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day106 変化

「来李にはファンが多いんだよ」

「……ふぁん?」

「ファン」

「ふぁん……」


話を聞こうと兄ちゃんが起きてくるのを待っていたら、返ってきたのはそんな言葉だった。

ファン。ファン?


「どういうこと……?」

「んー……前に朝陽がさ、俺がβの頃に露店に出た時の話してただろう?

 ま、あれは朝陽が盛ってる部分もあるけど……来李もそうなるんじゃないかって」

「そんなまさか。……そう、なの?」

「……そうだね。あー……来李は、注目される事が苦手だからね。

 本当は話したくなかったんだけど」

「……本当に? だって、俺……」

「何もしてないってことはないだろう?」

「それは……でも、俺、一番最初の時からだったよ?

 ロゼさんがうちの露店でって、本当に欲しい人に渡す為にって」

「その時から、ファンがいたんだよ。

 俺がログインする前からね」

「だったら、尚更、何も……」


何もしていない。ログインして、ジオンと一緒に右も左も分からずに冒険していただけだ。

兄ちゃんの弟だから注目されたって言うなら分かるけど、兄ちゃんもいなかった。


「うーん……見た目……」

「見た目……!? どういうこと!?」

「顔が良いって」

「兄ちゃんが!?」

「はは、来李の話でしょ」

「……見た目……? それこそ、ありえないよ……だって……」


だって、俺はこの見た目のせいで……。


「来李。来李がそれを言われたのは何年前?」

「……10年くらい……」

「10年経てば見た目は変わるよ」

「でも……」

「自信ない?」

「……うん。だって俺、全然筋肉つかないし。

 ゲームの中でも、筋肉全然ないし。

 男らしくなれないし。甘えてばっかりだし」


今だって、こんなにうじうじしている。

こんな俺じゃ友達なんて、ましてやファンなんて出来るわけがない。


「……兄ちゃんが言うなら、信じる、けど……でも……。

 本当は何言われてるか……きっと嫌な奴だって。

 何もしてないくせに、ジオン達のお陰で、運営に贔屓されてるって……」

「落ち着いて来李。大丈夫だよ」

「だって、狩猟祭とかクラン戦とか、関係ないんだよね?

 それが原因で注目されたって言うなら……俺、頑張ったから……」

「それももちろんあるよ」

「……やだ。怖い」


兄ちゃんがファンだって言うならそう……なの、かもしれない。

でも、怖い。有名人だって言われても、なりたいって思ったけど、でも、今の俺じゃなくて。

むきむきで、男らしくて、頼りになるそんな人。いつかそんな自分になれた時に、有名になれたらなって思ってた。

正反対の俺が有名だなんて、あり得ない。今の俺を見て欲しくない。


今の俺で良いなら、本当にそうなら、俺には友達が出来て……見た目じゃなかったのかな。

俺のこの性格が駄目だったのかな。俺が駄目だったのか。


「……寝る」

「来李」


兄ちゃんに優しい声で止められるも、ふらふらと部屋に戻り、ベッドの中に潜る。


「来李」

「……ん」


布団から頭を出して、扉の前にいる兄ちゃんに視線を向ける。


「はは、やどかりだ。

 そうなると思ってたから言わなかったんだけどな」

「……やっぱり兄ちゃんが俺の一番の理解者だよ……」


怖い。何を言われてるか分からない。

注目されたらされるだけ、俺を嫌う人がいる。そういうものだって思ってる。

ああそうだ。掲示板があるんだった。ずっと忘れていた。

そこで、もしかしたら、俺の話……違う。自意識過剰だ。


「ログインしないの?」

「……しない」

「エルフの集落なら誰にも見つからないよ」

「……」


ああ、なんにも変われてない。

少しは人と話せるようになったって思ってたけど。

ちょっとでも成長できたんじゃないかって思ってたのに。

あの頃のままなんにも変われていない。


「よし。こうなったら最終手段」


そんな兄ちゃんの言葉に疑問を浮かべるよりも早く、ずるりと布団から引きずり出された。

そのまま抱えられ、専用チェアの上に座らせられる。


「音声認証の登録しといて助かったよ」


がぽりとヘッドギアを被せられる。


「……兄ちゃん!?」

「行っておいで。ジオン達が待ってるよ」





「ライさん、おはようございま……どうかしましたか?」

「……あー……いや……」

「? ライくん? どうしたのー?」

「悲しいの?」


何かあった時の為にお互いのヘッドギアにお互いの音声認証の登録をしていた事が仇になってしまった。

兄ちゃんの声でも起動してしまい、その他諸々の認証は俺がヘッドギアを被っていれば全て通ってしまうので、強制的にこの世界へとやってくることになった。


「……ううん。大丈夫だよ。

 ちょっと……お祭りで疲れちゃったかなって……」


心配を掛けたくないとか、情けない姿を見せたくないとか、色々あるけど、皆の前ではいつもの自分でいたいと思うのに、全然うまくいかない。

皆の視線に心配が滲んでいる。


「確かに疲れたけど……それだけ?」

「うん、それだけだよ。

 あ、片付けしてくれたの?」


皆からの視線から逃げるように、作業場に視線を移す。

打ち上げに早く向かいたくて、運んできただけの状態になっていた作業場が、イベントが始まる前の状態にすっかり戻っている。


「……残ってた魔道具も纏めておいたぜ。

 売れそうなやつは売るって言ってたよな?」

「あ……うん。そうだったね」


皆が纏めておいてくれたイベントの残りの魔道具に視線を向ける。

生産頑張る隊の皆もいくつか持って帰ってくれたけど、たくさん残っている。


槍の罠は解体してしまおう。

槍は魔法陣を消せば、通常の槍として装備して使える。


他の罠は……どこかに置いておこうか。

敵味方関係なく攻撃してしまうような罠だから、売ることも憚られる。

街の中で使った場合はどうなるかわからないけど、拠点で生産頑張る隊の人達が掛かっていた事を思い出すに、恐らくプロテクトは発動しないだろう。

呪術と組み合わせた魔道具も同様……対魔物にしか発動できないように魔法陣を描きかえられたら良いけど。


頭ではそんなことが浮かんでいるのに、俺の手はするりと魔道具を撫でるだけで、それ以上動かない。

無気力だ。そんな自分が嫌で、更に気が滅入る。


「……私達では、頼りになりませんか?

 ライさんに寄り添う事はできないでしょうか」

「そんなわけないよ。いつも俺が助けて貰ってる。

 いつも頼りにしてるよ」

「……ライ。俺達、ライが言ってくれんの待ってるんだぜ」

「俺が……?」

「ライはずっと、見ないようにしてただろ?

 俺にも……分かるから。見ない方が、聞かない方が楽だって気持ち」


俺を真っ直ぐに見据えてそう言ったリーノは、ニカリと笑った。


「大丈夫。俺らは全員、ライの味方だから!

 ライを困らせる物全てから守るぜ」

「……そんなの、俺が皆に面倒をかけるだけになっちゃうよ」

「別に構わないけど? ライだってずっと俺達にそうしてきてくれたからね」

「アタシ知ってるよー! ライくんはアタシたちの事いっぱい考えてくれてる!」

「あのね、ボクたちが悲しくないようにって、本当はライくんがしたいことでも、ボクたちを1番にしてくれてた」

「でも、アタシたち」

「ライくんが1番だから」

「「ライくんが悲しくないのが良い」」

「私は……ライ君と過ごした時間があまりにも短いから、何も言えないけれど、でも、そうね。

 ライ君は、もっと自分勝手に生きて良いのよ。私達はそれに付いて行くわ」


ぐっと口元に力が入る。そうでもしないと泣きそうだ。

もうログインしたくないって数分前の俺は思ってた。転生して1からって手もあったかもしれない。

でもやっぱり、ジオン達と離れるのは嫌だ。


「……俺……人と関わるのが少し苦手なんだ。皆やこの世界の人は大丈夫なんだけど……。

 それに、少しでも話せたら、大丈夫だから……カヴォロとか、生産頑張る隊の皆とか。

 だから、人が凄く怖いとか、嫌だとかそう言うのではない……と、思う」


ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。


「俺、頼りなくて、女の子みたいで、男らしくないって昔言われて……それが原因だったのかはわからなくなっちゃったんだけど……友達ができなくて。

 でも、仲良くなりたいから、話しかけてみたりしてたんだけど……全然駄目で」


いつからか挨拶するのも凄く勇気がいるようになった。

それでも毎日挨拶して、困っている人に声を掛けたり、授業で分からないことがあった時とかに聞いたり……チャンスがあれば積極的に話しかけていたつもりなんだけど、一言二言返ってくるだけで、凄くよそよそしかった。

それはこの世界でも体験した事がある。最初の頃、ギルドの場所を教えてくれたプレイヤーの人も、すぐに逃げるようにどこかに行ってしまったし。


「仲良くなりたい、友達が欲しいって、凄く思ってるんだけど、何にも変われてない今の俺じゃ無理だから。

 だから俺……むきむきになりたい」

「……なるほど……」

「たまに言ってたむきむきはそれか……」

「むぅー……」

「むきむきライくん……」

「「やだ!」」

「……え? やだ!? え、嫌なの!?」

「そうね……むきむきは……ええ、そうね、良いとは思うのだけれど……。

 んん……ライ君。まず、ライ君は頼りなくなんてないわよ」

「そうですね。私達が世界で一番頼りにしているのはライさんですから。

 それから……女性みたい……ですか? ちょっと理解ができませんね」

「だなー……まぁ、中性的? では、あるけど、男だよなぁ」

「男らしいってなにー?」

「むきむき?」

「それは俺も分からないんだけど……とりあえずむきむきは男らしいのかなって」

「まぁ……男らしさの1つではあるかな……」


男らしさとは何だろうか。あの時の同級生は、どうなって欲しくてそう言ったんだろう。

小学生だった俺は、それを聞いてむきむきしか頭に浮かばなかったのだけれど。

そしてそのまま突き進んでいる。


「とりあえず、それ言ったやつらどこにいんの?

 この世界にいる? 殴ってきていい?」

「い、いないと思う……いてもやめて……」

「冗談だよ。んー……ま、俺達はそんなこと思ってないから」

「情けない姿、たくさん見せたと思うけど……」

「いや、俺堕ちてたんだぜ?

 それ以上に情けない事あるか?」

「そうね……私ももっと強かったら堕ちなかったわね……」

「おっ……違う! 違う! イリシアに言ってるわけじゃねぇよ?

 シアとレヴも違うからな!?」

「……ふ、あはは」


皆と話すと元気が出てくる。重かった心がふわりと軽くなった。


「1人って寂しいんだよなぁ。

 本当に寂しくてさー。でも、付き合い方がわかんなくて。

 どんどん怖くなってくんだよなぁ」

「そうねぇ。私にも経験があるわ。どれだけ手を伸ばしても、受け入れて貰えなくて、辛かったわ」

「……2人と比べたら俺の悩みなんて小さい気がしてきた……」

「そんなことないわよ。どんな理由でも寂しいってのは、変わらないわ。

 でも、そうね。ライ君にはレン君がいたのでしょう?」

「うん」

「私にもね、エルフの皆がいたのよ。

 そして今は、皆がいる。だから寂しくないわ」

「うん、そうだね。俺も、寂しくないよ」


全ての人に嫌われないなんてことは出来ないし、好かれることもできない。

だから、俺の周りだけ、俺の大切な人達だけで良いって分かっている。

それでも、どうしても怖くなってしまう。

賞賛の言葉でも、誹謗中傷でも、知らない場所で向けられる言葉が怖い。

きっと多分、誰でも怖いんだろうけど、気にしないようにしたり、見ない事で自衛しているのだろう。


俺もずっと全てを遮断して自衛していた。

それが今回、知らなきゃいけない状況になっただけだ。

俺が知ろうとしなければ、兄ちゃんは話さなかったと思う。


知ってしまったから、これまでのように全てを遮断することは出来なくなるかもしれない。

すぐには乗り越えられそうにないし、やっぱり怖いけど……俺は変わりたい。

きっと変われるはずだ。あの頃とは違う。


「……よし! お昼ご飯食べに行こう!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ここが勝負だよなぁ…… 自分がどうなるかの…… 言い方悪いけど、稼ぐ手段が作るしかない?
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