day103 クリスタル争奪戦①
「……凄いね秋夜さん! 清々しい程に悪役だよ!」
「喧嘩売ってる?」
「いや、純粋に凄いなって思って」
「尚更性質悪いねぇ」
兄ちゃんに提案された時はそんなこと思わなかったのに、秋夜さんが提案すると一気に悪役感がある。
「兄ちゃんは俺達で倒したいから、共闘はしない。
それに、兄ちゃん達とこの後共闘する予定があるんだよね」
「ふぅん……うちにくるの?」
「ううん。えーと、星の案内人ってクランの……」
「へぇ? そこに行くの? それは助かるねぇ」
「別に秋夜さんの為に行くわけじゃ……」
「そうだねぇ。……ねぇ、その共闘、僕達も行って良い?
僕達がいたら確実に潰せるよ?」
「んん……!」
俺達と兄ちゃん達、そして秋夜さん達で共闘したら、確実に脅威を1つ減らせるのは確かだ。
とは言え……秋夜さんと共闘か……。
「……クラメンの人達が嫌がるんじゃないの?」
「まー、そうだねぇ。うるさいだろうけど、どうとでもなるよ。
あいつら馬鹿だから」
馬鹿かどうかはともかく、秋夜さんが言えば文句は言いつつも、頷いてくれそうではある。
「……ここに来てること、皆に言ってるの?
話にきただけでも、帰ったら撤退ポイント取られちゃうよね?」
「もちろん、黙って出てきたよ。
さっきから凄い量のチャットが飛んできてるねぇ」
「なんで俺が恨まれるような事平気でしちゃうの!?」
俺の言葉に、秋夜さんは楽しそうに笑う。
「せめて、共闘して良いかクラメンの人達に聞いてからにしてよ」
「はいはい。今すぐ丸め込むよ」
「言い方……」
秋夜さんがウィンドウを操作する姿を横目に見つつ、ジャスパーさんとみけねこさんに視線を向ける。
「ジャスパーさんとみけねこさんはどう思う?」
「良いんじゃね? 勝率6割が10割になるし~」
「シルトちゃんに話してくるね」
ジャスパーさんとみけねこさんは賛成のようだ。
兄ちゃんにもメッセージを送っておこう。
『TO:ライ FROM:レン
面白いね りょーかい 聞いてくる』
面白いのか……まぁ、3つの拠点が共闘して優勝候補の拠点を倒すって言うのは面白い展開なのかな……一方的過ぎる気がする。
「丸め込んだよ。うちから20人、連れてくから」
「そんなに……?」
「大体半分だけど。
あぁ、ライ君達は人数少ないもんねぇ」
「ぐぅ……俺達は6人で行くよ……」
「誰?」
「ジャスパーさんと俺と……ジオン、フェルダ、ガヴィンさん、ヤカさんだね」
「2人知らないんだけど」
「サポート枠の人だよ。あそこにいる2人」
「ふぅん……龍人とリッチ?
ライ君のとこの黒龍人と似てるねぇ」
「……フェルダとガヴィンさんは兄弟だよ」
相変わらず何が見えてるのか分からないけど、とんでもないと思う。
「あんな強い人がサポート枠になるんだねぇ」
「え? レベルも分かるの?」
「レベルが分かるわけじゃないけど、強いかどうかは分かるよ。
まー、大丈夫そうだねぇ」
ピロンと兄ちゃんからメッセージが届く音がする。
『TO:ライ FROM:レン
OKだって 時間変更しよう
これから5分後で良い?』
『TO:レン FROM:ライ
大丈夫! 伝えておくね!』
「今から5分後に行くことになったよ」
「そ。じゃ、帰る。また後でねぇ」
秋夜さんはくるりと踵を返し、またひょいと毒の罠を飛び越えると、門の外へ向かって行く。
避けてしまう人もいることがわかって良かった……とは言え、その対処はできそうにないけれど。
門の外に向かった秋夜さんは、来た時と同じ光に包まれて消えた。
一度門の中に入った後、門の外に出たら帰る事ができるらしい。
『拠点『ラセットブラウン&ローアンバー』の撤退を確認しました。
撤退ポイントが追加されます』
ポイントを確認すると、撤退ポイントが追加されていた。
ランキングで見れる秋夜さん達のポイントから考えるに、恐らく撤退ポイントは……総ポイントの10%だろう。
それにしても……撤退ポイントを渡す事になると分かっていて話にきたのか。
序盤で取られたところで秋夜さん達なら何の問題もないんだろうけど……。
「仲良いね~」
「仲良くはない……」
「えーだって、俺も会えば話すけどさぁ~一言二言だよ?」
仲が良いかはともかく……よく話す相手ではある。
俺からしたらライバルって感じではあるんだけど……秋夜さんからしたら、俺なんてライバルでもなんでもないだろう。
そもそも、秋夜さんのライバルは兄ちゃんになるのではないだろうか。
ジャスパーさんと話しながら、クリスタル部屋へ向かう。
途中、シルトさんから『頑張ってくださいね!』と激励の言葉を貰った。
時間を確認しつつ、拠点指定で『星の案内人』と入力して指定すると、『星の案内人&マルメタピオカガエル』と書かれたウィンドウが表示された。
マルメタピオカガエル……好きなのだろうか。
「皆、準備は良い?」
「ええ、お任せください」
「正直、ガヴィンの相手で精一杯」
「はぁ? 別に面倒見てくんなくても大丈夫だから。
今の兄貴は俺よりレベル低いんだから、俺が面倒見てあげるよ」
「杖貰ったしそれなりにはいけるんじゃないかな」
皆、準備万端のようだ。
呪術と組み合わせた魔道具は、防衛組の皆に渡してある。
シアとレヴはなくても呪毒と呪痺、呪火が使えるので、渡していない。
「それじゃあ、初戦、張り切って行こう!」
『転移』の文字に触れると、俺達の周りを光が覆った。
光が消えると、目の前には大きな城壁の門が現れた。
ちらりと辺りに視線を向けてみれば、城壁の穴が大きな岩で塞がれているのが見える。
城壁の上に兵士さんはいないようだ。修繕ができていないのだろう。
門の向こうに大きな岩が1つ、門を完全に塞いでいるわけではないけれど、1人か2人くらいしか通れないであろう隙間を開けて置いてあり、中の様子は伺えない。
「ライ、早いね」
「兄ちゃん! それに、朝陽さんも!」
「よ! 元気そうだな!
お、ガヴィンじゃねぇか。お披露目会ぶりだな!」
「ん、久しぶり」
兄ちゃんと朝陽さんの他にも、全員で20人くらいの人達が来ている。
ロゼさんと空さんはいないようだ。
俺達の人数の少なさに、申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「時間通りに来たと思ったけど、僕達が最後?」
「お前! 足引っ張んじゃねぇぞ!?」
「今回はしかたなぁく……秋夜さんが言うから共闘してやるけど、敵だってこと忘れんなよ!?」
秋夜さんのクラメンは相変わらずだ。
全員にぐるりと視線をむけて、お辞儀する。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。
クリスタルは……早い者勝ちってことで」
「そうだねぇ。ま、序盤だしねぇ」
岩の向こうから、声が聞こえてくる。
あちらからもこちらの様子は岩に阻まれて見えないだろうけど、誰かが来たことは分かっているのだろう。
「フェルダ、壊せる?」
「んー……ガヴィン」
「余裕」
ガヴィンさんが前に出て、指にぐっと力を入れて、鋭い爪を岩に突き立てた。
まるで豆腐に指を突き立てたかのように、するりと突き刺さった爪に更に力を籠めると、バキバキと大きな音を立てて、岩に亀裂が入っていく。
バキバキと全体に亀裂が走り、やがて大きな音を立てて岩は崩れ落ちた。
兄ちゃんと秋夜さんと共に、崩れて欠片となった岩の上を通って門を潜り抜ける。
広場に待ち構えていたたくさんの人達が、城壁内に現れた俺達を見て、口を開く。
「それは無理!!!!!」
「俺達はここで終了です!!」
「勝てるかボケー!!!」
上がった声に秋夜さんが愉快そうに笑った。
慌てている今がチャンス……先手必勝だ。
前に出て、広場にいる人達に向かって手を翳す。
「【黒炎柱】」
地響きと共に、幾本もの黒炎の柱が間欠泉の様に噴き出した。
大きな柱となって湧き出た黒炎が辺り一面に溶岩の様に広がり、広場の人達を飲み込んでいく。
ぶわりと広がる熱風は黒炎弾以上の温度だ。ジオンは大丈夫だろうか。
「ジオン、大丈夫?」
「ライさんの魔法なので、大丈夫ですよ。
そうでなければ……動けなかったでしょうね」
「それなら良かった」
ジオンが大丈夫なら問題はない。
とは言え、暑さに強いらしい俺でも凄く熱くて、暑いのだから、他の人達はもっと暑いのだろう。
「なるほど……とんでもないな」
「黒炎弾だけじゃなくてこっちも対処しなきゃいけないわけ?
……ライ君、僕の拠点でこれ使うの禁止」
「一番使いたい相手なんだけど」
黒炎柱が消えた広場に視線を向ける。
さすがは最前線プレイヤーと言うべきか。
あれだけの威力の黒炎柱だったと言うのに、30人いる兵士さん達の8割は今の黒炎柱で減らすことが出来たけど、40人程いるプレイヤーは3割程度しか減っていない。
つまり、兵士さんも含めて約30人の人達とこれから戦わなければならない。
とは言え、満身創痍と言った様子の人がほとんどなので、共闘の役目は果たせたのではないかと思う。
「10分で片付けるよ。復活されたら面倒だからねぇ」
「はい! 秋夜さんに続けー!!」
「俺達も秋夜さんに良いとこ見せるぞ!」
「"俺達も"って言うな! "も"って言うな!
あいつは良いとこ見せてねぇから!!」
「秋夜さんに良いとこ見せるぞ!!!」
「……馬鹿なやつらだよ、本当」
楽しそうだなと思う。凄く仲が良い。
秋夜さん達を皮切りに、鏡花水月とANARCHYの人達もどんどん戦場へと飛び込んで行く。
「ライ。他のクランの子達は気にしなくて良い?」
「あー……そっか、魔法当たるよね」
俺やジオン達、それから生産頑張る隊の人達にはダメージは与えられないけど、兄ちゃん達や秋夜さん達にはダメージが通る。
罠の魔道具は敵味方関係なくダメージが通ってしまうけど。
「まぁ、大丈夫だよ! みんな凄い人達だから!」
「そう? なら、良いか。
【水柱】、【闇柱】、【雷柱】」
次々と辺りから水と闇と雷の柱が立ち昇る。
進化属性と基本属性との差は単純に、柱の太さと威力のようだ。
「こらー!! ライー!! 死ぬっつーの!!!」
「朝陽さんなら大丈夫だよー!」
「おま……! そういうとこレンとそっくりだわ!」
刀を抜いて、俺も戦場へ向かう。
目の前にいるのは俺よりも20程レベルの高い人達だと思うと、怖くて仕方ないけれど、大きく息を吸って気合を入れる。
ヤカさんの魔法なら当たらない事がわかっているので、お構いなしに魔法柱の中に飛び込んで、どんどん刀を振るっていく。
「ライさん、背中は私にお任せください」
「ありがとう、ジオン! ジオンの背中は俺に任せて!」
ジオンが傍にいるなら大丈夫だ。
俺が倒れても誰かがクリスタルを破壊してくれるだろうという安心感もある。
だからと言って、倒れるつもりはないけれど。
「兄貴、だいぶ鈍ってんじゃん?」
「ま、すぐに追い付くから」
ガヴィンさんの戦い方は、予想通りフェルダとよく似ている。
フェルダよりもレベルの高いガヴィンさんは、フェルダ以上に派手に動き回り、向かってくる相手をフェルダと共にちぎっては投げ、ちぎっては投げ……とんでもない兄弟だ。
「……ちょっとやり過ぎたかな」
「うーん……兄ちゃん達と俺達だけでも、なんとかなったかもね」
秋夜さん達が参加したことでオーバーキルになった気がしないでもない。
ジャスパーさんは勝率6割だって言っていたけど……。
「勝率6割?」
「ライの黒炎柱は計算に入れてないって~。知ってたら10割だから」
「なるほど」
そう言えば、ジオン達には伝えたけど、生産頑張る隊の人達には伝え忘れていた。
「でもこれ、クールタイムがとんでもないよ。1時間」
「まじ? そんな長いの?
そっかぁ。連発できたら、ライが無双して終わりだもんねぇ」
だからって1時間は長すぎる気がするけれど。
とは言え、黒炎弾も30分と長いので、魔法が使えない戦闘には慣れている。
どかんと大きな音が辺りに鳴り響いた。
音の出所へ視線を向ければ、2日前に見た光景が広がっていた。
「石像は投げる物……」
「違うから。ガヴィンの真似はしたら駄目だよ」
攻撃の隙をついてガヴィンさんが飛び上がる。
ガヴィンさんを狙っていた人達は、まさか屋根まで飛び上がるとは思っていなかったのか、呆気にとられた顔で屋根を見上げている。
そんな彼等に向けて、屋根に突き刺さる石像をぽいと放り投げたガヴィンさんは、屋根から城内へと入って行った。
広場での戦闘はここまでのようだ。
『クリスタルが破壊されました。
勝者は拠点『生産頑張る隊&百鬼夜行』です。
破壊ポイントとボーナスポイントが追加されます』
ジオンに視線を向けて、にっと笑う。
「初戦は大勝利!!」
今回は兄ちゃん達や秋夜さん達がいたけど、次からは俺達だけだ。
今回みたいに一瞬で破壊なんてことは無理だろうけど、意外となんとかなるかもしれない。