day103 祝勝会
『クリスタル争奪戦が終了しました。
結果発表は予定通り21時30分から行われます。
スタジアム内にて観戦中の方は―――』
「はー……あー……むかつく」
結果発表についてのアナウンスの声に重なるように、秋夜さんが口を開いた。
「読み間違えたねぇ……ライ君が1人で動くとは思わなかった」
「うん、1人で侵攻するなんて考えてなかったよ」
「はぁ? あー……あいつの入れ知恵か……。
黒炎弾も残してるしさぁ……」
不機嫌な溜息を吐いた秋夜さんが体を起こす。
「最後の何? 魔道具?」
「うん、単体を麻痺にする魔道具だよ」
「ふぅん。帰って良いよ」
聞くだけ聞いてそう言い放った秋夜さんにじとりと視線を向ける。
「いたいならいても良いけどねぇ。
あいつら帰ってくるよ。良いの?」
「お邪魔しました」
『―――亜空間はこれより2時間後に停止致します。
現時刻から停止までの間、亜空間との往来が可能となります。
結果発表まで今しばらくお待ちください』
そう締めくくられたアナウンスの声と共に、次々とクリスタル部屋に光が現れた。
それと同時に、俺の体を光が包む。
本戦終了と共に、自分の拠点へ強制的に転移するのだろう。
「今度たっぷり文句言わせてねぇ」
「やだ」
その言葉を最後に、辺りの景色が変わる。
俺達の拠点のクリスタル部屋に帰ってきた。
どうやらリスポーン前だった人達もアナウンスと共にリスポーンしたようで、クリスタル部屋の中にはたくさんの人が集まっている。
「ライさん、おかえりなさい」
「ただいま! ……うっ……」
にっと笑って返事をすると、シアとレヴが飛び込んできた。
なんとか受け止めて、2人の頭を撫でる。
「ライくん! ライくん!」
「やったねー! 勝ったねー!」
「うん、優勝だよ。時間を稼いでくれてありがとう」
「正直負けたんだと思ったぜ。
俺らのもほら、割れてんだろ?」
「え? うわ!? 本当だ! 割れてる!」
中央に視線を向けると、クリスタルは綺麗さっぱりなくなっていて、台座だけが残っていた。
俺の方が数秒……いや、1秒にも満たない時間だろう。早く壊せたみたいだ。
その事実を知って、体から力が抜ける。
「ライ、帰ってきたか。お疲れ様」
「カヴォロ! カヴォロも防衛お疲れ様!」
「積もる話もあるだろうが……全員食堂に集合してくれ」
「食堂?」
「亜空間の停止まで時間もあるし、結果発表までは祝賀会をするらしい。
まぁ……余った料理の処理も兼ねている」
「祝賀会!」
「そら、あんた達も行くぞ」
そわそわと俺達を見ている兵士さんに向かってカヴォロが声を掛ける。
カヴォロの言葉を聞いた兵士さん達は頷いて、楽しそうに何かを話しながら扉の外へ向かって行った。
クリスタル部屋にある強化料理の残りを全てアイテムボックスに入れて、扉の外へ出たカヴォロの後を追って、俺達も食堂に向かう。
こつんこつんと階段の踏板を叩く足音を鳴らしながら、1階まで降りて行く。
頭を過るのは今日の事、そして準備期間の事だ。
兵士さん達とはイベントが終わったらもう会えなくなってしまうのだろうけど、妖精ちゃんとは最初以外でも会えたわけだし、またいつか会えるかもしれない。
ただ……その時は俺達の知る兵士さん達ではないかもしれないけど。
ピロンとメッセージが届いた事を知らせる通知音が鳴る。
階段を降りながらウィンドウを見るのは踏み外してしまいそうなので、1階の廊下まで降り切ってからウィンドウを開いた。
『TO:ライ FROM:ソウム
優勝おめでとう』
ソウムからの初めてのメッセージに心が躍る。
フレンド登録をしてから、会う事は疎かメッセージのやり取りもしていない。
『TO:ソウム FROM:ライ
ありがとう! ソウムもイベントお疲れ様!
次またこういうイベントがあったら、一緒に参加しようね』
『TO:ライ FROM:ソウム
お願いします・・・僕10分ももたなかったよ・・・』
「あ、ねぇ、カヴォロ。
今度バーベキューする時、もう1人呼んで良い?」
「ああ、構わない。……誰を呼ぶんだ?」
「前に話した手品師さん。ソウムって言うんだけど」
「ああ……手品師。そうか、わかった」
兄ちゃんは一度会った事あるし、大丈夫だろう。
朝陽さん達には兄ちゃんから伝えて貰おう。
『TO:ソウム FROM:ライ
1人じゃさすがに厳しいよね
今度、俺とカヴォロと兄ちゃん達でバーベキューするんだけど、ソウムもどうかな?』
『TO:ライ FROM:ソウム
行きたいけど・・・良いの?』
『TO:ソウム FROM:ライ
もちろんだよ! 日にちが決まったらまた連絡するね』
ウィンドウを閉じて地下へ繋がる階段を降りる。
考えてみれば、友達とバーベキューをするのは初めてだ。
兄ちゃんがゲームを一緒に作っている人達とバーベキューをする時に混ぜて貰った事はあるけど。
楽しみだな。俺がこれまでにしたくてもできなかった事がたくさん経験できる。
「あ! 本日の功労者の登場ですよ!」
食堂の扉を潜り抜けると、シルトさんのそんな言葉に迎えられた。
「いや、いや、功労者では……皆のお陰だよ」
「まぁまぁ! 今は一旦座りましょう!」
促されて椅子に座る。
食堂の冷蔵庫から持ってきたのだろう飲み物が机の上に置かれており、グラスも人数分置かれていた。
最後に到着した俺達の飲み物を全員注ぎ終わった事を確認したシルトさんが、グラスを持って立ち上がる。
「えー……それでは、僭越ではございますが、私が乾杯の音頭を取らせていただきます。
皆さん、2日間の準備期間、そして本戦、お疲れ様でした。
生産頑張る隊と百鬼夜行の皆さんであれば、強固な拠点が出来ることは分かっていましたが、問題は戦闘面。
その全てを百鬼夜行の皆さんとジャスパーさん、みけねこさんにお任せしたとして……」
「長いっす! 優勝おめでとうございます! 乾杯!!!」
「「「乾杯!」」」
「あー! ベルデさん! まだ話したい事あったんですよ!」
「それはこれからたくさん話したらいいでしょ」
カチンカチンとグラスがぶつかる音が食堂内に響く。
「ラーイ! 最後やったじゃん~!」
「帰ってきてびっくりしたよ。ほんの一瞬の差だったみたいだから」
「そーそー! だめだったかぁってなった~。
ライ送り出したの俺だからさーもーめちゃくちゃ後悔したからねぇ」
「ライ君、お疲れ様。
1人で侵攻させたって聞いた時はどうなるかと思ったけど、良い結果になって良かったよ」
「みけねこさんもお疲れ様。
皆が1秒でも多く時間を稼いでくれたお陰だね」
「俺らも頑張ったけどさぁ、ジオン達がやべーのなんのって」
「鬼気迫る勢いって言うのかなぁ。あの時間を稼いだのはジオン君達だよ」
「そっか……皆、ありがとう」
「ライさんに頼まれましたから」
俺は1人で秋夜さん達の拠点に行っていたから、俺達の拠点で何が起きていたのかは分からない。
でも、俺を送り出したジャスパーさんはもちろん、ジオン達や皆が俺が破壊するための時間を稼いでくれたのは間違いない。
皆がいたから俺は秋夜さん達の拠点に侵攻しても大丈夫……ではないけれど、頑張ろうと思えた。
「ライさ……ライちゃん! お疲れ様ー!」
「!? み、みきちゃん……!? あ、えっと、あの、お疲れ様……」
「みきさんと菖蒲さんもお疲れ様。
本戦中はほとんど話せなかったから、ゆっくり話せる時間が出来て嬉しいよ」
「あ、え、そ、そう!? へへ……あ、ねぇねぇ! 聞いて聞いて!
結局いわちゃんが罰ゲームなんだって!」
「あー……罰ゲーム……何するの?」
「私は一発芸推したんだけどさぁ……それだけは嫌だって駄々こねちゃって」
「あはは……申し訳ないな……菖蒲さんとみきさんは罠大丈夫だった?」
「あ、私は、大丈夫……」
「私は1回踏んじゃった! でも、毒の罠だったからすぐに治せたよ!」
「それは良かった……って言って良いのかわからないけど。
でも、2人が罠で倒れたなんてことにならなくて良かったよ」
次にこんなイベントがもしあるなら、その時は要改善だ。
イベントも終わった事だし、エルムさんに色々教えてもらおう。
「……ライさん、ありがとう。
フェルダさんに色々教えて貰って……陶芸のこと……。
それに、生産道具も……あ、この先ちゃんと、ライさんに頼むから」
「んー……うん。でも、他に作って貰いたい人とかできたら、遠慮せずにその人に頼んで良いからね」
「そんな人出てこないんじゃないかなぁ……?」
鋳造品はともかく、魔道具はもっと良い物を作れる人がいると思うけれど。
とは言え、魔道具の元となる生産品は皆が作ってくれているので、最終的な出来は俺の腕にかかっている。
今回のイベントで魔道具製造のスキルレベルも上がったし、イベント前に比べると性能の高い魔道具が作れるようになってはいると思う。
だけど……先日イリシアが言っていたように、生産はスキルレベルだけではない。
知識はもちろん、魔法陣の質、魔力の操作、調整……課題はたくさんある。
「ライさん、お疲れ様です。今度また、家にお邪魔して良いですか?」
「いわいさんもお疲れ様。うん、もちろんだよ」
「えー! いわいずっる! 俺も行きたい!」
「サクノさんも是非。碌なおもてなしはできないかもしれないけど……」
「良いの!? やった!」
「種返すね~それと収穫物もあげる~」
「良いの? えーと……裁縫で使えるのをいくつか貰えたら嬉しいな」
種を受け取り、イリシアに視線を向ける。
俺には何が使えるのかわからないので、ぐんぐんさんと話すのはイリシアにお願いしよう。
「あー……いわいさん、ごめんね。
俺がもっと魔道具の事分かってれば、皆にも見えるように出来たかもしれないのに……」
「良いんですよ……言い出しっぺは僕なので……。
本気で駄々を捏ねたら、一発芸はやめてくれたので、まぁ、なんとかなるでしょう」
「一発芸はちょっと……やだよね」
俺も本気で駄々を捏ねて嫌がると思う。
結局罰ゲームは、クランハウス購入時に皆より多くお金を支払うという事で落ち着いたらしい。
「ライさん、お疲れ様です! 優勝おめでとうございます!」
「おめでとう! シルトさんもお疲れ様」
「いやーライさんと同盟組めて良かったっす。
優勝っすよ? 俺未だに信じられないんすよね」
「あー確かに……実感湧かないかも。
でも、この後の結果発表で実感するんだろうなぁ」
「そうっすねぇ……あ、やばい。緊張してきた……」
「う……俺も言ってて緊張してきた……」
「ライさんは、狩猟祭でも優勝してましたし、その時とあまり変わらないのでは?」
「俺あの時、緊張で倒れるかと思ったよ。
それを言うなら、シルトさんとベルデさんだって、品評会の時と一緒なんじゃない?」
「あー……いや、やっぱ違うっすよ。
品評会は細かく分かれてましたけど、今回はそういうの全部、生産と戦闘全部の頂点っすからね」
「や、やめてください……緊張で吐きそうになってきました……」
前回は兄ちゃんと2人きりだったけど、今回はジオン達と一緒に優勝出来た。
それに、生産頑張る隊の皆も。……凄く、楽しかったな。
「こんにちはー!」
飲み物や食事を楽しみながら皆と話していると、ポンッという音と共に、可愛らしい声が聞こえてきた。
聞こえてきた声に覚えがあった俺は、きょろきょろと頭上を見渡してその姿を探す。
「生産頑張る隊の皆様、百鬼夜行の皆様、クリスタル争奪戦お疲れ様です!
今回皆様をスタジアムへ案内させていただく、妖精ちゃんです!
どうぞ皆様、私の事は妖精ちゃんとお呼びくださいね」
「妖精ちゃん!」
「ライ様! お久しぶりです!」
オーダーメイドの防具と交換する必要がなくなった今、もしかしたらもう会えないかもしれないと思っていたので、会えた事に心が躍る。
今回も妖精ちゃんが撮影していたのだろうか。
だとしたら、ずっと近くにいたのだろうけど、やっぱり妖精ちゃんの魔力を見つける事はできなかった。
「ライさん……お助け……妖精ちゃん? とも、仲良いんすね……」
「滅多に会えないけどね」
「滅多に? 会える時もあるんですか?」
「防具のオーダーメイドで会えたよ」
「今回も、呼ばれたらすぐに出て行こうと待ち構えていたんですが……問題が起きなくて残念です」
「問題がないならない方が良いのでは……?」
「おっと! もう時間がありませんね!
それでは皆様、行きますよ~!」
パチンと妖精ちゃんが手を叩くと同時に、光が体を包んだ。
「このまま控室に直行です!
控室からはギルドの職員が案内しますので、寂しいですが皆様とはここでお別れです」
「妖精ちゃん! またね!」
「はい! またお会いできる日を楽しみにしてます!」