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day103 クリスタル争奪戦④

クリスタルを破壊して拠点に帰ってきて次の拠点、そしてまたクリスタルを破壊して帰ってきては、たまにご飯を食べて次の拠点を繰り返して5時間。

本戦も折り返し地点に差し掛かり、俺達の疲労も着実に蓄積されている。

忙しさで言うなら兄ちゃんと2人で参加した狩猟祭より上だ。


さすがに5時間も経つと、強い拠点ばかりになってくるので、破壊までに時間が掛かるようになってきた。

とは言え、まだ侵攻中に誰も倒されることなく、1度も撤退せずに破壊出来ているので、上出来ではないだろうか。


「次ここねー! 人数多いから気を付けて!」

「はーい!」


侵攻してくるクランも増えてきた。

行く拠点が減った事もあるし、総ポイントの多さ、レベル帯、人数で狙われているのだろう。

撤退したクランがまたすぐに侵攻してきて、また撤退なんて時もあったみたいだ。

もちろん、聞いてすぐに拠点に向かい、クリスタルを破壊させてもらった。


現在の順位は2位。1位は兄ちゃん達だ。もちろん、3位は秋夜さん達。

前回見た時は秋夜さん達が1位だったし、その前は俺達が1位だった。

狩猟祭の時のように1位との差が物凄くあるわけではなく、抜いたり抜かれたり、抜き返したり、少しも手を休める事ができない。


「ライさん、右に行きましょう」

「了解!」


ジャスパーさん曰く、序盤の兄ちゃん達と秋夜さん達は、倒しやすい拠点を狙って二手に別れて侵攻していたようだ。

1つの拠点から得られるポイントは多くはないけど、数が稼げる。

俺達も最初はそうだったみたいだけど、よしぷよさんの拠点を狙った後くらいから、ポイントが高い拠点を狙って侵攻していたみたいだ。

どっちに行っても時間にほとんど差がないとジャスパーさんは言っていた。


俺やジオン、フェルダはレベルこそ低いけど、装備で底上げされた攻撃力と防御力は最前線プレイヤーと大差ない。

最前線プレイヤーのジャスパーさんは更に底上げされているし、ガヴィンさんとヤカさんに至っては、そもそものレベルが最前線プレイヤーよりも随分高い。

6人しかいないとは言え、一番多いと言われている45から55くらいのレベルの人達相手だと、厳しい状況になる事なく戦えている。


「あっはっは! 楽しくなってきた!!」


その跳躍力で兵士さん達の頭上を越えて、プレイヤー達が集まるど真ん中に降り立ったガヴィンさんが、嬉々とした声を上げる。


戦闘が大好きらしいジャスパーさんももちろん凄く強いし何度も助けてもらったのだけど、イキイキと暴れ回るガヴィンさんが一番とんでもない。

エルムさんが前に『今でこそ大人しくなってるが、昔はとんだ悪童だった』と言っていたけど、その当時の勘を取り戻しているのか、拠点に行く毎に凶暴性が増している気がする。


「あ、やば。大丈夫だとは思うけど、一応耳塞いで」

「うん? うん」


ガヴィンさんの様子を伺いつつ戦うフェルダが、顔を顰めて言った言葉に従って、耳を塞ぐ。


『―――――――――!!!!』


何を言ったのかは聞こえなかったけど、ビリビリと大気が震えたのが分かる。

精霊女王が怒った時に似ている。


「え!? 何!? 何事!?」


耳を塞いでいた手を外して問いかけると、呆れた顔をしたフェルダが溜息を吐いた。


「龍人の咆哮。俺のスキルにもあるでしょ。

 ま、俺は腕痛くなるから、気を付けてるけど」


ガヴィンさんの周りの人達が動けなくなっているのが分かる。

麻痺を引き起こせるスキルなのだろうか。


「近くで咆哮を聞いたら、麻痺になる。龍人と龍種には効かないけど。

 それと、あいつこっから更に暴れ回るよ。力が制御できなくなるから」

「なるほど……」


フェルダが黒龍人の咆哮を使ったところは見たことがないし、スキル説明には『昂りが咆哮となり、自身と周囲に伝搬する』としか書かれていなかったので、いまいちどんなスキルか分かっていなかったけど、漸くどんなスキルか分かった。

咆哮を聞いた人達に麻痺状態と、自身の強化……と言うよりは、バーサーカー状態だろうか。

フェルダの気を付けてるという言葉から予想するに、気持ちが昂ると勝手に使用されてしまうスキルなのかな。


「《エリアルポーション》持ってる?」

「うん、あるよ」

「ちょうだい。あの状態だと防御力下がってるから」

「わ、たくさん持って行って!」

「ありがと。ま、冷却時間あるし、ライとジオンも気をつけて見てやって」

「うん! わかった!」

「苦労をかけるね」


ガヴィンさんを誘って良かったと、台風のように暴れ回るガヴィンさんの姿を見て思う。

フェルダは疲れた顔をしているけど、なんだかんだ言って楽しそうだ。


「ガヴィン待て! それヤカ! ヤカだから!」

「あ? 邪魔」


……楽しさより気苦労のほうが多いかもしれない。

ヤカさんはガヴィンさんの言葉にけらけら笑うと、ガヴィンさんから離れて俺の元へとやって来た。


「婆さんが好きそうなやつだね。

 僕もあーいうやつ、好きだけど」

「ヤカさんは、エルムさんの知り合いの職人さん達と一緒に作業はしてなかったの?」

「魔石渡すだけだしね。面白そうだから今度からは行こうかな」


そう言いながら、【聖弾】をガヴィンさん目掛けて放つ。

聖属性の魔法は回復やバフだけしかなく、聖弾は回復魔法なのだそうだ。


エルムさんにしてもヤカさんにしても、それからガヴィンさんにしても。

普段は魔道具職人さんだったり、魔石屋さんだったり、石工職人さんだったり……戦いとは無縁そうなのに、こんなにも強いのか。

魔物のいる世界だと案外そういうものなのかな。全員が全員そうというわけでないだろうけど。


「この世界の人達……ヤカさんって、職業ってあるの?」

「は? 魔石屋だけど……?」

「そういうのじゃなくて……うーん……俺、テイマーなんだけど」

「ああ、そっち。あるよ。まぁ、ないやつも多いけど」

「ない人もいるの?」

「元々の才能も必要だし、他にも一定以上のスキルレベルが必要だったりするからね」

「得意なスキルが職業になる感じ?」

「ま、そんな感じかね。産まれた時から持ってるやつもいるよ。

 ちなみに僕は魔術師で、産まれた時からそうだったね。

 僕みたいにそれを仕事にしてないやつもいるし、変わることもある」


俺は最初から職業があったけど、この世界の人達は違うみたいだ。

そう言えば、ジオン達も職業はない。いずれ職業が決まったりするのだろうか。

聞いている感じでは、職業というよりは適正のほうが近い気がする。


プレイヤーの職業は恐らく変わらないはず……もしかしたら、変わったり、進化したりするのかもしれないけど、今のところそういう話は聞いた事がない。

もしあったとしても、俺の場合テイマーに固定されているから変わらなさそうだ。

テイマーの上位職とかがあったら変わるかもしれない。


「【黒炎弾】」


強そうなもやの人に近付いて、黒炎弾を放つ。

遠くからでも、当たりさえすれば例え最前線プレイヤーでも致命傷だけど、避けられたら困るので、黒炎弾を打つ時はほぼ零距離で打つようにしている。


「……あ、ネックレスつけんの忘れてた」

「言われてみれば、確かにつけてないね」


ヤカさんはポケットからネックレスを取り出して、首から掛けた。


「これからはもうちょい活躍できるかな」

「これまでも充分凄かったのに?」

「そうでもないでしょ。ただ魔法打ってただけだし。

 ま、それはこれからも変わらないけど。【闇柱】」


ぶわりと闇の柱が辺りに噴き上がる。

ネックレスを付ける前よりも一つ一つが太く、勢いも違う。

魔力感知で見える魔力も大きくなっていて、威力が随分上がっていることが分かる。


「降参! 降参! 降参します!」

「うーん……でも皆、戦ってるけど……」

「俺だけ降参!!! ごめんなさい! 見逃してください!」

「んー……ごめんね! 【連斬】」

「ぎゃー!! 誰だライさんなら謝ったら許してくれそうって言ってたやつー!!!」


降参すると言う相手に攻撃するのは凄く気が引けるけど、スキルを使って倒す。

他の拠点でそう言われて攻撃を止めたら、その場では確かに何もせずどこかへ走って行ってたんだけど、その後攻撃を仕掛けてきたことがあったので、良くないなと思った。


「【水弾】、【火弾】、【風弾】」


ヤカさんからぽんぽんと少し離れた場所にいるプレイヤー達を目掛けて魔法弾が飛んでいく。

こちらも威力が高くなっているのだろう。


「凄いね、そのネックレス」

「そんな良い物でもないよ。あんまつけたくないんだけどね。

 まぁでも、威力もあがるし、冷却時間も減るし、こういう状況なら便利だね」

「冷却時間って減るの!?」

「減るよ。スキルでもある」

「そうなんだ? 初めて聞いたよ」

「まぁ、珍しいスキルだからね。魔力冷却ってスキル」

「どれくらい減るの?」

「魔力制御と似たようなものかな。

 僕は、このネックレスと合わせて、半分くらい減ってる」

「半分……!」


半分は大きい。是非とも覚えたいスキルだ。

もちろん、スキルレベルを上げないと半分減ることはないだろうけど。

それに、魔力冷却の効果がある装備もないし。


これまでに融合や凝固で出来た効果付与では見たことがない。

スキル一覧でも見たことがない。というか……あまりスキル一覧を確認していない。

呪術スキルが追加された時は見たけど、全部をゆっくり見ていたわけではない。


個人的には、魔力の調整や制御がやり易くなるスキルも欲しい。

魔力感知で見れる分、他の人達よりはやり易いのだろうけど、もっと上手く出来るようになりたい。

スキル名だけ見たら魔力制御で出来そうだけど、使用MPが減るだけだ。

ああでも、兄ちゃんは魔力制御に意識をずらしたら虹色の世界から解放されたと言っていたし、実はMPが減る以外にも使い道があったり……兄ちゃんの場合、種族特性が反映された魔力制御だから、俺の魔力制御とは違うかな。


今すぐにでもスキル一覧をゆっくり確認したい所だけど、そんなことをしている場合じゃない。

頭を振って意識が逸れてしまっていた思考を戦闘に切り替える。

ぼんやり突っ立っていたわけではないけれど、別の事を考えているとどうしたって動作が遅れる。


「ジオン、ガヴィンさんの近くで《エリアルポーション》使ってきてくれる?」

「ええ、わかりました」


ちらりと2階の入口に視線を向ける。

何分か前にジャスパーさんが入って行く姿が見えたけど、そろそろだろうか。


階段下にはジャスパーさんを追おうとしている人達がいるけど、ガヴィンさんによって足止めされている。

足止めというか……ガヴィンさんの猛攻に巻き込まれている。

斬られても、魔法が当たっても、攻撃の手を止めないガヴィンさんの姿に、大丈夫だろうかと心配になる。

フェルダがいるから大丈夫だとは思うけど。


『クリスタルが破壊されました。

 勝者は『生産頑張る隊&百鬼夜行』です。

 破壊ポイントとボーナスポイントが追加されます』


ジャスパーさんがクリスタルを破壊したみたいだ。

目の前にいたプレイヤーががくりと肩を落とした。


刀を握ったまま、門の外へ向かう。

一矢報いようとしているのか、破壊された事に対する怒りなのか、理由は分からないけど、クリスタルを破壊された後に攻撃をされることがあるので、気を抜かずに走り抜ける。

これまで、破壊された後に攻撃してきた人はほとんどいなかったけど、万が一にも攻撃されたくはない。


帰ってきたクリスタル部屋で他の皆を待ちながら、スキル一覧を確認する。


「……出てたんじゃん!」

「どうしたの?」

「俺、魔力冷却取得できる! しかも、種族特性が反映されてるやつもある!」

「はぁ……やっぱとんでもないわ、異世界人」


SP30を使って【魔力冷却・地獄の業火】を取得する。

視界に映るスキルクールタイムのアイコンの時間を確認してみれば、時間が減っている事が分かる。

10%減少されているようだ。魔力冷却も魔力制御と同じく、属性スキルでなければ反映されないようで、刀術のスキルには反映されていない。

ただ、ジオン曰く、魔刀術なら魔力制御が反映されるそうなので、魔力冷却も反映されるようになるのではないかと思う。


黒炎弾なら3分減って27分、黒炎柱なら6分減って54分のクールタイムになった。

……それでも長いな……恐らく魔法を使えば使う程、スキルレベルが上がるのだろうけど、なかなか上がらなさそうだ。

種族特性の効果についてはいずれ分かる……と、思う。

スキル説明には『クールタイム減少』とだけ書かれている。今回は分かり易い。詳細は分からないけど。


「たっだいまー! 次行こー!」

「はーい!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 星4種族の種族特性が反映されたスキルがそれだけなはずがないですよねぇ...? 今後どうなるのやら
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