day103 結果発表
妖精ちゃんに送られた控室の壁に掛かるモニターで、スタジアムのフィールドにある舞台の様子を見る。
30位から1位まで順に舞台上に上がるそうで、控室にきた俺達を迎えてくれたギルドの職員さんの話によると、俺達が向かうのは10位の発表が行われている頃になるそうだ。
『それでは、19位の発表です!
19位の皆様には20,000のクランポイントと7,500の個人ポイントが贈呈されます』
控室に設置されたスピーカー……恐らくこれも魔道具なのだろう。もしかしたら遺物かもしれない。
スピーカーから舞台上に立つギルドの職員さんの声が聞こえてくる。
今回の賞品もポイントのようだ。
イベント製の特別な装備やアイテムでも記念になって嬉しいけど、好きな物と交換できるのはありがたい。
クランポイントは入賞したクランが貰えるポイントで、クランウィンドウから何かしらと交換できるようだ。
個人ポイントは入賞したクランのメンバー全員に貰えるポイントのようで、前回のクラーケン戦とは違って、ジオン達も貰えるらしい。
ただ、従魔であるジオン達はプレイヤーと違って半分になってしまうそうだ。
半分でも貰えるのなら嬉しい。……凄い量の個人ポイントが貰えそうだ。
サポート枠であるガヴィンさんやヤカさんは個人ポイントだけ貰えるそうだ。
この世界の人達はウィンドウが使えないので、ギルドや役所で交換の受付が行えるとか。
ただ、その場ですぐに交換ができるわけではなく、後日郵送されるそうだ。
「うーん……何に交換しよう。
カヴォロ、何と交換する?」
「そうだな……料理の材料くらいしか思いつかない」
「レストラン2号店とか?」
「1つで充分だ。いや、いつかは開いても良いかもしれないが……今はまだ良い。
ああ、家にするか。畑のある家が良い」
「だったらテラ街が良いみたいだよ。農業と林業の街なんだって」
「そうなのか。それなら、テラ街にする」
「俺もテラ街の家買おうかなって思ってるんだよね。
交換できる家、大きかったら良いんだけど……」
「人数がいるからな。前回と同じなら、厳しそうだ」
防具に交換する必要もなくなったし、鋳型に交換する必要もない。
封印魔石もイリシアのスキルレベルが上がれば、聖魔石以外は作れる。
封印前の魔石とは交換しようかな。
後は……糸とかだろうか。すぐに用意できないし。
ああでも、種のほうが良いのかな。まぁ、両方交換しても余りそうではあるけれど。
「あ、そうだカヴォロ。
この後店主さんのお店行く? 俺と兄ちゃんは行く予定なんだけど」
「ああ、行くつもりだ。
遅い時間までやる予定らしいしな」
「22時スタートとかになっちゃうもんね。
あ、ねえ、ガヴィンさんはどうする?」
「そういや手紙来てたね。行こうかな。
ヤカも行こうよ」
「僕も? 婆さんくらいしか知り合いいないんじゃない?」
「家庭用魔道具の爺さんも来てんじゃないかね」
「ああ……あの爺さんもいんのか。まぁ……それなら、行ってみようかな」
ヤカさんとガヴィンさんはイベントの間で随分仲良くなったみたいだ。
歳が近かったりするのだろうか。見た目は同じくらいに見えるけど。
「この後片付けが待ってるんすよねぇ……。
あ、ライさんの荷物運ぶの手伝いますよ」
「ううん。行ったり来たりできるみたいだし、往復して片付けるよ」
「やー……あ、じゃあ、最初の1回は俺らも持つんで。
それでも持ち切れなかった分は往復してもらう感じで」
「ありがとう、助かるよ。
……出来ればジオン達が使ってたベッドを持ち帰りたいんだけど……」
「ベッドすか? まぁ、全部同じ形なんで、荷物にはならないっすよ」
同じ形のベッドならスタックするので、アイテムボックスは1つしか埋まらない。
「あ、そうだ! 余ったポーション類は、皆で分けようよー!
お土産お土産! ヤカさんとガヴィンさんも良かったら持って帰って!」
「良いの?」
「もち! ライさん達に作ってもらった生産道具で作ったからね~!
たっくさんあるし、持って帰ってー!」
「そっか、ありがとう。あ、魔道具も、残ってる分は欲しい人持って帰って?
使い道はなかなかなさそうだけど……」
「いるいる! 俺あの麻痺のやつ欲しい!」
「ずるいですよサクノ。私も欲しいです」
「ねー罠も貰って良いのー?」
「うん! 魔石の魔力が尽きてるのもありそうだけど」
「それはだいじょーぶ! 俺も魔道具製造できるからね~!」
ジオン達の生産道具もあるし、作った魔道具を全部持ち帰るのは往復すれば出来るけど、置く場所も今はあまりない。
置いて行くのは勿体ないと思っていたから、欲しい人が貰ってくれるならありがたい。
「生産頑張る隊の皆さん、百鬼夜行の皆さん、移動をお願いします」
控室の扉が開き、ギルドの職員さんから声を掛けられる。
俺達は頷いて立ち上がり、ギルドの職員さんの後にぞろぞろと付いて行く。
広いスタジアムだ。フィールドまでが結構遠い。
長く続く廊下を暫く歩けば、漸くフィールドへの出入口へと辿り着いた。
出入口から前回よりも大きな舞台の様子を伺う。
どうやら現在は3位以上……兄ちゃん達と秋夜さん達のクランだけが舞台の上にいるようだ。
30位以上の人達が全員揃うとなると総勢何人になるかわからないからだろう。
兄ちゃん達と秋夜さん達だけでも80人くらいいるから、大分多いけれど。
『続きまして、見事優勝を果たしました拠点を発表致します!
優勝を果たしました皆様にはクランポイント50,000、個人ポイント30,000が贈呈されます』
物凄く多い。ジオン達が貰えるのは半分、つまり15,000ポイントずつだとしても……シアとレヴはどうなるのかな。
恐らく2人で1人分ではないかと思う。クランメンバーやパーティーは2人で数えられているけど。
どちらにせよ、俺と合わせて10万ポイントを超える。とんでもない。
『総ポイント数1,367,229ポイント。
優勝は、生産頑張る隊、百鬼夜行の皆様です!
それでは、皆様ご入場くださいませ!』
どくどくと心臓が高鳴る。
やっぱり注目されるのは苦手だ。いや、別に、俺だけが注目されるわけではないけれど。
こんな、今から出てきますよーって空気、耐えられない。
「ライさん! 先頭お願いします!」
「え!? 俺!? なんで!?」
「無理です無理です。こんな空気の中行けません。
私には荷が重いです」
「俺もだけど……」
ギルドの職員さんから『早く行け』という視線が飛んでくる。
きょろきょろと視線を彷徨わせていると、ジオンにぽんっと背中を叩かれた。
「行きましょう、ライさん」
「うぅ……」
深呼吸して、フィールドに足を踏み出すと、割れんばかりの歓声が俺達を包んだ。
あちこちから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきている。
やっぱり俺には手を振り返す度胸はない。
緊張を隠すために笑顔を貼り付け、舞台を目指して歩く。
「前は、客席から見てましたが、漸くライさんと並んでここを歩くことが出来ました」
「だなー。こんな機会、この先ないかもしれねぇし、楽しもうぜ!」
普段通りの2人の姿に、少しだけ緊張が解れる。
『優勝おめでとうございます!』
全員が舞台上へ上がり、ずらりと並ぶと、大きな拍手が届いた。
スタジアム内が拍手と歓声で埋め尽くされている。
緊張でいっぱいいっぱいな俺は、きゅっと口角を上げて少しだけ観客席に視線を向ける事しかできない。
『それでは最後に、個人賞の発表へ移りたいと思います。
こちら、事前発表がされていないサプライズとなっておりますので、皆様最後までお楽しみくださいませ!
あ、現在舞台にいる皆様は、そのままいてくださいね』
MVPのようなものだろうか。
恐らくこの舞台上にいる誰かなのだろう。
『申し訳ありませんが、個人賞を受賞されるのは異世界の旅人様のみとなります。
しかし、従魔の方はテイマーやサモナーの方に、サポート枠の方はクランマスターの方に換算されますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします』
つまり、ジオン達やガヴィンさんの働きが俺に換算されると言う事だろうか。
個人賞がどんなものか分からないので、なんとも言えないけれど。
『まず、1つ目。破壊賞の発表です。
破壊賞はクリスタルを一番多く破壊した方に贈られる賞です。
破壊賞に選ばれた方には5,000の個人ポイントが贈呈されます』
破壊賞とはなんとも物騒な名前だ。
『破壊賞は……ラセットブラウン、秋夜様! おめでとうございます!』
物凄く嫌そうな顔をする秋夜さんの顔を見て、思わず小さく笑ってしまう。
そんな俺に気付いた秋夜さんからじとりとした視線を向けられた。
一番多く破壊したからって、優勝できていないのだからなんとも言えない気持ちになるだろう。
『続いて、評価賞の発表です。
評価賞は拠点内の兵士達からの評価が一番高かった方に贈られる賞です。
評価賞に選ばれた方には5,000の個人ポイントが贈呈されます』
兵士さん達の評価を数値化できるのだろうか……好感度みたいなのがあるのかな。
『今回、同率の方が2名いらっしゃるのですが……申し訳ありません。
受賞者は1人とさせていただきました。
評価賞は……生産頑張る隊、カヴォロ様! おめでとうございます!』
カヴォロが信じられない物を見る顔で司会者の人に視線を向けている。
納得の人選だ。きっと、兵士さん達の胃袋を掴んでしまったのだろう。
それに、カヴォロと兵士さん達が話している場面はよく見かけていた。
『最後に、強化賞……』
「待ったぁあああ!!! それは駄目っすよ!!!」
「えっ……? ど、どうかされましたか……?」
「それ内緒にしてください! お願いします!!
私達の苦労が全部水の泡になるので!!!」
「そ、そう言われましても……」
「やめてええええ! 言わないでええええ!!」
マイクを通していない声なので、舞台上にしか聞こえていないものの、必死に止めている生産頑張る隊の人達の姿に、ざわざわと動揺が広がるのが分かる。
「も、申し訳ありませんが……決まりですので……」
「そんな決まり捨ててしまったら良いでしょう!?
異世界の旅人の安心安全冒険ライフを保障する方が大事なのでは!?」
「受賞したことで身の危険に晒されることあります……?」
ジオン達やガヴィンさんの働きが俺に換算されていると言う事はつまり、魔道具、鍛冶、細工、鋳造、石工、裁縫で行われた強化が全て、俺に換算されているのだろう。
強化賞が俺であることはさすがに予想できる。
「えー……今回強化賞はなし……あ、駄目ですか?
なしは駄目みたいです……」
「そこをなんとか!」
「しがないギルド職員の私ではどうにもできません……!
見てください、ギルドマスターの顔。あ、うちのギルドのギルドマスターなんですけどね。
ほら、とんでもない顔で怒ってますよ。最悪私の首が飛びます」
「そう言わずに!」
「えぇ……」
司会をしているギルド職員さんから視線を向けられている事に気付く。
やっぱり俺のようだ。物凄くいたたまれない。
これ以上迷惑をかけるのは遠慮したい。
「あー……大丈夫だよ」
「いやぁあああ! ライさん!?!?」
「ごめんね、サクノさん。それから皆も。
色々してくれたのに……」
「やー……まぁ正直、あんだけやっちゃうと、ジャスパーさんだけに押し付けるのは難しいかもとは思ってたっすけど……」
「……そう、ですね。すみません……私達、隠せるって話で、同盟組んでいただいたのに……」
「そうだっけ……? 俺、別に隠してくれるクラン探してたわけじゃないよ。
生産頑張る隊の皆と同盟が組めて良かったよ」
おろおろしているギルド職員さんに顔を向けて、頷く。
『……えー……そ、それでは、強化賞を発表します!
強化賞は一番強化を行った方に贈られる賞です。
強化賞に選ばれた方には5,000の個人ポイントが贈呈されます』
ちらりと兄ちゃんに視線を向けると、肩を竦めて困った顔で笑った。
『強化賞は……百鬼夜行、ライ様!』
一瞬の静まりの後、今日一番の喧騒が巻き起こる。
それは歓声ではなく、叫び声のようだった。
『!? ……あのー……続けて、大丈夫ですかね……? 続けますね?
えー……ライ様は今回、従魔の方、それからサポート枠の方の強化も換算されております。
ライ様、おめでとうございます!』
ギルド職員さんに笑顔を返して、こっそり溜息を吐く。
この先、どうなってしまうんだろう。
袋叩き……は、多分、違うんだろうけど……俺の知らない理由を兄ちゃんに聞かなければ。
とりあえず、今は一旦置いておこう。
今は優勝を素直に喜ぼう。この後皆に会うのも楽しみだ。