day11 採掘
洞窟、もとい鉱山への道を進んで行く。
関所からアリーズ街に向かう途中に見た大きな蜂があちこちに飛んでいる。
鑑定すると『キラービー』という名前だとわかる。
予想通りお尻の針で攻撃してくるが、受け流すことは可能だ。
受け流すというより、上から叩き付けていると言ったほうが正しいけれど。
ぶんぶん飛び回っているため攻撃は当てにくいが、当てることさえできれば倒せるので倒しながら進んで行く。
落とした素材を鑑定してみると、《キラービーの針》、《キラービーの蜂蜜》、《キラービーのローヤルゼリー》を落とすことがわかった。
ローヤルゼリーは他の2つと比べて入手している数が少ないので、おそらくレアだと思う。
針は鍛冶に使えるのかな。残りは食材だろう。
「あ、つるはし買ってないや」
「そうでしたね。先に村に寄りますか?」
「うん。そうしよう」
地図で見た感じ、洞窟と村の距離はほとんどなかったので鉱山の村なのだろう。
それなら、つるはしも売ってるだろうし、鍛冶場もあるかもしれない。
鍛冶場はないならないでアリーズ街に戻ればいいだけだけど、鉱山の近くのほうが取りに行きやすいのでありがたい。
「村が見えてきましたよ」
ジオンの言葉に前方を確認する。
村というだけあって、こじんまりとしている。
建造物もはじまりの街やアリーズ街のような立派なものではなく、周囲も柵で囲まれているだけだ。
しかし、どことなく温かみを感じて、良い村だという印象を受ける。
「よぉ、異世界の旅人だな? 鉱山にきたのか?」
村の中に入ると、住人から声を掛けられる。
「そうだよ。今持ってるつるはしが壊れそうだからつるはしを探してるんだけど、あるかな?」
「もちろんあるぞ。店は1つしかないが、そこに食材から武器まで売ってるぜ。
まぁ、街の店と比べたら大したもんは売ってねぇがな!」
豪快に笑う男性につられて、くすくすと笑いが零れる。
「教えてくれてありがとう。あ、鍛冶場ってある?」
「おう、小せぇけどあるぜ」
商店の位置と鍛冶場の位置を教えてもらいお礼を告げて、商店へ向かう。
言っていた通り、色んなものが売っている。
「つるはしを貰えるかな?」
「あいよ。いくつ必要だい?」
「1つ……いや、2つください」
ジオンがこの世界の住人は努力次第でスキルが覚えられると言っていたのを思い出す。
テイムモンスターとなったジオンが新たにスキルを覚えられるのかはわからないけど、覚えられるとしたら色んな事に挑戦できる。
「2つで8,000CZだよ」
取引を完了して、確認すると《つるはし》がアイテムボックスに入っていた。
店主さんが前に一番安いので2,000CZと言っていたから、初心者用のつるはしではない普通ランクのつるはしだろう。
「鉱山内には魔物が出るから気を付けるんだよ。
村の裏手から鉱山に続く道があるからそこを通って行くといい」
「ありがとう」
村の裏手へ向かい、鉱山への道を進めば鉱山への入口にすぐに着いた。
入口を潜り抜け、中に進んで行くとすぐにモンスターと出くわす。
『吸血蝙蝠』だそうだ。また飛ぶ敵である。
キラービーに比べて小さいから攻撃が当てにくそうだ。
「モンスターのいる中で採掘はできないよね」
「安全地帯に行きましょうか。目的は鉱石ですし」
「そうだね。そうしよう」
吸血蝙蝠を避けて先に進んで行くと広い空間に出た。
「あったあった。セーフティ……安全地帯でも鉱石取れそうだね。
はい。ジオンも」
「ふむ……」
アイテムボックスからつるはしを取り出しジオンに渡すと、ジオンは思案顔でつるはしを見た後、頷いた。
俺は店主さんから貰ったやつを壊れるまで使うことにしよう。
鉱石がありそうな亀裂を2人掘っていく。
「えーと……あ、岩じゃないよ! 銅だって」
「私のほうは岩のようですね」
「鑑定しなくてもわかるの?」
「まぁ、岩は見たらわかるので……鍛冶に使う金属もある程度はわかりますよ。
ですが、品質はわかりませんので、ライさんに鑑定してもらう必要がありますね」
「なるほどね」
確かに鑑定したからって見た目が変わるわけではない。
名称を知るだけなら、知識があれば鑑定は必要ないだろう。
「よし、どんどん掘って行こう!
ちなみに、刀に必要な鉱石ってなに?」
「玉鋼ですよ」
「玉鋼って、採掘で出てくるの?」
詳しくは分からないけど、鉱山や洞窟から出てくるわけではないはずだ。
たしか、たたら場で作るのではなかっただろうか。
「出てくるはずですが……違いましたかね?」
「いや……多分出てくるんだと思う」
一から玉鋼を作るのは簡単なことではないだろうから、調整されているのだろう。
出てくるのならいいかとつるはしを振る。
かんかんこんこんという音が辺りに響く。
『―――ち―――う――――――』
「……? ジオン、なんか言った?」
「いえ?」
「そっか。気のせいだったみたい」
気を取り直して、採掘を再開する。
思ってた以上に大変な作業だ。
『――――――違う』
今度ははっきりと聞こえた。
ジオンに視線を向けるが、ジオンはこちらを向いてすらいないし、そもそもジオンの声とは違う声だ。
きょろきょろと辺りを確認するも特に誰かがいるというわけでもない。
『もっと右』
右ってなんだろうか。
右を向いてみるも岩肌が広がっているだけだ。
よし、わからないから放っておこう。
つるはしを握り直して、目の前に突き立てる。
『右だって。右を掘れ』
掘る?
もしやこれは採掘スキルの効果なのだろうか。
そうと分かれば声に従うことにしよう。
『もう少し……行き過ぎだ。そう、そこ』
そこを掘っていくと、ころりと青色の石が落ちてきた。
それと同時にぱきんと音を立ててつるはしがエフェクトと共に消えていく。
買ったばかりのつるはしを取り出し、落ちている石を拾って鑑定する。
「《青の宝石》か。そのまんまだね」
「宝石ですか。アクセサリー制作や装飾に使うものですね」
「そっか」
残念ながら使い道はないが、宝石なのだから高く売れるかもしれない。
「玉鋼が欲しいんだけどなぁ」
「根気よく頑張りましょう」
「うん、そうだね」
『んだよ。玉鋼ならその辺にたくさんあるだろ。
そのままそこ掘ってもあるぜ』
採掘の効果にしてはフランク過ぎる気がするが、教えてもらえるのはありがたい。
青の宝石が出てきた場所をそのまま掘り続けると、ころりころりと鉱石が落ちてくる。
その中の1つを鑑定してみると、念願の玉鋼だ。
一緒に落ちてきた他の鉱石も同じ見た目のようだし、玉鋼だろう。
「ジオン! 出たよ!」
「おや、本当ですね」
ジオンは嬉しそうに笑って俺の言葉に返事をしてくれた。
たくさんあって困ることはないだろうし、どんどん掘って行こう。
『違う違う。そこじゃねぇ、もうちょっと上……そう、そこそこ』
『あ、そこ玉鋼じゃねぇけど宝石あるぜ』
ナビゲートに従い、どんどん鉱石を取っていく。
ジオンはほとんどが岩だけど、稀に鉱石が取れることもあるようだ。
『んー……その辺にはもうほとんどねぇな。
数が欲しいならもっと奥に行ったがいいぜ』
「奥……でも、安全地帯じゃないとモンスターいるからなぁ」
「どうかしました?」
「この辺りにはほとんど残ってないみたい」
「ふむ。でしたら、私が魔物を倒しますので、ライさんは採掘を」
「なるほど……それじゃあ、そうしようかな」
ジオンのつるはしを受け取り、アイテムボックスに入れる。
安全地帯から抜けて、ナビゲートに従い進む。
『よし、その辺だ。玉鋼以外もいっぱいあるぜ』
周囲を確認すると多いわけではないがちらほら吸血蝙蝠の姿が見える。
ジオンにはこちらに向かってくる吸血蝙蝠を倒してもらって、俺は採掘を続ける。
夢中になって掘り続けて、ふと時間を見ると『CoUTime/day11/17:16』。
3時間程掘り続けていたようだ。
ナビゲートに従いふらふらと動き回っていても危険な目に合うことは一度もなかった。
さすがジオンだ。
村と鉱山の間の道はモンスターが出ないから暗くなっても大丈夫だけど、鉱山内はどうなるのだろう。
元々暗い場所だし、夜になったからって強いモンスターに変わるということはなさそうだけれど。
「ジオン、そろそろ帰ろうか」
「そうですね……いえ、採掘を続けてもいいですか?」
「いいけど、玉鋼足りなさそう?」
「いえ、玉鋼は恐らく足りていますが……と」
飛んできた蝙蝠をジオンが倒す。
ここでは邪魔が入るからと安全地帯に戻り、話を続ける。
「採掘スキルを取得できるか、試したいんです」
「試すってことは、ジオンにも取得できるかわからないんだね」
「はい。こちらの世界のテイマーの従魔になった場合は努力次第で取得できます。
しかし、異世界の旅人の従魔となった場合、異世界の旅人の皆さんと同じように従魔も努力次第で取得できなくなる可能性があります」
「うん、いいよ。俺は鑑定して待ってるから、試してみようよ」
安全地帯でジオンがつるはしを振る姿を眺めながら鉱石を鑑定していく。
夢中で掘っていたこと、そして何よりナビゲートのお陰で玉鋼だけでなく銅や鉄、それから宝石等、たくさんの鉱石を集めることができた。
採掘のスキルレベルも上がったし、この量なら鑑定のレベルも上がりそうだ。
『おい。鬼が掘ってるとこ岩しかねぇぞ? いいのか?
この辺りは粗方掘ってしまってるから数日経たなきゃ生成されねぇけど、あ、でも、鬼の右にはちょっとあるぞ』
他の人の採掘場所のことまで教えてくれるなんて、採掘の効果便利過ぎではなかろうか。
岩しかない場所よりも鉱石のある場所を掘ったほうが良さそうだ。
「ジオンーちょっと右に移動して掘ってみて」
「? はい」
『もうちょい! あと二歩右!』
「あと二歩右」
「ここですか?」
『そう! そこだ!』
「そうみたい」
ジオンは不思議そうな顔をしながら頷いて、そこを掘る。
『下手くそだな~! そんなんじゃだめだ!
ああ、ほら。岩じゃねぇか』
よく話すナビゲートである。まぁ、退屈しないからいいけれど。
外だったらすっかり辺りが暗くなっている時間になっても、セーフティゾーンの周りの敵に変化はない。
鉱山内は昼も夜も一緒のモンスターが出ると見てよさそうだ。
鑑定も終わり、時折ナビゲートの助言をジオンに伝えながら、前にジオンが買った料理の本を眺めて過ごしていると、辺りに響くつるはしの音がぴたりと止んだ。
本から視線を上げてジオンの様子を伺うと、ぴろんという軽快な音と共に視界に『ジオンが【採掘】を取得しました』と表示される。
振り返って俺の顔を見て笑ったジオンに、俺も笑顔を返す。
「おめでとう、ジオン」
「ありがとうございます。取得できて本当に良かったです。
努力を重ねたくさんのスキルを取得してからライさんに出会いたかったと後悔するところでした」
「ジオンはこれまでもたくさんの事を知っていたし、何度も助けてもらったよ。
でも、これからはもっと色んなことを一緒に出来るようになるね」