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day103 クリスタル争奪戦⑧

兄ちゃんが戻ってくるまで10分。

手の内がばれてしまったので、次戦う事になったら勝てないだろう。


終了時刻の21時までは約40分。

朝陽さんやロゼさん達は、恐らく秋夜さん達の拠点に侵攻している。

俺達が今兄ちゃん達の拠点のクリスタルを破壊したら、通常時よりは少ないとは言え、秋夜さん達の拠点に撤退ポイントが入ることになる。

クリスタルを破壊した後、1位である秋夜さん達に届くだろうか。

何にせよ、クリスタルを破壊しなければ、3位のままだ。


花弁となって消えて行くプレイヤーの姿を目に映して、溜息を吐く。


負けているわけではないけれど、勝っているわけでもない。

リスポーンしたプレイヤーや兵士さん達がお城から出てきている事もあって、扉に辿り着くことさえできていない。


「あ゛ーーー腹立つ!!!

 どんだけ湧いて出てくんだよ!」


共闘した時にガヴィンさんが石像を投げて、屋根に穴を空けた事を知っているANARCHY&鏡花水月の人達は、ガヴィンさんの動きに注意しているようで、ガヴィンさんは石像を投げる事も、その跳躍力を活かすこともできていないみたいだ。

イライラしているガヴィンさんの姿を見て、ぱっと耳を塞ぐ。


『――――――――――――!!』


びりびりとガヴィンさんの怒りの咆哮が辺りを満たす。

いくらガヴィンさんが強くても、最前線プレイヤーに囲まれている中、防御力が下がった状態で戦うのは危険だ。

フェルダは今も尚グラーダさんとの戦闘が続いているのか近くにいない。


「ヤカさん!」

「はいはい」


お城の扉へ繋がる階段の下で戦うガヴィンさんの元へ走り寄り、《エリアルポーション》を砕く。

暴れ回るガヴィンさんにポーションを飲ませるのは困難だ。

《エリアルポーション》のクールタイムが回復するまではヤカさんの回復魔法に頼るしかない。


暴れ回るガヴィンさんへの対応に人数を回す事になってしまった事で、俺達への攻撃の手が少なくなっている。

今のうちだと階段へ足を進めるも、さすがは最前線プレイヤー。そんな考えはお見通しとばかりに、すぐに気付いてこちらへ攻撃が飛んでくる。


「ライ!」

「リーノ!」

「飛ぶか!?」

「無理かな!」


盾に飛び乗ることすら難しそうだ。

運良く飛び乗れたとしても、飛び上がったら撃ち落されるだろう。


「リーノ、ガヴィンさんの事よろしく!」

「んあ? お、おお……すげぇな……」

「あの状態だと防御力が凄く下がってるみたいなんだよね」

「なりふり構わず突っ込んでんのに?

 やべぇな……行ってくるわ!」


リーノの盾と防御力、そしてヤカさんの回復魔法があればなんとかなる……なったら良いな。

俺はとにかくクリスタル部屋へ行く事だけを考えて動こう。


ちらりと周囲に浮かぶ剣に視線を向ける。

次が最後になりそうだ。


目の前にいるプレイヤーに刀を振るいながら、その先にいるプレイヤーに目掛けて7本の剣を飛ばす。

プレイヤーに届いた剣は確かな斬撃音を響かせた後、俺の元へ帰ってくると、ばらばらと下に落ちてしまった。

魔石を変えればまた使えるようになるけど、生憎魔石は持ってきていないし、ここで魔石を取り換える時間もない。


落ちた剣に素早く触れて、アイテムボックスに回収しておく。

魔道具として機能しないだけで、剣として装備することは出来る。

一応まだ俺に所有権があるはずなので拾う事はできないだろうけど、放置して離れたらさすがに所有権はなくなってしまうだろう。

ジオンが作った剣を拾われるのは凄く困る。


「【疾風斬】!」


大きく刀を薙ぎ払った先に風の刃が飛んでいく。

このイベント中に使えるようになった刀術の範囲攻撃スキルだ。

これまでのスキル、刃斬と連斬は直接斬り付けるスキルだったけど、疾風斬は多少離れた場所でも攻撃出来る。

魔法と同じく、近い方が攻撃力は高いみたいだけど、中距離かつ範囲攻撃が出来るのは凄く便利だ。


道を阻む人達からの攻撃を避け、刀を振るい、前に進もうと試みるが、なかなか進むことができない。

ガヴィンさんの猛攻のお陰で、きた時より階段下の人数は減っていっているものの、思うように進めない。


兄ちゃんが戻ってくるまであとどれくらいだろうか。

あまり時間は経っていないようにも感じるし、凄く時間が経っているような気もする。


「……っおい! みけねこがいない! 誰か倒したか!?」

「は!? さっきまでいただろ!」

「倒れたとこは見てない!」


ANARCHY&鏡花水月の人達の言葉に周囲を見渡してみるが、みけねこさんの姿が見当たらない。

ジャスパーさんに視線を向けるとにんまりと笑っていた。


「みけねこ倒されちゃったんだよね~」

「……くそ! おい! 城の中へ急げ!!」

「え!? リスポーンしてるんじゃないの!?」

「みけねこは空より隠密が高いんだ! もう中にいる!!」


ガヴィンさんによる猛攻で起きた混乱に乗じて、いつの間にか隠密でするりと中に入ってしまったらしい。

慌てた様子で階段へ向かうプレイヤー達に攻撃を仕掛ける。


「みけねこはいないってぇ~。

 お前らは俺の相手ー!」

「もーーー! めんどくせー!!

 うちの誘い蹴った事一生根に持ってやるからな!!」

「あっはっは! 早くPvPエリア実装されると良いねぇ!」


やいやい言い合いながら、ガキンガキンと派手な斬撃音を響かせて戦闘するジャスパーさんの姿から、後方から襲い来る魔力へ視線を向ける。

振り向き様に魔力を刀で切り裂けば、迫ってきていた火弾が真っ二つに別れて小さな光と共に消滅した。

魔法弾では難しいかなと思っていたけど、出来てよかった。

黒炎弾と風神弾が衝突した時は激しい光と共に消滅していたけど、威力の差なのだろうか。


俺達の妨害を抜けてお城の中へと入ってしまった人達の慌ただしい声が聞こえてくる。

みけねこさんが見つかってしまったのか、それとも見つかっていないのか。わからないけど、いくら隠密のスキルレベルが高いからと言ってもみけねこさん1人に任せるのは得策じゃないだろう。

隠密を使うプレイヤーを目の前で見た事がないので、どういう状態になるのかはわからないけど、見えなくなるわけではなく気付かれにくくなるスキルだから、いつ気付かれるかわからない。


スキルレベル上げの為にちまちま使っていたお陰で、俺の隠密のスキルレベルは9になっている。

刀で戦うので使ってもすぐに解けてしまっていたけど。

空さんやみけねこさんの隠密のスキルレベルがどれくらいなのかはわからないけど、隠密を取る人は少ないという話だったし、9でも高いほうなのではないかと思う。


周囲に視線を巡らせ、扉までの道を探す。

階段下から真っ直ぐに登って行くのは厳しそうだ。

階段上、2階に位置するお城の扉まで飛ぶことは無理だけど、階段の途中くらいまでなら飛べるかもしれない。


俺に意識が向いていない状態じゃなければ、隠密を発動することは出来ない。

お城の中に入ることさえできれば、後は見つかって良い。

一瞬の目くらましができたら……あ、そうだ。


「……ジオン。ジャスパーさんに《煌星》を俺の近くに投げて欲しいって伝えてくれる?」


喧噪の中、ジオンに近付いて耳打ちする。


「伝えたら、あの辺りに」


そう言って、人の集まる階段下から少し離れた場所に視線をやり、次に階段の中腹に視線をやる。

その視線を追ったジオンは、小さく頷いて、周囲のプレイヤーを攻撃しながら、ジャスパーさんの元へと移動して行った。


ジオンがジャスパーさんに耳打ちする姿を視界の隅に捉えつつ、俺も刀を振るいながら少しずつ喧噪の中心から離れる。


幸運な事に、みけねこさんを追う為なのか扉が開かれたままになっている。

城内へ向かう為に階段を登っている人はいるけれど、多くはない。

《煌星》が発動している間に、階段下を守るプレイヤーの頭上を気付かれずに飛び越えることが出来れば、後は隠密で扉の中へ入る事ができるのではないだろうか。


「投げるよー!」


ジャスパーさんが投げた《煌星》が俺の足元へ着弾する瞬間に、階段下から一気に距離を取る。

口に出さずに隠密を発動して、ジオンのもやを探す。

ジオンが俺を見失うことはない。《煌星》の光に包まれている状態でも、見つけてくれるはずだ。


辺りに色が戻ると同時に、ジオンのもやがあった場所に向かって走る。

ジオンの構えた刀へ飛び乗り、勢いを殺すことなく横に構えられた刀を蹴って飛び上がる。


コツンと石段を叩く足音を立てて降り立ち、後ろへ視線を向ける。

階段下で戦う人達はこちらに気付くことなく、ジャスパーさんやガヴィンさんと戦っている。

気付かれる前にお城の中へ入ってしまおう。


前を走るプレイヤーの後を追って、難なく扉の中へと入る事ができた。


人がいない方向へ向かい、廊下の角に隠れて周囲を探る。

1階に続く階段近くの柱の向こうにみけねこさんのもやを見つけることが出来た。

もやを見つけると同時に、みけねこさんの姿が見えるようになる。

どうやら柱の影から城内にいるプレイヤーや兵士さん達の動向を伺っているようだ。

ばらばらとあちこちに散らばり、みけねこさんを探す人達の間を隠密で抜けるのは難しいのだろう。


一度小さく息を吐いて、気合を入れる。


「【疾風斬】!」

「は? は!? ライ君きてる!!!」

「へ!? まじじゃん!」


城内の人達の意識を俺に集中させてしまえば良い。

そうしたら、みけねこさんはクリスタル部屋に向かいやすくなるはずだ。


「道を塞げ! 走らせたら終わるぞ!」

「レンは!? どこ行った!? あいつ負けたわけ!?」

「負けたから弟君きてるんでしょ!」


みけねこさんを探していたプレイヤーが俺へと向かってくる。

兄ちゃんと同じくらい強い人達だ。絶対勝てない。無理。でも、時間を稼がなければ。

倒す必要はない。走り抜けたら良い。


1階へ続く階段に向かって廊下を走る。


「【強化】」


俺を狙って放たれる攻撃を避け、近くにいるプレイヤーに向かって刀を振るう。


視線でみけねこさんの場所を知られるわけにはいかないので、魔力感知だけでみけねこさんの動向を探る。

どうやら階段に向かう事ができたようだ。


道を塞ぐプレイヤーへ攻撃を繰り出しながら、足を進める。

一息吐く暇もない程に刀を振り続け、怯んだ隙に横をすり抜け、あちこちから飛んでくる攻撃から逃れながら走る。

別に、俺はクリスタル部屋に辿り着けなくても良い。だけど、みけねこさんが先に行ってる事を悟られるわけにはいかない。


「うっわ……まじですばしっこいな……!」


避け切れなかった攻撃によってHPがみるみる減っていく。

防具が一新できていなかったら、もう倒れていたかもしれない。

隙を見つけてなんとか《エリアルポーション》を砕いて回復するが、回復量は多くはない。

出来ればポーションを飲んで回復したいけど、そんな暇はなさそうだ。


ひゅっと風を切って、飛んできた矢を刀で弾く。

矢くらいなら弾くことが出来るけど、剣は無理だ。

壁を蹴って飛び上がり、ショートソードの攻撃を避け、着地点にいるプレイヤーに向かって刀を振り下ろす。


身軽であることを喜ぶべきか、力がない事を嘆くべきか。

こんな場面だと力でごり押しするのも大変だっただろうし、身軽であることを喜んで良いのだろうけど、納得はいかない。


「1階誰かいたっけ!?」

「わかんないけど! でも誰かはいるはず!」


助走をつけて最上段から飛び降りる。

体を起こして、視線の先にいるプレイヤーを目掛けて走る。


向かってくる俺に慌てることなく振りぬかれた剣を重心を落とすことで避けて、そのままトンと鎧に左手で触れる。


「【黒炎弾】」


パリンと音を立てて花弁のエフェクトが舞う。

ほっと息を着くと同時に、廊下の先から現れた人物の姿を目に映して、苦笑する。


「今回は俺の勝ち」


次々と飛んでくる魔力弾をこの狭い廊下で避け切る事は無理だ。

大きく溜息を吐いて、兄ちゃんの先を魔力感知で探る。

いくつかのもやがこちらへと向かってきている中で、逆へ進むもやを1つ見つけて、安堵の息を吐く。


「……ううん。俺の勝ち」


避ける事もせずに受けた魔力弾が、僅かに残っていたHPを全て削っていく。

俺の言葉にはっとして後ろを振り向いた兄ちゃんに、してやったりと口角を上げた。


『クリスタルが破壊されました。

 勝者は拠点『生産頑張る隊&百鬼夜行』です。

 破壊ポイントとボーナスポイントが追加されます』

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