day103 本戦スタート
「共闘ですか!? レンさん達と!?」
「勝手に2人で話しちゃったから、どうかなって……駄目なら駄目で、全然大丈夫だから」
「いえ! いえいえ! 願ってもない提案ですよ!
遅かれ早かれ戦う相手です。でしたら、私達だけで戦うより、共闘の方が断然良いです!」
「そっすねぇ。負けちゃ意味ないっすけど、レンさん達とならやれるんじゃないかと」
「やりましょう! 共闘!!」
「うん! 兄ちゃんに連絡するね!」
兄ちゃんも今頃皆に話してくれているだろう。
もしかしたら反対意見も出てるかもしれないけど、シルトさんの言う通り、共闘できるのならその方が良い相手なのだから、大丈夫なのではないかと思う。
『TO:レン FROM:ライ
共闘OKだって!』
『TO:ライ FROM:レン
こっちもOKだよ 拠点検索で『星の案内人』って入れたら出てくると思う
本戦開始から10分後に行こう』
拠点検索……今は使えない機能だ。
言われてみれば、拠点検索や拠点指定ではクラン名……プレイヤー名でも検索できるのだろうか?
それらを入力して検索や指定をすることになるだろうから、何も知らない状態では共闘したくても拠点に行くことが出来ない。
『TO:レン FROM:ライ
それってクラン名?』
『TO:ライ FROM:レン
そうだよ クラン名で検索出来ない事はないと思うけど、もし出来なかったらまた連絡する』
やっぱり兄ちゃん達は顔が広いな。
シルトさん達もいつも露店を開いているのだから顔は広そうだけど、クラン名はわからないと言っていた。
「本戦開始から10分後に行こうって連絡きたよ」
「10分後ですか、ふむ。侵攻組で行きます?」
時と場合によって変わることになるだろうけど、侵攻組と防衛組を昨日予行練習をした時に一応決めておいた。
俺とジオン、フェルダ、ガヴィンさん、ヤカさん、ジャスパーさんが侵攻組で、ジャスパーさん以外の生産頑張る隊の皆とリーノ、シアとレヴ、イリシア、それから兵士さん達が防衛組だ。
侵攻組は戦闘が得意な人達……ヤカさんは得意ではないと言うけれど、全属性の魔法柱が使えて得意じゃないとは言えないと思う。
人数が少ないから破壊できるのか不安ではあるけれど、頑張るしかない。
防衛ポイントや撤退ポイントも大事だけど、破壊ポイントとボーナスポイントをどれだけ稼げたかで順位は決まるだろう。
「うん、侵攻組で行ったほうが良いと思う。
共闘ではあるけど、やる事は変わらないよね」
「そうっすねぇ。結局、破壊に行くことには変わらないっすね」
『本戦開始まで15分です。
ランキングの公開が開始しました』
聞こえてきたアナウンスの声に、シルトさんと顔を見合わせる。
どうやらプレイヤー以外の皆にもアナウンスの声は聞こえているようで、兵士さん達から期待するような視線が飛んできている。
「ライ! 俺達何位だ?」
「んー……見てみるね」
確認方法についてはアナウンスされていないけど、恐らくウィンドウから確認できるだろう。
ウィンドウを開いてみると、『イベント:クリスタル争奪戦』の文字が追加されていた。
『第1位 生産頑張る隊&百鬼夜行 総ポイント数:15,000ポイント』
「! 俺達1位だよ!」
わっと食堂にいる皆から歓声が上がる。
本戦が始まっていないので、現在の順位で反映されているポイントは強化ポイントと評価ポイント……評価ポイントについては結局どんなポイントかわかっていないけれど。
俺達の現在のポイントは強化ポイントが10,000で、評価ポイントが5,000だ。
数字から見るに……強化ポイントは貰える最大数のポイントを貰えているのではないだろうか。
評価ポイントはどうかな? こちらも強化と同じく10,000ポイントかもしれないし、5,000が最大かもしれない。
「破壊と撤退でいっぱい稼いでこのまま優勝しよ!」
「そうだね~防衛頑張らなきゃ。侵攻組のみんなも頑張ってね~」
サクノさんとぐんぐんさんがにこにこと笑って言った言葉に大きく頷く。
防衛ポイントは時間経過で追加されるので、クリスタルを破壊されない限りは増え続ける。
つまり、最後まで残れば最大数のポイントになるはずだ。
撤退ポイントは侵攻してきた拠点の総ポイントから一部ポイントが貰える。どれくらい貰えるのかはわからないけど。
一部貰えるとは言うけど、相手のポイントが減るわけではないらしい。
なので、何度も同じ拠点に挑戦して、何度撤退しても総ポイント数は変わらないけど、防衛側の拠点には撤退させただけポイントが増える。
破壊ポイントはクリスタルを壊したら貰えるポイントだ。
それと、破壊した時はボーナスポイントで破壊された拠点の総ポイントから一部貰える。
こちらも相手のポイントが減るわけではないらしいので、破壊されるまでにたくさんのポイントを稼いでおけば、30位以内に入れる可能性は出てくる。
序盤で狙うなら強化ポイントと評価ポイントの総ポイント数が高い拠点のほうが、貰えるボーナスポイントは多くなる。
俺達はあまり狙われないだろうとシルトさん達も兄ちゃんも言っていたけど、俺達の拠点を狙うのが一番ポイントが高いのではないだろうか。
『本戦開始まで10分です。
クリスタルの操作が可能になりました。
転移は本戦開始まで出来ません』
クリスタルが操作できるようになったみたいだ。
「確認しておいた方が良いよね。ちょっと見てくるね」
「私も行きます!」
クリスタルがある部屋はそんなに広くはないので全員で行くのはやめた方が良いだろうと、とりあえず俺とシルトさんで確認に行くことになった。
クリスタル部屋に向かい、部屋の中央で存在感を放つクリスタルに触れる。
前回触れた時は使用できなかった『拠点検索』、『拠点指定』、『転移者名』が操作できるようになっている。
拠点検索はプレイヤー名から拠点を検索することができるみたいだ。
他にも、拠点のレベル帯や人数等からの検索やランダムに拠点を検索することもできる。
拠点指定はクラン名からの指定とランキングからの指定ができるみたいだ。
試しに兄ちゃんのクラン名を入力してみると、『ANARCHY&鏡花水月』と書かれたウィンドウが表示された。
クラン名が分かっていれば拠点指定ですぐに転移できるし、それ以外なら拠点検索から検索して転移したら良いのだろう。
拠点検索と拠点指定、どちらからでも選択した拠点へ転移できるみたいだ。
『転移者名』はこの拠点内にいる人の中から、転移する人を選択して登録できるらしい。
兵士さん達は転移することが出来ないので、俺達と生産頑張る隊の皆、そしてガヴィンさんとヤカさんの名前が並んでいる。
「侵攻組の皆さんを先に登録しておきましょうか」
「そうだね。そうしよう」
最初は暫く外で様子見する予定だけど、先に登録しておけばすぐに転移することができる。
転移せずに防衛に回る人がいる時なんかは、忘れずに登録を外さないと、転移に巻き込んでしまうだろうから気を付けなければ。
登録してから食堂に戻り、クリスタルについて皆にも話しておく。
いつ誰が倒されて、10分、または20分いなくなるかわからないので、全員が知っておいた方が安心だ。
『本戦開始まで5分です』
「そろそろ、外に出ましょうか」
シルトさんの言葉に頷いて、城内に持ち場がある人達も、最初は様子見も兼ねて外に出ようと、全員でお城の外へと向かう。
頑丈な閂を抜いて扉を開き、階段を降りる。
大体の持ち場が決まっている防衛組の皆とは違い、俺達侵攻組はクリスタルからあちこちに転移することになるので、クリスタルのある部屋以外にはあまり行くことはないだろう。
とは言え、全員で防衛することもあるだろうからと、一応侵攻組の持ち場も決めている。
俺は階段下でお城への入口に行けないように防衛する役割だ。
「あ……いわい君、そこ……」
「うおあぁあ!? あっぶな……!
な、なんとかHP残りました……凶悪過ぎません? これ」
「ほらー! やっぱ言い出しっぺのいわちゃんが罰ゲームになるって~!」
「言わなきゃよかったです……」
階段に設置した炎の噴き出る罠をいわいさんが踏んでしまった。
置いた場所を覚えていても、見えないからふとした拍子に踏んでしまいそうだ。
「罰ゲームどうする~? 強制労働?」
「のほほんとした顔でなんてこと言うんですか。
もっと平和な罰ゲームにしてください」
罠を踏んだ時点で結構な罰ゲームだ。
侵攻してきた人達から見えないのは助かるけど、俺と従魔であるジオン達にしか見えないのは困るな。
見える人を指定できるとか、そういう罠に出来たら良かったけど、エルムさんの師匠の魔法陣がさっぱり理解できないので、どうしようもない。
「兵士さん達も気を付けてね」
「縺ェ繧薙→縺ェ縺上o縺九k」
「えーと……なんとなくわかる、って?」
兵士さんが頷く。
「僕もなんとなくわかるよ」
「ヤカさんも?」
「うん。魔力で分かる。まぁ、凄くわかりにくいけど」
「あー……なるほど」
ガヴィンさんは俺達のクランのサポート枠だからなんとなく分かるのかと思っていたけど、この世界の人達だから分かるみたいだ。
魔力があって当たり前の世界なのだから、魔力感知を持っていようとなかろうと、そこに住む人達が魔力を一切感じないということはないのだろう。
恐らく魔力感知を持っていたら、更に詳しくわかるとか、そういう感じなのかな。
「ってことは、気を付けるのは俺達だけっすねぇ」
「ごめんね。なんとかできてたら良かったんだけど」
「気にしないでください。
罠があるから、俺らでも防衛できるんすよ」
「そう言ってくれると助かるよ。
俺達がいない間に危なくなったら、すぐに教えてね」
「そん時はカヴォロさんから連絡してもらうっす。
ま、みけねこさんもいるし、兵士さんらもいるんで、ある程度は大丈夫だと思いますけど。
昨日、ジャスパーさんが兵士さんと手合わせしたらしいんすけど、普通に強かったらしいっすよ」
「そうなんだ? 頼もしいね」
「剣渡してる人らは、ジオンさんに弟子入りしたとか」
「あはは、そうみたいだね」
俺がログアウトしている間に、兵士さん達に剣を教えてくれと言われて、暫く一緒に狩りに出かけていたらしい。
ジオンは刀以外は分からないと言って最初は断ったらしいけど、どっちも斬るんだから同じだと連れて行かれたとか。
「杖持ってる人らも、ヤカさんに色々聞いたみたいっすね」
「ヤカさん、魔法が凄く得意なんだと思う。
使ってるところは見たことないけど……でも、この後たくさん見れるね」
「そうっすねぇ。楽しみっす」
『まもなく本戦が開始します』
そのアナウンスと共に、皆に緊張が走る。
「総員、配置についてください!
……一度言ってみたい言葉ですよね」
「あはは、確かに」
緊張をほぐそうと言ったのだろう。
そう言ったシルトさんの表情も緊張で少しだけ固い。
侵攻組も、全員で防衛する時の持ち場に立っておく。
開始と共に侵攻される可能性はないわけじゃない。
『本戦開始まで10秒―――9秒―――8秒―――』
門の外に視線を向け、本戦の開始を待つ。
『本戦開始です』
ぶわりと門の外に、転移陣を使った時と同じ光が溢れた。
光が消えて現れた人物に、目を見開く。
「ジャスパーさん! みけねこさん!」
「あっちゃー……! 一番最初にくるとは予想してなかったなぁ~」
「皆は下がって!」
1人で門の外に立つその人物は、城壁の上から飛んでくる矢を纏めて武器で薙ぎ払い、ゆらりとこちらへ足を進めた。
と、思えば、ぴたりと足を止め、地面へ視線を向けた。
視線の先には毒の罠がある……見えていないはずなんだけど。
降ってくる矢を武器で薙ぎ払いながら地面から目を外すと、ひょいと罠の上を飛び越えた。
「なんで避けちゃうの!」
「嫌な予感がしたからねぇ。
ねぇ、ライ君。話がしたいんだけど」
「嘘だぁ。そうやって油断させようとしてるんだ」
「1人で来てるでしょ。
さすがに君達全員を僕1人で相手するのは無理」
ジャスパーさんとみけねこさんと顔を見合わせて頷き、兵士さん達に攻撃をやめるように合図する。
「それで……話って?」
「共闘しない? お兄ちゃん、倒したいんだよねぇ」
そう言って、本戦開始と共に現れたその人物……秋夜さんは楽しそうに笑った。




