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day101 準備期間1日目③

「出来たぁ~!」


途中、一番最初に帰ってきたカヴォロが作ったご飯を食べた以外は、ずっと魔道具を作っていた。

そのお陰で予定していた魔道具……皆が生産で使う魔道具は全て完成させることができた。

罠やその他の魔道具は出来ていないけど、俺達が完成させない事には皆作業ができないので、ほっと安堵の息を漏らす。


描いてきた魔法陣に大きな問題はなく、想像していた通りの動作をしてくれた。

少し手直しする場面はあったものの、ヤカさんがアドバイスをしてくれたので、恙なく進める事が出来た。


「菖蒲さん、出来たよ。確認してもらえるかな?」

「あ、ありがとう……え……ユニーク……?」

「フェルダが作った炉だからね。

 ちゃんと性能が引き出せてるかはわからないけど……」

「? 引き出す?」


魔道具を作る時は元の生産品の性能を引き出せるかどうかが重要という話をする。

元になった生産品の質が良くても、俺の腕が駄目だと良い性能の魔道具は出来ない。

スキルレベルはもちろん、魔法陣の質も重要になる。

それから、魔力を安定させて魔法陣全体に綺麗に行き渡らせるようにしたほうが良いけど……これはまだまだ、練習中だ。


「魔力……」

「魔力って言われても、よくわからないよね。

 俺は種族特性が反映された魔力感知があるから、見れるんだけど」

「魔力感知……あ、いや、あの、凄い性能、だよ。持ってた炉と全然違う。

 私が……こんなに凄い道具と魔道具を持てるなんて、思ってなかった」

「性能の事、よく分かってなかったけど……大丈夫そうで良かったよ。

 最後になっちゃってごめんね」

「だ、大丈夫……フェルダさんが轆轤貸してくれたから……。

 それに、ガラス細工は……窓とグラスくらいしか、作る物ないから……」

「あ! リーノがガラス細工で出来る……なんだっけ。

 うーん……あ、バッタ? が、欲しいって言ってたんだけど」

「……バッタ……? あ、えっと、とんぼ玉?」

「……多分それだと思う。作れるかな?」

「う、うん。作れる……作る。大丈夫」

「ありがとう。リーノに聞いてみるね」

「あ……私、聞いてくるから……大丈夫。

 ……あの! 本当に、ありがとう。嬉しい」


ふわりと笑った菖蒲さんが、受け取った生産道具をアイテムボックスに入れて、リーノの元へと向かって行った。

これまで、色んな生産スキルを組み合わせて作った物は、より良い性能になっていたから、とんぼ玉とやらを使って作ったアクセサリーもきっと良い性能のアクセサリーになるだろう。

そうじゃなくても、素敵なアクセサリーになるのは間違いない。


さて、生産道具以外の魔道具を作るか、どうするか。

一仕事終えて若干気が抜けてしまっている。


「あ、忘れてた。カヴォロのとこに行かなきゃ」


チョークと《黒炎魔石》、それから《聖水の水瓶》を持って、カヴォロのいるキッチンへと向かう。

他の包丁やコンロ等の調理道具は、完成した時にカヴォロが取りに来てくれたけど、石窯と《聖水の水瓶》の事を忘れていた。


「カヴォロー」

「ああ、腹が減ったのか? 何も出来てないが」

「ううん、大丈夫。今って石窯使ってる?」

「今は使ってないな」

「少し弄るね」


指先に魔力を込めて、魔法陣を撫でる。

指の触れた場所の魔法陣がするりと消えて行く。


綺麗さっぱり消した後は、前回の魔法陣と比べると少し簡略化した魔法陣を描く。

使える記号やシンボル等が増えた分、たくさん描かなくても同じ効果を持つ魔法陣が描けるようになった。

全く同じというわけではないけれど……間違った組み合わせでなければ、良くなることはあっても悪くなることはない。


「一応テストして……うん、大丈夫そう。どうかな?」

「どうと言われても……何か変わったようには……」

「確かに。問題なさそうだし、完成させちゃうね」


《黒炎魔石》を翳して力を籠める。

全てが魔法陣に溶けていった事を確認して、カヴォロに視線を向ける。


「……なるほど。性能が上がっている」

「本当? 良かった。

 それ以上のスキルレベルになると、石窯ごと交換した方が良いってフェルダが言ってたよ」

「そうか。その時は頼んだ」

「うん! あ、それと《聖水の水瓶》も持ってきたんだけど……」

「ああ……水弾を貯められるっていう水瓶か。

 ……【水弾】。魔水ってのは出来るようになったが……」


カヴォロの手の上でゆっくりゆっくり水弾が展開される。

シアとレヴは最初から拳より少し大きな水弾が展開していたが、カヴォロは一滴程度の水が徐々に膨らんでいる。

ゆっくりと展開された水弾が、いつも見ている水弾のサイズになった時、カヴォロが俺に視線を向けた。


じっと水弾を見てみると、渦巻く魔力……殺傷能力のある魔力が一切ない事が分かる。

シアとレヴが調整した水弾と比べると、全体を覆う魔力の量が多い……と、言うより、恐らくこれは、渦巻く魔力が全て、全体を覆う魔力に変化している。


「凄いよ、カヴォロ! 完璧だよ!

 殺傷能力のある魔力が全部、水弾自体の魔力に変化してる!」

「その方が良いって話だったか」

「そうそう。なるほど……出しながら調整するのか……。

 あ、《聖水の水瓶》出すね」


アイテムボックスから《聖水の水瓶》を取り出して、カヴォロの近くに置く。

カヴォロは早速、水瓶の中に水弾……確か今の状態は魔水だったかな。魔水を入れた。


「カヴォロの《聖水の水瓶》は俺達のと違って、温度調整が付いてるよ」


《聖水の水瓶》の使い方を説明すると、カヴォロは頷いて、中を覗いた。


「これは、腐るのか?」

「んー……品質が悪くなるような魔法陣はなかったと思うけど……」


ジュースやお酒ならともかく、水自体には腐敗の設定はされていなさそうだというのが、本心ではあるけれど。

所謂メタ推理というものは、あまりしないようにはしている。

別にそれが悪いとか、嫌いとか、そういうのじゃなくて、この世界ならではの理由を知るほうが楽しいからだ。

だから、今回の場合だと……魔水は魔力で出来た水だから腐らない、とか。


「俺達が貯めている魔水が今まで腐った事はないね。

 まぁ、俺が鑑定してもただの水だから、気付いてないだけかもしれないけど」

「そうか。まぁ、品質に変化があったらその時に伝える」

「うん。その時は、違う魔法陣を考えてみるね」


完全に状態を維持するのは難しいかもしれないけど、腐るまでの時間を伸ばす事は出来ると思う。


「キッチンテーブル、できたっすよー」

「助かった。誰かの作業机を借りて野菜を切るのは面倒だと思っていたんだ」

「机ないっすもんねぇ。いくら綺麗にしたからって、床で野菜切るのは抵抗ありますよね」


キッチンに新たにキッチンテーブルが追加された。

恐らく料理するには困らないキッチンになったのではないだろうか。


「後は食器類か……」

「菖蒲さんが作ってたっすよ。量が多いんで、まだ掛かりそうですけど」

「夜に間に合えば良いが」


ちなみにお昼ご飯は懐かしの串焼きだった。

更に美味しくなっていて、あと多分、お肉自体も違ったと思う。

初めて食べた時のシンプルな味付けの他にも、醤油味やスパイシーな味付け等、いくつか種類があった。


「あ、ライさん。生産道具、ありがとうございます。お疲れ様でした。

 やー……とんでもない性能っすね」

「これまで作った事のない物ばかりだったから不安だったけど、良い物が作れたみたいで良かったよ。

 カヴォロのコンロをちゃんと作ったのも今回が初めてだし」

「そうなんすか? けど、簡易コンロにキャベツが彫ってありますよね?」

「ああ、俺の師匠が作ったコンロだよ。

 少しお手伝いしただけで、俺は魔石を提供したくらい」

「変える必要性を感じなくてな。

 店では、街で売ってたコンロも置いているが、余程客が来てるとかじゃない限りは簡易コンロを使っている」

「これからは、このコンロが使えますね」

「ああ、そうだな」


中で作った生産品は当然持ち帰ることが出来る。必要のない物は置いて行っても良いらしい。

今はまだ全て揃ったわけではないけど、最終的に出来上がるであろう俺達や兵士さん達の大量のベッドなんかは置いて行く予定だ。

残念ながら、兵士さんに渡した装備なんかは持ち帰る事はできないみたいだ。


「カヴォロの簡易コンロは……俺じゃまだ扱えないなぁ。

 スキルレベルに合わせた魔法陣に描き変えることはできるけど、俺が扱える魔法陣じゃそれより高い性能の物はできないと思う」

「エルムが作った魔道具だからな……エルムはまだ怒っているのか?」

「どうだろう? 根に持つとは言ってたけど……」

「あー……責任者? なんですっけ?」

「ああ、それは、俺がそう言っただけで、責任者と言っていたわけではない。

 いまいち覚えてないが……古の技術の再現者に指揮を仰げないとかなんとか」

「けど、別に、おかしな事は起きてないっすよね」

「そうだな」


そう言えばと、きょろきょろと辺りへ視線を向ける。

妖精ちゃんが近くにいるのだろうか。準備期間中は観戦もできないし、撮影なんかはしていないとは思うけど。

どれだけ集中して魔力感知をしても、妖精ちゃんらしき魔力は感じられない。

試しに呼んでみようかと思ったが、亜空間自体に何か問題が起きているわけでもないので、呼んでも出てきてはくれないだろう。


「んじゃ、俺は作業に戻りま……」


ベルデさんが言葉を言い終わる前に、まるで雷が落ちたかのような轟音が響いた。

ぐらぐらと小さく揺れた室内に、ぱらりと砂埃が落ちてくる。


「何事……?」

「魔物でもきたんすかね……?」

「いや……城壁の中には来れないという話だったが……」


3人で天井を眺めていると、全く同じ音が再度響いた。

ゆらゆらと松明の炎が揺れる。


「……外見てくるね」

「俺らも……って、言いたいところっすけど、こんな音させるような魔物、俺じゃ太刀打ちできないんで」

「ああ。俺も大人しく夕食の準備をしておく。ライ、頼んだ」

「うん、行ってくるね」


フェルダとガヴィンさんが、外でお城の修繕と強化をしているはずだ。

フェルダは俺達と一緒に作業していたけど、生産に使う魔道具の部品を作った後は、修繕と強化の為に外へ向かって行った。


カヴォロとベルデさんと別れて、1階の壁の穴から外に出る。

辺りに魔物の姿はない。音がしたのは上の方だったけれど……。


「階段下にあったはずの石像が屋根に突き刺さっているのは何故……?」

「ガヴィンです」

「俺です」

「なんでそんな事に……?」

「いや、ちょっと……気に入らなくて……」

「何が……?」

「形が……」

「なるほど……職人魂ってやつだね」

「納得するとこじゃないからね。

 どこの誰が作ったかも分からない石像の出来が気に入らないからって、ぶん投げるのは馬鹿」

「あ?」

「すぐ怒る」

「降ろせば良いんだろ降ろせば!」


そう言ったガヴィンさんは、ぐっと体を落としたかと思うと一気に屋根の上まで飛んで行った。

凄い跳躍力だと感心していると、目の前に大きな音を立てて石像が落ちてきた。


「……あんなんで窯元やっていけてんのか……?」

「フェルダがいるから、楽しいんじゃない?」

「楽しいからって石像は投げない」


フェルダを目掛けて、残る1つの石像が落ちてくる。

見上げていたフェルダは、ひょいとその石像を避けて、溜息を吐いた。

俺達の前には元から壊れた石像ではあったけど、見るも無残な石の塊がごろごろと落ちている。


「フェルダも屋根まで飛べる?」

「さすがにあそこまで飛ぶのは無理。

 龍人だから他の種族よか跳躍力はあるけどね。

 まぁ……ガヴィンは龍に近いから」

「龍に近い?」

「そ。浮遊できるわけじゃないから、飛び上がれば落ちるけど。

 たまに龍に近いやつが産まれてくんの」

「へぇ~そうなんだ? 突然変異とかではなく?」

「違うね。ま、近いってだけで、基本は龍人と変わらない。

 1つ特化してるってだけ。ガヴィンは跳躍力ね」


本戦が始まったら、屋根まで飛んで貰おうかな。

屋根から3階のクリスタル部屋に一直線……屋根を壊さなきゃいけないけど。

それに、飛んでいる間に攻撃されてしまうと避けられない。


「あ! 階段出来てる!」

「ん、直した。強化はまだ出来てないけど」

「階段に強化いるかな?」

「どうだろ。どっちにしろ、壁の修繕と強化のが先かな。

 あと屋根も修繕しなきゃいけなくなったけど」

「まぁ……屋根は、飛んで入らない限りは……ガヴィンさんみたいにあんな高いところに飛べる人なんて……いや、いるな」


跳躍力はともかく、俺の知り合いだけでも登れそうな人が2人いる。

天使のおもちさんと、カードを投げてどこにでも飛んで行くソウムの2人だ。


「これ以上、仕事増やさないようにするよ」

「あはは。また見に来るね」

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